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第六章
野営
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キールアンとの戦いを終え、アルフェンたちは再び出発した。
小屋から数時間進んだところに廃村があり、本日はここで野営を行う。そして翌日、『運命』ナクシャトラが予言した三つの村の一つへ到着予定だ。
リリーシャは、ナクシャトラの予言が書かれた羊皮紙を見る。
「『運命』の予言によると、最初の村が襲われる確率は六割。三日後に次の村が襲われる確率は七割、さらに二日後に最後の村が襲われる確率が九割か」
「じゃあ、最初に三つ目の村に行けばいいんじゃないかい?」
リリーシャの隣に座るサンバルトの指摘だ。
だが、リリーシャは首を振る。
「最初に三つ目の村が襲われる可能性は一割です。確率的に、この順番で進むのが効率的です」
襲われる確率は、日数も関係しているようだ。
オズワルドは、ワインを飲みながら言う。
「まぁ、戦闘に関してはS級もいる。癪な話だが、奴らは強い……魔人討伐は任せ、リリーシャくんは指揮に専念したまえ」
「はい。オズワルド先生」
「殿下。リリーシャくんの守護はお任せしますよ」
「もちろんです。彼女は私が守ります」
サンバルトは、リリーシャの肩を抱こうとしたが、リリーシャはやんわりと拒否。
すると、同乗していたウルブスが言う。
「ま、なるようになる、かな……」
ウルブスは大きな欠伸をして、背もたれに寄り掛かった。
◇◇◇◇◇◇
S級馬車……いや、マルコシアスが引いているので狼車だ。
アルフェンは、荷車の屋根に立っていた。
「───うーん」
『第三の瞳』の力を使い、周囲を見ていたのだ。
あまり使いすぎると激しい頭痛に襲われる。今のアルフェンが全開で使えるのは、一日約三分。
だが、力を調整すれば。
「小、開眼……」
ドアを開けて部屋に入るのではなく、ドアを開けて入口から室内を眺めるイメージ。
部屋に入ると力が奪われる。なら、外から室内を見れば?
「っぐ、ぐぐぐ……ッ」
チカチカと、セピア色の世界と色付きの世界に切り替わる。
入口、出口、入口……出入りを繰り返すような感覚だ。
そして、噛みあった───色付きの世界にいながら、この世界の『経絡糸』や『経絡核』の光が輝いてみえるのを。視力が向上し、数キロ先まで見えた。
「───っくぁ」
だが、すぐに解除された。
あまりにも、調整が難しい。頭痛こそしないが、別の意味で頭が痛くなる。
ずっと踏ん張って下半身に力を入れているような感覚だ。
「難い……まぁ、頑張れば何とか」
そして、右腕を顕現させる。
「『獣の一撃』に『停止世界』……」
アルフェンが名を付けた技の一つ。
ダモクレスやヴィーナスとの訓練で、いくつか新しい技も習得し名前を付けた。
アルフェンは、もっともっと強くならなければならない。
そして、振り返り、A級召喚士の乗る馬車を見た。
「…………」
そして、すぐに顔を前に戻す。
何かを企んでいるかもしれないが、どうでもいい。
魔人討伐。今はそれだけでいい。
「モグ……俺、頑張ってるよ」
右腕をそっと抱き、アルフェンは空を見上げた。
◇◇◇◇◇◇
廃村に到着した。
かなり昔、頻繁に魔獣が現れるという理由で、村人たちが村を放棄したのだ。
家屋はそうとう痛み、畑などは雑草だらけで名残がない。
川だけは綺麗に澄んでおり、調べたところ飲める水だった。
リリーシャは、全員を集め指示を出す。
「本日はここで野営を行う。S級三名は周辺の警戒と見張り、それ以外は野営の準備を。ダオーム、野営に関しての指示は一任する」
「はい!!」
「夜間の見張りはS級が交代で行え。メル殿下、ローテーションはお任せします」
「……そこにA級召喚士は入れていいのかしら?」
「申し訳ございませんが、S級だけでお願いいたします。我々は本国に送る報告書の作成がありますので」
「野営初日に報告書もないと思うけどね……」
メルはボソッと呟いたが、リリーシャには届かなかった。
指示が終わり、それぞれ動き始める。
