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第三章
《鉄の脚》
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真紅の鉄の脚。
舞台袖で、ウィルは舌打ちした。
「寄生型だと……くそ、とんだ掘り出し物だな。おい、どうするんだ?」
「……私たちは商人だ。客じゃないからオークションには参加できない。それ以前に、奴隷を落札できるような金は持っていない」
アルフェンは、奴隷という立場を忘れてアルノーへ聞く。
「き、寄生型って珍しいんでしょ!? 奴隷とか、そんなのまずいんじゃ」
言葉がうまく出てこない。
自分やウィルと同じ『寄生型召喚獣』に、親近感みたいな感情が合った。
アルノーは、悔し気に首を振る。
「確かに、寄生型召喚獣は希少な存在だ。召喚獣の歴史が始まって五人しか確認されていない……そう、希少過ぎて存在が殆ど知られていないんだ。あそこの司会者が言うように、世間一般では『珍しい』という認識でしかない」
「……くっ」
「だが、どんな事情にせよ、希少な寄生型召喚獣だ。腐った金持ちの慰み者になる前に、保護しなければ」
「……アルノーさん、一つお願いが」
「……?」
アルフェンは、オークション会場を眺めながら考えた。
現在、寄生型の少女を巡って賭けが始まっている。
『それでは、金貨五百枚からスタート!!』
『八百!!』『九百!!』『千だ!!』
掛け金は順当に上がって行く……少女を見ると、自分の賭けなのにまるで他人事のような表情をしていた。それがアルフェンには引っかかる。
そして、掛け金が二千まで上がり、落札者の手が上がらなくなったところで出た。
『五千!!』
『五千!! おーっと、五千が出ました!! さぁさぁ他にいませんかぁ!……はい決まり!! こちらのレアものはあなたの物だ!!』
『よっしゃぁぁ!! レアものゲットォォォ!!』
肥え太った、ミノタウロスよりも醜い男が落札した。
全身をキラキラしたアクセサリーで固め、ぶくぶくと醜く太った顔を歪ませ喜ぶ姿は醜悪の一言に尽きる。だが、金を持っているのは間違いない。
「アルノーさん……お願いします」
「……危険すぎるぞ」
「でも、やります」
「……わかった」
アルフェンの策に、アルノーは乗ることにした。
フェニアとサフィーは首を傾げ、ウィルは作戦を耳打ちされニヤッと笑う。
そして、オークションはアルフェンたちの順番へ。
ステージへ上がると、とんでもない数の視線が突き刺さった。
『それではエントリーナンバーテン!! フラガラッハ奴隷商館の登場だぁ!! 登録奴隷は三名、かわいい女の子二人、同じくかわいい男の子が一人だぁ!!』
「え、俺かわいい?」
「馬鹿、喋んな」
思わず漏れた言葉にウィルが反応する。
司会者が、アルフェンたちの『使い方』を説明する。愛玩だの夜伽だの、不愉快な説明にフェニアとサフィーも表情を殺すのに必死だった。
あらかた説明が終わると、アルノーが挙手する。
『ん~? どうしましたフラガラッハさん?』
司会者がマイクをアルノーへ。ちなみにフラガラッハさんというのは偽名だ。
アルノーは、クスクス笑いながら言う。
『いえ。実はサプライズを用意していたのですが……どうやら、新鮮味が薄れてしまったようです』
『サプライズとは?』
『ええ。ご覧頂きましょう』
アルノーは、チラリとアルフェンを見た。
会釈も、会話もない。視線だけで会話。
アルノーは、アルフェンを手錠と首輪を外す。
『ちょちょ、何を!?』
『ご安心を。さぁ、見せなさい!!』
「───へへ」
アルフェンは、右腕を変化させた。
ジャガーノート。異形の黒腕、黄金の目が会場内へ。
先ほどの真紅の脚の少女と同様の、召喚獣とヒトが合わさった姿だった。
『ご覧ください!! 彼は先程の少女と同じレアものです!! サプライズとして用意していたのですが……はは、先をこされたようで』
会場内がどよめいた。
今度は、どこか楽し気な驚き。
アルノーは司会者にマイクを返すと、司会者は咳払いをした。
『ごっほん! いやぁ~サプライズ! まさかこんな隠し玉を持っていたなんてねぇ~……あとでお話を聞く必要はあるけど、盛り上がったからヨシ! じゃあ入札を始めよう! 今回はちょっと特別。個々ではなく三人同時の入札だぁ! 金貨三千枚からスタート!!』
