召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう

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第六章

休憩

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 目的地に向かう前、いくつか休憩を挟むことになっている。
 最初の休憩地は、街道沿いに流れる川辺の近くで、行商人などが休憩に使う大きな小屋が建てられていた。
 キリアスは馬を馬具から外し、グリッツに世話を任せる。
 そのまま小屋の中へ入り、椅子とテーブルを磨きテーブルクロスを引き、椅子を五脚準備。荷物から茶器を準備し、小屋内にあった竈の火を熾す。
 すると、オズワルドが小屋内へ。キリアスを労いもせず椅子に座る。
 そして、リリーシャが座ろうとすると、ウルブスがそっと椅子を引いた。

「さ、どうぞ姫」
「ありがとう、ウルブス」
「いえいえ」
「くっ……」

 遅れて小屋に入ってきたサンバルトが悔し気な声を出す。
 そして、ややきつい声でキリアスに言った。

「きみ、さっさと湯を沸かしたまえ。私が茶を振る舞うんだ。急げ」
「は、はい!!」

 完全な八つ当たりだった。
 ウルブスは気が利く。さりげないところで手を貸す姿は、かなり好感が持てた。
 そして、ダオームがリリーシャに言う。

「姉上。S級の連中はどうする?」
「馬車の整備をさせておけ。それと、周囲の警戒だ」
「はっ」

 ダオームは一礼し、小屋を出た。
 当然、休むのはA級召喚士だけ。他は仕事をさせる。
 ウルブスは、さりげなくリリーシャの隣に座った。

「姫。今日は野営するんだろう?」
「ああ。ここから数時間進んだところにある廃村で休む」
「そうかい。じゃあ、姫の安全はしっかり守らないとなぁ」
「……ウルブス。その姫というのは」
「っはは、オレにとっちゃ、美しい人はみんな姫だ。ま、姫はオレが今まで見た姫の中でも、とりわけ美しい姫だけどな」
「からかうな……全く」
「お? っはは、いいねいいね、その表情……黒薔薇のような凛々しさに、ほんのわずかな桃薔薇の輝き。惚れちまいそうだぜ」
「ウルブス……「あー、リリーシャ! お茶が入ったよ!」

 と、サンバルトが割り込んだ。
 ウルブスは両手を上げて苦笑し、リリーシャはため息を吐く。
 すると、黙っていたオズワルドが言った。

「リリーシャくん。今のうちに、少し話しておきたいことがある」
「はい……」
「今後のことにも関わる。キリアスくん、きみは外で見張りを頼むよ」
「は、はい!」

 キリアスは慌てて外へ出た。

 ◇◇◇◇◇◇

「なんでオレらが馬車の手入れなんかしなきゃならねーんだよ」
「まぁまぁ。一応、A級召喚士の下に付くって言っちゃったしね」
「下に付くのと雑用はちげーだろうが」

 ウィルとアネルは、自分たちの馬車とリリーシャたちの馬車の手入れをしていた。
 車輪のチェック、破損の確認、ついでに汚れ掃除……アネルは文句の一つも言わなかったが、ウィルは文句たらたらで手を動かしていた。
 もしウィルだけだったら、A級召喚士たちの馬車など触れすらしなかっただろう。だが、アネルがやるというので、仕方なく手伝っているのだ。
 フェニアは、メルと一緒にグリッツたちの馬の蹄を掃除したり、鬣のブラッシングをしている。

「あ、フェニア……ありがとう」
「ん、いいよ別に。ってか、なにこの荷物の量……グリッツ、アルフェンからディメンションスパロウもらったんじゃないの?」
「いやその、ダオームさんが『そんな得体の知れない魔獣に荷物を食わせるなんて言語道断!!』って……だから、ボクの荷物とキリアスさんの荷物だけ入れてる」
「ふーん……(黄色いのも可愛いわね)」
「え?」
「な、なんでもない!」
「ちょっとそこの二人! 手が止まってますよ!」
「あ、ごめん。ってかメル、あんたは王族なんだし、あっちで休憩……」
「必要ありません。というか、たった数時間馬車で走っただけで一時間の休憩なんて馬鹿げています。全く……時間がもったいない」

