召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう

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第六章

野営

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 キールアンとの戦いを終え、アルフェンたちは再び出発した。
 小屋から数時間進んだところに廃村があり、本日はここで野営を行う。そして翌日、『運命』ナクシャトラが予言した三つの村の一つへ到着予定だ。
 リリーシャは、ナクシャトラの予言が書かれた羊皮紙を見る。

「『運命』の予言によると、最初の村が襲われる確率は六割。三日後に次の村が襲われる確率は七割、さらに二日後に最後の村が襲われる確率が九割か」
「じゃあ、最初に三つ目の村に行けばいいんじゃないかい?」

 リリーシャの隣に座るサンバルトの指摘だ。
 だが、リリーシャは首を振る。

「最初に三つ目の村が襲われる可能性は一割です。確率的に、この順番で進むのが効率的です」

 襲われる確率は、日数も関係しているようだ。
 オズワルドは、ワインを飲みながら言う。

「まぁ、戦闘に関してはS級もいる。癪な話だが、奴らは強い……魔人討伐は任せ、リリーシャくんは指揮に専念したまえ」
「はい。オズワルド先生」
「殿下。リリーシャくんの守護はお任せしますよ」
「もちろんです。彼女は私が守ります」

 サンバルトは、リリーシャの肩を抱こうとしたが、リリーシャはやんわりと拒否。
 すると、同乗していたウルブスが言う。

「ま、なるようになる、かな……」

 ウルブスは大きな欠伸をして、背もたれに寄り掛かった。

 ◇◇◇◇◇◇

 S級馬車……いや、マルコシアスが引いているので狼車だ。
 アルフェンは、荷車の屋根に立っていた。

「───うーん」

 『第三の瞳マクスウェル』の力を使い、周囲を見ていたのだ。
 あまり使いすぎると激しい頭痛に襲われる。今のアルフェンが全開で使えるのは、一日約三分。
 だが、力を調整すれば。

「小、開眼……」

 ドアを開けて部屋に入るのではなく、ドアを開けて入口から室内を眺めるイメージ。
 部屋に入ると力が奪われる。なら、外から室内を見れば?

「っぐ、ぐぐぐ……ッ」

 チカチカと、セピア色の世界と色付きの世界に切り替わる。
 入口、出口、入口……出入りを繰り返すような感覚だ。
 そして、噛みあった───色付きの世界にいながら、この世界の『経絡糸』や『経絡核』の光が輝いてみえるのを。視力が向上し、数キロ先まで見えた。

「───っくぁ」

 だが、すぐに解除された。
 あまりにも、調整が難しい。頭痛こそしないが、別の意味で頭が痛くなる。
 ずっと踏ん張って下半身に力を入れているような感覚だ。

「難い……まぁ、頑張れば何とか」

 そして、右腕を顕現させる。

「『獣の一撃ジャガーブレイク』に『停止世界パンドラ』……」

 アルフェンが名を付けた技の一つ。
 ダモクレスやヴィーナスとの訓練で、いくつか新しい技も習得し名前を付けた。
 アルフェンは、もっともっと強くならなければならない。
 そして、振り返り、A級召喚士の乗る馬車を見た。

「…………」

 そして、すぐに顔を前に戻す。
 何かを企んでいるかもしれないが、どうでもいい。
 魔人討伐。今はそれだけでいい。

「モグ……俺、頑張ってるよ」

 右腕をそっと抱き、アルフェンは空を見上げた。

 ◇◇◇◇◇◇

 廃村に到着した。
 かなり昔、頻繁に魔獣が現れるという理由で、村人たちが村を放棄したのだ。
 家屋はそうとう痛み、畑などは雑草だらけで名残がない。
 川だけは綺麗に澄んでおり、調べたところ飲める水だった。
 リリーシャは、全員を集め指示を出す。

「本日はここで野営を行う。S級三名は周辺の警戒と見張り、それ以外は野営の準備を。ダオーム、野営に関しての指示は一任する」
「はい!!」
「夜間の見張りはS級が交代で行え。メル殿下、ローテーションはお任せします」
「……そこにA級召喚士は入れていいのかしら?」
「申し訳ございませんが、S級だけでお願いいたします。我々は本国に送る報告書の作成がありますので」
「野営初日に報告書もないと思うけどね……」

 メルはボソッと呟いたが、リリーシャには届かなかった。
 指示が終わり、それぞれ動き始める。
 オズワルドはサンバルトと一緒に、一番痛みの少ない家屋にキリアスと入っていく。どうやらそこを拠点とするようだ。キリアスに掃除させるのだろう。
 ダオームは怒鳴るようにS級たちに指示を出す。