『一万!! 金貨一万じゃ!!』
始まりと同時に、鉄の脚を持つ少女を落札した男が手を挙げた。
『わっはっは!! レアもの、レアものじゃあ!! わしのコレクションにしてやるのじゃあ!! お前ら、悪いことは言わん。わしとやりあわん方が身のためじゃぞお!!』
ミノタウロスみたいな男は鼻息を荒くさせながら叫ぶ。
その叫びが効いたのか、他に入札はなかった。
こうして、アルフェンたちは買われた。アルフェンの狙い通り、寄生型の少女と同じ男がアルフェンたちを買った。
「……計画通り」
アルフェンはニヤリと笑った。
◇◇◇◇◇◇
控室に戻ったアルフェンは、大きく息を吐いた。
「あぁ~……何とかなったぁ」
「まさか、てめーの腕を見せるとはな。いい度胸してるぜ」
「あたし、めっちゃビビったわ……」
「私もです……」
アルフェンたちは、束の間の休息を得ていた。
現在、アルノーはオークション運営に呼び出しをされている。サプライズという形で誤魔化したが、競売中の奴隷の枷を外すなんてありえない行為だ。
すると、アルノーが戻ってきた。
「ふぅ……厳重注意で済んだよ。会場も盛り上がったし、次回からやらないようにとね。まぁ、次回はないし、このオークション会場もこの世から消えていると思うがね……」
アルノーは、ちょっぴり怖いオーラを纏っていた。
ウィルは気にせず言う。
「で、これからどうする?」
「オークションが終わったら、アルフェンくんたちを買った男がこの部屋に来る。契約し、魔人の村まで運搬し、そこで料金を支払って初めて契約成立だ」
「オレらが運ぶんだな?」
「ああ。そこは違いないはず」
ウィルとアルノーが喋っているのを聞いていると、フェニアががっくりうなだれた。
サフィーは、首を傾げる。
「どうしたのですか?」
「いやぁー……あんなミノタウロスみたいな男に買われるなんてねぇ……ぶっちゃけ気持ち悪すぎる」
「俺もそう思う。ってか、ヒトのことレアものとか……」
「確かに、ミノタウロスみたいな豚ですね。ふふ、焼いたら「ブヒィィィ!」って鳴きそうです」
「「…………」」
たまーに、サフィーは過激だった。
アルノーがピクリと何かに反応。アルフェンたちを急ぎ檻へ戻す。
すると、ドアがノックもせずに開かれ……件の「ミノタウロス男」と、従者らしき男が二人入ってきた。
アルノーとウィルは跪く。
「やぁやぁ! わしの可愛い奴隷ちゃんを見に来たぞ! さぁさぁ契約契約!」
「はい。では……こちらの書類にサインを」
ウィルが差し出した書類にサインする男。
名前は「ブーバッキー」というらしい。ウィルは笑いを必死にこらえた。
書類にサインを終えたブーバッキーは、檻に近づく。
「ぶふーぶふー……くぅぅ、かわいいなぁ。エメラルドグリーンの女の子、綺麗なシルバーブルーの女の子……ぶひひ、おっぱいおっきぃねぇ……それに、こっちの黒髪の子も可愛いのだぁ♪」
「「「……ッ」」」
豚とミノタウロスが醜い行為をして生まれた子。そんな言葉がぴったりの男だった。
暑くもないのに汗をかき、顔はアルフェンの二倍以上大きい。不摂生なのか顔じゅうにできものができており、顔が大きいのに目が異常に小さく、口と鼻がデカかった。
そして、体臭もキツイ。素肌の上に真っ赤なローブを着て……もう、気持ち悪すぎて容姿や服装を観察するのをアルフェンはやめた。
ちなみに、ブーバッキーは男もイケるらしい。
「ふほほふひぃ! あっちのレアモノも可愛かったのだぁ。ちょっと目が死んでたけど、お人形さんみたいに着飾って、部屋の隅っこに飾っておくのだぁ!」
「……!」
「じゃあ、『魔人村』まで運搬よろしく~♪ 報酬はそこで支払うのだ~」
魔人村。
『傲慢』の魔人ヒュブリスがいる村だ。
ようやくスタート地点に立った。
アルノーは、ブーバッキーの従者から村までの地図と入場許可証をもらう。ブーバッキーは満足したのか、上機嫌で部屋を出た。
「くっせぇ……しかも脂まみれ。野生のミノタウロスのがまだマシだな」
「同感だ」
アルノーは、書類をチェックしながらきっぱり言う。
「……よし。オークションは終わりだ。このまま魔人村まで出発しよう」
