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第一章
24.
しおりを挟むホビット達とバルドが交わる寸前、ホビット達は直角に二手へと分かれてバルドを避ける。
ホビット達が二手に別れ目標を失ったボス牛は、突如自分の前に現れた新たな生き物に僅かに狼狽える。だが直ぐに目標をその生き物へと切り替えた。
赤い毛に大きな身体。子牛を狙いに来るレッドベアにそっくりな生き物。
コイツは敵だ。
ボス牛は自慢の角で敵を突き刺し投げ飛ばしてやろうと、頭を低く、そして駆ける速度はさらに加速し突進する。対するバルドも駆ける勢いは殺がぬまま、眼前まで迫る大きな角を掴もうと、両腕を広げた。
「ブモオォォォォ!!」
「…ふんぬっ」
巨躯と巨大な角がぶつかり合う衝撃で、波紋のように草木が波打つ。
バルドは自分の胴体程も太さがある角を両手で挟むように掴み、角に自分の頭を押し当てるようにして、押し潰そうとする力に耐えた。だが、じりじりと押す強さを増す力に、バルドの膝は段々と下がっていく。「このままでは押し負ける。」バルドはそう判断し、得意な炎魔法を身に纏う。力で適わないならば、押さえ込んだまま一気にボス牛を焼き殺すつもりだ。だが―
「ギルマスー!」
「駄目だギルマス! 焼肉になっちゃう!!」
「依頼は干し肉用だからー!!」
「おまえらなぁ…!!」
自分達は安全な場所へとっとと逃げて、炎を使うなと注文してくるホビット達に、バルドは途端に脱力した。
だがボス牛がその隙を見逃す筈が無い。ボス牛はバルドが掴んでいる角を大きく振り上げ、バルドを空中へと高く投げ上げる。そして落ちてくるバルドを串刺しにしてやろうと、嘶きを上げながら落ちるバルドに向かって突進した。
高く打ち上げられたバルドは、空中で身体を捻り体勢を取りながら、迫るボス牛の頭を叩き割ってやろうと拳を握る。
しかしこのままバルドがピピ角牛を仕留めてしまえば、ホビット達の依頼は不履行になってしまう。不履行が積み重なれば、当然冒険者としての信用ランクが下がってしまうのだ。そうなれば受けられる依頼のランクも下がってしまう。
「お前等覚えとけよ! 何もしないなら依頼達成は俺の手柄になるからなー!!」
「えー! そんなの無いよギルマスー!」
「しょうがないなー。やるか!」
「そんじゃ、行くぞー。」
バルドの通達に、観戦していたホビット達が仕方なさ気に動き出す。
突進してくるボス牛よりも素速く走り、ラルムとサルムは落ちてくるバルドとボス牛の間に、距離を開けて並び立つ。そうして互いに顔を見合わせてニヤリと笑うと、足元の地面にしゃがみこんだ。
「「そ~れ! にょっきにょき~!」」
ラルムとサルムが声を合わて両手を地面へ叩きつければ、叩かれた地面はゴゴゴと地鳴りの音を立てながら隆起して、二本の柱があっという間に出来上がってしまった。
「ナイスゥー! そんじゃ次俺ね!」
今度はトートが見えない速さで柱の間を往復し始める。トートの往復が終わると、ホビット達は直ぐに柱から離れて行った。後はボス牛がこのまま落ちてくるバルド目掛けて突進してくるのを待つだけ、もうすぐだ。
柱の間に巡らせたのは、キラリと光りを反射する銀の糸。罠に使った撚る前の鋼蜘蛛の細い糸がピンと張られている。そこにスピードがあるものが接触すれば、何が起こるのかは明白だった。
「ピピ角牛の輪切り、いっちょ上がり~!」
「…めちゃくちゃグロいけどな。」
「なんかごめんな、ピピ角牛…。」
「…。」
張られた糸で輪切りにされたボス牛の肉片が、血飛沫を上げながらボトボトと落ちる。あたりが赤く染まり、ついでに空中から帰還したバルドも染まってしまったのだった。
--------------------
