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第5章 新しいお姉ちゃんと一緒に生きていく
幕間の物語34.ドラン公爵とドラゴニア国王
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ドラゴニア王国の南端の広大な範囲を治めているのは、王家とも血縁関係のドラン公爵だった。
唯一陸続きで他国と隣接している場所を治めている事もあり、万が一の際には王国の盾として動けるように常備軍を抱えている。
平時であれば、不毛の大地の魔物の間引きをしたり、ドラン公爵領にあるダンジョンに潜り訓練をしながら貴重な魔物の素材を集めたりさせている彼らを、ドラン公爵は大規模アンデッド駆除作戦として不毛の大地に送り出していた。
十数人の集団の中の一人には必ず異世界転移者であるシズトが作り出した神聖ライトを持たせ、アンデッド退治に勤しんでいるように取り繕っていた。だが、実際にアンデッド退治をしていると素直に受け取っているのはシズトくらいだろう。
「やはり物価が上がっているか」
「食料品に加えて、魔石の値段も上昇しているようだな。その他に鉄も高くなっているが、これは以前からだから関係はないだろうが、な」
執務室で顎を撫でながら報告書に目を通していたドラン公爵は、王族特有の金色の髪をかきむしる。そんな彼の苛立っている様子を楽しげに見ながら会話をしている男性がいた。ドラン公爵と同じく金色の髪にツリ目がちな青い瞳が特徴的なドラゴニア国王だ。
シズトという異世界転移者にあって二週間経ったが、未だに王都に帰る事はせずに親族のドラン公爵の執務室に間借りをして必要な事をしていた。
周辺諸国への声明も、世界樹ファマリーに手を出したユグドラシルとエンジェリアへの通達も、すべてをこの部屋で行っている。王都に戻っている間にも事がどんどん進んでしまうのでできる限り早く対応するためだ。
「魔石に関してはまあ、致命的な程ではない。神聖ライトに関してはゾンビの魔石でも使えるしな」
「糧食も備蓄があるとはいえ、あまり長引かせると別の問題が出てくるだろう。エンジェリアとはとりあえず和平交渉は終わった」
にやり、と悪い顔で笑うドラゴニア国王を見ながらドラン公爵もにやり、と笑う。親族という事もあり、似ているな、なんて事を近衛騎士の誰かは思っていたが口には出さない。
「リヴァイ、どれだけ向こうは要求をのんだんだ?」
「何、大した事はないさ。定期的に購入していた魔石の値段を少しだけ増やしてもらったのと、ダンジョン産の物を買う時に多少色を付けるように、と誓文を交わしてもらったくらいだな。向こうからは勇者の仲間もエンジェリアで面倒を見るとか戯けた事を抜かしてきたから、もう少し追加してやればよかったが……」
「あまりやりすぎてもな。勇者が育った後に厄介な事になりかねん、か。ユグドラシルの方は何か動きは?」
「特にはない。相変わらず盗人の引き渡しを要求しているが、『こちら側に一歩でも踏み込んだら命の保証はしない』と伝えておいた。運が悪くアンデッドが大量発生して殺されるかもしれんな」
「初心者用のダンジョンが活発期に入ってしまったしな。南のダンジョンが活発期に入っていてアンデッドが溢れかえっている可能性もあるだろう。それに襲われてしまうエルフたちもたくさんいるだろうし、一刻も早くアンデッドどもを間引きしないといけないな」
他の嘆願書などを読みながらドラゴニア国王は、突然「あ」と思い出したかのように声をあげた。
「そういえば我らが友は、無事にダンジョンに入ったか?」
「ドーラの報告では一度は入ったらしいが、やはり安全性を確保しきれなかったから魔道具を作るために戻ってきているらしい。ただ、ダンジョンで食べる予定だったものを食べた時に『おいしくない』とか言っていて、日帰りでダンジョン探索をするために魔道具を作っているそうだ」