オズワルドはサンバルトと一緒に、一番痛みの少ない家屋にキリアスと入っていく。どうやらそこを拠点とするようだ。キリアスに掃除させるのだろう。
ダオームは怒鳴るようにS級たちに指示を出す。
「お前とお前は薪を準備しろ。その辺の古い家屋を壊せば薪は集まるだろう。お前は水を汲んでこい!!」
「「「…………」」」
お前とお前はフェニアとサフィー。水をくむのはアネルだ。
ダオームは、人の名前を言えないらしい。フェニアのことは小さい頃から知っているはずなのに。
アルフェン、ウィル、メルの三人は、村の周囲を回ることにした。
「ねぇアルフェン。領地の件、本気で検討しておくわ。リグヴェータ家はあなたにとって害悪でしかないわね」
「お、おう……ありがとう」
「……フン」
メルは静かにキレていた。
とりあえず、今ここにいるメルはS級召喚士であって王族ではないらしい。このような警戒などやらせる必要はないし、サンバルトと同じく『今日の反省会』に混ざることだってできる。
だが、メルは気にしていない。
「まぁいいわ。さすがに、魔人討伐の任務で露骨な妨害はしてこないでしょ。わたしたちをコキ使って鬱憤晴らすくらいでしょうね」
「オレはキレるぞ」
「俺、どうでもいい。そんなことより、魔人だけど……本当に見つかると思うか?」
「『運命』の予言はほぼ的中するわ。二人とも、気を引き締めなさいね」
「フン……」
「わかった」
「おい、お前」
「ん……なんだよ」
ウィルがアルフェンの右腕を軽く小突いた。
「魔人との闘いになっても、すぐに『完全侵食』を使うな。その凶悪な力、なんの制約もなしに使い続けられるとは思わねぇ……それに、テメーがさっさと倒しちまうと、オレの腕試しができねぇんだよ」
「は?……いや、制約もなにもないけど。それに、モグがそんなこと」
「可能性の話だ。いいか、多用するな。魔人が現れたらオレが相手する」
「……まぁ、いいけど。ただし、危険な相手だったらすぐに介入するからな」
「フン、好きにしろ」
ウィルは左手の指をアルフェンに突きつけた。
「いい機会だ。オレも手に入れるぜ……『完全侵食』をな」
◇◇◇◇◇◇
野営は、S級とA級が完全に分担し作業を行った。
雑用はS級ばかり。まさか夜間の警備もS級に全て押し付けられるとは思っていなかったが、アルフェンは特に文句を言わなかった。
なぜなら、この程度予想できたから。さらに、リリーシャたちが何を言おうが、欠片も興味がなかったからだ。
アルフェンの中で、リリーシャたちとは決着がついている。実害が出ない限り徹底的に無視することに決めた。この程度なら問題なかった。
夕食も終わり、A級召喚士のたちは馬車やテントの中へ戻った。
アルフェンたちは集まり、夜間警備の話をする。
「じゃ、俺、ウィルは一人で。メルとアネル、サフィーとフェニアのペアで。出発は十二時間後だから、三時間交代でな」
アルフェンがそう言うと、全員疑問を持たなかった。
せめて女子は夜に寝かせてあげたいという理由で、最初の夜間警備はサフィーとフェニア、次がメルとアネル、その次がウィル、最後がアルフェンとなった。
「じゃ、俺は寝る。時間になったら起こしてくれよー」
そう言って、アルフェンは一人用テントへ入った。
一人用テントは馬車の脇に二つあり、それぞれウィルとアルフェン用だ。
ウィルも、軽く手を振ってテントへ入った。
「アネル。あちらの空き家でお湯を沸かしておきましたので、着替えと身体を洗いましょうか」
「え、いつの間に」
「ふふ。王女のたしなみですわ」
「へぇ~、王女ってすごい!」
「フェニア、サフィー。交代前に再度お湯を沸かしておきますので、あなたたちもどうぞ」
「わぁ、ありがとうメル」
「ありがとうございます。メル」
最近、サフィーも『王女殿下』から『メル』になり、敬語が取れてきた。
メルたちは着替えを持って空き家へ。
「じゃ、あたしたちも警備頑張ろ!」
「はい! では……おいで、マルコシアス」
「きて、グリフォン!」
青白の体毛をなびかせたマルコシアスと、エメラルドグリーンの風を纏うグリフォンが現れる。
二人は己の召喚獣を撫で、ついでに互いの召喚獣を精いっぱいモフモフした。
「ん~、マルコシアスってなんかひんやりして気持ちいい~」
