大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
418 / 474
竜騎士の新人

第612話、新人竜騎士の苦悩②

しおりを挟む
 今日も天気がいい。
 俺は、ルミナとモフ助、黒い子猫を連れて村を散歩していた。
 モフ助は地面を這い、黒い子猫はトテトテと速足で付いてくる。子猫が少し遅れるとルミナは止まり、追いついてはまた歩きだす。

「みゃう、速いぞ」
「悪い悪い。な、抱っこしたほうが早くないか?」
「それじゃダメ。強くなれない」
『もきゅー』
『ミャー』

 モフ助も頷いたように見えた。
 この黒い子猫、最近村の猫が産んだ一匹で、出産にルミナが立ち会った。
 しばらくは母猫と一緒にいたんだけど、ルミナを気に入り、最近はずっと後を付いてくる。この黒猫、ルミナにしか懐いていないし、俺が撫でようとしたら引っかかれそうになった。
 ツンとして、どこか懐きにくい黒猫……ルミナみたいだ。
 そんなわけで、ルミナのお供がまた増えた、ってわけだ。
 のんびり川べりを歩いていると。

「……はぁぁ」

 女の子がいた。
 なんか見覚えあるな……あ、そうか。竜騎士の新人の子だ。
 確か、三人ほど女性の竜騎士が誕生したそうだ。
 シェリーのいい部下になるとかで、緑龍の村に配属されたんだっけ。確か名前は……。

「えーと……ディナだっけ?」
「え? あ……あ、アシュト様!?」

 竜騎士の少女ディナは敬礼する。
 なんだかデジャヴだな。つい最近もこんなことあった気がする。
 俺は聞いてみた。

「あのさ、何か悩んでるのか?」
「え」
「いや、ため息吐いてたから」
「…………大したこと、ありません」
「んー……もし話せるんだったら、話してみないか?」
「…………」

 ルベンの時も、話してから解決したしな。
 何か力になれるかもしれない。
 すると、ディナはポツリと言う。

「……実は、うちの子が……環境が変わったせいで、気性が荒くなって。今までは私を普通に乗せていたのに、最近は起きてくれないし、暴れるし、私を振り落とすし……う、うぅぅ。憧れの竜騎士になれたのに、騎乗禁止命令が出て、ううぅぅ」
「そ、そうだったのか……」

 うちの子、ってドラゴンだよな。
 すると、ルミナが言う。

「みゃう。ストレスだな」
「「え?」」
「環境が変わってストレスたまってる。無理に乗ろうとしないで、一緒に散歩したり、おいしいもの食べさせたり、とにかくストレスを取り除くのがいい。あまりストレス溜めると、お腹の調子悪くなったり、病気になる」
『もきゅ』『ミャー』

 モフ助と黒子猫も同意するように鳴いた。
 そうだな。せっかくだし、ルミナに診てもらうか。

「な、ディナ。お前のドラゴン、どこにいるんだ?」
「……隔離厩舎です。村外れにある、暴れドラゴンを入れておく厩舎」
「そんなのあるのか。よし、じゃあ行ってみるか」
「え……で、でも、アシュト様にそんな」
「いいって。俺やルミナが力になれるかもしれないし」
「みゃうー、お礼はお菓子でいいぞ」
『もきゅう』『ミャー』
「わ、わかりました……案内します」

 というわけで、ディナと一緒に隔離厩舎へ向かった。

 ◇◇◇◇◇

 隔離厩舎にいたのは、傷だらけのドラゴンだった。
 壁や鉄柵に身体を打ち付けたのか、身体中に擦り傷がある。
 
「ヨセフ。会いに来たよ」
『……グルル』
「怪我してる……大丈夫?」 
『ゴルルルルッ!!』
「うおっ!?」

 ヨセフというドラゴンは、首を上げて俺たちを威嚇する。
 黒猫の毛が逆立ち、モフ助も身体を丸めてしまった。だが、ルミナは怖がらずに柵を乗り越え中へ……って、何してんのこの子は!?

「お、おいルミナ!? 危ないぞ!!」
「うるさい。大きな声だすな」
「む」
「お前、この子のストレスの原因わかってない。みゃう、あーんして」
『……』

 ヨセフは大きな口をガパッとあける。うわぁ、ルミナを丸呑みできそうな口だ。
 ルミナは、ヨセフの口を確認する。
 そして、何かに気付いたようだ。

「やっぱり。この子、ごはんぜんぜん食べてない。牙も綺麗……でも、痩せちゃってる。ストレスの原因、きっとここのご飯だと思う」
「ご、ご飯……? え、餌がマズいの?」
「まずくない。口に合わないだけ。この子、今まで何を食べていた?」
「えっと……騎竜用の練り餌だけど。ここでは、新鮮な肉や野菜があるから、それを混ぜて食べさせてた」
「それが原因。この子、ずっと練り餌ばかりだったから、生肉や野菜をあまり受け付けない」
「え……で、でも。ドランロード王国では、たまに生肉や野菜を食べさせてたわ」
「たまに、だろ。毎日とたまには違う」