「あの、ここから近いんですよね?」
「ああ。馬車で半日ほどだ。夜には到着する」
「……あの、寄生型の子もいますよね」
「恐らくは……アルフェンくん、まずは魔人討伐が先だ。彼女は後でゆっくり捜索しよう」
「わかりました……」
「きみたち未成年を購入した時点で、ブーバッキーは犯罪を犯している。すべてが終わったら奴を逮捕し、奴隷保護の名目で寄生型の少女を保護しよう。その後の処遇だが……」
「はい。あのオークションの司会者が言ってたことが真実なら、あの子の家族はもう……あの子が望めばですけど、S級に勧誘しようと思います」
「……それがいいだろう」
「フェニア、サフィー、ウィル。お前たちもそれでいいか?」
「もちろん!」
「私もかまいません!」
「……構わねえけどよ。あの目、死んでたぞ……戦力になるとは思えねぇぞ」
「戦力とかは今はいいよ。それに、俺とお前がいれば問題ないだろ」
「…………そうだな」
「さ、話は終わりだ。アルフェンくんたち、また奴隷のふりを頼むよ」
アルフェンたちは頷き、再び奴隷のふりをしてオークション会場を出た。
◇◇◇◇◇◇
外に出て馬車に向かうと……いた。
「おお、あなたは確か……フラガラッハ奴隷商館さんですな?」
「あなたは、ヤザワ奴隷商店の……」
アルフェンたちの馬車の近くにいたのは、寄生型の少女を連れた奴隷商人だった。
奇しくも、馬車は隣同士で駐車していたようだ。
ヤザワ奴隷商店の店主ヤザワは、アルフェンを見てにんまり笑う。
「申し訳ございませんねぇ。知らなかったとはいえ、あなたの隠し玉である奴隷もレアモノだったとは。いやははは、話題性では私の勝ちですかな?」
「そうですね。ところで、その少女ですが……」
頭にくる物言いだったが、大人なアルノーは意に介していない。それどろころか、むこうが話しかけてきたのをいいことに、情報を引き出そうとする。
「ああ、拾ったのですよ。先ほど話した生い立ちですが、事実です。ミノタウロスのスタンピードで村が全滅しましてね……たまたま、スタンピード後の村に立ち寄ったら、この娘が両足を失った状態で死にかけてまして。いやはや、とんでもない光景でした。この娘の召喚獣が溶けるように消えた途端、この娘の両足が生えてきたんですわ……」
「……なるほど」
間違いなく、寄生型召喚獣だ。
だが……アルノーが少女を見ても、ピクリとも反応しない。
何か言おうとするアルフェンをウィルが押さえていた。
「一応、アネルという名前はあるようですがね。足が治って起きたら一言も喋らないし……なんというか、両親が死んじまって心が死んでるようですわ。まぁ、売れたし後の世話はあちらさんにお任せですよ。はっはっは!」
「……ははは」
アルノーは、笑顔と笑い声を出すのに苦労した。
ヤザワは、アネルを馬車に乗せ御者席へ。
「では! お互い、いい商売ができたようで何よりですな」
「ええ……では」
ヤザワの馬車は走り出した。
残されたアルフェンたち。そして、ウィルが言う。
「なるほどな……」
「な、なによあんた。どうしたのよ」
フェニアが言うと、ウィルはアルフェンを見て言った。
「オレやお前と違って、あのガキは望んで寄生型召喚獣を得たわけじゃなさそうだ。オレやお前みたいに戦う意志がない」
「……それは俺も思った」
「どうすんだ? S級に引き込んだところで、戦うなんて無理に決まってる。お前の苦労は水の泡だが、ぶっちゃけ関わらないほうがいいと思うぞ」
「お待ちください!! それでは、あのお方はどうなるのですか……?」
「さぁな。心が死んじまってるし、あの豚の慰み者でも十分に生きていけるだろ。時間をかければ心の傷も癒えるかもな。それに、アルノーが豚を逮捕した後は保護されるし、アースガルズ王国の施設行きってこともある」
「ちょ、それじゃ……でも、なんかモヤるわね……アルフェン、どうするの?」
「…………」
すると、アルノーが手をパンと叩く。
「話はそこまでだ。まずは魔人が優先だ。さぁ、出発するぞ」
「…………」
アルフェンは、答えを出せないまま……馬車に乗り込み出発した。
舞台袖で、ウィルは舌打ちした。
「寄生型だと……くそ、とんだ掘り出し物だな。おい、どうするんだ?」