「フェニアのグリフォン、すっごく綺麗です……それに、サラサラしていい手触り。まるで高級な毛皮みたい……ふわぁ」
一通りモフり、離れた。
「じゃ、警備開始! グリフォン、空からいくよ」
「マルコシアス、村を回りましょう」
二人はそれぞれの召喚獣に乗り、村の警備を始めた。
◇◇◇◇◇◇
数時間後。
「おい」
「ん……」
「起きろ、脳天ブチ抜くぞ」
「ん~……ああ、ウィル」
「お前の番だ。朝までしっかり見張れよ」
「おぉ……ふぁぁぁ」
見張りは、アルフェンの番となった。
たっぷり九時間の睡眠を取ったアルフェンは、テントから出て軽く体をほぐす。
夕食の時間も早かったので、九時間経ってもまだ薄暗い。だが、あと三時間もすれば日は登り、朝になるだろう。
「───よし!!」
アルフェンは屈伸、膝の曲げ伸ばし、腕をぐるぐる回し、首をコキっと鳴らす。
桶に入っていた水で顔を洗い、完全に目を覚ました。
「軽く村の外走るかな」
運動がてら、村の周りを走ることにした。
ボロボロになっている村の外壁をジャンプで飛び超え、けっこうな速度で走り出す。
せっかくなので、全身を使った運動をすることにした。
「奪え、『ジャガーノート』!!」
右腕を顕現させ、思い切り伸ばす。
狙いは、数十メートル先にある木の枝。
「『獣の掌握』!!」
枝を掴み、腕を縮める。するとアルフェンの身体が引っ張られ高速で移動する。
伸び縮みする腕を使った移動法だ。
少し道を逸れ、村近くの森へ。木々を縫うように走り、たまたまあった大岩を殴り破壊した。
破片が散らばる。
「『停止世界』!!」
空間を『硬化』させると、飛び散った破片がピタッと止まった。
停止の力───この力だけでも強力だが、倒せない敵がいる。
魔人と戦うために必要なのは、『破壊』の力だ。
「───ん」
ふと、右目が疼いた。
アルフェンの右目『第三の瞳』だ。アルフェンは、疼きを感じた方を見る。
すると、身長二メートルほどの全身毛むくじゃらの魔獣、『コボルト』が五匹いた。
二足歩行の犬と言えばいいのか。だが、可愛らしさなどない。ヒトの肉を食うこともある雑食の魔獣だ。恐ろしいことに、人間の女を攫い子種を植え付けることもある。
見つけたら即討伐の魔獣だ。
『ぐる? グルルろぉぉ!!』
『ぎゃっぎゃ!!』
『ぎゃあるるる!!』
「知性の欠片もなさそうだな……まぁいい」
アルフェンは右腕を巨大化させ跳躍。
そのまま思い切り地面を削るように右腕を薙いだ。
「『獣の大地爆砕《インパルス・ディザイア》』!!」
抉られた地面が巨大な破片となりコボルトへ向かう。
地面は全て『硬化』され、コボルトに直撃した瞬間にコボルトは肉片となる。
アルフェンが名前を付けた技で、破壊の力だった。
「よし終わり!! 警備再開!!」
アルフェンは再び走り出し、村の外周を回る。
◇◇◇◇◇◇
外周を回り終え、村に戻ろうとした時だった。
「ん? ……あれは」
気配を断ち、誰かが村の近くにある森へ入っていった……それは、オズワルドだった。
ああいう奴はロクなことをしない。アルフェンはそう考え、後を付ける。
すると、オズワルドはすぐに見つかった。
「……これを頼むぞ」
手紙だろうか。
召喚獣らしき小さな鳥の脚に手紙を括り付けていた。
恐らく、報告書だろうか。
「……つまんねーの」
ぼそりと呟き、戻ろうとした時だった。
「───おお、まさか、ここで!?」
「……ん?」
オズワルドの手に、高級そうな便箋が握られていた。
さっきまで持っていなかったはず。いつの間に? ……と、アルフェンは思う。
オズワルドは手紙を開くと、ゆっくり口の端を吊り上げた。
「ククク……ククハハハッ、くははははっ!! そうかそうか……フフフ、運が向いてきたということか。そうか……これは使える」
「……?」
オズワルドは、不気味な笑みを浮かべたまま、しばらく笑っていた。
小屋から数時間進んだところに廃村があり、本日はここで野営を行う。そして翌日、『運命』ナクシャトラが予言した三つの村の一つへ到着予定だ。
リリーシャは、ナクシャトラの予言が書かれた羊皮紙を見る。