水を飲みに降りてきたピピ角牛達は、群れのボスが狩られて、それは悲しそうな空気を醸し出しながら山頂へと戻って行った。
「…ほんとごめん、ピピ角牛…。」
「しゃあない。生きるってこういう事だからな…。」
「美味しく食べるから許してくれ…。」
「本当にお前等は…やれるなら最初からやれ。マリールに何かあったらどうするんだ。」
「あれ? そういやマリーちゃんは?」
水を出すのが苦手なバルドは、湖で血を流してから、自分を焼かない炎で身体を乾かしながらホビット達に小言を零す。
バルドの小言でホビット達はマリールの事を思い出し、キョロキョロと湖の周りを見渡した。
「お前等がピピ角牛を連れて来る前は、その辺で花柄のスライムを追いかけてたんだが…あの背負い鞄がある場所付近に居る筈だ。蹲って観察してたから隠れて見えないのかもしれん。スライムはそんなに早く移動出来ないし、そう遠くへ行ってないだろう。」
「何言ってんの、ギルマス。スライム結構動き早いよ。」
「黒虫並みにサササって素早く逃げるよ。」
「俺らにかかれば早くもないけどなー。」
「そ、そうなのか…!?」
ホビット達のスライム情報に、バルドは驚愕する。バルドが今まで見て来たスライムは、先程マリールが見つけた花柄のスライムではなく、赤い色のスライムだけだが、皆動きが鈍く大人しい魔物だった。そう説明すると、ホビット達は納得したように声を漏らした。
「ああー…。それ多分、ギルマスが討伐したやつ食って、腹一杯になったスライムだよ。血肉消化中だから赤かったんじゃない?」
「あいつら腹いっぱいだとすげえ動き鈍くなるもんなー。」
「大物食事して無ければ普段はすばしっこくて隠れてるからさ、ギルマス気付いてないだけだよ。」
「…そうなのか…。」
スライムの生態を良く知らないでいたらしいと、バルドは自分の不勉強さに恥じ入る。地面から2メートル以上離れているバルドの視界には、入り辛かったのもあるだろう。だがそれはそれとしてだ。
「…で? じゃあ結局マリーちゃんは?」
「マ、マリール!! マリールー!!」
「マリーちゃーん!」
「マリーちゃーん! 腹減ったよー!!」
バルドとホビット達は慌ててマリールを探しながら、背負い鞄の放置されている場所へと駆け付ける。
だが背負い鞄の周辺で、どんなに大声で呼んでもマリールは出て来なかった。バルドがマリールを呼べば、何があろうとバルドの胸に飛び付いて来そうなものなのだが。
「やべ…迷子じゃん。」
「『異界の迷い子』が迷子じゃん…。」
「ややこしいー! けど昼飯どうすんの? マリーちゃん居ないと鞄からお昼取り出せないよ?」
「「一大事じゃん…!!」」
「お前等昼飯よりマリールの心配をしろ…!!」
バルドは湖近くをあちこち駆けずり回る。もしかしたら湖に足を滑らせ落ちてしまったかもしれないと、湖の中まで潜って探した。だが一向に見つからないマリールに心配を募らせ、バルドはみるみる憔悴していく。
「いないなー。」
「どこいっちゃったんだろ? まさか森?」
「花柄スライム追ってたんでしょ? 俺たちも探して追ってみようぜ!」
「あ、ああ…。」
ホビット達に促されて、バルドも地面に這いつくばって花柄スライムを探す。身体が大きいと小さなものを探すのは一苦労だ。それでも必死になって、花柄スライムを探した。
「いたー!!」
「うそ! どれどれ?」
「わおー本当に花柄!」
「おお…。」
サルムがいち早く花柄スライムを発見したようだ。バルド達は早速、花柄スライムの後を追っていく。蟻の隊列のように一定方向へ向かう花柄スライムは、バルドたちが登ってきた山道から、少し離れた森の中へと続いていた。
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