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さくしゃ

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神龍と全力戦闘②

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 人化して天女姿の神龍「パイロン」とクミの全力戦闘により月面にあるガラス片のように鋭利な砂が舞う。

 「風拳!」

 私は棒立ちのパイロンに向かって、風の魔力を纏わせた右の拳打を正面から顔の中心を狙って突き出す。

 「ははは!いいねぇ!怠けてる神達なんかよりよっぽど強いよ!……だけど」

 わたしの全力の動きに対して、余裕の笑みを浮かべたままのパイロン。

 自身の顔に迫る私の拳打に対して、パイロンは、顔を左横にずらしながらタックルするようにわたしの懐へと入り込んでくる。

 「だけど、攻撃が直線的すぎるな」

 そう言うとパイロンは、拳打による衝撃から前のめりに倒れないように体を支えている私の右足の膝裏を左手で掴み、潜り込んだ勢いのままに自身の左肩を私のおへそあたりにぶつけて押し倒す。

 「ぐはっ!」

 パイロンの動きについていけていない私は、地面に倒れ込んだ時の体に伝わる地面の硬い感触で初めて自身が倒されたことを認識した。

 マジかよ……強すぎんだろ……

 「うーん……君って、もしかして全力で戦ったことないでしょ?溢れんばかりの武の才能でここまできた……と言うか、ちゃんとした師匠もいないのかな?だから、攻撃が直線的なのか……」

 パイロンは、私の腹の上に馬乗りになったまま私のことを分析するように話す。
 
 ああ……確かに。聖女でも帝国の勇者に負けることは許さん!って鍛えられたけど、ぶっちゃけ私に教えていた人、根性があればどうたらとかいって素振りしか教えてくるなかったな。

 うわぁ……思い出したらムカついてきたわぁ……あのハゲ!

 「くそが!ムカつくこと思い出させやがって……大体な!誰がすき好んで戦いたい奴がいんだよ!」
 「え?私が居るけど……」

 キョトンとした顔でパイロンに即答されてしまった。

 ……ぐわぁぁ!そうだったぁ!頭がおかしい奴だったぁ!……でも、いいお胸様だなぁもう少しだけ下から眺めていたいかも……

 心の中でニヤけつつ、あくまでも外側は真剣顔……紳士として眺める。

 「……なんか、お前の視線から尊敬の念を感じるんだが?」

 真剣顔の私に困惑した顔で聞いてくるパイロン。

 「いえ!特になんでもありません!あと30分だけ!このままで眺めさせて!」

 ついつい、内側の自分が顔を出してお願いしてしまった。

 「え……なんかやだ」

 何かを感じ取ったパイロンは、身を震わせながら空間歩法で姿を消してしまう。

 ちっ……もう少しだけ見てたかったけど、駆け引きには勝ったな。作戦成功!

 幸せな束縛から解放された私は、飛び起きてパイロンへと構える。

 「なんか、君と話していると疲れるな…」
 「いつも言われる。それは私が究極の癒し系だからだな!癒されてすぎて疲れるんだ……多分!きっと!そうであってくれ!面倒臭いからとかはやめてくれ!精神が持たないから!」
 「はぁ……もうなんでもいいや……なんか調子出てきた様子だし、かかっておいで…」

 パイロンはここにきて初めて構えを取る。

 「天と地の構えだよ……後で教えてあげるから、まずは体感しておきな」

 両手を開き、左手はおでこの前、右手はやや右寄りのおへその前で構える。

 右足を半歩前、左足は少しだけ後ろへ。

 重心をおへそあたりに置き、少しだけ腰を落とす。

 そうすることで、

 後の先……敵の攻撃を交わした後に即座に自身の攻撃を放つ。カウンター。

 先の先……敵が攻撃を繰り出すよりも先に当てる。先手の攻撃。

 どちらも重心を起点に体を動かすことで、攻防両面において無駄な力を必要とせずエネルギーの消耗を抑えられる。理想的な構え。

 「きな……」

 スイッチが入ったのは、私だけではないようでパイロンから放たれる殺気も増していく。

 「これは……気を抜いたら死ぬな」

 自己流の自然体の構え。

 本能がそうさせるのかはわからないが、相手によって変化する構え。

 今回は、歴史の教科書に載っている2本の剣を構え、史上最強の最も有名な剣士と同じ脱力した構えを取る。

 「ふぅ……とにかく無駄な力は抜いた方がいい……つ!」

 クミは短距離選手のスタート時の時のように前のめりに倒れ込んで、一気に体に力を入れて走り出す。
 
 テレポートしても、魔力の流れを読まれて動きを予測されるだけ……

 「なら、正面突破のみ!ギャンブルと同じ戦法じゃあ!」
 「おっ、勘は良いな。私が魔力の流れを呼んでいたのに気がついたか…その通り。空間移動は確かに便利だけど弱点がないってわけじゃないよ……さぁ、空間移動は通じない。その上でどう攻める?」

 見定めるように私を見てくるパイロン。

 体に力みはなく完全に自然体……

 くそ!絶対に、その余裕の笑みを曇らせてやる!

 「は!」

 私は躊躇せずにパイロンの間合いへと踏み込む。

 それと同時にパイロンの右のこめかみを狙って左フックを大降り気味に放つ。

 大降りな左フックのため、コンパクトに打てば、後出しでも先にパイロンの拳打の方が私に当たる。

 「わざとらしいね……狙いがあることがバレバレだよ」

 私のわざとらしい大振りの左フックによる狙いを見透かしたパイロンは流麗な動きでスムーズに後ろに下がる。

 あまりに滑らかすぎて、私の目には残像が残る。

 狙いを見透かされたことと、パイロンの上からの態度に、内心、頭にきていたこともあり、力んでしまい、

 「この!」

 私の拳は派手に空を切る。

 くそ!あのまま腕を掴んでくれたら、そのまま懐に入って、私の馬鹿力で投げ飛ばそうと思ったのに!