「お前とお前は薪を準備しろ。その辺の古い家屋を壊せば薪は集まるだろう。お前は水を汲んでこい!!」
「「「…………」」」

 お前とお前はフェニアとサフィー。水をくむのはアネルだ。
 ダオームは、人の名前を言えないらしい。フェニアのことは小さい頃から知っているはずなのに。
 アルフェン、ウィル、メルの三人は、村の周囲を回ることにした。

「ねぇアルフェン。領地の件、本気で検討しておくわ。リグヴェータ家はあなたにとって害悪でしかないわね」
「お、おう……ありがとう」
「……フン」

 メルは静かにキレていた。
 とりあえず、今ここにいるメルはS級召喚士であって王族ではないらしい。このような警戒などやらせる必要はないし、サンバルトと同じく『今日の反省会』に混ざることだってできる。
 だが、メルは気にしていない。

「まぁいいわ。さすがに、魔人討伐の任務で露骨な妨害はしてこないでしょ。わたしたちをコキ使って鬱憤晴らすくらいでしょうね」
「オレはキレるぞ」
「俺、どうでもいい。そんなことより、魔人だけど……本当に見つかると思うか?」
「『運命』の予言はほぼ的中するわ。二人とも、気を引き締めなさいね」
「フン……」
「わかった」
「おい、お前」
「ん……なんだよ」

 ウィルがアルフェンの右腕を軽く小突いた。

「魔人との闘いになっても、すぐに『完全侵食』を使うな。その凶悪な力、なんの制約もなしに使い続けられるとは思わねぇ……それに、テメーがさっさと倒しちまうと、オレの腕試しができねぇんだよ」
「は?……いや、制約もなにもないけど。それに、モグがそんなこと」
「可能性の話だ。いいか、多用するな。魔人が現れたらオレが相手する」
「……まぁ、いいけど。ただし、危険な相手だったらすぐに介入するからな」
「フン、好きにしろ」

 ウィルは左手の指をアルフェンに突きつけた。

「いい機会だ。オレも手に入れるぜ……『完全侵食』をな」

 ◇◇◇◇◇◇

 野営は、S級とA級が完全に分担し作業を行った。
 雑用はS級ばかり。まさか夜間の警備もS級に全て押し付けられるとは思っていなかったが、アルフェンは特に文句を言わなかった。
 なぜなら、この程度予想できたから。さらに、リリーシャたちが何を言おうが、欠片も興味がなかったからだ。
 アルフェンの中で、リリーシャたちとは決着がついている。実害が出ない限り徹底的に無視することに決めた。この程度なら問題なかった。
 夕食も終わり、A級召喚士のたちは馬車やテントの中へ戻った。
 アルフェンたちは集まり、夜間警備の話をする。

「じゃ、俺、ウィルは一人で。メルとアネル、サフィーとフェニアのペアで。出発は十二時間後だから、三時間交代でな」

 アルフェンがそう言うと、全員疑問を持たなかった。
 せめて女子は夜に寝かせてあげたいという理由で、最初の夜間警備はサフィーとフェニア、次がメルとアネル、その次がウィル、最後がアルフェンとなった。
 
「じゃ、俺は寝る。時間になったら起こしてくれよー」

 そう言って、アルフェンは一人用テントへ入った。
 一人用テントは馬車の脇に二つあり、それぞれウィルとアルフェン用だ。
 ウィルも、軽く手を振ってテントへ入った。
 
「アネル。あちらの空き家でお湯を沸かしておきましたので、着替えと身体を洗いましょうか」
「え、いつの間に」
「ふふ。王女のたしなみですわ」
「へぇ~、王女ってすごい!」
「フェニア、サフィー。交代前に再度お湯を沸かしておきますので、あなたたちもどうぞ」
「わぁ、ありがとうメル」
「ありがとうございます。メル」

 最近、サフィーも『王女殿下』から『メル』になり、敬語が取れてきた。
 メルたちは着替えを持って空き家へ。

「じゃ、あたしたちも警備頑張ろ!」
「はい! では……おいで、マルコシアス」
「きて、グリフォン!」

 青白の体毛をなびかせたマルコシアスと、エメラルドグリーンの風を纏うグリフォンが現れる。
 二人は己の召喚獣を撫で、ついでに互いの召喚獣を精いっぱいモフモフした。

「ん~、マルコシアスってなんかひんやりして気持ちいい~」
「フェニアのグリフォン、すっごく綺麗です……それに、サラサラしていい手触り。まるで高級な毛皮みたい……ふわぁ」

