大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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緑龍の村・夏祭り

第582話、もうすぐお祭り

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「で、ミュディはお店出すの?」

 ある日。エルミナがミュディの部屋でそんなことを言った。
 ミュディはクッキーをモグモグ食べていたので、飲み込み、紅茶を啜る。
 一息入れ、エルミナに言う。

「ううん。わたし……今回はパス。アシュトと一緒にいれたらな、って」
「そうねー」

 エルミナはカーペットの上に寝そべり、クッキーをモグモグ食べる。
 こんなだらしない姿だが、不思議と様になっている。
 これもエルミナの美しさが原因だろうか。当の本人は気にしてもいないが。
 エルミナはガバッと起き上がる。

「シェリーはクララベルと一緒に『氷菓子』のお店やるって言うし、ローレライは『詰めドラゴンチェス』とかいうお店やるって言うし……私とミュディは暇なのよね」
「じゃあ、三人で回ろっか」
「ええ!」
「ふふ、楽しそうでいいわね~♪」

 と、いきなり第三者の声。
 すると、エルミナとミュディの割り込むように、シエラが現れた。
 二人がギョッとすると、シエラはニッコリ微笑む。

「こんにちは~♪」
「シエラ、いきなり登場するのアシュトの前だけにしてよ……」
「び、びっくりしたぁ」
「うふふ。かわいい子を驚かせるのは楽しい♪」

 どこまでも楽しそうなシエラ。
 シエラは、ミュディに向かって微笑みかけた。

「ね、ミュディちゃん。夏祭りにピッタリな衣装があるんだけど、着てみない?」
「え?」
「ふふ。オーベルシュタインの外れも外れにある『和国』っていう国に伝わる衣装なの」
「わこく……?」
「ええ。妖狐族のルーツも、元をたどれば和国に繋がるの」
「へぇ~? なんか面白そうね」
「うふふ。どうする?」
「……じゃあ、お願いします!」

 シエラが指をパチッと鳴らすと、クッションに座るミュディの周りに緑色の蔦が生えてきた。
 いきなりのことに驚く暇もなくミュディは蔦に覆われてしまう。

「え、ちょ」
「お着替え魔法~♪ えいっ!」

 もう一度シエラが指を鳴らすと、蔦がミュディの全身に巻き付き、一瞬で衣服となった。
 ミュディは声を上げる間もなく茫然とし、自分の身体を見る。

「わぁ……」


 綺麗な草模様の『和服』だった。
 だが、妖狐族の着る『着物』よりも薄い。今気づいたが、着ていた肌着などがなくなり、下着の上から直接着ているような感じだ。
 ミュディは立ち上がり、くるりと回る。

「着物、ですよね?」
「正確には着物の一種。『浴衣』っていうの」
「ユカタ……」
「薄手で夏にピッタリでしょ? 和国では私服としても使われているし、お祭りでは華やかな柄の浴衣が着られるのよ?」
「おお、いいわね~! 私も着たい!」
「もちろん、エルミナちゃんも。それと、これを着るなら髪を上げてまとめた方がいいわ。首筋やうなじを見せるような髪型ね」
「え。なんで?」
「それが浴衣を着るコツだからよ!」
「ふーん」

 エルミナとシエラが何か話しているが、ミュディは聞いていない。
 浴衣。着心地もよく、夏にピッタリの衣装だ。
 さらに、色や柄なども自由自在。
 花柄や、動物などの柄も合うかもしれない。
 考えたら、楽しくなってきた。

「シエラ様!!」
「は~い?」
「ありがとうございます!! これ、わたしも作っていいですか!?」
「いいわよ~」
「よし!! エルミナ、エルミナのはわたしが作るね!!」
「え、ええ……なんか気合入りまくってるわね」
「お祭りまであんまり日がないけど……なんとか、みんなの分だけでも作ろう!!」

 と、ミュディは浴衣のまま部屋を出て行った。
 ポカンとするエルミナ。
 シエラはクスクス笑う。

「ふふ、ミュディちゃんが作る浴衣。楽しみね♪」

 ◇◇◇◇◇◇

 薬院にて。
 俺はココロと一緒に、洗った包帯を巻いていた。

「もうすぐ夏祭りだなぁ」
「はい。先生は何かやるんですか?」
「いや、特には。最初の挨拶と締めの挨拶くらいで、あとは自由なんだ」
「なるほど。じゃあ、ミュディさんやエルミナさんを誘って遊べますね」
「そうだな。そういうココロは?」
「えへへ……じつは、ハイエルフの皆さんに誘われまして、生絞り果実水の屋台でお手伝いを」
「ほぉ~」

 生絞り果実水。
 その名の通り、お客の前で果実を絞ってドリンクにするのだろう。
 
「じゃあ、エルミナたちと飲みに行こうかな」
「はい! お待ちしてますね」

 ココロは嬉しそうだ。
 ここでの生活にもだいぶ馴染み、友達もできたようだ。
 最初は、希少種族ばかりの村に怯えていたようだが、今はすっかり気にしていない。
 温室で薬草を育てたり、買い物をしたり、ハイエルフたちと遊んだり、読書したりと充実している。薬師としても成長している。

「先生、どのくらいの人が来るんですかね」
「んー……どうかな。取引している場所にはお知らせの手紙を送ったけど」

 こればかりは読めないな。
 いっぱい来てくれたらありがたい。
 最近は、移住希望も落ち着き、村の開拓はひと段落ついた。農園や畑などは拡張しているけど、住居などの建築はお休みだ。今は街道整備に力を入れている。
 道を開拓したり、河川の整備をしたり、少しずつ住みやすくなっている。
 今はハイエルフの里まで街道が広がり、間もなく人狼族の村、ドワーフの穴倉への道ができる。

「お祭り、楽しみですね」
「うん。よーし、包帯巻き終わり。おやつにしようか」
「はい!」
「みゃう」

 と、いきなりルミナが俺とココロの間に割り込んで来た。

「おやつ」
「い、いきなりなんですか! あなた、仕事もしないで!」
「往診してきた。ヤギたちが食欲不振だったからな」
「そうか。えらいぞ」
「ごろごろ……」
「むぅぅ~~~……」

 ルミナとココロ、もう少し仲良くしてくれたらなぁ。
 
「ところでルミナ、お前はお祭りのとき、どうする?」
「お前と一緒にいる」
「ははは。じゃあ、一緒に回るか?」
「みゃう。いっぱい食べるぞ」
「はいはい」
「ごろごろ……」
「むぅ……先生、ルミナを甘やかしすぎだと思いまーす!」
「おまえには関係ない。ごろごろ」
「むぅぅ~!!」

 二人をなだめつつ、俺はルミナの頭を撫でた。
 夏祭りまでもう少し。
 外から、常夏セミがミンミン鳴く声がよく聞こえた。
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