大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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ビッグバロッグ祭り

第647話、従兄同士・恋人同士・同僚同士

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「ね、シェリーあっちあっち、あっちからいい匂い!」
「あーもう引っ張んないでよ。行くからさ」

 シェリーとラクシュミは、食べ歩きしながら古商業区画を歩いていた。
 ラクシュミは久しぶりのビッグバロッグ王国を満喫している。
 手には、砂漠の国名産の『アイスマンゴー』を絞った果実水があり、それをゴクゴク飲みながら言う。

「あ~おいしい。ビッグバロッグ王国ってやっぱいいわねー」
「アンタさぁ、ディミトリさんのところにいるんでしょ? 魔界都市ベルゼブブもかなり発展した国って聞いてるけど」
「あっちは夢の世界。こっちは現実。そんなもんよ」
「意味わかんないし……」

 シェリーは、焼いた肉串を食べている。ニオイに惹かれついつい買ってしまったが、かなり塩味が濃く美味い。
 すると、シェリーたちの近くに見覚えのある人がいた。

「あれ。リュウ兄だ」
「お、ほんとだ。リュドガくん」
「ん? おお、シェリーにラクシュミか」

 リュドガは部下に何か命令し、二人の傍へ。

「リュウ兄、忙しそうだね」
「まあな。ビッグバロッグ商業組合から正式な依頼を受けての警備だ。騒ぎがいくつか起きているし、ヒュンケルやルナマリアの部隊も対処に追われている……まあ、いつものことさ」
「せっかくの祭りなのに、エクレールやスサノオと一緒にいれないのは残念かもねー」
「それを言うなよ」

 リュドガは苦笑する。

「二人は今、習い事に忙しい。お前も覚えがあるだろ?」
「まぁね。剣術、魔力操作訓練、各種お稽古やお勉強……あー思い出したくない」
「ははは。エクレールは剣の才がある。スサノオは身体を動かすことより勉強するほうが好きなようだ」
「ふぅん。なんか、リュウ兄やお兄ちゃんみたい」
「ははは……と、すまんなラクシュミ」
「ううん。兄妹っていいなーって思っちゃった」

 ラクシュミを放置して二人で喋っていたことに対する謝罪だったが、気にしていないようだ。

「そういえば、さっきエルミナさんに会ったぞ。裏通りの店に向かったようだ」
「裏通り……うげ、ゲテモノ通りじゃん。エルミナ、マジ?」
「ゲテモノ通り?」

 ラクシュミは首を傾げた。
 シェリーは、少し渋い顔で言う。

「そのまんまの意味。ゲテモノばっかり扱ってる通りよ……虫とか、よくわかんない食材とか」
「ふふん、それは面白そうね……行くわよシェリー!!」
「え、ちょ!?」

 ラクシュミは、シェリーを引っ張り歩きだした。

「ははは、仲がいいな。まぁ、お前がいるなら大丈夫だろう」
「ああもう、リュウ兄また後で!! ラクシュミ、自分で歩けるってば!!」
「ささ、美味しい物食べるわよーっ!!」

 二人はゲテモノ通りへ向かい、リュドガは笑って見送った。

 ◇◇◇◇◇

 アセナとレムスは、二人並んで歩いていた。
 アセナはレムスの腕にそっと自分の腕を絡め、やや照れながら歩いている。
 そんな二人を、ミュディはニコニコしながら後ろで視ていた。

「わぅぅ……ミュディ、楽しそう」
「え? あ、あはは……あ、ライラちゃん、あっちに可愛い帽子あるよ」
「くぅん。かわいいの好き!」

 すると、アセナがミュディの元へ。

「あの、ミュディさん。わたしとレムス、二人でその……」
「あ、うん。デートだよね。ごめんね、野暮だったよね」
「い、いえ!! 見知らぬ地ですし、保護者が必要なのはわかっています。あまり離れませんし、ミュディさんたちの匂いはわかるので、すぐに合流できますので」
「え、におい?」
「はい。ミュディさんだけじゃなくて、村長やエルミナさんたちも……くんくん、村長たちはミュアたちと一緒に、ここから三キロほど離れた場所にいるようです」
「す、すごいね」
「くぅん。わたしもわかるよ」