 一通りモフり、離れた。

「じゃ、警備開始! グリフォン、空からいくよ」
「マルコシアス、村を回りましょう」

 二人はそれぞれの召喚獣に乗り、村の警備を始めた。

 ◇◇◇◇◇◇

 数時間後。

「おい」
「ん……」
「起きろ、脳天ブチ抜くぞ」
「ん~……ああ、ウィル」
「お前の番だ。朝までしっかり見張れよ」
「おぉ……ふぁぁぁ」

 見張りは、アルフェンの番となった。
 たっぷり九時間の睡眠を取ったアルフェンは、テントから出て軽く体をほぐす。
 夕食の時間も早かったので、九時間経ってもまだ薄暗い。だが、あと三時間もすれば日は登り、朝になるだろう。
 
「───よし!!」

 アルフェンは屈伸、膝の曲げ伸ばし、腕をぐるぐる回し、首をコキっと鳴らす。
 桶に入っていた水で顔を洗い、完全に目を覚ました。

「軽く村の外走るかな」

 運動がてら、村の周りを走ることにした。
 ボロボロになっている村の外壁をジャンプで飛び超え、けっこうな速度で走り出す。
 せっかくなので、全身を使った運動をすることにした。

「奪え、『ジャガーノート』!!」

 右腕を顕現させ、思い切り伸ばす。
 狙いは、数十メートル先にある木の枝。

「『獣の掌握ジャガースナッチ』!!」

 枝を掴み、腕を縮める。するとアルフェンの身体が引っ張られ高速で移動する。
 伸び縮みする腕を使った移動法だ。
 少し道を逸れ、村近くの森へ。木々を縫うように走り、たまたまあった大岩を殴り破壊した。
 破片が散らばる。

「『停止世界パンドラ』!!」

 空間を『硬化』させると、飛び散った破片がピタッと止まった。
 停止の力───この力だけでも強力だが、倒せない敵がいる。
 魔人と戦うために必要なのは、『破壊』の力だ。

「───ん」

 ふと、右目が疼いた。
 アルフェンの右目『第三の瞳マクスウェル』だ。アルフェンは、疼きを感じた方を見る。
 すると、身長二メートルほどの全身毛むくじゃらの魔獣、『コボルト』が五匹いた。
 二足歩行の犬と言えばいいのか。だが、可愛らしさなどない。ヒトの肉を食うこともある雑食の魔獣だ。恐ろしいことに、人間の女を攫い子種を植え付けることもある。
 見つけたら即討伐の魔獣だ。

『ぐる? グルルろぉぉ!!』
『ぎゃっぎゃ!!』
『ぎゃあるるる!!』
「知性の欠片もなさそうだな……まぁいい」

 アルフェンは右腕を巨大化させ跳躍。
 そのまま思い切り地面を削るように右腕を薙いだ。

「『獣の大地爆砕《インパルス・ディザイア》』!!」

 抉られた地面が巨大な破片となりコボルトへ向かう。
 地面は全て『硬化』され、コボルトに直撃した瞬間にコボルトは肉片となる。
 アルフェンが名前を付けた技で、破壊の力だった。

「よし終わり!! 警備再開!!」

 アルフェンは再び走り出し、村の外周を回る。
 
 ◇◇◇◇◇◇

 外周を回り終え、村に戻ろうとした時だった。

「ん? ……あれは」

 気配を断ち、誰かが村の近くにある森へ入っていった……それは、オズワルドだった。
 ああいう奴はロクなことをしない。アルフェンはそう考え、後を付ける。
 すると、オズワルドはすぐに見つかった。

「……これを頼むぞ」

 手紙だろうか。
 召喚獣らしき小さな鳥の脚に手紙を括り付けていた。
 恐らく、報告書だろうか。

「……つまんねーの」

 ぼそりと呟き、戻ろうとした時だった。

「───おお、まさか、ここで!?」
「……ん?」

 オズワルドの手に、高級そうな便箋が握られていた。
 さっきまで持っていなかったはず。いつの間に? ……と、アルフェンは思う。
 オズワルドは手紙を開くと、ゆっくり口の端を吊り上げた。

「ククク……ククハハハッ、くははははっ!! そうかそうか……フフフ、運が向いてきたということか。そうか……これは使える」
「……?」

 オズワルドは、不気味な笑みを浮かべたまま、しばらく笑っていた。
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