「『運命』の予言によると、最初の村が襲われる確率は六割。三日後に次の村が襲われる確率は七割、さらに二日後に最後の村が襲われる確率が九割か」
「じゃあ、最初に三つ目の村に行けばいいんじゃないかい?」
リリーシャの隣に座るサンバルトの指摘だ。
だが、リリーシャは首を振る。
「最初に三つ目の村が襲われる可能性は一割です。確率的に、この順番で進むのが効率的です」
襲われる確率は、日数も関係しているようだ。
オズワルドは、ワインを飲みながら言う。
「まぁ、戦闘に関してはS級もいる。癪な話だが、奴らは強い……魔人討伐は任せ、リリーシャくんは指揮に専念したまえ」
「はい。オズワルド先生」
「殿下。リリーシャくんの守護はお任せしますよ」
「もちろんです。彼女は私が守ります」
サンバルトは、リリーシャの肩を抱こうとしたが、リリーシャはやんわりと拒否。
すると、同乗していたウルブスが言う。
「ま、なるようになる、かな……」
ウルブスは大きな欠伸をして、背もたれに寄り掛かった。
◇◇◇◇◇◇
S級馬車……いや、マルコシアスが引いているので狼車だ。
アルフェンは、荷車の屋根に立っていた。
「───うーん」
『第三の瞳』の力を使い、周囲を見ていたのだ。
あまり使いすぎると激しい頭痛に襲われる。今のアルフェンが全開で使えるのは、一日約三分。
だが、力を調整すれば。
「小、開眼……」
ドアを開けて部屋に入るのではなく、ドアを開けて入口から室内を眺めるイメージ。
部屋に入ると力が奪われる。なら、外から室内を見れば?
「っぐ、ぐぐぐ……ッ」
チカチカと、セピア色の世界と色付きの世界に切り替わる。
入口、出口、入口……出入りを繰り返すような感覚だ。
そして、噛みあった───色付きの世界にいながら、この世界の『経絡糸』や『経絡核』の光が輝いてみえるのを。視力が向上し、数キロ先まで見えた。
「───っくぁ」
だが、すぐに解除された。
あまりにも、調整が難しい。頭痛こそしないが、別の意味で頭が痛くなる。
ずっと踏ん張って下半身に力を入れているような感覚だ。
「難い……まぁ、頑張れば何とか」
そして、右腕を顕現させる。
「『獣の一撃』に『停止世界』……」
アルフェンが名を付けた技の一つ。
ダモクレスやヴィーナスとの訓練で、いくつか新しい技も習得し名前を付けた。
アルフェンは、もっともっと強くならなければならない。
そして、振り返り、A級召喚士の乗る馬車を見た。
「…………」
そして、すぐに顔を前に戻す。
何かを企んでいるかもしれないが、どうでもいい。
魔人討伐。今はそれだけでいい。
「モグ……俺、頑張ってるよ」
右腕をそっと抱き、アルフェンは空を見上げた。
◇◇◇◇◇◇
廃村に到着した。
かなり昔、頻繁に魔獣が現れるという理由で、村人たちが村を放棄したのだ。
家屋はそうとう痛み、畑などは雑草だらけで名残がない。
川だけは綺麗に澄んでおり、調べたところ飲める水だった。
リリーシャは、全員を集め指示を出す。
「本日はここで野営を行う。S級三名は周辺の警戒と見張り、それ以外は野営の準備を。ダオーム、野営に関しての指示は一任する」
「はい!!」
「夜間の見張りはS級が交代で行え。メル殿下、ローテーションはお任せします」
「……そこにA級召喚士は入れていいのかしら?」
「申し訳ございませんが、S級だけでお願いいたします。我々は本国に送る報告書の作成がありますので」
「野営初日に報告書もないと思うけどね……」
メルはボソッと呟いたが、リリーシャには届かなかった。
指示が終わり、それぞれ動き始める。
オズワルドはサンバルトと一緒に、一番痛みの少ない家屋にキリアスと入っていく。どうやらそこを拠点とするようだ。キリアスに掃除させるのだろう。
ダオームは怒鳴るようにS級たちに指示を出す。
「お前とお前は薪を準備しろ。その辺の古い家屋を壊せば薪は集まるだろう。お前は水を汲んでこい!!」
「「「…………」」」
お前とお前はフェニアとサフィー。水をくむのはアネルだ。
ダオームは、人の名前を言えないらしい。フェニアのことは小さい頃から知っているはずなのに。
アルフェン、ウィル、メルの三人は、村の周囲を回ることにした。
