大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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ビッグバロッグ祭り

第648話、最後はやっぱりみんなで

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 さて、ビッグバロッグ祭り初日も終わりを迎え、宿に戻ったのだが。

「にゃぅぅ……」
「にゃ……」「にゃぁう」

 ルリとメノウが疲れて眠ってしまい、ミュアちゃんも一緒に寝てしまった。
 ミュアちゃんはともかく、ルリとメノウは屋敷に返さなくちゃいけないんだよな。でも、かわいらしくスヤスヤ寝ている二人を起こすのもなあ。
 俺はフレキくんに言う。

「ごめんフレキくん。ちょっと屋敷に顔出して来るから、子供たちのことお願いしていい?」
「わかりました。お任せください!!」

 胸をドンと叩くフレキくん……なんて頼りになる。
 日が傾き、そろそろ夜になる。
 俺は転移魔法で屋敷へ向かうと、到着したのは俺の部屋だった。
 部屋を出て、メイド長のミルコを探す。

「アシュト様、お帰りでしたか。申し訳ございません、お出迎えもせずに」

 転移魔法で帰る俺を出迎えるのは不可能だろう。
 父上の執事であるセバッサンにミルコのことを聞く。

「今の時間ですと、厨房ですな」
「わかった」

 さっそく厨房へ。テンポよく行くぞ。
 厨房にミルコがいた。

「ミルコ、ちょっといい?」
「アシュト様? お帰りでしたか」
「うん。あのさ……ルリとメノウなんだけど」

 事情説明。
 町で遊んで疲れて寝ちゃったこと、今は宿にいることを言う。
 ミルコは苦笑した。

「子供ですから仕方ないですね……わかりました。今日明日は仕事休みにしますので、明日までにお返しくださいね」
「うん、ごめん……」
「いえいえ。たまには子供らしく過ごすのも大事ですよ」

 ミルコはにっこり笑い、スープの仕込みを続ける。
 よし、これであの子たちはゆっくり寝れるな。
 屋敷の外で転移魔法を使おうとすると、一台の馬車が止まった。
 エストレイヤ家の紋章が刻まれた馬車だ。降りてきたのは、エクレールとスサノオだ。

「おじ様!!」「おじ上!!」
「エクレール、スサノオ。久しぶりだね」

 駆け寄ってくるエクレール、姿勢よく歩いてくるスサノオ。
 俺は抱きついてくるエクレールの頭を撫で、じっと見るスサノオも撫でた。
 この二人に会うのも久しぶりだ。少し背が大きくなったような気もする。
 おっと、この二人にも伝えておかないとな。

「二人とも、ルリとメノウのことなんだけど」
「「?」」

 今日はお休みで、祭りに誘ったこと、そしてそのまま寝てしまったことを説明する。
 すると、エクレールがムスッとした。

「むぅぅ……お祭り、あたしも行きたいな」
「姉上。その気持ちはわかりますけど、ぼくたちにも貴族のせきむが」

 スサノオ、難しいこと知ってるな。
 以前、獣大国サファリで王女のペルシャちゃんに使った『擬態の木フェイクツリー』を使えば遊びに出掛けられるだろうけど……あれはある意味、周囲を欺くための魔法だ。兄さんたちの子供に対して使っていい物か。
 
「まあ、そうよね……エストレイヤ家の子として、恥ずかしくないようにお勉強してるんだもん。ちゃんと我慢するもん」
「そのとおりです」

 あれ。
 エクレール、もっと騒ぐかと思ったけど……聞き分けいいな。
 とりあえず、二人を連れて屋敷へ。
 その後、俺は宿に転移してフレキくんと合流。俺の部屋で話をする。

「師匠、せっかく故郷へ帰って来たんですし、ご家族と過ごされては? 子供たちはボクが見ていますので!!」

 何この子、聖人?
 挨拶くらいはしに行こうと思ってた。今回は『思い思いに過ごす』って感じの帰省だったし。そりゃあ、兄さんやヒュンケル兄と飲みに行こうかなーとは思ってたけど、子供たちもいるし。
 それに、明日はシャヘル先生とフレキくん、ルミナと過ごす予定だ。ミュアちゃんはミュディが連れて行ってくれる手はずになっている。
 フレキくんはニコニコしながら言う。

「師匠。ボクは師匠の故郷に来れて、明日は師匠の師匠と一緒に見回れるんです。なので、師匠……少しくらい、ボクにもお返しさせてください」
「ふ、フレキくん……」

 マジで聖人だよフレキくん……!!
 嬉しさに浸っていると、黒柴犬の子を抱いたルミナがベッドから出てきた。

「ふみゃぁぁ……うるさいぞ」
『くーん』
「あ、悪い」
『アシュト……シズカニシテー』
「あ、ウッドも起きちゃった。悪い悪い」

 この場をフレキくんに任せ、俺は転移魔法で屋敷に戻った。
 
 ◇◇◇◇◇◇

 屋敷に戻ると、なぜかエルミナたち、ミュディ、シェリーにラクシュミ、ドラゴン一家が勢揃いしていた。
 しかも、屋敷のエントランスホールで。
 兄さん、ヒュンケル兄、ルナマリア義姉さんもいる。