「それはまた……」
呆れた様子のドラゴニア国王を気にした様子もなく、ドラン公爵は嘆願書を読み込みつつ話をする。
「勇者の食へのこだわりは噂に違わぬものだった、という事だろうな。それにしても帰還の指輪と転移陣か。何とかして手に入れたいものだが……」
「こちらにバレているのは分かっているだろうから隠す気はないようだが、一般に広める予定はないようだな。屋敷を見ている者たちからは使用人だけしか見えないとの事だ」
「頼んだら作ってくれないだろうか」
「戦争に使うのではないか、と警戒されるのは避けたいからやめておけ」
ドラゴニア国王から見ても、シズトは戦争を嫌っているようだった。
彼の娘からも「くれぐれも戦争をしてシズトの機嫌を損ねないように」と手紙が届いている。
その事もあって、各地の貴族から送られてくる戦力はアンデッド退治のためだけに不毛の大地に旅立っていた。
国境を超える事は固く禁じ、国境線沿いに展開してアンデッド退治とゴミ掃除をするように命じてある。
他国から国境を越えて入って来た者は現状侵略者である。こちらから攻める事はないが、降り掛かる火の粉は払わねばならない。
そのため、国交断絶状態の隣接する国々からの馬車は追い返すか、捕えていた。無論、中に載っている物は押収している。
「それにしても、エルフ共の戯言を信じる国が多すぎるわ! 確認の連絡を入れる事もせず、自ら裏を取る事すら行わず、これだけの数が支援していたとは……黙認していた国々に対しても何かしら対処をせねばなるまい」
「世界樹の素材という餌が強力だったんだろう。先着順とか言って早急に動かしたんだろう。ダンジョンもない国も中にはあるし、ダンジョンがなかったとしたら我々もあちら側だった可能性もあるわけだし、黙認程度であれば程々にした方がいいように思う」
「いい塩梅で制裁を加えてくしかないか」
「勇者の国の言葉で『過ぎたるは猶及ばざるが如し』とかいうらしいし、それがいいだろう」
「はぁ……レヴィに癒されたい」
ドラゴニア国王のつぶやきを聞いたドラン公爵は肩をすくめて仕事に戻っていった。
唯一陸続きで他国と隣接している場所を治めている事もあり、万が一の際には王国の盾として動けるように常備軍を抱えている。
平時であれば、不毛の大地の魔物の間引きをしたり、ドラン公爵領にあるダンジョンに潜り訓練をしながら貴重な魔物の素材を集めたりさせている彼らを、ドラン公爵は大規模アンデッド駆除作戦として不毛の大地に送り出していた。
十数人の集団の中の一人には必ず異世界転移者であるシズトが作り出した神聖ライトを持たせ、アンデッド退治に勤しんでいるように取り繕っていた。だが、実際にアンデッド退治をしていると素直に受け取っているのはシズトくらいだろう。
「やはり物価が上がっているか」
「食料品に加えて、魔石の値段も上昇しているようだな。その他に鉄も高くなっているが、これは以前からだから関係はないだろうが、な」
執務室で顎を撫でながら報告書に目を通していたドラン公爵は、王族特有の金色の髪をかきむしる。そんな彼の苛立っている様子を楽しげに見ながら会話をしている男性がいた。ドラン公爵と同じく金色の髪にツリ目がちな青い瞳が特徴的なドラゴニア国王だ。
シズトという異世界転移者にあって二週間経ったが、未だに王都に帰る事はせずに親族のドラン公爵の執務室に間借りをして必要な事をしていた。
周辺諸国への声明も、世界樹ファマリーに手を出したユグドラシルとエンジェリアへの通達も、すべてをこの部屋で行っている。王都に戻っている間にも事がどんどん進んでしまうのでできる限り早く対応するためだ。
「魔石に関してはまあ、致命的な程ではない。神聖ライトに関してはゾンビの魔石でも使えるしな」
