4 / 178
第一章
キリアス
しおりを挟む
一番目の姉リリーシャが召喚学園に行って一年が経過……その名声は、辺境であるリグヴェータ男爵家にも届いていた。
リリーシャが騎士を倒しただの、その美貌から第一王子の婚約者候補になっただの、聞こえてきたのはそんな話ばかり。そのたびに、食卓で両親が嬉しそうにしている。
そして、二番目の兄ダオームも学園へ。
さらに一年後。三番目の兄キリアスが学園へ入学する。
今夜は、キリアスの出発式を兼ねた食事会。
食事会と言っても、家族で食事をするだけだ。
食材は高級な物をふんだんに使い、王都から呼び寄せて雇ったコックが腕を振るう。
最近では、姉リリーシャが王都で活躍していることもあり、リグヴェータ家と懇意にしようと貴族たちが揃って近づいてきた。おかげで、リグヴェータ家の領地は潤っていた。
家族そろっての食事会には、アルフェンもいた。
もちろん家族だからいて当たり前なのだが……リリーシャが家を出て二年経っても、アルフェンの召喚獣モグはF級のままだ。
リリーシャはA級のトップクラス、ダオームはB級。キリアスも間もなくB級に上がる。
十代半ばでB級認定を受けるというのは、召喚士の歴史が始まってもあまりない。リグヴェータ家の存在は王都でも有名になり、爵位昇格の話も出たようで、父アルバンは毎日嬉しそうにしている。
食事会が終わり、デザートの時間。
ケーキと紅茶を楽しみながら、アルバンはキリアスに言う。
「キリアス。リリーシャを見習い頑張りなさい。まずはダオームの下で学び、己と召喚獣を鍛えるのだ」
「はい、父上」
「キリアス。お手紙ちょうだいね? 鍛えるのもいいけど、いい友人をたくさん作りなさい。学園生活を楽しむことも忘れずにね」
「はい、母上」
「…………」
アルフェンは、自分が両親に相手をされていないことになれていた。
露骨に無視されたり、いらない子扱いされるわけでもない。完全な空気だ。
アルフェンは紅茶を啜り、無言で立ち上がる。
「…………」
「…………」
父と母は、アルフェンが立ったことすら気付いていないようだが、キリアスは違う。
アルフェンをチラッと見て鼻を鳴らしたのである。
壁際に控えている使用人や執事たちも気付いた。
また、キリアスによる「アルフェン苛め」が始まる、と。
◇◇◇◇◇◇
自室に戻ったアルフェンはベッドにダイブし、召喚獣モグを呼び出した。
召喚獣を呼ぶのに、魔法陣だの呪文だの儀式だのは必要ない。召喚者の意思だけで自在に呼び出しができる。
アルフェンは、手のひらに乗るくらい小さなモグラを撫でながらつぶやいた。
「明日から、俺一人かぁ……」
『もぐ……』
「あはは。大丈夫だって。俺にはモグがいるからな」
そういって、モグを抱っこする。
モグはアルフェンの胸で甘えていた───すると、部屋のドアが乱暴にノックされる。
アルフェンは立ち上がり、ドアを開けた。
「はい……」
「よう、アルフェン」
「キリアス兄さん……」
キリアスは部屋にずかずかと上がり、乱暴にソファに腰かけた。
アルフェンはモグを抱いたまま立っている。
「よかったな、厄介な兄が消えて、明日からお前は独りぼっちだ」
「……はい」
「ふん! いいか、これだけは言っておく。リグヴェータ家の名前に泥を塗るな。お前は学園に入学しても『Fクラス』行きなのは違いない。だったら、この家の名前に傷を付けぬよう目立つな。どうせお前は卒業したらこの家を追い出される。ま、せいぜい……農民として生きていくんだな」
「……はい」
「言い返すこともできないのか……腰抜けめ」
言うだけ言って、フギルは部屋を出ようとした。
アルフェンは、キリアスの背中に向かって言う。