「……私たちは商人だ。客じゃないからオークションには参加できない。それ以前に、奴隷を落札できるような金は持っていない」
アルフェンは、奴隷という立場を忘れてアルノーへ聞く。
「き、寄生型って珍しいんでしょ!? 奴隷とか、そんなのまずいんじゃ」
言葉がうまく出てこない。
自分やウィルと同じ『寄生型召喚獣』に、親近感みたいな感情が合った。
アルノーは、悔し気に首を振る。
「確かに、寄生型召喚獣は希少な存在だ。召喚獣の歴史が始まって五人しか確認されていない……そう、希少過ぎて存在が殆ど知られていないんだ。あそこの司会者が言うように、世間一般では『珍しい』という認識でしかない」
「……くっ」
「だが、どんな事情にせよ、希少な寄生型召喚獣だ。腐った金持ちの慰み者になる前に、保護しなければ」
「……アルノーさん、一つお願いが」
「……?」
アルフェンは、オークション会場を眺めながら考えた。
現在、寄生型の少女を巡って賭けが始まっている。
『それでは、金貨五百枚からスタート!!』
『八百!!』『九百!!』『千だ!!』
掛け金は順当に上がって行く……少女を見ると、自分の賭けなのにまるで他人事のような表情をしていた。それがアルフェンには引っかかる。
そして、掛け金が二千まで上がり、落札者の手が上がらなくなったところで出た。
『五千!!』
『五千!! おーっと、五千が出ました!! さぁさぁ他にいませんかぁ!……はい決まり!! こちらのレアものはあなたの物だ!!』
『よっしゃぁぁ!! レアものゲットォォォ!!』
肥え太った、ミノタウロスよりも醜い男が落札した。
全身をキラキラしたアクセサリーで固め、ぶくぶくと醜く太った顔を歪ませ喜ぶ姿は醜悪の一言に尽きる。だが、金を持っているのは間違いない。
「アルノーさん……お願いします」
「……危険すぎるぞ」
「でも、やります」
「……わかった」
アルフェンの策に、アルノーは乗ることにした。
フェニアとサフィーは首を傾げ、ウィルは作戦を耳打ちされニヤッと笑う。
そして、オークションはアルフェンたちの順番へ。
ステージへ上がると、とんでもない数の視線が突き刺さった。
『それではエントリーナンバーテン!! フラガラッハ奴隷商館の登場だぁ!! 登録奴隷は三名、かわいい女の子二人、同じくかわいい男の子が一人だぁ!!』
「え、俺かわいい?」
「馬鹿、喋んな」
思わず漏れた言葉にウィルが反応する。
司会者が、アルフェンたちの『使い方』を説明する。愛玩だの夜伽だの、不愉快な説明にフェニアとサフィーも表情を殺すのに必死だった。
あらかた説明が終わると、アルノーが挙手する。
『ん~? どうしましたフラガラッハさん?』
司会者がマイクをアルノーへ。ちなみにフラガラッハさんというのは偽名だ。
アルノーは、クスクス笑いながら言う。
『いえ。実はサプライズを用意していたのですが……どうやら、新鮮味が薄れてしまったようです』
『サプライズとは?』
『ええ。ご覧頂きましょう』
アルノーは、チラリとアルフェンを見た。
会釈も、会話もない。視線だけで会話。
アルノーは、アルフェンを手錠と首輪を外す。
『ちょちょ、何を!?』
『ご安心を。さぁ、見せなさい!!』
「───へへ」
アルフェンは、右腕を変化させた。
ジャガーノート。異形の黒腕、黄金の目が会場内へ。
先ほどの真紅の脚の少女と同様の、召喚獣とヒトが合わさった姿だった。
『ご覧ください!! 彼は先程の少女と同じレアものです!! サプライズとして用意していたのですが……はは、先をこされたようで』
会場内がどよめいた。
今度は、どこか楽し気な驚き。
アルノーは司会者にマイクを返すと、司会者は咳払いをした。
『ごっほん! いやぁ~サプライズ! まさかこんな隠し玉を持っていたなんてねぇ~……あとでお話を聞く必要はあるけど、盛り上がったからヨシ! じゃあ入札を始めよう! 今回はちょっと特別。個々ではなく三人同時の入札だぁ! 金貨三千枚からスタート!!』
『一万!! 金貨一万じゃ!!』
始まりと同時に、鉄の脚を持つ少女を落札した男が手を挙げた。
『わっはっは!! レアもの、レアものじゃあ!! わしのコレクションにしてやるのじゃあ!! お前ら、悪いことは言わん。わしとやりあわん方が身のためじゃぞお!!』
ミノタウロスみたいな男は鼻息を荒くさせながら叫ぶ。
