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2.幸せのツボ
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蓮は一瞬リアムの笑顔と言葉に固まったが、なんとか取り繕った。
「勇者様ならこんなツボ必要ないでしょう。自力で幸せになれるのでは?」
蓮はニコニコ笑いながら言った。
余計なことに首を突っ込みたくない。
蓮の穏やかな生活を脅かされたくない。
その為にはリアムには勇者でいてもらわなくては困る。
「蓮はそう思うのか」
リアムは少し寂しそうな、失望したような表情をした。
いつも明るくポジティブなこいつがこんな表情をするなんて珍しい。
……もしかして精神的に相当参っているのだろうか。
この村にいる限りリアムは多分幸せになれない。
占わなくても分かる。
この村の連中はリアムの優しさをずっと搾取し続けるだろう。
蓮も含めて。
だが、リアムがこの村を出て行けば、間違いなくこの村は滅びると思う。
それほどに外の魔物は強くなり、数も増えている。
最近はリアムが魔物を倒さない日はないほどである。
日に日にリアムの表情は疲れと陰りを見せている。
しかし、蓮も含めて村の連中はリアムを手放す気は全くない。
こんなに便利で愚かなお人好しを逃してたまるか。
「あのさ、蓮。俺の将来を占ってくれないか?」
リアムは代金を机に置きながら真剣な目をして言った。
「僕は自分に近い人間は占わない主義なんです。それに自分に近ければ近いほどよく見えませんし……」
一度、自分の将来について占いの練習のために占ったことがある。
何故か占っている途中で頭が痛くなり、続行不可能になったっけ。
恐らく自分の運命を変えるような占いは出来ないのであろう。
それは蓮に近い人間も同様であった。
リアムの将来も蓮は占うことが出来ない。
「なるほど。蓮は自分のことも占えないのか」
「そうですよ。なのでお代はお返しします」
蓮が代金をリアムに返そうとすると、リアムが赤い小さなツボを素早く懐に入れた。
「これ貰うよ」
「あ、ツボ! 返してください!」
蓮がツボを取り返そうとリアムの懐に手を伸ばすと、リアムにその手を掴まれた。
昔と全然違うがっしりとした手だった。
度重なる魔物退治で鍛えられたのだろうか。
「嫌だ。代金払ったし。足りない分は親友割引で頼む」
リアムはにっと明るく笑った。
確か昔はこんな風に笑う奴だった。
久しぶりにリアムの素の表情を見た気がする。
「泥棒勇者!」
蓮がふくれっ面をしていると、リアムがポンポンと蓮の烏帽子を叩いた。
「人聞きの悪いことを言うなよ、蓮」
「ふん!」
蓮がリアムからプイッと顔を背けた。
リアムがよしよしと蓮の烏帽子を撫でた。
「今日も夜遅くまでここで占いするのか?」
「まあね。日銭を稼がなきゃいけませんから」
蓮がぶすっとした表情で言った。
勇者様とは違って蓮には余裕はない。
毎日生きていくのに精一杯だ。
さすがに勇者様は蓮より余裕があるはずだ。
強い魔物を倒す度に王国から褒賞金として金貨が出るシステムがあるのを蓮は知っている。
……村長が着服してなければな。
気の所為かもしれないが、リアムの緑色のシャツがくたびれているような気がする。
リアムは綺麗好きだから、蓮の狩衣のように汚れはない。
……興味本位で調べて村長の不興を買いたくないので、気の所為ということにしよう。
「蓮、無理だけはするなよ」
リアムが手をひらひらさせながら去って行った。
相変わらず食えない男だ。
同じ孤児院育ちのくせに動作に妙に品があるのが憎らしい。
ついこの間まで孤児院で寝食を共にしていたのだが、リアムのお行儀の良さは院長先生も絶賛していた。
物心ついた頃からずっと片時も離れず一緒にいるが、どこで礼儀作法を身に着けたのか。
謎の多い男である。
「どうでもいいけど」
蓮はボーとしながら、肩肘をついて客を待っていた。
リアムが先ほどの女性客に声をかけられていた。
あの女、まだ近くにいたのか。
リアムのこと狙っていそうだったもんな。
お茶する約束なんて放っておけば良いのに。
本当に人が良いな、あいつ。
そんなことするから勘違いする奴が出るんだよ。
前にリアムを巡って女性同士で刃傷沙汰になったこともある。
あれは本当に怖かった。
リアムが止めてなんとか収まったけど。
ちなみに占い女性客の八割はリアムとの相性診断を希望する。
正直かなり飽きているし、ウンザリしている。
もっと面白い相談ややりがいのある相談をして欲しい。
そもそも僕にはリアムのことは占えないし。
毎回適当なことを言って、誤魔化しているけど。
そんなに女性達が夢中になるほどリアムは良い男なのだろうか。
蓮には気に食わない男にしか見えないが。
女性客がリアムの腕になれなれしく腕を絡めたのを見て、蓮は少し苛立った。
本当に隙だらけだな、あいつ。
もう刃傷沙汰は勘弁してくれよ。
リアムが困ったように微笑んでいる。
今回こうなったのは僕のせいだけどね。
リアムに貸しが出来るなんて癇に障るから、返すことにした。
「あなたの彼女が勇者様にちょっかい出していますよ」
蓮は女性客の彼氏の場所を占いで突き止め、密告した。
女性客の彼氏は畑を耕す手をピタッと止めた。
「なんだって?」
「あなたの彼女が勇者様と仲良くお茶しています」
「あの女!!」
女性客の彼氏は鍬を放り投げると、喫茶店がある方向に走り去ってしまった。
あの彼氏、他に好きな女がいるのに彼女の浮気は許せないんだな。
さて、これで貸し借りなし。
一件落着だな。
