大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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竜騎士の新人

第614話、新人竜騎士の苦悩④

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「まんどれーいく」
「あるらうねー」
「まてまて、先に行くなって。転ぶぞー」
『コロブゾー!』

 ある日、俺はマンドレイクとアルラウネとウッドを連れて、川べりを散歩していた。
 最近、川べりを散歩することが多い。川の流れる音って好きなんだよね。
 マンドレイクとアルラウネは、石を川に投げてあそんだり、たまに跳ねる魚を見て喜んでいた。ウッドも、ウンウン頷きながらマンドレイクとアルラウネを見守ってるし……なんとなくだけど、先に生まれたウッドはお兄さんぶっているのかもしれない。
 すると、マンドレイクが俺の袖を引いた。

「まんどれーいく」
「ん、どうした? って……まさか」

 川べりに、二人の竜騎士が俯いていた。
 若い少年少女だ。一人は青い髪の少年で、もう一人は薄桃色のショートヘアの少女だ。二人は竜騎士の鎧を着ており、同時にため息を吐いては川に石を投げていた。
 おいおい……この川べり、竜騎士が悩んでは迷う場所なのか?
 すると、アルラウネが少年の袖を引く。

「あるらうねー」
「え……あ、アシュト様。こんにちは」
「お、おお……二人とも、悩んでるみたいだけど、どうした?」
「……う、ぅぅぅ」
「え」
「アシュト様、あたしたち……もうダメかもしれません!!」

 桃色の女の子が泣きだした。
 すると、青髪の少年がそっと肩を叩き、慰めるように言う。

「大丈夫だって。ぼくも一緒に怒られてやるから……な?」
「あ、アシェル……ごめんね、ごめんね」
「大丈夫。ゼブルン、何があってもぼくらは親友だ」

 あの……何を見せられているんだろうか?
 間に入れず見ていると、二人はハッとして離れた。

「あの、帰っていいか?」
「す、すみません!! ぼくはアシェル。彼女はゼブルン、今期から緑龍の村に配属された、新人の竜騎士です!!」
「アシェル、ゼブルンね。それで……何か困ってるのか?」
「え、ええ。その……」
「う、うぅぅ」

 ゼブルンが泣いている。アシェルも慰めているが、なかなか泣き止まない。
 困ったな。どうすればいいんだろうか?」
 すると、マンドレイクがゼブルンの袖を引っ張った。

「まんどれーいく!!」
「え……?」
「まんどれーいく」

 マンドレイクは、ゼブルンの袖を引っ張り、俺を指さす。
 アルラウネはアシェルの袖を引き、俺を指さした。
 そして、ウッドが言う。

『コマッタラ、アシュトニマカセロー!!』
「お、おいウッド。はぁ~……仕方ないな。とりあえず話してくれ。俺が力になるから」
「「…………」」
 
 二人は顔を見合わせ、互いに頷き合った。

 ◇◇◇◇◇◇

「はいぃ!? こ、今期分の竜騎士たちの賃金を、オーベルシュタインの森に落としたぁ!?」
「う、うぁぁぁぁぁぁ~~~んっ!!」

 ゼブルンは泣きだした。
 竜騎士の賃金は、ドラゴンロード王国から支払われる。それを役場でベルゼ通貨に換金し、騎士たちは買い物をしている。
 賃金は、ドラゴンロード王国から運ばれてくる。その運搬係の一員に、アシェルとゼブルンが抜擢されたのだが……賃金の入った宝箱の中身を、ゼブルンのドラゴンが落としてしまったらしい。さらに、ゼブルンはそのことに気付かず、緑龍の村まで来てしまったというわけだ。
 竜騎士たちの宿舎にある地下室の金庫に宝箱が置いてあり、給料日に空けることになっている。ゼブルンは宝箱を金庫へ運んだのだが、やけに軽いことに気付いた。
 中を開けると……入っていない。さらに、鍵が開いていた。
 間違いなく、オーベルシュタインの森のどこかに、落ちたようだ。

「ま、マジか……」
「う、うぇぇ……お、おきゅうりょう、わ、わたしが、わたしがおどしじゃっで……べ、べんじょう、べんじょうでぎな、うぇぇ」
「お、おい泣くな。ああもう……」

 さて、どうするか。
 俺が立て替えるのが手っ取り早いけど……現在、村にいる竜騎士は二百人ほどだ。最初はローレライとクララベルの騎士団だけだったけど、村の拡張に伴い警備の範囲が増え、騎士を増やしたんだ。
 二百人ぶんの給料を全て建て替えるとなると、相当な金額になる。 
 さすがに、これだけの金額を動かすと、俺にも追及が来るな。
 バレない範囲で出せるのは、せいぜい二十人分くらい……た、足りないな。

「う、うーん……いろいろ悩みを解決してきたけど、お金か……」

 村の中ならライラちゃんやシロに頼んで探せるけど、オーベルシュタインの森のどこかに落ちた給与を探すのは難しい。ヒントなしで探すのなんて、砂漠に落ちた針を探すようなものだ。

「アシュト様、申し訳ございません……この責任は、ぼくとゼブルンで取ります」
「……どうするんだ?」
「責任を取って、竜騎士を除隊します。ドラゴンロード王国の闇金で借りて、ひとまず補填します。そのあとは、相棒と空輸便で稼いで返金しますので……」
「ひっぐ、ひっぐ……ごべんね、あじぇる」
「いいよ。それより、ゼブルンが泣いてる方が辛い」
「う、ひっく……うん」
「…………」

