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緑龍の村・夏祭り

第583話、緑龍の村・夏祭り

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 夏祭りの前日。
 俺は、ミュディが作った「ユカタ」なる服を自室で着ていた。
 さらに、エルミナとルミナも着ている。
 俺は濃い緑色に、葉っぱや植物の模様が刺繍されたユカタ。エルミナは明るい緑色に、風のような模様が刺繍されている。ルミナは黒い浴衣で、赤い金魚の刺繍が施されていた。
 なんでも、シエラ様に教えてもらった『祭りの衣装』なのだとか。

「うん! みんなよく似合ってる~」

 ミュディは俺たちを見ながらニッコリ笑う。
 すると、エルミナが耳打ちしてきた。

「ミュディ、これ作るため徹夜してたのよ……服のことになるとすごい集中力」
「だ、大丈夫なのか?」
「うん。終わったらグースカ寝てたし」

 意外なのは、ルミナのぶんもあるということだ。
 ルミナは浴衣を見てクルクル回り、尻尾が揺れていた。

「ほんとは子供たちのぶんも全部作りたかったけどね。子供たちもお店のお手伝いする子が多いし、ルミナちゃんのぶんしか作れなかったの」
「そっか」

 そういや、ミュアちゃんはシェリーとクララベルの「氷菓子」のお店を手伝うし、ライラちゃんも魔犬族の少女たちとお店をやるらしい。驚いたのは、マンドレイクとアルラウネ、ウッドたちも薬草の店をやるとか。メージュたちに誘われたみたいだな。
 ルミナは、最初から俺と一緒に過ごすつもりだったようだ。
 というわけで、お祭り当日は俺とミュディとエルミナ、そしてルミナで過ごす。
 ユカタの着心地いいな。涼しいし、動きやすい。

「ふふ。明日が楽しみだね」
「ああ。外も明日の準備でにぎわってるし、村の外では野営しているのもいるし」

 誤算の一つがそれだ。
 村の宿泊施設が少ないので、祭り前日に来た人が泊まれなくなってしまった。
 空き家の建設を止めたのが痛かった。なので、外で野営をしている。
 
「野営してる人たち、大丈夫かな……」
「大丈夫でしょ。狩りで野営することもあるし、ここが居心地良すぎるだけで、野営に文句言う種族なんて、このオーベルシュタインにはいないわよ」

 エルミナが言う。
 そうなのかもしれないけど、俺としては気になる。
 
「ま、気にしなくていいわよ。それより、今日はさっさと寝るわよ」
「ああ。そうだな」
「みゃうー」
「お祭り、楽しみだね」

 明日は、緑龍の村初めてのお祭り……なんか緊張してきたかも。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 朝早くから開幕の「打ち上げ華火」が上がった。
 村中に華火が上がり、明るい空を彩る……んー、やっぱ明るいと見えないな。
 俺は浴衣を着て外へ。
 ちなみに、シェリーたちは早朝から屋台へ行ってしまった。
 村の入口では、様々な種族たちが入ってきた。そう、華火と同時に祭りが始まったのである。
 俺は役場へ向かい、いつも通りピッチリした仕事着のディアーナと顔を合わせた。

「おはようございます。アシュト村長、すでにお祭りは開始され、お客様の入場も始まりました。屋台も始まり、賑わいを見せていますね」
「お、おう。遅刻してすみませんでした」
「はい」

 そう……俺は遅刻していた。
 朝食を食べた後に役場に行く予定だったのだが、浴衣を着るのに手間取ったせいで送れたのである。
 すると、役場の新人である妖狐族の少女が、木で作った太めの棒を俺に渡す。

「村長。こちらの『拡声棒』に挨拶を。村中に設置した『拡声魔石』から、村長の声が流れるようにしてあります。予定と少し違いますが、ここで挨拶をお願いします」
「わかった。こほん」

 俺は拡声棒を受け取り、この日のために考えた開会の挨拶文を喋る。

『皆さん、おはようございます。本日より三日間、緑龍の村夏祭りが開催されます。えー、出し物もいっぱいありますし、おいしい屋台もいっぱいです。えっと……お財布の中身と相談して……あー』

 や、やばい……ド忘れした。
 後ろでディアーナが頭を押さえ、いつの間にかいたルシファーが口を押えて震えていた。

『とにかく!! いっぱい食べて、いっぱい遊んで、緑龍の村夏祭りを満喫してくださいっ!!』

 拡声棒を妖狐さんに返し、赤くなった耳を押さえた。

「最高!! うん、最高だよアシュト!!」
「やかましい……というかお前、いつの間に」
「兄さん、ここは関係者以外立ち入り禁止です」
「まぁまぁ、いいじゃないか。よーし、ボクはさっそく屋台巡りでもしようかな♪ またねっ」

 ルシファーは、デーモンオーガのダイドさんを連れて行ってしまった。
 すると、入れ違いでミュディとエルミナ、ルミナがやってきた。
 全員浴衣だ。よく似合ってる。

「アシュト、お疲れ様」
「ぷぷぷー、なにあの挨拶? 緊張してた?」
「う、うるさい。ド忘れしたんだよ」
「おい、はやくお店行きたい」

 ルミナが袖をくいくい引っ張るので、頭とネコミミを撫でた。
 俺はディアーナに確認する。

「なぁ、本当に俺が手伝うことはないのか?」
「はい。あとは私たち文官の仕事ですので」
「……お前たちも休んだり遊んだりするんだよな?」
「ええ。皆、若い女性ばかりですし……お祭り、楽しみにしてる子も多いんですよ?」

 と、妖狐族の少女がコクコク頷いていた。尻尾も揺れてる。
 そして、ミュディが言う。

「ディアーナ。ディアーナも?」
「……私は、責任者ですので」
「だめ!! ディアーナもお祭り楽しまなきゃ。アシュト、お願い」
「え」
「村長命令」
「……わ、わかった。ディアーナ、お前も祭りを楽しむこと。これ村長命令な」
「……もう、ミュディさんはずるいです」
「えへへ。今日は無理だけど、一緒に遊ぼうね」

 ミュディ、すごく強くなったな……エルミナも驚いている。
 すると、ルミナが俺の手をグイグイ引く。

「みゃあ。話長いぞ」
「あ、悪い。じゃあ、そろそろ行くか」
「そうね。私、お酒飲みたいわ~」
「わたしはお菓子食べたいなぁ。それと、製糸場で働いてる子たち、いろんな小物を作ってたの。お祭りで売るって言ってたのも気になるかも」
「甘いの食べたいぞ。みゃうぅ」

 役場からでもわかる、祭りの賑やかな雰囲気。
 俺もワクワクしてきた。
 今日から三日間、楽しい夏祭りの始まりだ!
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