最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活

さとう

文字の大きさ
7 / 62
第一章 シャドウ

九か月後

しおりを挟む
 修行開始から、九か月が経過した。

「七十五、七十六、七十七」

 シャドウは手を高速で動かし、南京錠を解除していく。
 そして八十ジャストで一分経過……ハンゾウが止めた。

「そこまで。一分で百個……まだまだだな」
「くそー……あとニ十個!! もうちょい!!」
「よし次ぃ!! 魔力の維持だ。これより魔力を解放した状態でメシの支度!!」
「はい!!」

 シャドウは魔力を解放。高密度の魔力が全身を覆う。
 そのまま、食材を包丁で切り、鍋に入れる。

「あ、水汲んできます」
「おう。樽十個ぶんな」
「はい」

 シャドウは大樽を一つ抱え、一キロ先にある水場へ汲みに行く。
 それを十往復し、大樽十個に水をくむ。そして、野菜と肉の煮物を作り、ハンゾウが作った『ぴざガマ』という窯でパンを焼いた。

「くぅ~、やっぱピザはうめぇよなあ!!」
「ええ、師匠の故郷のパン、でしたっけ」
「おう。ピザにコーラ、大好きだぜ。まあコーラは無理だけどな……作れるはずなんだか、オイラにはわからん」
「へぇ~……でも、この『ぴざ』でしたっけ。いろんな具材合わせて焼くの、楽しいですよね」
「だろ!?」

 こうして談笑している間も、シャドウは魔力を放出、維持を続けている。
 はじめは三分持たなかったが、今では三時間以上持続できた。
 食事を終え、ハンゾウは言う。

「次は手裏剣術、そして体術だ」
「はい!!」

 シャドウは強くなった。
 手裏剣術、体術、武器術……手裏剣術は、一か月前からもう的を外していない。
 体術も武器術もハンゾウには敵わないが、それでも食らいつけるくらいは強くなった。
 そして───忍術。

「火遁」
「はい!!」

 シャドウは印を組み、上空に指を向ける。

「火遁、『火玉の術』!!」

 指先から火の玉が飛ぶ。

「水遁」
「はい!!」

 『水』を象徴する十二支印を結び、テンプレートとなる『九字護法印』を結ぶ。

「水遁、『水玉の術』!!」

 ポン!! と、火玉の術と同じ大きさの玉が放たれ、上空を飛んでいた火玉と衝突し消えた。
 ハンゾウの指示で、シャドウは忍術を行使……そして、最後。

「雷遁」
「はい!!」

 雷。それは、魔法の六属性にはない、忍術だけの属性。
 印を結び、右の人差し指、中指合わせ、上空に向けた。

「雷遁、『紫電の術』!!」

 雷の魔力が上空に放たれ、雲を流れ、シャドウの魔力に引っ張られ落雷となり落ちた。
 七属性、全ての術を行使したシャドウは姿勢を正す。

「……よし、今日はここまで。後は自由にしていいぞ」
「はい!! お疲れ様でした!!」

 この日の修行が終わり、シャドウは頭を下げた。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。
 夕食を食べながら、ハンゾウは言う。

「シャドウ、お前にはオイラの忍術を九十九個、全て叩きこんだ。明日からは実戦形式で戦うぞ」
「実戦形式、ですか?」
「おう。そもそも、ここはどこだ?」
「闇の森……ですよね」
「今更だが、ここはこの辺りで最も危険な、魔獣が住む森だ。お前、ここに来て九か月……魔獣を見たか?」
「……そういえば」
「ないだろ。そりゃそうだ。オイラがみんな狩ってるからな。おかげで、修行に集中できたろ?」
「い、いつの間に……」
「だがもう狩らん。シャドウ、明日からは魔獣狩りだ。これまで叩きこんだ忍術、体術、手裏剣術、武器術を使って、この森の魔獣を狩って狩って狩りまくれ。実戦じゃないと、得られない強さ……度胸が付く」
「……はい!!」
「それと……修行が終わったら、早く寝ろよ。いろいろ楽しいことやってるようだがな」
「っ!!」