「ねぇアルフェン。領地の件、本気で検討しておくわ。リグヴェータ家はあなたにとって害悪でしかないわね」
「お、おう……ありがとう」
「……フン」
メルは静かにキレていた。
とりあえず、今ここにいるメルはS級召喚士であって王族ではないらしい。このような警戒などやらせる必要はないし、サンバルトと同じく『今日の反省会』に混ざることだってできる。
だが、メルは気にしていない。
「まぁいいわ。さすがに、魔人討伐の任務で露骨な妨害はしてこないでしょ。わたしたちをコキ使って鬱憤晴らすくらいでしょうね」
「オレはキレるぞ」
「俺、どうでもいい。そんなことより、魔人だけど……本当に見つかると思うか?」
「『運命』の予言はほぼ的中するわ。二人とも、気を引き締めなさいね」
「フン……」
「わかった」
「おい、お前」
「ん……なんだよ」
ウィルがアルフェンの右腕を軽く小突いた。
「魔人との闘いになっても、すぐに『完全侵食』を使うな。その凶悪な力、なんの制約もなしに使い続けられるとは思わねぇ……それに、テメーがさっさと倒しちまうと、オレの腕試しができねぇんだよ」
「は?……いや、制約もなにもないけど。それに、モグがそんなこと」
「可能性の話だ。いいか、多用するな。魔人が現れたらオレが相手する」
「……まぁ、いいけど。ただし、危険な相手だったらすぐに介入するからな」
「フン、好きにしろ」
ウィルは左手の指をアルフェンに突きつけた。
「いい機会だ。オレも手に入れるぜ……『完全侵食』をな」
◇◇◇◇◇◇
野営は、S級とA級が完全に分担し作業を行った。
雑用はS級ばかり。まさか夜間の警備もS級に全て押し付けられるとは思っていなかったが、アルフェンは特に文句を言わなかった。
なぜなら、この程度予想できたから。さらに、リリーシャたちが何を言おうが、欠片も興味がなかったからだ。
アルフェンの中で、リリーシャたちとは決着がついている。実害が出ない限り徹底的に無視することに決めた。この程度なら問題なかった。
夕食も終わり、A級召喚士のたちは馬車やテントの中へ戻った。
アルフェンたちは集まり、夜間警備の話をする。
「じゃ、俺、ウィルは一人で。メルとアネル、サフィーとフェニアのペアで。出発は十二時間後だから、三時間交代でな」
アルフェンがそう言うと、全員疑問を持たなかった。
せめて女子は夜に寝かせてあげたいという理由で、最初の夜間警備はサフィーとフェニア、次がメルとアネル、その次がウィル、最後がアルフェンとなった。
「じゃ、俺は寝る。時間になったら起こしてくれよー」
そう言って、アルフェンは一人用テントへ入った。
一人用テントは馬車の脇に二つあり、それぞれウィルとアルフェン用だ。
ウィルも、軽く手を振ってテントへ入った。
「アネル。あちらの空き家でお湯を沸かしておきましたので、着替えと身体を洗いましょうか」
「え、いつの間に」
「ふふ。王女のたしなみですわ」
「へぇ~、王女ってすごい!」
「フェニア、サフィー。交代前に再度お湯を沸かしておきますので、あなたたちもどうぞ」
「わぁ、ありがとうメル」
「ありがとうございます。メル」
最近、サフィーも『王女殿下』から『メル』になり、敬語が取れてきた。
メルたちは着替えを持って空き家へ。
「じゃ、あたしたちも警備頑張ろ!」
「はい! では……おいで、マルコシアス」
「きて、グリフォン!」
青白の体毛をなびかせたマルコシアスと、エメラルドグリーンの風を纏うグリフォンが現れる。
二人は己の召喚獣を撫で、ついでに互いの召喚獣を精いっぱいモフモフした。
「ん~、マルコシアスってなんかひんやりして気持ちいい~」
「フェニアのグリフォン、すっごく綺麗です……それに、サラサラしていい手触り。まるで高級な毛皮みたい……ふわぁ」
一通りモフり、離れた。
「じゃ、警備開始! グリフォン、空からいくよ」
「マルコシアス、村を回りましょう」
二人はそれぞれの召喚獣に乗り、村の警備を始めた。
◇◇◇◇◇◇
数時間後。
「おい」
「ん……」
「起きろ、脳天ブチ抜くぞ」
「ん~……ああ、ウィル」
「お前の番だ。朝までしっかり見張れよ」
「おぉ……ふぁぁぁ」
見張りは、アルフェンの番となった。