「キリアス兄さん。学園生活を楽しんでください。そして、どうかお気を付けて」
「ふん! お前に言われずとも楽しんでやるさ」
キリアスはドアを開け、乱暴に閉めて出ていった。
アルフェンはため息を吐き、ソファに座る。
これで、一年はキリアスに会うこともないだろう。
『もぐ~……!』
「ん? ははっ……兄さんに怒っているのか?」
『もぐ!』
モグが、アルフェンの胸でじたばた暴れる。
でも、アルフェンは怒っていない。悲しむことも、嘆くこともなかった。
それどころか……少しだけ、嬉しかった。
「モグ。キリアス兄さんだけなんだよ……俺を見てしっかり何かを伝えてくるの。面汚しとか恥晒しとか罵っても、俺をリグヴェータ家の一員だって認めてくれてるの」
父や母、兄や姉はアルフェンに無関心だった。
だが、キリアスだけはアルフェンに何かを言っていた。
それに、キリアスはアルフェンのことを貶す言葉こそ吐くが、アルフェンの身体を傷つけたことは一度もない。真に疎むのなら、きっと暴力も振うはずだ。
「さっきの言葉だってさ、召喚士じゃなくて農民として生きていけって激励してくれたのかも。家を出る前にしっかり勉強しとけって……はは、都合のいいように解釈しすぎかな」
だが、これだけは言える。
アルフェンはキリアスを嫌っていない。むしろ、兄として好きだった。
リリーシャが騎士を倒しただの、その美貌から第一王子の婚約者候補になっただの、聞こえてきたのはそんな話ばかり。そのたびに、食卓で両親が嬉しそうにしている。
そして、二番目の兄ダオームも学園へ。
さらに一年後。三番目の兄キリアスが学園へ入学する。
今夜は、キリアスの出発式を兼ねた食事会。
食事会と言っても、家族で食事をするだけだ。
食材は高級な物をふんだんに使い、王都から呼び寄せて雇ったコックが腕を振るう。
最近では、姉リリーシャが王都で活躍していることもあり、リグヴェータ家と懇意にしようと貴族たちが揃って近づいてきた。おかげで、リグヴェータ家の領地は潤っていた。
家族そろっての食事会には、アルフェンもいた。
もちろん家族だからいて当たり前なのだが……リリーシャが家を出て二年経っても、アルフェンの召喚獣モグはF級のままだ。
リリーシャはA級のトップクラス、ダオームはB級。キリアスも間もなくB級に上がる。
十代半ばでB級認定を受けるというのは、召喚士の歴史が始まってもあまりない。リグヴェータ家の存在は王都でも有名になり、爵位昇格の話も出たようで、父アルバンは毎日嬉しそうにしている。
食事会が終わり、デザートの時間。
ケーキと紅茶を楽しみながら、アルバンはキリアスに言う。
「キリアス。リリーシャを見習い頑張りなさい。まずはダオームの下で学び、己と召喚獣を鍛えるのだ」
「はい、父上」
「キリアス。お手紙ちょうだいね? 鍛えるのもいいけど、いい友人をたくさん作りなさい。学園生活を楽しむことも忘れずにね」
「はい、母上」
「…………」
アルフェンは、自分が両親に相手をされていないことになれていた。
露骨に無視されたり、いらない子扱いされるわけでもない。完全な空気だ。
アルフェンは紅茶を啜り、無言で立ち上がる。
「…………」
「…………」
父と母は、アルフェンが立ったことすら気付いていないようだが、キリアスは違う。
アルフェンをチラッと見て鼻を鳴らしたのである。
壁際に控えている使用人や執事たちも気付いた。
また、キリアスによる「アルフェン苛め」が始まる、と。
◇◇◇◇◇◇
自室に戻ったアルフェンはベッドにダイブし、召喚獣モグを呼び出した。
召喚獣を呼ぶのに、魔法陣だの呪文だの儀式だのは必要ない。召喚者の意思だけで自在に呼び出しができる。
アルフェンは、手のひらに乗るくらい小さなモグラを撫でながらつぶやいた。