 ああもう……やめてくれ、こういうの弱いんだ。
 何とかしてやりたくなるだろうが。

「待った。待った待った。闇金には手を出すな。ドラゴンロード王国の闇金は知らないけど、間違いなく高利子だぞ。それに空輸便だけで稼いで返金するのは無茶だ。何年もかかる」
「でも、他に方法は……」

 すると、ウッドが言う。

『カセグ、カセグ!!』
「え?」
『オカネ、ホシイナラカセグ!!』
「か、稼ぐって……そんな、いきなりは無理ですよ」
「待った……そうか、稼ぐ。その手があった」
「まんどれーいく!」
「あるらうねーっ!」

 マンドレイクとアルラウネが胸をドンと叩く。まるで、『手伝いはする』と言っているようだ。
 こうなったら、やるしかない。

「アシェル。給料日はいつだ?」
「え、えっと……十日後です」
「よし。こうしちゃいられない。金に関することなら、あいつに相談だ!!」
「「……あいつ?」」

 俺は立ち上がり、アシェルとゼブルンを連れて走り出した。

 ◇◇◇◇◇◇

 というわけで、やってきたのは。

「ククククク……さすがアシュト様。お目が高いですネェ。このディミトリに相談とは。ククク、ハァーッハッハッ!!」

 久しぶりに頼られて嬉しいのか、気持ち悪い高笑いのディミトリ。
 ここはディミトリ商会の地下室。大事な話があるとリザベルに言うと、ここに案内された。
 完全防音、魔法で外部と遮断し、隔離してあるという。
 内装は豪華で、俺たちが座っているソファはフカフカだし、出されたカーフィーも高級品だ。
 アシェルとゼブルンが緊張してるので、さっさと話すことにした。

「ディミトリ。金が必要なんだ……十日以内に大金を稼ぐ方法、何かないか?」
「ほう、大金ですか?」
「ああ。実は───……」

 ディミトリに事情を話す。
 こいつは間違っても竜騎士には言わないだろう。長い付き合いだし、胡散臭いやつだけど秘密は絶対に守る男だと俺は知っている。
 ディミトリは「ふむ」と言い、自身の手入れされた髭をいじる。

「大金とは、具体的な金額をお聞きしても?」

 ディミトリはアシェルへ聞く。
 アシェルは、一枚の羊皮紙を取り出す……それは、明細書だった。
 誰にいくら払うか書かれた明細書だ。こういうの、あんまり見ちゃいけないんだよな。

「ふむ、役職ごとに給与が違いますな。やはり騎士団長となると、なかなか……総勢二百名で、総額1億4000万ベルゼですな」
「い、一億ぅ!?」

 マジで、どんだけもらってんだ。
 と、十日で1億……で、できるのか?

「……やっぱり、無理ですよ」

 ゼブルンがガックリうなだれる。
 だが、ディミトリは言った。

「可能ですな」
「「「え」」」
「アシュト様。一つ一つの単価が高い物で、思いつく物は?」
「え、一つの単価で高い物? んー……宝石とか?」
「ご名答。そう、宝石ですよ」

 ディミトリは指をパチンと鳴らす。すると、テーブルに一枚の羊皮紙が現れた。
 その羊皮紙に向けて指を突きつけると、羊皮紙に絵が浮かぶ……杖を使わない魔法っていいな。
 羊皮紙に浮かんだのは、ピンク色に輝く宝石だ。

「わぁ、綺麗……」
「これ、何ですか? 初めて見た……」
「これは、『ピンキースター』という宝石。現在、ベルゼブブの富裕層に大変人気の宝石でして……ですが、この美しいピンク色の宝石は希少で、原石がなかなか採取されないのです。掌サイズの原石でさえ、最低価格が2000万ベルゼほど」
「「「に、にせんまん!?」」」

 ディミトリは、手のひらを見せる。すると、小さな桃色の石が現れた。

「このサイズで2000万です。つまり、ピンキースターの原石を七つ集めれば、目標金額に届くというわけですな」
「ま、マジか……うおお、すごいな」
「ですが、少し問題もあります」

 はい来たー……いやな予感。
 だが、アシェルとゼブルンは前のめりになって話を聞いていた。

「ピンキースターは希少鉱物でして、ここから南にある『塩の山』でしか採取できないのですよ。さらにさらに、塩の山には危険な魔獣が住み着いてまして」
「マジかい……」
「ええ。ですが、アシュト様なら何とかできるのでは?」
「…………」

 ま、まぁ……できる、かな?
 フンババかベヨーテを連れて行けば危険な魔獣は何とかなる。シロを連れて行って、ピンキースターの匂いを探してもらえばいい。
 俺は頷いた。

「わかった。その塩の山とかいう場所を教えてくれ」
「かしこまりました。フフフ……アシュト様、ピンキースターを発見したら、ぜひこのディミトリまで!!」
「はいはい。アシェルとゼブルン、それでいいか?」
「あたしは、問題ないです」
「ぼくも」
「では、契約成立です。クックック……塩の山の近くまでは、わが商会が護衛をしましょう」

 こうして、俺たちは『塩の山』まで行くことになった。
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