たっぷり九時間の睡眠を取ったアルフェンは、テントから出て軽く体をほぐす。
夕食の時間も早かったので、九時間経ってもまだ薄暗い。だが、あと三時間もすれば日は登り、朝になるだろう。
「───よし!!」
アルフェンは屈伸、膝の曲げ伸ばし、腕をぐるぐる回し、首をコキっと鳴らす。
桶に入っていた水で顔を洗い、完全に目を覚ました。
「軽く村の外走るかな」
運動がてら、村の周りを走ることにした。
ボロボロになっている村の外壁をジャンプで飛び超え、けっこうな速度で走り出す。
せっかくなので、全身を使った運動をすることにした。
「奪え、『ジャガーノート』!!」
右腕を顕現させ、思い切り伸ばす。
狙いは、数十メートル先にある木の枝。
「『獣の掌握』!!」
枝を掴み、腕を縮める。するとアルフェンの身体が引っ張られ高速で移動する。
伸び縮みする腕を使った移動法だ。
少し道を逸れ、村近くの森へ。木々を縫うように走り、たまたまあった大岩を殴り破壊した。
破片が散らばる。
「『停止世界』!!」
空間を『硬化』させると、飛び散った破片がピタッと止まった。
停止の力───この力だけでも強力だが、倒せない敵がいる。
魔人と戦うために必要なのは、『破壊』の力だ。
「───ん」
ふと、右目が疼いた。
アルフェンの右目『第三の瞳』だ。アルフェンは、疼きを感じた方を見る。
すると、身長二メートルほどの全身毛むくじゃらの魔獣、『コボルト』が五匹いた。
二足歩行の犬と言えばいいのか。だが、可愛らしさなどない。ヒトの肉を食うこともある雑食の魔獣だ。恐ろしいことに、人間の女を攫い子種を植え付けることもある。
見つけたら即討伐の魔獣だ。
『ぐる? グルルろぉぉ!!』
『ぎゃっぎゃ!!』
『ぎゃあるるる!!』
「知性の欠片もなさそうだな……まぁいい」
アルフェンは右腕を巨大化させ跳躍。
そのまま思い切り地面を削るように右腕を薙いだ。
「『獣の大地爆砕《インパルス・ディザイア》』!!」
抉られた地面が巨大な破片となりコボルトへ向かう。
地面は全て『硬化』され、コボルトに直撃した瞬間にコボルトは肉片となる。
アルフェンが名前を付けた技で、破壊の力だった。
「よし終わり!! 警備再開!!」
アルフェンは再び走り出し、村の外周を回る。
◇◇◇◇◇◇
外周を回り終え、村に戻ろうとした時だった。
「ん? ……あれは」
気配を断ち、誰かが村の近くにある森へ入っていった……それは、オズワルドだった。
ああいう奴はロクなことをしない。アルフェンはそう考え、後を付ける。
すると、オズワルドはすぐに見つかった。
「……これを頼むぞ」
手紙だろうか。
召喚獣らしき小さな鳥の脚に手紙を括り付けていた。
恐らく、報告書だろうか。
「……つまんねーの」
ぼそりと呟き、戻ろうとした時だった。
「───おお、まさか、ここで!?」
「……ん?」
オズワルドの手に、高級そうな便箋が握られていた。
さっきまで持っていなかったはず。いつの間に? ……と、アルフェンは思う。
オズワルドは手紙を開くと、ゆっくり口の端を吊り上げた。
「ククク……ククハハハッ、くははははっ!! そうかそうか……フフフ、運が向いてきたということか。そうか……これは使える」
「……?」
オズワルドは、不気味な笑みを浮かべたまま、しばらく笑っていた。
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破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
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異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
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※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。
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