 シャドウはドキッとして、ハンゾウはケラケラ笑っていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 深夜。
 シャドウは、ハンゾウからもらったノートに書きこんでいた。

「新術……印の可能性」

 これまで習った忍術が九十九。それ以外に、シャドウ自身で考えた術が書かれていた。
 
「師匠はすごい。この印、可能性の塊だ。これを応用すれば、まだまだ……」

 シャドウは印を結ぶ。術を使うのではなく、確認として。
 新しい術を考え、ノートに書く。
 これが、修行以外でのシャドウの楽しみ。二十一の印の組み合わせを考えるだけで、あっという間に時間が経過してしまう。

「やべ、朝になっちまう……」

 洞窟の前の方で、ハンゾウは寝息を立てている。
 シャドウはノートを閉じ、ハンゾウの隣に寝転ぶと……すぐに寝息を立て始めた。

「……」

 ハンゾウは気配を殺して起き上がり、シャドウの書いているノートを見る。

「新術、ね……やっぱこいつは……」

 ハンゾウはニヤリと笑い、シャドウの隣でもう一度目を閉じた。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 シャドウは修行着に着替え、手裏剣の数を確認。
 準備を終えると、ハンゾウが剣を差しだした。

「あの、これは……」
「オイラがこの世界に来た時、特典としてもらった名刀『夢幻』だ。お前にやろう」
「……すげえ」

 それは、『刀』という斬撃に特化した剣だった。
 両刃ではなく片刃で、手で曲げると簡単に折れてしまいそうな細い剣。
 手に入れた経緯は理解できなかったが、シャドウはゴクリと唾をのみ、手に取った。

「本当にいいんですか?」
「おう。それと、地図だ。現在位置であるここだけを記したから、マークしてあるところを全て行け」
「マーク、って……」

 地図には、『洞窟』と書かれた現在位置と、七か所ほど赤いマークがついていた。
 どの位置もバラバラで、一日ではとても不可能。
 ハンゾウがリュックを置く。

「野営道具だ。期日は一か月以内だ。じゃ、行け」
「え!? お、俺一人ですか!? 師匠も行くんじゃ」
「行かねーよ。行ったら助けちまうからな、手ぇは貸さん」
「そ、そんな」
「それに……シャドウ。今のお前の忍術と技量なら、その赤いマークがしてある『災害級』も倒せるだろう」
「さ、災害級!? これ、災害級の魔獣なんですか!?」
「おう。道中も危険がいっぱいだぞー」
「えええええ!?」

 災害級。
 魔獣には、それぞれ危険度が設定されている。
 討伐レート最低はF。そこからE~Dが並みの魔獣、C~Bが強い魔獣。A~Sが危険種と呼ばれる魔獣であり、SSが災害級、そしてこの世界最強であるSSSレートの『天災級』が存在する。
 
「闇の森の討伐レートアベレージはC~Sってところだ。災害級はSSだが、道中の魔獣を倒しながら経験を積んで討伐してみろ」
「……」
「ほれ行け。一か月以内だからなー」
「師匠の鬼!!」

 捨て台詞を吐き、シャドウは地図を片手に森へ進むのだった。
 その背中を見送ると、ハンゾウが胸を押さえ……。

「グフッ!!」

 吐血……真っ青になり、胸を押さえていた。

「はぁ、はぁ……オイラも、もう長くねぇ。やれること、やっちまわねぇとな」

 ハンゾウは、シャドウが消えた方向を見る。

「シャドウ。この修行を乗り越えたら……お前は今以上に強くなる。それこそ、オイラよりもな。さぁて……オイラも、行くか」

 ハンゾウは口元を拭い、今やるべきことを始めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...