「明日から、俺一人かぁ……」
『もぐ……』
「あはは。大丈夫だって。俺にはモグがいるからな」
そういって、モグを抱っこする。
モグはアルフェンの胸で甘えていた───すると、部屋のドアが乱暴にノックされる。
アルフェンは立ち上がり、ドアを開けた。
「はい……」
「よう、アルフェン」
「キリアス兄さん……」
キリアスは部屋にずかずかと上がり、乱暴にソファに腰かけた。
アルフェンはモグを抱いたまま立っている。
「よかったな、厄介な兄が消えて、明日からお前は独りぼっちだ」
「……はい」
「ふん! いいか、これだけは言っておく。リグヴェータ家の名前に泥を塗るな。お前は学園に入学しても『Fクラス』行きなのは違いない。だったら、この家の名前に傷を付けぬよう目立つな。どうせお前は卒業したらこの家を追い出される。ま、せいぜい……農民として生きていくんだな」
「……はい」
「言い返すこともできないのか……腰抜けめ」
言うだけ言って、フギルは部屋を出ようとした。
アルフェンは、キリアスの背中に向かって言う。
「キリアス兄さん。学園生活を楽しんでください。そして、どうかお気を付けて」
「ふん! お前に言われずとも楽しんでやるさ」
キリアスはドアを開け、乱暴に閉めて出ていった。
アルフェンはため息を吐き、ソファに座る。
これで、一年はキリアスに会うこともないだろう。
『もぐ~……!』
「ん? ははっ……兄さんに怒っているのか?」
『もぐ!』
モグが、アルフェンの胸でじたばた暴れる。
でも、アルフェンは怒っていない。悲しむことも、嘆くこともなかった。
それどころか……少しだけ、嬉しかった。
「モグ。キリアス兄さんだけなんだよ……俺を見てしっかり何かを伝えてくるの。面汚しとか恥晒しとか罵っても、俺をリグヴェータ家の一員だって認めてくれてるの」
父や母、兄や姉はアルフェンに無関心だった。
だが、キリアスだけはアルフェンに何かを言っていた。
それに、キリアスはアルフェンのことを貶す言葉こそ吐くが、アルフェンの身体を傷つけたことは一度もない。真に疎むのなら、きっと暴力も振うはずだ。
「さっきの言葉だってさ、召喚士じゃなくて農民として生きていけって激励してくれたのかも。家を出る前にしっかり勉強しとけって……はは、都合のいいように解釈しすぎかな」
だが、これだけは言える。
アルフェンはキリアスを嫌っていない。むしろ、兄として好きだった。
154
あなたにおすすめの小説
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~
黒片大豆
ファンタジー
「お前、追放な。田舎に帰ってゆっくりしてろ」
女神の信託を受け、勇者のひとりとして迎えられた『アイサック=ベルキッド』。
この日、勇者リーダーにより追放が宣告され、そのゴシップニュースは箝口令解除を待って、世界中にバラまかれることとなった。
『勇者道化師ベルキッド、追放される』
『サック』は田舎への帰り道、野党に襲われる少女『二オーレ』を助け、お礼に施しを受ける。しかしその家族には大きな秘密があり、サックの今後の運命を左右することとなった。二オーレとの出会いにより、新たに『女神への復讐』の選択肢が生まれたサックは、女神へのコンタクト方法を探る旅に目的を変更し、その道中、ゴシップ記事を飛ばした記者や、暗殺者の少女、元勇者の同僚との出会いを重ね、魔王との決戦時に女神が現れることを知る。そして一度は追放された身でありながら、彼は元仲間たちの元へむかう。本気で女神を一発ぶん殴る──ただそれだけのために。
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる