最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活

さとう

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第一章 シャドウ

黄昏の刺客

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 ハンゾウは、洞窟の前で腕組をして待っていた。
 そして、真正面からゆっくりと誰かが近づいて来る……それは、女だった。

「……やっぱり、ここにいたんですね」
「……マドカ、か」

 黒髪をポニーテールにした、二十代前半の女だった。
 眼つきは鋭く、射貫くような目。全く隙のない立ち振る舞いは、彼女が相当な実力者という証明。
 だがハンゾウは、女性……マドカを見て、どこか嬉しそうに笑った。

「『黄昏旅団』の仕事か?」
「いいえ、組織は関係ない……ここに来たのは、私の独断。そして、私がここにいることは誰も知らない」
「……で、どうする?」
「裏切者は粛清……それが例えあなたでも」
「ハハッ、お前じゃオイラは殺れねぇよ」
「そうかもね。師であるあなたを倒せるとは思わない……でも、他の誰かに殺されるくらいなら、私が……!!」
「……マドカ。オイラはよ、お前のそういう不器用なやさしさ、大好きだぜ?」
「っ……」

 マドカは、明らかに動揺……だが、ハンゾウは何もしない。
 動揺した瞬間に手裏剣を投げたり、忍術を使うことだってできたはず。
 それをしなかった。それは、ハンゾウの甘さ……では、ない。
 マドカは察した。

「ハンゾウ、あなた……そこまで病んでいるの?」
「……まあ、もう長くねぇ」
「…………そう」

 マドカは一瞬だけ辛そうにしたが、すぐに表情を切り替えた。

「たとえ病んでいても、あなたの処刑は決まっている。『黄昏旅団』は、あなたを逃がさない……たとえ、『黄昏旅団』の創始者、『愚者』を司る至高のアサシン、ハンゾウでもね」
「はっはっは……」

 世界最強の暗殺者アサシン教団、『黄昏旅団』。
 総勢二十二人で組織された絶対的強者。
 一人一人が一国を落とすほどの力を持つ。だが、表では権力者としての顔を持ち、アサシンとして活動するのは裏の顔。

「なあマドカ……もう、あんなところ辞めちまえ。お前みたいな優しい子には、合わねぇよ」
「……今更、何を。私を拾って育てたのは、あなたじゃない。あそこは、私の居場所」
「だが、もうオイラの理想とした『黄昏旅団』は消えちまった……弱者を守り、悪しきものを断罪する『アサシン教団』はもうない。今の教団は、欲望を我が物とするためには手段を選ばない、悪の巣窟だ」
「……なぜ、抜けたの。そう思うなら……私の知るあなたなら」
「教団を消滅させるくらいはしただろうな。だが……それをやるには、もうジジイになっちまった」

 ハンゾウは悲し気に笑った……マドカには、それがあまりにも痛々しく見えた。

「だから、育てた。オイラをしのぐ、オイラの後継を」
「……後継? まさか、忍術を」
「ああ、全て伝えた。というか……あんな馬鹿、見たことねぇぞ」
「え……?」
「まあ、今にわかる。どうせ、オイラが死ぬまで監視するんだろ? もう止めやしねぇよ……好きにしな」
「……ハンゾウ」
「マドカ、お前はやっぱ甘いぜ。黄昏旅団№2『女教皇ハイプリエステス』とは思えねーな」
「……どういう」
「刺客だ。オイラを消しに来たな? やーれやれ……」
 
 次の瞬間、マドカの腹に強烈なボディブローが叩きこまれた。

「ゴぁ……ッ!?」
「わりーな……寝てろ」

 マドカの意識は闇に落ち……最後に見たのは、師の……育ての親の、どこまでも優しい笑顔だった。
 
 ◇◇◇◇◇◇
 
 シャドウは一人、森にいた。

「…………」

 無言だった。
 服はボロボロ。だが、服の下から見える素肌は、これまでにないほど引き締まっている。
 過酷な『闇の森』生活……一日中飛び回り全身が鍛えられ、どこから来るかわからない襲撃に気を引き締めることで観察力、気配探知が鍛えられ、実際の戦闘で技の全てが磨かれた。
 極限状態……だが、シャドウはこれまでにないくらい、高揚していた。
 だが、その高揚も終わりを告げる。

「……終わっちまった」

 シャドウの背後には、この『闇の森』の主の一体、『グレイトフルコング』が転がっている。
 討伐レートSS、闇の森で最強の魔獣の一体。
 巨大な六本腕のゴリラだが、その腕は全て切断され、片足が地面に埋まり、身体が黒焦げになって、頭部はずぶ濡れになっていた。
 首は綺麗に落とされ、シャドウは切断し転がっている腕に座り、空を仰ぐ。
 そして、ポケットから木板を出して見る。

「今日で二十六日目……期限の一か月まで残り四日。なんとかクリアかな」

 地図を広げ、赤いマーク部分にバツを付ける。
 五つあった赤いマークに、全てバツが付いた。

「よし。師匠のところに帰ろう。久しぶりに、師匠の作った野菜スープが食べたいな」

 食料は、森の中に自生している草や木の実、討伐した魔獣などを焼いて食べた。
 毒草、毒実を食べてのたうち回ったのも数度じゃない。おかげで毒に耐性が付き、内臓も強化されたようだ。

「えーと……洞窟まで半日くらいの距離かな。せっかくだし、水浴びしてから行くか」

 シャドウは、時間がまだあると、どこかのんびりしていた。
 その判断を、後に後悔することも知らずに。

 ◇◇◇◇◇◇

 ハンゾウは、気を失い崩れ落ちたマドカを支えるようなことはせず、地面に放置。
 すると、パチパチ……と、誰かが拍手しながら現れた。

「これはこれは、功を焦り自滅した、ということですかな? №2『女教皇ハイプリエステス』……」
「……テメェ、『ストレングス』……パワーズか」
「どうも、ハンゾウさん」

 にっこりと笑う紳士風の男は、帽子を取り一礼する。
 パワーズ。『黄昏旅団』に所属する№『ストレングス』の称号を持つ暗殺者。
 パワーズは、ハンゾウをジロジロ見てウンウン頷く。

「老い、そして病んでいる。あなた……全盛期の何十分の一ほどの実力ですか? やれやれ……こんな老いぼれが、最重要暗殺対象とは、うちも堕ちたものですね」
「……オイラを始末に来たのか」
「ええ。それが、『世界ザワールド』のご意思です」
「チッ……参ったぜ」

 ハンゾウは頭をボリボリ掻き、両手をゴキゴキ鳴らす。

「確かに、オイラはもう長くねぇ。全身に腫瘍ができて、歩くだけでめまいはするわ、メシは喉を通らねぇわ、魔力もごっそり減っちまった。醜く、薬で延命してる屍よ」
「おお、お認めになるのですね」
「ああ。だが……ただじゃぁ死なねえ。オイラの最後の希望が、完成するのを見届けねぇとな」
「おやおやおや……まさか、後継者を? あなたの『忍術』を継承した者がいると?」
「……ははっ」

 ハンゾウは笑った。
 そして、両手を動かし『印』を組む。

「オイラの仕事は終わってる。あとは……別れの言葉を、伝えるだけさ」
「フフ、フフフ。いいことを教えてあげましょう。実は私……感動的ストーリーが大好きなのですよ」

 ハンゾウ、そしてパワーズの戦いが、始まろうとしていた。
 ハンゾウは、ボソッと呟いた。

「わりーな、シャドウ」
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