大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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春の訪れ

第457話、エストレイヤ家・王国へ帰る

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「───ってわけで、兄さんたち、明日帰るよ。父上たちも」
『そうかい。いい休暇だったようで何よりだぜ』
「うん。ヒュンケル兄、いろいろありがとう」
『何がだよ?』
「いや、兄さんから聞いたんだ。ヒュンケル兄が早くいっぱい休暇を取ったのって、兄さんやルナマリア義姉さんを春前にゆっくり休ませるためだからだよね。兄さんは気付いてないかもだけど……」
『……さぁな』

 夜。俺は自室でヒュンケル兄と話していた。
 たった十日だけど、兄さんたちはゆっくりできたと思う。
 妖狐族の里で温泉に入ったり、子供たちと川や湖で遊んだり、父上や母上とお茶会をしたり、図書館で過ごしたり……スサノオとエクレールも、ミュアちゃんたちとよく遊んでいた。
 
「はぁ……明日、帰るのかぁ」
『寂しいか?』
「まぁね。父上たちとこんなに長く過ごしたのは初めてだったし……」
『機会があれば、お前もまた来いよ』
「うん」
『……ところで、リュドガたちはどうしてる?』
「ん、荷造りを終えて部屋で休んでるよ。明日出発だし、早く寝るってさ」
『相変わらずクソ真面目だな……最後の夜くらい楽しめよ』
「あはは。兄さんらしいじゃん」

 ヒュンケル兄と俺は、夜遅くまで話していた。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 朝食を終え、カーフィーで一服後……兄さんたちは出発の支度をした。
 村の入口に、竜騎士たちが待機している。
 小さな小屋を鎖で固定し、その鎖を数体のドラゴンが掴んで飛ぶという乗り物だ。これを考案したのはディアーナで、ドラゴンロード王国では新しい乗り物として検討されてるとか。
 俺たちは、別れを惜しむ。

「兄さん、短かい間だけど楽しかった。また来てよ」
「ああ。もちろんだ……ふふ、本当に楽しかった」
「リュウ兄……」
「シェリー、お前も元気で。家に着いたら連絡する」
「うん」

 シェリーは兄さんに抱きつく。
 ミュディも、ルナマリア義姉さんに抱きついていた。

「お姉さま、お元気で」
「ああ。ミュディ、お前も」
「はい……」

 そして、父上と母上。

「アシュト、シェリー……楽しい休暇だった」
「ええ、本当に……アイゼンと過ごせて楽しかったわ」
「父上、母上……俺とシェリーも楽しかったです。家族の時間を過ごせてよかった」
「そうだね。ふふ、いっぱい遊んだよねー……って、ありゃ? お母さん」
「あらあら……どうしたのかしら?」

 家族で別れを惜しんでいたのだが、母上の足元にニコニコアザラシの子供がいた。
 母上の足に身体を擦りつけ、寂しそうにしている。

『きゅぅぅ……』
「まぁまぁ。もしかして悲しいの?」
『もきゅぅ』
「ありがとう。でも、あなたにも親がいるでしょう? 一緒にはいけないわ」
『もきゅ!』

 ニコニコアザラシの子供は尻尾をびったんびったんと揺らす。
 何かを伝えたいのか?

「大丈夫だぞ」

 と、ここでルミナが来た。
 いつの間にか俺の隣にいた。

「ニコニコアザラシ。生まれたては親に甘えるけど、自分で食事できるようになれば一人前。親の手から離しても問題ない。それに、ニコニコアザラシの寿命は五千年ある。何十年か別のところで過ごしても気にしない」
「そ、そうなの?」
「みゃあ。食事は花の蜜と水だけ。日中はほとんど昼寝してるし、触られると喜ぶ。世話するのも簡単」

 ルミナは、尻尾を揺らしながら母上に言う。
 よく勉強してるな……獣医を目指しているだけある。
 ニコニコアザラシの子供は『そうだ、連れて行け!』と言わんばかりに母上に甘えていた。
 母上も根負けしたのか、子供を抱っこする。

「そうね。じゃあ一緒に行きましょうか。ふふ、あなたのお食事のお花、私が育ててあげるわ」
『もきゅう!』

 こうして、ニコニコアザラシの子供がビッグバロッグ王国へ。
 というか、寿命五千年って……エストレイヤ家の守り神になりそうだ。
 すると、兄さんたちが乗る小屋のドアが開く。

「父上、母上ー! はやく行きましょー!」
「ドラゴンドラゴン!」

 スサノオとエクレールだ。
 早く空を飛びたいのか、俺たちとの別れもそこそこに小屋に入っていた。
 リュドガ兄さんが苦笑し、俺たちに向き直る。

「では、また会おう。今度はビッグバロッグ王国にきてくれ」
「その時は、私たちで歓迎しよう」

 リュドガ兄さんとルナマリア義姉さんが笑う。

「楽しかったぞアシュト。また会おう」
「アシュト、シェリー……ありがとう」
『もきゅ』

 父上、母上、ニコニコアザラシの子供が笑った。
 俺、シェリー、ミュディも笑う。
 そして、兄さんたちは小屋に乗り、ドラゴンたちが羽ばたいた。

「お元気で!! あとで連絡しまーす!!」

 俺がそう叫ぶと、ドラゴンたちはゆっくり飛んでいった。
 俺たちは、ドラゴンが見えなくなるまで見送った。

 こうして、父上と母上の冬の滞在が終わった。
 母上はもう大丈夫。いっぱい栄養も付けて健康になったし、新しく生きる目的も見つけた。
 父上も、母上との時間を過ごせて楽しそうだった。
 兄さんたちも、いい休暇となっただろう。

「行っちゃったね……」
「お姉さまたち、ゆっくり休めたかな」

 シェリーとミュディも、すでにドラゴンがいなくなった空を見上げている。
 俺も空を見上げた。
 
「さぁ~て……少し散歩したら薬院に行くか。二人とも、一緒に行くか?」
「行く!」
「うん!」

 ミュディとシェリーを連れ、俺は歩きだした。
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