 メルは力を込めて馬のブラッシングをする。気持ちいいのか、馬はブルルンと鳴いた。
 グリッツは、フェニアを見た。

「あー、フェニア」
「ん、なに?」
「えっと……その、久しぶりだね」
「そうね」
「その……S級、楽しいかい?」
「とーってもね。こんな言い方はアレだけど、生徒会抜けてよかったわ」

 フェニアは、輝くような笑みをグリッツに向けた。
 エメラルドグリーンの髪がふわりと揺れる。二人の距離は近く、グリッツは緊張した。
 ああ、やはり自分はフェニアが……そんな気持ちが沸き上がる。

「……不純な匂いがしますね」
「えっ!?」
「あなた。馬用の餌を持って来なさい。早く!!」
「は、はいっ!?」

 グリッツは、メルに尻を蹴られたように走り出した。

「メル? どうしたの?」
「いえなんでも。おほほほほ」
「?」

 なんとなく、メルはフェニアにグリッツを近付けるべきではない。そう思った。

 ◇◇◇◇◇◇

 アルフェンは、サフィーと一緒にマルコシアスのブラッシングをしていた。
 川沿いでたっぷり水を飲んだマルコシアスは、サフィーが敷いたシートの上で寝転がり、アルフェンとサフィーが握ったブラシで丁寧に梳かれてご満悦な表情だ。

「マルコシアス、気持ちいい?」
『ウォウ』
「気持ちいいってよ」
「わかるのですか?」
「いや、それ以外にないだろ」

 二人は、ほとんど白に近いマルコシアスの青毛を梳く。
 ここまで荷車を引っ張ってくれたマルコシアスに感謝しつつ。マルコシアスにとって、あの程度の荷車を引くことなど造作もないことだが。

「アルフェン」
「ん?」
「……お姉さん、大丈夫ですか?」
「なにが大丈夫なのかは知らないけど、もう興味ないからなぁ……あっちも俺のことなんて気にしないだろ。たぶん」
「そうですか……なんとなくですけど、A級召喚士の方々、何か企んでそうですね」
「そ、そうか?」
「ええ。気を付けましょうね、後ろからグサッ!! なーんて」
「お前、毒舌が過ぎる───」

 と、アルフェンとマルコシアスが同時に反応した。
 アルフェンは右目を押さえ、マルコシアスはゆっくり起き上がる。
 マルコシアスが見ていたのは、川の向こう岸……アルフェンたちのいる場所から対岸まで、十メートルほどある。その奥は森になっていた。

「……この感じ、いるな」
「え? え?」
「サフィー。みんなを呼んでこい……来るぞ!!」

 アルフェンが櫛を投げ捨て、右腕を構えた瞬間───対岸の森から、巨大な『カナブン』が何匹も飛んできたのである。

「む、虫っ!? ひっ……」
「サフィー、ウィルたちを!!」
「わわ、わかりました!! マルコシアス、アルフェンのサポートを!!」
『ガルルルルッ!!』

 アルフェンは右腕を構え叫ぶ。

「奪え───『ジャガーノート』!!」

 久しぶりの、魔獣との戦いが始まった。

 ◇◇◇◇◇◇

 巨大な昆虫型魔獣。名前は『キールアン』は、緑色に艶めきながら羽ばたいていた。
 正直、巨大な昆虫は気味が悪い……アルフェンはあまり触れたくないと思ったが、そうもいかない。
 右手を巨大化させ、思いきり空間を薙ぎ払う。

「『停止世界パンドラ』!!」

 薙ぎ払った空間が『硬化』される。
 空間、時間、空気……そこにある『全て』が硬化する。
 アルフェンの右手が薙ぎ払った箇所に触れたキールアンが急停止。そのまま川に落下した。
 だが、薙ぎ払った空間を避けるようにキールアンが飛んでくる。

「くっ……勘のいい虫だ」
『ウォウ!!』

 マルコシアスが吠えた。
 マルコシアスの周囲に氷の槍が形成され、キールアンに向かって飛んでいく。
 氷の槍がキールアンに突き刺さり、体液を撒き散らしながら川に落下した。

『キシィィィィっ!!』
「キモいっ……うっげぇ、体液触りたくねぇ~」

 倒すことは造作もない。だが、アルフェンは生理的に嫌悪感を抱いていた。
 そんなことを言っている場合ではない。キールアンは森から大量に飛んでくる。
 覚悟を決め、右腕を巨大化させ直に殴ろうと───。

