大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編㉓

第666話、エルミナの飲み友達

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 ある日。アシュトたちがドラゴンエイジ森国に行ってから十日以上経過。
 エルダードワーフのアウグストは、自身の工房にいた。
 炉では火が轟々と燃えており、その傍でアウグストは、汗もかかずにいる。
 手には、スライムガラス製の細い筒がある。
 ただの筒ではない。細かな装飾が施され、まるで一枚の『羽』のような形をしている。先端部分は細く、まるで万年筆のような形になっている。
 アウグストは、じーっと見た。

「ふーむ……まぁ、こんなモンかの」

 作っていたのは、『スライムガラスペン』だ。
 万年筆をスライムガラスで作り、装飾を施したもの。
 魔界都市ベルゼブブで人気の万年筆であり、ディミトリ商会から依頼された品だ。
 アウグストは、完成したスライムガラスペンを木箱に入れる。

「さぁて、今日はこんなモンかの……ふぃぃ、腹が減った」

 首をコキコキ鳴らすと、工房のドアがノックされた。

「おーい、いる?」
「ん? おう、開いてるぜ」
「邪魔するわよー」

 と、入ってきたのはエルミナだ。
 
「おうエルミナ。どうかしたか?」
「仕事終わりでしょ? 一杯どう?」
「お、いいな。ちょうど飯と酒にしようと思っとった」

 エルミナの手には酒瓶。
 自分で作ったものではなく、タヌスケ商店とディミトリ商会で買ったものだ。
 アウグストは炉の火を消し、戸棚にある酒瓶をいくつかカバンに入れる。

「で、他には?」
「ブランとレンゲ、あとグラッド呼んでるわ。おつまみはレンゲが持って来るから、お酒だけね」
「おう、いいね。レンゲの嬢ちゃんの作るメシは絶品だからな」
「じゃ、行こ」

 二人が向かったのは、エルミナの工房。
 工房というか、酒造りをするために借りた空き家で、そのまま自分用にこっそり改造した家だ。
 二階は飲み会用の部屋と宿泊用のベッドがあり、地下にはアシュトに内緒で隠してあるワインやウイスキー、セントウ酒の樽がある。
 工房に入ると、いい匂いがした。

「お、来たか!! 旦那、エルミナ、早く飲もうぜ!!」
「はいはーい!! エルミナ、おつまみいっぱい持ってきたよー!!」

 デーモンオーガのブラン、妖狐族のレンゲだ。
 ブランは、かつてバルギルドが戦ったデーモンオーガ、ザオウガの息子で、甘ったれた性格を治してほしいと預かった若いデーモンオーガ。
 レンゲは、緑龍の村で『キツネ亭』という大衆食堂の看板娘だ。
 二人ともお酒が好きで、たまにこうしてエルミナと飲んでいる。
 アウグストは、持ってきた酒瓶をテーブルにドンと置く。

「おお!! 旦那の酒、美味そうじゃねぇか」
「あったりまえよ。穴倉で仕込んだ特別製の麦酒だ。深みが違うぜ~?」
「私だってとっておきよ!! リザベルと賭けドラゴンチェスして手に入れた悪魔族のお酒なんだから!!」
「おおう、いいね。でもオレだっていい品だぜ。タヌスケの奴から買った炭酸ワイン!!」
「あたしは料理担当だから、全員の堪能しちゃいま~す」

 こうして、エルミナの飲み友達による飲み会が始まった。

 ◇◇◇◇◇◇

 まずは料理、そしてチビチビとお酒……いい感じにお腹が膨れ始めると、今度はお酒がメインになる。
 いい感じに酔いが回り始め、食べる手が止まり、口が回り始める。
 ブランはエルミナに聞く。

「おいエルミナよぉ、アシュトはいつ帰ってくんだよ」
「さぁねー。昨日だかおととい連絡来たけど、なんか『王様が幼女化して帰るなってダダこねてるから、もうちょい待って』だって」
「……なんだそれ? 幼女?」
「知らない。ふふふ、アシュトいないの寂しいけど悪いことばかりじゃないのよ!! こうやって遅くまで飲み会してても怒られないし!!」
「あっはっは。エルミナってば悪い子ねー」
「うっさいわね。ってか、あんたらだってそうじゃん」
「ワシは自制できるから問題ない。レンゲの嬢ちゃんも……問題は、おぬしら二人だろうが」