でも、あの様子では女性客と彼氏は2ヶ月も保たないかもしれない。
「勇者様ならこんなツボ必要ないでしょう。自力で幸せになれるのでは?」
蓮はニコニコ笑いながら言った。
余計なことに首を突っ込みたくない。
蓮の穏やかな生活を脅かされたくない。
その為にはリアムには勇者でいてもらわなくては困る。
「蓮はそう思うのか」
リアムは少し寂しそうな、失望したような表情をした。
いつも明るくポジティブなこいつがこんな表情をするなんて珍しい。
……もしかして精神的に相当参っているのだろうか。
この村にいる限りリアムは多分幸せになれない。
占わなくても分かる。
この村の連中はリアムの優しさをずっと搾取し続けるだろう。
蓮も含めて。
だが、リアムがこの村を出て行けば、間違いなくこの村は滅びると思う。
それほどに外の魔物は強くなり、数も増えている。
最近はリアムが魔物を倒さない日はないほどである。
日に日にリアムの表情は疲れと陰りを見せている。
しかし、蓮も含めて村の連中はリアムを手放す気は全くない。
こんなに便利で愚かなお人好しを逃してたまるか。
「あのさ、蓮。俺の将来を占ってくれないか?」
リアムは代金を机に置きながら真剣な目をして言った。
「僕は自分に近い人間は占わない主義なんです。それに自分に近ければ近いほどよく見えませんし……」
一度、自分の将来について占いの練習のために占ったことがある。
何故か占っている途中で頭が痛くなり、続行不可能になったっけ。
恐らく自分の運命を変えるような占いは出来ないのであろう。
それは蓮に近い人間も同様であった。
リアムの将来も蓮は占うことが出来ない。
「なるほど。蓮は自分のことも占えないのか」
「そうですよ。なのでお代はお返しします」
蓮が代金をリアムに返そうとすると、リアムが赤い小さなツボを素早く懐に入れた。
「これ貰うよ」
「あ、ツボ! 返してください!」
蓮がツボを取り返そうとリアムの懐に手を伸ばすと、リアムにその手を掴まれた。
昔と全然違うがっしりとした手だった。
度重なる魔物退治で鍛えられたのだろうか。
「嫌だ。代金払ったし。足りない分は親友割引で頼む」
リアムはにっと明るく笑った。
確か昔はこんな風に笑う奴だった。
久しぶりにリアムの素の表情を見た気がする。
「泥棒勇者!」
蓮がふくれっ面をしていると、リアムがポンポンと蓮の烏帽子を叩いた。
「人聞きの悪いことを言うなよ、蓮」
「ふん!」
蓮がリアムからプイッと顔を背けた。
リアムがよしよしと蓮の烏帽子を撫でた。
「今日も夜遅くまでここで占いするのか?」
「まあね。日銭を稼がなきゃいけませんから」
蓮がぶすっとした表情で言った。
勇者様とは違って蓮には余裕はない。
毎日生きていくのに精一杯だ。
さすがに勇者様は蓮より余裕があるはずだ。
強い魔物を倒す度に王国から褒賞金として金貨が出るシステムがあるのを蓮は知っている。
……村長が着服してなければな。
気の所為かもしれないが、リアムの緑色のシャツがくたびれているような気がする。
リアムは綺麗好きだから、蓮の狩衣のように汚れはない。
……興味本位で調べて村長の不興を買いたくないので、気の所為ということにしよう。
「蓮、無理だけはするなよ」
リアムが手をひらひらさせながら去って行った。
相変わらず食えない男だ。
同じ孤児院育ちのくせに動作に妙に品があるのが憎らしい。
ついこの間まで孤児院で寝食を共にしていたのだが、リアムのお行儀の良さは院長先生も絶賛していた。
物心ついた頃からずっと片時も離れず一緒にいるが、どこで礼儀作法を身に着けたのか。
謎の多い男である。
「どうでもいいけど」
蓮はボーとしながら、肩肘をついて客を待っていた。
リアムが先ほどの女性客に声をかけられていた。
あの女、まだ近くにいたのか。
リアムのこと狙っていそうだったもんな。
お茶する約束なんて放っておけば良いのに。
本当に人が良いな、あいつ。
そんなことするから勘違いする奴が出るんだよ。
前にリアムを巡って女性同士で刃傷沙汰になったこともある。
あれは本当に怖かった。
リアムが止めてなんとか収まったけど。
ちなみに占い女性客の八割はリアムとの相性診断を希望する。
正直かなり飽きているし、ウンザリしている。
もっと面白い相談ややりがいのある相談をして欲しい。
そもそも僕にはリアムのことは占えないし。
毎回適当なことを言って、誤魔化しているけど。
そんなに女性達が夢中になるほどリアムは良い男なのだろうか。
蓮には気に食わない男にしか見えないが。
女性客がリアムの腕になれなれしく腕を絡めたのを見て、蓮は少し苛立った。
本当に隙だらけだな、あいつ。
もう刃傷沙汰は勘弁してくれよ。
リアムが困ったように微笑んでいる。
今回こうなったのは僕のせいだけどね。
リアムに貸しが出来るなんて癇に障るから、返すことにした。
「あなたの彼女が勇者様にちょっかい出していますよ」
蓮は女性客の彼氏の場所を占いで突き止め、密告した。
女性客の彼氏は畑を耕す手をピタッと止めた。
「なんだって?」
「あなたの彼女が勇者様と仲良くお茶しています」
「あの女!!」
女性客の彼氏は鍬を放り投げると、喫茶店がある方向に走り去ってしまった。
あの彼氏、他に好きな女がいるのに彼女の浮気は許せないんだな。
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一件落着だな。
でも、あの様子では女性客と彼氏は2ヶ月も保たないかもしれない。
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