その叫びが効いたのか、他に入札はなかった。
こうして、アルフェンたちは買われた。アルフェンの狙い通り、寄生型の少女と同じ男がアルフェンたちを買った。
「……計画通り」
アルフェンはニヤリと笑った。
◇◇◇◇◇◇
控室に戻ったアルフェンは、大きく息を吐いた。
「あぁ~……何とかなったぁ」
「まさか、てめーの腕を見せるとはな。いい度胸してるぜ」
「あたし、めっちゃビビったわ……」
「私もです……」
アルフェンたちは、束の間の休息を得ていた。
現在、アルノーはオークション運営に呼び出しをされている。サプライズという形で誤魔化したが、競売中の奴隷の枷を外すなんてありえない行為だ。
すると、アルノーが戻ってきた。
「ふぅ……厳重注意で済んだよ。会場も盛り上がったし、次回からやらないようにとね。まぁ、次回はないし、このオークション会場もこの世から消えていると思うがね……」
アルノーは、ちょっぴり怖いオーラを纏っていた。
ウィルは気にせず言う。
「で、これからどうする?」
「オークションが終わったら、アルフェンくんたちを買った男がこの部屋に来る。契約し、魔人の村まで運搬し、そこで料金を支払って初めて契約成立だ」
「オレらが運ぶんだな?」
「ああ。そこは違いないはず」
ウィルとアルノーが喋っているのを聞いていると、フェニアががっくりうなだれた。
サフィーは、首を傾げる。
「どうしたのですか?」
「いやぁー……あんなミノタウロスみたいな男に買われるなんてねぇ……ぶっちゃけ気持ち悪すぎる」
「俺もそう思う。ってか、ヒトのことレアものとか……」
「確かに、ミノタウロスみたいな豚ですね。ふふ、焼いたら「ブヒィィィ!」って鳴きそうです」
「「…………」」
たまーに、サフィーは過激だった。
アルノーがピクリと何かに反応。アルフェンたちを急ぎ檻へ戻す。
すると、ドアがノックもせずに開かれ……件の「ミノタウロス男」と、従者らしき男が二人入ってきた。
アルノーとウィルは跪く。
「やぁやぁ! わしの可愛い奴隷ちゃんを見に来たぞ! さぁさぁ契約契約!」
「はい。では……こちらの書類にサインを」
ウィルが差し出した書類にサインする男。
名前は「ブーバッキー」というらしい。ウィルは笑いを必死にこらえた。
書類にサインを終えたブーバッキーは、檻に近づく。
「ぶふーぶふー……くぅぅ、かわいいなぁ。エメラルドグリーンの女の子、綺麗なシルバーブルーの女の子……ぶひひ、おっぱいおっきぃねぇ……それに、こっちの黒髪の子も可愛いのだぁ♪」
「「「……ッ」」」
豚とミノタウロスが醜い行為をして生まれた子。そんな言葉がぴったりの男だった。
暑くもないのに汗をかき、顔はアルフェンの二倍以上大きい。不摂生なのか顔じゅうにできものができており、顔が大きいのに目が異常に小さく、口と鼻がデカかった。
そして、体臭もキツイ。素肌の上に真っ赤なローブを着て……もう、気持ち悪すぎて容姿や服装を観察するのをアルフェンはやめた。
ちなみに、ブーバッキーは男もイケるらしい。
「ふほほふひぃ! あっちのレアモノも可愛かったのだぁ。ちょっと目が死んでたけど、お人形さんみたいに着飾って、部屋の隅っこに飾っておくのだぁ!」
「……!」
「じゃあ、『魔人村』まで運搬よろしく~♪ 報酬はそこで支払うのだ~」
魔人村。
『傲慢』の魔人ヒュブリスがいる村だ。
ようやくスタート地点に立った。
アルノーは、ブーバッキーの従者から村までの地図と入場許可証をもらう。ブーバッキーは満足したのか、上機嫌で部屋を出た。
「くっせぇ……しかも脂まみれ。野生のミノタウロスのがまだマシだな」
「同感だ」
アルノーは、書類をチェックしながらきっぱり言う。
「……よし。オークションは終わりだ。このまま魔人村まで出発しよう」
「あの、ここから近いんですよね?」
「ああ。馬車で半日ほどだ。夜には到着する」
「……あの、寄生型の子もいますよね」
「恐らくは……アルフェンくん、まずは魔人討伐が先だ。彼女は後でゆっくり捜索しよう」
「わかりました……」
「きみたち未成年を購入した時点で、ブーバッキーは犯罪を犯している。すべてが終わったら奴を逮捕し、奴隷保護の名目で寄生型の少女を保護しよう。その後の処遇だが……」