 と、串焼きを齧りながらアウグストが言う。
 視線は当然、エルミナとブランだ。

「オレはわきまえてるから問題ないぜ。エルミナみたいなウワバミと一緒にすんなよなー」
「あぁぁ!? アンタのが飲むじゃん!! ってか前はただ喰いだったし!!」
「そ、それはちゃんと今回の酒で支払っただろ!!」
「あっはっは!! これ、炭酸酒だっけー? 安物ワインに『発泡石』入れただけのお酒じゃん」
「何ィィィィィィィ!?」

 レンゲの指摘にブランが驚く。
 レンゲが瓶のラベルを見せると、小さく『発泡石』入りと書いてあった。
 発泡石。水に入れると泡が出る、村の浴場でも使われている石だ。

「そんな馬鹿な……ろ、六千ベルゼもしたんだぞ!?」
「安っ……高くないじゃん。値段相応じゃん。あんた、騙されてないわよ」
「うっせ!! 六千ベルゼはオレにとって高級品なんだよ!! ちくしょう、あのタヌキめ!!」
「おいおい、タヌスケは悪くないぞ。怒って詰め寄るような情けない真似をしたら、バルギルドとディアムドが怒るかもしれんぞ?」
「うぐぅ……」
「あはは。まぁまぁブラン、フルーツ食べなよ」
「レンゲぇ……オレの嫁になってくれぇ」
「ゴメンそれは無理」

 速攻でフラれ、ブランは自分で買った炭酸ワインを瓶ごと一気飲み。
 エルミナは、アウグストの麦酒をグラスに注ぎながら言う。

「はぁ~……そういや、最近アシュトと遊んでないわ」
「お、倦怠期ってやつ~?」
「ちがう違う。なーんか、刺激が欲しいのよ。挨拶して、仕事して、一緒にご飯食べて、寝て……の繰り返し。なーんか刺激が欲しい!!」
「ならさ、どこか行けば?」
「遊びにってこと?」
「そうそう。遠出しちゃえば? アウグストさん、クジャタはどこまで行けるの?」
「そうじゃな……街道整備は順調じゃ。ハイエルフの里、人狼族の里、マーメイド族の村までの道は開通して、今はダークエルフの里に向かって街道を作っている最中じゃ」
「おお、すごいじゃん……あ!! そうだ!!」

 と、エルミナは立ち上がり、一階へ駆け出した。
 数分で戻ってくると、手には一通の手紙を持っていた。
 大きな葉を加工して作ったお洒落な便箋だ。

「わぁ、可愛い便箋」
「でしょ? じゃなくて、手紙!! これ、私のお父さんからの手紙なのよ」
「ほう、父親か」

 手紙を広げると、レンゲに渡す。

「え、読んでいいの?」
「ええ」
「じゃあ遠慮なく……ふむふむ」
「なんて書いてあるんじゃ?」
「えーっと、ニノ・ユグドラシルの村に遊びに来いだって」
「にの、ユグドラシル?」
「おじいちゃんのいる村にあるユグドラシルから分かれた、二個目のユグドラシルの村。うちのお父さん、そのユグドラシルの苗を持って別の場所に向かったのよ。そのユグドラシルを植えたところにできた村だから、ニノ・ユグドラシルの村ってわけ」
「ほぉ……」

 アウグストが感心していた。
 すると、寝ていたブランが起きる。

「二の、ってことは三とか四もあるのか?」
「私が知る限り、ここは七番目のユグドラシルの村ね。オーベルシュタインのどこかにハイエルフの村あるんじゃない? 行ったことないけど」
「面白そうだな。ってことは、あの犬もいるのか?」
「フェンリルね。ユグドラシルの守り神だし、いるんじゃない?」

 エルミナはワインを飲み干した。
 アウグストも手紙を読み、テーブルに置いた。

「まぁ、遊びに来いというなら行けばいいじゃないのか? 村長も連れてな」
「そーね。お父さんの村、三千年くらい前に行ったきりだし」
「スケールでけぇな……」
「あたし、生まれてもないよー」
「ワシも。さすが村で最高齢じゃな」
「うっさいし!!」

 こうして、飲み会は夜まで続き……全員、酔い潰れた。
 そして翌朝。

「くかぁ~……」
「すぅぅ、すぅぅ……」
「ぐぉぉ~……」
「すかぁぁぁ~……」
「…………はぁ、やれやれ」

 エルミナを起こしに来た銀猫のシャーロットが、「またですか」と苦笑するのだった。
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