「糧食も備蓄があるとはいえ、あまり長引かせると別の問題が出てくるだろう。エンジェリアとはとりあえず和平交渉は終わった」
にやり、と悪い顔で笑うドラゴニア国王を見ながらドラン公爵もにやり、と笑う。親族という事もあり、似ているな、なんて事を近衛騎士の誰かは思っていたが口には出さない。
「リヴァイ、どれだけ向こうは要求をのんだんだ?」
「何、大した事はないさ。定期的に購入していた魔石の値段を少しだけ増やしてもらったのと、ダンジョン産の物を買う時に多少色を付けるように、と誓文を交わしてもらったくらいだな。向こうからは勇者の仲間もエンジェリアで面倒を見るとか戯けた事を抜かしてきたから、もう少し追加してやればよかったが……」
「あまりやりすぎてもな。勇者が育った後に厄介な事になりかねん、か。ユグドラシルの方は何か動きは?」
「特にはない。相変わらず盗人の引き渡しを要求しているが、『こちら側に一歩でも踏み込んだら命の保証はしない』と伝えておいた。運が悪くアンデッドが大量発生して殺されるかもしれんな」
「初心者用のダンジョンが活発期に入ってしまったしな。南のダンジョンが活発期に入っていてアンデッドが溢れかえっている可能性もあるだろう。それに襲われてしまうエルフたちもたくさんいるだろうし、一刻も早くアンデッドどもを間引きしないといけないな」
他の嘆願書などを読みながらドラゴニア国王は、突然「あ」と思い出したかのように声をあげた。
「そういえば我らが友は、無事にダンジョンに入ったか?」
「ドーラの報告では一度は入ったらしいが、やはり安全性を確保しきれなかったから魔道具を作るために戻ってきているらしい。ただ、ダンジョンで食べる予定だったものを食べた時に『おいしくない』とか言っていて、日帰りでダンジョン探索をするために魔道具を作っているそうだ」
「それはまた……」
呆れた様子のドラゴニア国王を気にした様子もなく、ドラン公爵は嘆願書を読み込みつつ話をする。
「勇者の食へのこだわりは噂に違わぬものだった、という事だろうな。それにしても帰還の指輪と転移陣か。何とかして手に入れたいものだが……」
「こちらにバレているのは分かっているだろうから隠す気はないようだが、一般に広める予定はないようだな。屋敷を見ている者たちからは使用人だけしか見えないとの事だ」
「頼んだら作ってくれないだろうか」
「戦争に使うのではないか、と警戒されるのは避けたいからやめておけ」
ドラゴニア国王から見ても、シズトは戦争を嫌っているようだった。
彼の娘からも「くれぐれも戦争をしてシズトの機嫌を損ねないように」と手紙が届いている。
その事もあって、各地の貴族から送られてくる戦力はアンデッド退治のためだけに不毛の大地に旅立っていた。
国境を超える事は固く禁じ、国境線沿いに展開してアンデッド退治とゴミ掃除をするように命じてある。
他国から国境を越えて入って来た者は現状侵略者である。こちらから攻める事はないが、降り掛かる火の粉は払わねばならない。
そのため、国交断絶状態の隣接する国々からの馬車は追い返すか、捕えていた。無論、中に載っている物は押収している。
「それにしても、エルフ共の戯言を信じる国が多すぎるわ! 確認の連絡を入れる事もせず、自ら裏を取る事すら行わず、これだけの数が支援していたとは……黙認していた国々に対しても何かしら対処をせねばなるまい」
「世界樹の素材という餌が強力だったんだろう。先着順とか言って早急に動かしたんだろう。ダンジョンもない国も中にはあるし、ダンジョンがなかったとしたら我々もあちら側だった可能性もあるわけだし、黙認程度であれば程々にした方がいいように思う」
「いい塩梅で制裁を加えてくしかないか」
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