「『機関銃ガトリング』!!」

 上空から、翡翠の弾丸が雨のように降り注いだ。
 
「アルフェン、遅くなってごめん!!」
「フン、虫がうじゃうじゃ湧いてきやがった……!!」

 グリフォンに乗ったウィルとフェニアだ。
 そして、アルフェンの隣に『カドゥーケウス』を顕したアネルと、息切れしながらマルコシアスに抱き着くサフィーが来た。

「遅くなった。敵……これだよね」
「見ての通り。なぁ、蹴れるか?」
「…………」
「その気持ちわかる。俺もちょっと……」

 アルフェンとアネルにとって、直接攻撃がしにくい敵だった。
 この際、遠距離攻撃が得意なフェニアとウィルに任せようかと考えた時。

「S級、聞きなさい。わたしの命令に従ってもらうわ!」
「よ、メル?」
「ちょうどいい……どちらが指揮に優れているか、見せてあげようじゃない」

 少し離れた場所に、メルが仁王立ちしていた。
 さらに離れた場所には、A級召喚士たちが立っている……どう見ても戦闘に参加するような雰囲気ではない。この程度、参加するまでもないといった感じだ。
 その態度にも腹立たしかったが、真に恐ろしかったのは……メルだった。
 今まで見たことがないような表情で立つ姿は、威厳にあふれていた。
 まさに、女王のような。

「王女命令よ」

 メルの指示が飛ぶ。

「アルフェン。川沿いにある巨岩を掴んで『硬化』、敵に向かって投擲」

 その声に逆らうことができなかった。
 アルフェンは、メルが指さした岩に向かって右手を伸ばし硬化。キールアンに向かって投擲する。
 岩はキールアンを弾き飛ばしながら対岸へ。
 ちょうど一本道のように開けた。

「サフィー、川を凍らせて対岸への道を。ウィル、援護射撃。フェニア、暴風を起こして魔獣の飛行を乱せ」

 サフィーがマルコシアスに命じ対岸へ氷の橋を作り、氷の橋に向かうキールアンをウィルが撃ち落とす。落としきれないキールアンはフェニアの暴風で対処。

「アルフェン。対岸へ……そのまま森の入口を硬化!!」

 アルフェンは氷の橋を渡り、右腕を巨大化、限界まで伸ばし、森の入口を真横に薙ぎ払った。
 すると、森から出てくるキールアンが全て、森の入口で急停止し落下していく。キールアンは川を超えることなく、森の入口で積み重なっていった。 
 それから数十秒。キールアンは全滅した。

 ◇◇◇◇◇◇

「よ、メル……な、なんてことだ」

 サンバルトは、メルの威厳に圧倒されていた。
 的確な指示を出し、自らは一歩も動くことはない。その姿、まるで王……そこまで考え、サンバルトは首を左右に振る。
 そんな姿を横目で見ていたリリーシャは、再びメルを見た。

「……素晴らしい」

 リリーシャは、素直に認めた。
 メルは『王の器』であり、現王よりも威厳があり、民を導く力がある。そのことにようやく気付いて顔を青くしているサンバルトには目もくれず、オズワルドに言った。

「オズワルド先生」
「うむ。さすが王女殿下だ。リリーシャくん、上手く彼女を使って・・・・・・・・・きみの力とするのだぞ・・・・・・・・・・
「はい」

 どんなに指揮が優れていても、現在の指揮官はリリーシャだ。
 メルが指揮をすることを見抜き任せた。キールアンはE級の魔獣だった。魔人討伐の実績があるS級に任せた。メルの指揮力を信頼し任せた。
 戦闘に介入しない理由など、いくらでもある。たとえS級が文句を並べようと、この戦闘に介入しなかったのは正解の一つであった。
 オズワルドはにっこり笑う。

「さて、報告書を書かねば。リリーシャくん、きみの采配によって、街道に潜んでいた昆虫型魔獣は全滅したとね」
「ええ。よろしくお願いします」

 こうして、街道に潜む昆虫型魔獣『キールアン』の討伐は、リリーシャの功績となりアースガルズ王国に報告された。
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