 つまり、食事が合わないからイライラしてるのか。
 だったら簡単。その練り餌をドラゴンロード王国から持ってくればいい。

「よし。ドラゴンロード王国から、騎竜用の練り餌を持ってくるようにお願いするか」
「アシュト様……いいんですか? その、私のためだけに」
「いいよ。でも、新鮮な生肉や野菜のが身体にいいなら、そっちも食べて欲しいな」

 そういうと、ルミナが言う。

「ちょっとずつ食べさせるといい。毎日はダメだぞ」
「は、はい」
「とりあえず、今は栄養あるのを食べさせないと。いくらドラゴンでも、このままじゃ弱っちゃうぞ」
『もきゅ』『ミャー』

 モフ助と黒猫が俺にすり寄って来る。
 まるで「なんとかしろ」と言っているようだ。
 俺は『緑龍の知識書』を開いてみる。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 植物魔法・果物
 〇ドラゴンフルーツ

 かつてのドラゴンたちが愛した果物。
 人間は食べられないけど、ドラゴンたちの大好物!
 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「お、いい魔法あるな。よし……さっそく」

 隔離厩舎から出て、杖を構え詠唱……魔法を発動させると、緑龍の杖から種が落ちた。
 そして、隔離厩舎の傍に、一本の複雑に枝分かれした木が生えた。
 木には真っ赤な果実が大量に生っている。形は星型で、俺の両手で抱えられる大きさの果実だ。すごいな、メロンみたいにずっしりして重い。
 ディナはヨセフに鎖を付けて連れ出す。俺はディナにドラゴンフルーツを渡した。

「ヨセフ、これ食べられる?」
『?……スンスン……ッ!?』

 匂いを嗅いだヨセフは目を見開き、ドラゴンフルーツに喰らい付いた。
 口の中でグシャグシャと咀嚼し、ごくりと飲み込む……すると、おいしかったのか翼をバサバサさせ、もっとよこせと言わんばかりにディナに甘えだした。
 俺は追加のドラゴンフルーツをいくつか収穫。ディナに渡す。

「あははっ、慌てなくてもいっぱいあるから!」
『ギャウゥ!! ギャウゥ!!』
「おいしい? おいしい? よかったぁ……アシュト様、ありがとうございます」
「いやいや。元気になってよかったよ。な」
「みゃう」
『もきゅう』『ミャー』

 ルミナ、モフ助、黒猫も嬉しいようだ。
 俺たちはしばし、嬉しそうにドラゴンフルーツを食べるヨセフを眺めていた。

 ◇◇◇◇◇

 その後、ヨセフはドラゴンロード王国から取り寄せた練り餌を食べ、元気になったらしい。食生活を変えるべく、二日に一度は新鮮な肉や野菜の食事にしているようだ。
 ドラゴンフルーツの木はそのままにした。
 ランスローとゴーヴァンに「ドラゴンたちのおやつに」と言って自由に食べてもらう。果物の成長が早く、一度すべて収穫しても、四日ほどでまた実るようだ。
 ルミナも、ヨセフの診察をして「もう大丈夫、みゃう」って言ってたし大丈夫だろう。
 俺は、ルミナと散歩しながら聞いてみた。

「それにしても、一目見てすぐにストレスってわかったな」
「みゃあ。痩せてたし、身体中傷だらけだったし、ストレスによる自傷行為だって見てわかった。牙を見れば食事してるかどうかわかるし、お腹さわれば胃の様子もわかる」
「さすがだな、ルミナ」
「みゃ……ごろごろ」

 頭を撫でると喉がゴロゴロ鳴る。
 ネコミミも、片方だけピコピコ動いていた。機嫌がいい証だろう。
 ふと、空を見上げると。

「あ、見ろよ……ディナと、ヨセフだ」
「みゃあ」
『もきゅ』『ニャー』

 空を見上げると、シェリーとアヴァロンを先頭に、ディナとヨセフ、他に二人の女性竜騎士が飛んでいた。どうやら完全に復帰したようだ。
 俺は大きく背伸びし、ルミナに言う。

「さてルミナ。腹も減ったし、屋敷でシルメリアさんにおやつでも作ってもらうか」
「ん、クリ食べたいぞ」
「はいよ。クリのケーキでも作ってもらうか」
『もきゅう』『ニャー』

 俺はルミナと手をつなぎ、屋敷までのんびり歩きだした。
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。