「はい。あのオークションの司会者が言ってたことが真実なら、あの子の家族はもう……あの子が望めばですけど、S級に勧誘しようと思います」
「……それがいいだろう」
「フェニア、サフィー、ウィル。お前たちもそれでいいか?」
「もちろん!」
「私もかまいません!」
「……構わねえけどよ。あの目、死んでたぞ……戦力になるとは思えねぇぞ」
「戦力とかは今はいいよ。それに、俺とお前がいれば問題ないだろ」
「…………そうだな」
「さ、話は終わりだ。アルフェンくんたち、また奴隷のふりを頼むよ」
アルフェンたちは頷き、再び奴隷のふりをしてオークション会場を出た。
◇◇◇◇◇◇
外に出て馬車に向かうと……いた。
「おお、あなたは確か……フラガラッハ奴隷商館さんですな?」
「あなたは、ヤザワ奴隷商店の……」
アルフェンたちの馬車の近くにいたのは、寄生型の少女を連れた奴隷商人だった。
奇しくも、馬車は隣同士で駐車していたようだ。
ヤザワ奴隷商店の店主ヤザワは、アルフェンを見てにんまり笑う。
「申し訳ございませんねぇ。知らなかったとはいえ、あなたの隠し玉である奴隷もレアモノだったとは。いやははは、話題性では私の勝ちですかな?」
「そうですね。ところで、その少女ですが……」
頭にくる物言いだったが、大人なアルノーは意に介していない。それどろころか、むこうが話しかけてきたのをいいことに、情報を引き出そうとする。
「ああ、拾ったのですよ。先ほど話した生い立ちですが、事実です。ミノタウロスのスタンピードで村が全滅しましてね……たまたま、スタンピード後の村に立ち寄ったら、この娘が両足を失った状態で死にかけてまして。いやはや、とんでもない光景でした。この娘の召喚獣が溶けるように消えた途端、この娘の両足が生えてきたんですわ……」
「……なるほど」
間違いなく、寄生型召喚獣だ。
だが……アルノーが少女を見ても、ピクリとも反応しない。
何か言おうとするアルフェンをウィルが押さえていた。
「一応、アネルという名前はあるようですがね。足が治って起きたら一言も喋らないし……なんというか、両親が死んじまって心が死んでるようですわ。まぁ、売れたし後の世話はあちらさんにお任せですよ。はっはっは!」
「……ははは」
アルノーは、笑顔と笑い声を出すのに苦労した。
ヤザワは、アネルを馬車に乗せ御者席へ。
「では! お互い、いい商売ができたようで何よりですな」
「ええ……では」
ヤザワの馬車は走り出した。
残されたアルフェンたち。そして、ウィルが言う。
「なるほどな……」
「な、なによあんた。どうしたのよ」
フェニアが言うと、ウィルはアルフェンを見て言った。
「オレやお前と違って、あのガキは望んで寄生型召喚獣を得たわけじゃなさそうだ。オレやお前みたいに戦う意志がない」
「……それは俺も思った」
「どうすんだ? S級に引き込んだところで、戦うなんて無理に決まってる。お前の苦労は水の泡だが、ぶっちゃけ関わらないほうがいいと思うぞ」
「お待ちください!! それでは、あのお方はどうなるのですか……?」
「さぁな。心が死んじまってるし、あの豚の慰み者でも十分に生きていけるだろ。時間をかければ心の傷も癒えるかもな。それに、アルノーが豚を逮捕した後は保護されるし、アースガルズ王国の施設行きってこともある」
「ちょ、それじゃ……でも、なんかモヤるわね……アルフェン、どうするの?」
「…………」
すると、アルノーが手をパンと叩く。
「話はそこまでだ。まずは魔人が優先だ。さぁ、出発するぞ」
「…………」
アルフェンは、答えを出せないまま……馬車に乗り込み出発した。
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左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
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※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
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