「……え、なんで?」

 いきなり登場した俺に視線が注目する。
 すると、入口のドアが開いた。

「戻ったぞ。って、おお!? なんだなんだ、すごい来客だな!! ん? アシュトではないか」
「ち、父上? ですよね……?」
「ははは、父を忘れたか?」

 俺の父に、筋骨隆々で真っ黒に日焼けした角刈り男性はいなかったような。
 前よりも筋量が増えてる。しかも日焼けもすごい。
 とりあえず、俺は言う。

「ヒュンケル兄、なんでこんな人がいっぱい?」
「ここでオレに聞くのがお前らしいぜ……えーと、いろいろ情報を整理するとだな」

 まず、エルミナたち幼馴染メンバーが兄さんの部下と豪遊。そのまま兄さんと合流した。
 ヒュンケル兄はシェリーとラクシュミに会い、そのまま一緒に飲む流れになった。
 ルナマリア義姉さんがミュディと偶然出会い、一緒に飲むことに。ライラちゃんはミュディが転移魔法で村まで送ったそうだ。
 で、兄さん、ヒュンケル兄、ルナマリア義姉さんが合流した。
 そのまま屋敷へ向かおうとすると、大食い王者となり高笑いしているガーランド王を発見、大騒ぎになりそうだったので、家族全員エストレイヤ家へ……そしてエントランスホールに入ったところで、俺が転移してきた。

「───……ってわけだ」
「な、なるほど……なんというか、すごい巡り合わせだな」
「同感」
「なんかすっごく盛り上がってきたわね!! アシュトのパパ、早く飲みましょうよ!!」
「おお? 久しぶりだなエルミナ嬢。よーし、よくわからんが我が家のバーに全員を招待しよう。セバッサン、みなの案内を頼む。ワシは着替えてくる」
「かしこまりました」

 セバッサン、いつの間に。
 とりあえず……みんなで飲むことになりました。

 ◇◇◇◇◇◇

 バーは満員。エストレイヤ家専属のバーテンダーでもあるセバッサンと、手が足りないのでバーテンダーを増員、料理人まで入り、バーは宴会状態だった。

「はーっはっはっは!! いやあ、やはり家族と飲む酒はうまい!! なあアシュトくん!!」
「は、はい」

 ガーランド王がすごい飲む。
 まあドラゴンだし、人間形態でも相当食べるって話だし。
 ずっとガーランド王と話しているわけにもいかないのでローレライに助けを求めた。

「お父様、そろそろ私の相手もしてくださらない?」
「おお、愛しの娘よ~!!」
「さ、今のうちに。あの人は私とローレライで相手するから」
「アルメリア様、申し訳ございません」
「いいの。ふふ、でもあんな楽しそうなガーランド、久しぶり」

 その場から離れ、シェリーたちの元へ。

「へぇ~、クララベルちゃんのツノ、すっごくつやつやして触り心地いいわねぇ」
「ん~、くすぐったいぃ」
「ラクシュミ、やめなさいよ」
「いいじゃん。ね、ね、クララベルちゃんの髪すっごくサラサラだね~……」

 ───……行こうと思ったけどやめた。
 なんか女の子空間だ。俺はすすーっとミュディがいるところへ。

「リュドガさん、お姉様とはどんな感じですか?」
「ど、どんな感じとは?」
「デートしてます? お仕事ばかりじゃダメですよ!! 昔からリュドガさんは仕事仕事で……すっごく鈍感で、でもカッコいい頼れるお兄さんで、でもでも、女心をわかってなくて!!」
「みゅ、ミュディ? その、手にある酒はすごく強い酒だが……大丈夫か?」
「大丈夫です!! それより、お姉様のことをですね」

 ───……離れよう。
 ミュディ、珍しく悪酔いしてるな。
 やっぱり無難なのは、ヒュンケル兄のところかなあ。

「ヒュンケル、農業に興味はないか?」
「え、ええっと……」
「ははは。畑はいいぞぉ? 体調もすっかり良くなったし、隠居後の趣味には最適だ!! お前も農地を持たないか? エストレイヤ家で管理している農地があるんだが」
「あ、あはは……その、まあ」

 こっちも無理だ。
 混ざったら俺もエストレイヤ家の農地を耕すことになりそう。
 どうしたもんかと迷っていると。

「アシュト、こっちに来ないか?」
「ルナマリア義姉さん」

 ルナマリア義姉さんが、カウンターで一人飲んでいた。
 俺は隣に座ると、セバッサンがフルーツカクテルを出してくれた。
 グラスを合わせ、ルナマリア義姉さんは言う。

「お前とこうして飲むのは初めてかもな」
「ですね。いつもはヒュンケル兄とかいるし」
「はは。懐かしいな……お前は、ヒュンケルには懐いていたが、私の方には来なかった」
「いやあ……」

 だって、恥ずかしい。
 友達の姉。ましてや、ルナマリア義姉さんだぞ。
 ミュディやシェリーは懐いてたけど、俺は恥ずかしかった。
 まぁ、正直に言うと……けっこう、憧れてたんだよな。

「ふふ、ミュディとは上手くやっているのか?」
「はい。仲良く過ごしています」
「その、子供とかは……?」
「え、あー……ま、まあなんとか、そのうち」

 頑張ってはいる、俺が言えるのはそれだけだ。
 人数も多いし、けっこう大変なんだよね。

「子供はいいぞ。エクレール、スサノオ……二人の成長が、私の楽しみだ」
「ですよね。さっき会った時にも思ったけど、大きくなりました」
「だろう!! ふふふ、実はエクレールの剣なんだが、才能があるようでな」
「あ、ああはい」

 やばい、ルナマリア義姉さんも酔ってるかも。
 そう気づいた時、すでに遅かった……兄さんもミュディに捕まってるし、俺もルナマリア義姉さんの熱烈トークから逃げられそうにない。
 この日、俺は深夜を過ぎてもルナマリア義姉さんから解放されることはなかった……うう、助けてくれえ。
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