 それでも結果は交わされてしまった。なので、諦めずに、次の攻撃へ。

 「そう!諦めないことが大事だよ!交わされたら、次の攻撃を繰り出せば良いだけ!」

 諦めずに立ち向かってくる私を見て、嬉しそうに笑うパイロン。

 くそ……まだまだ無駄な力みが多いんだ。

 「妄想するんだ!…ぐふふふ…って違う!低反発おっぱいじゃない!もっと、こう……川を流れる水のように滑らか……」

 水をイメージしようとしてみたが、私の内側に存在するのはいつだって炎らしくて、全然、水が思い描けない。

 「……なら、揺らめき焦がす!」

 心の中で燃え上がっていた炎の火力を弱めていく……

 「お!良いよ!だいぶ無駄な力が抜けたね!その調子!」

 パイロンがいうように強張っていた体は柔らかくなると同時に思考も柔軟になっていく。

 「ああ……そうか。何も、魔力の流れから動きを予測されるからって空間移動を使わないって考えがおかしいんだ。もっと自由に発想でいこう!それが私らしい!」

 思考が柔らかくなると様々なアイデアが浮かび上がってくる。

 そもそも。ここ数年は、素手で戦いすぎて忘れていたけど、元々、後衛の方が得意だったわ……

 「そうとなればーーーー火炎球!からの~ーーーー空間歩法(ワープ)!」

 火炎球でパイロンの周りを囲みつつ、はるか上空まで移動。

 ふふふ……パイロンがアリのようだ!

 「ほい」

 パイロンを囲む火炎球……総数1000発を打ち込む。

 「おお!考えたね!」

 四方八方から迫る火炎球、その一発の威力は、C級モンスターの「ワイバーン」を一瞬で消し炭にする。

 「面白くなってきたねぇ!」

 パイロンは嬉々として迫る火炎球一つ一つを拳、蹴り、肘、時には、

 「ヘッド~バッド!」

 頭突きで消失させたり、

 「ヒップ~ドロップ!」

 お尻を左右に振って火炎球を消し飛ばす。

 「完全に遊んでるなぁ……化け物すぎん?」

 無邪気に私の火炎球達と戯れる笑顔のパイロンを見てもはや乾いた笑みしか浮かばない。

 「……ま、やるしかねぇか」

 本当は今すぐにでも学園都市に転移したいが……多分、満足するまで追っかけてくるよなぁ……ていうか、なんか、私のこと試してるっぽかったし。

 「あははは!たっのしぃ~!」

 いつもの変わり映えしない公園……
 しかし、金持ちの粋な計らいで設置された新たな遊具を見て、はしゃぐ時の子供と化したパイロン。

 「うん……やるしかねぇわ」

 あんな笑顔で追いかけられるとか……しかも、たまに攻撃とかしてきそう……それで、避けたら、

 「おお!やるなぁ!次のこの攻撃はどうかな?」

 とか、エスカレートしていきそう……

 地獄!……ぜってぇぇ決める!ここで!私の平穏な好き勝手する生活のために!

 「苦手って言うか…くあああ!恥ずかしいけど、やるしかねぇ!…天候を操るは……
はずっ!……くぁぁ!背中がムズムズするぅ!……」

 一旦、背中をかきむしる。

 「ふぅ……て、天候を操るは風!その者、嵐となりて、我が敵から温度を奪え!ーーーーひょ、氷結!」

 私は風を操り、パイロンの周りの温度を風によって急速に冷やし、凍らせる。

 くぁぁぁ!マジで恥ずかしい!だから、詠唱とか嫌いなんだよなぁ……
 拳でごり押しするようになって、魔法をサボってたからか……
 よし!私の健全な清き心の平穏を保つために無詠唱を覚えよう!

 決意を新たな凍らせて動きを止めたパイロンに次の魔法を放つ。

 「これは詠唱いらねえから良いわぁ~
ホッ……っと、一安心しとる場合じゃないわなーーーー嵐!」

 魔法の効果は、名前そのまま……

 宇宙空間だろうと関係なく、無理やり魔力により雷雲を発生させ、風と雷で一気に広範囲を攻撃。

 「おお!気持ちいいねぇ!肩こりが治ったわ!濡れた髪も乾いて、良いわぁ」

 私の嵐!を堪能してくれるパイロン。
 もう、なんでも良いわ……

 「空間歩法(ワープ)!」

 嵐!を堪能するパイロンの背後へと転移……
 
 「流石に、私の広範囲の魔法に包まれている時は、魔力の流れを読むことなんて出来ないようね!」
 「おっと……流石に気づかれたか……」

 私は、パイロンの背後で残った全MP4000を使って、拳に風を纏わせる。

 MP1を消費することで殴った時の威力が倍になる「風拳」
 
 「どうする?」

 私は拳を振るわずにパイロンに問いかける。
 
 「ふふふ……流石に降参するよ。痛い思いはしたくないからね」

 両手を上げて、左目の端だけ向けて笑うパイロン。

 「……はぁ!よかったぁ……」

 パイロンの一言で戦いは終わり、疲労から地面に倒れ込む。

 「はぁ……星が綺麗だ、ぜぇ」

 そのまま気を失う。

 「ふぅ……これくらい強ければ魔人の落とし子もなんとかなるでしょ」

 パイロンは倒れ込むクミを持ち上げて転移する。
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