大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
376 / 474
常夏の村

第570話、夏がやってきた!

しおりを挟む
 ミーンミンミンミンミンミンミンミンミーン───……。

「あっつぅ……」

 エルミナは、汗だくになりながら緑龍の村を歩いていた。
 森から聞こえてくるのは、『常夏セミ』という小型魔獣。夏を察知すると現れる魔獣で、餌は樹液や葉っぱ。人畜無害で大人しい昆虫型魔獣だ。
 大きさはニコニコアザラシの子供ほどあり、木にくっついてはミンミン鳴く。鳴き声でメスを誘うという習性を持つ、変わった昆虫魔獣だ。 
 この常夏セミが鳴くと、夏だと実感する。
 エルミナは、太陽光を浴びながら歩く。向かった先は川辺だ。

「あ~~~……水浴び、って」

 川に足を付けて涼もうと思ったが、先客いた……というか、大勢いた。
 ハイエルフたちはもちろん、天使たちや悪魔たち、銀猫たちや魔犬族の少女たちもいる。
 恐らく、湖にも大勢いることだろう。
 大勢いるので余計に暑い。エルミナは諦め、家に帰ることにした。
 その道中、仕事をしているエルダードワーフたちの集団に出会う。中にはアウグストもいた。

「おうエルミナ、ははは、ダルそうじゃねぇか」
「あっついのよ……ってか、あんたら暑くないの?」
「バカモン。この程度の暑さ、鍛冶場に比べたら屁みてぇなモンよ」
「ふーん……サラマンダー族も?」

 エルミナは、汗ひとつ掻いていないサラマンダー族を見る。

「へい。オレらは熱にはめっぽう強いんで。燃え盛る火の中でも動けやす」
「それはちょっと違う気する……」

 さらに、ぽてぽてとブラックモールたちが並んで歩いていた。
 エルミナたちを見て止り、挨拶をする。

「こんにちはなんだな。いい天気なんだな」
「やっほ~……暑いわねぇ」

 エルミナは汗を拭う。
 だが、ブラックモールたちは首を傾げていた。

「ぼくら、寒いの苦手だけど暑いのは好きなんだな。夏は好きなんだな!」
「そりゃ羨ましいわねぇ……」
「みんな暑さで疲れ気味なんだな。ぼくたちが頑張るんだな!」
「「「「「おー!!」」」」」

 ブラックモールたちは並んでぽてぽて歩きだす。
 後姿が非常に愛くるしいが、今のエルミナは暑さでどうでもよかった。
 エルミナはエルダードワーフたちと別れ、家に帰る。
 家の前に、とんでもないサイズの『氷塊』が鎮座していた。

「あ、おかえりー」
「た、ただいま……シェリー、これって」
「ん、暑いと思って出したのよ。けっこう涼しいし、村の中心にもっとデカいの出すわ。村のみんなが少しでも涼めるようにね」
「シェリーさいっこう!! 大好き!!」

 エルミナは氷塊に抱きつき、その冷たさに蕩けていた。

 ◇◇◇◇◇◇

『きゅぅぅ~』


 シェリーが出した氷の周りに、ニコニコアザラシの子供たちが集まっていた。
 村の中心に出した氷は、村人たちにとってまさに癒し。氷を出したシェリーは英雄扱いされ、本人もまんざらではなさそうに喜んでいた。
 シェリーとエルミナは、村に氷塊を置くために歩き回る。
 
「とりあえず、この辺にも」

 シェリーが杖を振ると、巨大な氷塊が現れた。
 魔法で作った氷は、同じ魔力の炎だと溶けるが、太陽光などの自然現象では溶けにくい。
 シェリーの氷魔法を眺めていると、エルミナが気付く。

「そういえばシェリー、あんた……汗掻いてないわね」
「まぁね。氷魔法の応用で、冷気を生み出して身体全体を覆ってるのよ」
「え!! なにそれいいなぁ!! 私もやってよ!!」
「言っとくけど、あたし一人で精一杯よ。自分ならともかく、他人を冷気で覆うのけっこう神経使うのよ。ちょっと制御ミスると氷漬けになるわよ」
「……やっぱいいや」

 エルミナは諦め、空を見上げた。 
 太陽が燦々と輝き、これでもかと日光が降り注いでいる。
 気温も高く、地面がジリジリと焼け、常夏セミがミンミン鳴く。
 エルミナは、胸元をパタパタさせながら汗を拭った。

「あーもう、ほんっと暑いわね……」
「というか、いきなりの夏で驚いたわ。オーベルシュタインの気候は滅茶苦茶って聞いたことあるけど……この辺は年中春で、三年に一回だけ冬が来るってことしか知らなかったわ」
「夏と秋はいきなり来るのよ。期間もバラバラだし、一年以上もあれば数日で終わっちゃうときもある。私が経験した中で最長の夏は……十年くらいだったかしら」
「え!?」
「ま、早くて数日ってのもあったけどね」
「……今回は?」
「知らないわよ。夏が来るのだって何百年ぶりなんだし」
「んー……暑さ対策、しないとね」

 ディミトリから扇風機はもらったが、これだけでは足りない気がする。
 シェリーは龍厩舎の方角を見る。

「ドラゴン、暑さに強くてよかったわ……でも、水浴びとかさせないとダメかなぁ」
「…………水浴び」

 エルミナは顎に手を添え考え込む。

「ねぇシェリー……川って人がいっぱいよね」
「そりゃそうよ。みんな涼しさ求めてるし」
「湖は?」
「湖は涼しいけど……泳ぐとなるとけっこう深いし、危ないんじゃない?」
「……だったらさ、泳ぐところあれば嬉しいよね?」
「……エルミナ、何考えてるの?」

 エルミナはニヤリと笑い、シェリーの背中をパシッと叩く。

「いいこと考えた!! シェリー、ちょっと付き合いなさい!!」
「え、ちょっと、エルミナ!?」
「ふふふ。夏を乗り切るいいアイデア!!」

 エルミナは、シェリーを引っ張り走り出した。
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。