 オオカミとワンコの嗅覚はすさまじい。ある意味、迷子になっても安心。
 ミュディは財布からお金を出し、アセナへ渡す。

「はいこれ。二人でお昼ご飯食べてね」
「だ、大丈夫です。お金はもらって」
「いいの。ふふ、デートを楽しんでね」
「……はい!!」

 アセナはお金を受取り、レムスの元へ。
 レムスはミュディに向かってペコペコ頭を下げ、そのまま二人で腕組みして雑踏へ消えた。
 
「……いいなあ」
「ミュディ?」
「あ、ごめん。じゃああっちのお店行こうか」
「わん」

 あの二人には上手くいってほしい。
 そう思い、ミュディはライラと出店へ向かう。
 出店に並んでいたのは、靴下のような布きれだった。

「なんだろう、これ」
「いらっしゃい。うちの商品に興味ありかな?」

 店主の犬獣人おばさんがライラを見た。

「お、獣人の子だね。しかも女の子……うちの商品、興味ないかい?」
「くぅん。なにこれ? 靴下?」
「違う違う。これはね、『耳カバー』さ。ほら」

 犬獣人のおばさんは、自分のイヌミミにカバーをスポッと付けた。
 カラフル模様の耳カバーは、なかなかのオシャレ。
 ライラは興味を持ったのか、ミュディに言う。

「これ、欲しい!!」
「わたしも同じ事考えてた。なるほど……帽子じゃない、耳を覆うカバーかあ」

 ミュディの創作意欲に火が付き、ライラ用と、ミュアたち猫族用にいくつか買った。
 ライラはさっそく耳カバーを付けた。

「えへへ、おしゃれ」
「んん~かわいい。よしよし」
「くぅぅん」
「ふふ。まだまだお店はいっぱいあるし、いろいろ回ろうか」
「わん!!」

 ミュディたちは、衣料関係の店が並ぶ通りへ歩きだした。

 ◇◇◇◇◇

 ビッグバロッグ王国が警備をしている祭りの最中、定時報告のためヒュンケルはルナマリアと合流した。
 場所は古商業区にある、警備のために王国軍が借りた建物。
 ヒュンケルが建物に入ると、ルナマリアがいた。

「おう」
「ああ。お疲れ」
「リュドガは?」
「まだ来ていない」

 室内はシンプルだ。椅子とテーブルだけで、テーブルには古商業区のマップがあり、赤い線でマークしたり文字が書かれている。
 ヒュンケルは椅子にドカッと座った。

「あー疲れたぜ。異種族同士の喧嘩とか、釣銭誤魔化されたとか、違法行為してる店とか……デカい祭りになると犯罪も横行しやがる」
「こっちも似たようなものだ。すでに三つの出店を摘発した」

 ルナマリアも疲れたのか首をコキコキ鳴らす。
 そして、思い出したように言う。

「ああ、そうだ。アシュトたちが帰って来たぞ。今頃、祭りを楽しんでいるだろうな」
「お、そうか」
「今夜、屋敷に来るが……お前も来るか?」
「んん~……それもいいな。せっかくだし外で飲まねーか? リュドガとアシュトたちも連れてよ」
「それも魅力的だな。だが、子供たちもいる……」
「あ、そうか」
「屋敷内に、義父上の作ったバーがある。そこにしよう」
「いいね。じゃ、お邪魔するぜ」

 ルナマリアは、ヒュンケルをジッと見た。

「ん、なんだよ」
「ヒュンケル。お前……結婚はしないのか?」
「……唐突だな」

 いきなりで驚いた。が……ヒュンケルにそういう縁がない話でもない。
 たまにだが、見合いの申し込みがあったり、絶縁した実家からお見合い写真が届いたりもする。
 現在、ヒュンケルは独立貴族だ。実家から離れ、武功を立てたことで騎士爵位を得ている。
 小さいながらも屋敷を構え、使用人なども雇って生活していた。
 自由───……ヒュンケルを見る者は、そう思う。

「お前の副官、フレイヤだったか? 彼女も未婚だろう……どうなんだ?」
「アホ。副官を嫁にできるワケねーだろうが」
「むぅ……」
「お前なぁ。子供産んでから母性っつーのか? 目覚めたのか?」
「いや、お前の心配をだな」
「気にすんな。ま、いい相手見つけたらするからよ」
「そうか。フフフ……」
「……気味悪いぞ。なんだその笑い」
「いや、子供はいいぞ。可愛いし、日々の成長を見ていると胸が高鳴る。ふふふ……まだ三歳だが、早期に『魔法適正』を調べようという話もあってな」
「魔法適正は、ある程度成長しないとわかんねーんじゃないのか?」
「ああ。だが、魔法の改良が行われてな、あと数年の研究で、五歳から判明できるそうだ」
「ふーん……だけど、気を付けろよ」
「……ああ」

 それだけで、ルナマリアは察した。
 魔法適正が『植物』と知り、絶望した義弟のことを。
 精神が幼いうちに知らせておくのもいい。だが、それが望んだものでない場合、子供だったらどれほど絶望するか……それとも、絶望を糧に立ち上がるか、そのまま落ちるか。
 リュドガとルナマリアの子供たちは、どうだろうか。

「ま、お前とリュドガの子なら大丈夫だろ」

 ヒュンケルはあっさり言う。
 ルナマリアは一瞬だけポカンとして、すぐに顔をほころばせた。
 すると、ドアが開く。

「すまない、遅れた」
「おう」
「ああ、来たか」
「……ん? ルナマリア、なにかいいことでもあったのか?」
「……さぁな」

 幼馴染の三人が揃い、ようやく定時報告が始まった。
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