聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜

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第27話 私、疑われてます!?

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次の日、私とタリアンさんは並んで人気ひとけのない長い廊下を歩いていた。
大きな窓からは、午後の明るい日差しが差し込んでいる。

私は朝からレイとともに城へあがり、メイドの仕事をしていた。
すると、午後をすぎた頃、執事長であるタリアンさんに呼ばれたのだ。

「おい、ミツキ。ちょっと来い」
タリアンさんの眉間にはしわが寄っていた。

「あ、はい」
なんだろう?私、何かやらかしちゃったかな!?
と不安に思いつつ、今に至る。

長い廊下を進みながら、タリアンさんはおさえた声で問う。
「なあ、お前はいったい何者なんだ」
「っ、……?」

隣を歩くタリアンさんを見上げる。
「普通に、ですけど」
「は?舐めてんのか」

ひえ~~~っ、答え方、間違えた!?
めっちゃ斜め上から睨まれてるっ

「お前がことくらい分かる」
「ですよねっ、スミマセン」

ふと、タリアンさんが足を止めた。
「なあ、ミツキ。俺は面倒事が嫌いだ。とくにに関わるとな事がない。だが、もし、お前が本当に困ったら、どうしようもなくなったら、俺を頼れ」
彼は、まっすぐ正面を見据えたまま、私にそう言った。

いったい、どういうことなんだろう……

「どうして、そんなこと言ってくれるのですか?」

私が不思議に思って、そう尋ねると、彼はスッと視線をこちらに落として言った。

「お前が、鈍くさくて、バカ正直だからかな」
え?
「それに、残念ながら俺はお前のだ」
「あ……、ありがとうございます?」

私がなぜか疑問形でお礼を言うと、彼は神経質そうな長い指で、銀の眼鏡の細いフレームの鼻の部分を、クイッと押し上げた。
「ふん、俺が上司で良かったな」

そう言って、タリアンさんは私を置いて、さっさと歩き出した。
そのまっすぐ伸びた姿勢の良い執事服の後ろ姿が、陽の光の中、堂々としててかっこいい、と思わず見とれてしまう。
「わっ!待ってください」
置いていかれそうになって、私は慌てて姿勢のよい執事長の後を追いかけた。

タリアンさんに連れて来られたのは、すでに何度か来たことのある執務室。
不思議とここへ来るまでの間、誰にも会わなかった。

私たちが重厚な扉の前に立つと、彼は少し周囲を気にする感じで辺りをうかがいつつ「よし、いいな」と、私に声を掛けた。
私もコクリと頷く。
でも、正直、自分が何のために呼ばれて、これから何が起ころうとしているのか、さっぱり解らない。
うなずいたものの、いったい何に対していいのか、よく解らなかった。

タリアンさんがノックをすると、中から「どうぞ」とルーセルの声が聞こえた。

ギィィィ…………

重厚な扉が重々しく開かれると、そこは昼間なのにカーテンが閉められて、明かりが灯っていた。
中にいたのは、人影が二人。

宰相のルーセル・オライオン・ベシエール。

それから、近衛騎士団長のレイファス・アエラス・ランドルフ。

真ん中の大きな机には、初めてこの世界に来た日の夜には座っていた、この国の王となるアレクシス・ルークス・アウレリオの姿はなかった。

この部屋だけ重厚なカーテンが閉められて、空気が重々しく異様な雰囲気だ。
部屋の中へ進む足が止まる。
背中にスッとタリアンさんの手が回されて、前へと押し出された。
不安になって、レイの顔を見ると、彼も不安そうな困ったような、でも私を拒絶するようだとも取れる、よくわからない表情だった。

「彼女を連れて来てくれて、ありがとう。兄さん」
「兄と呼ぶなと言っているだろう、気持ち悪い」
「ふふふ……そうだね。でも彼女一人じゃ、ここまで来れなかっただろうから、助かったよ」

はぁ……タリアンはため息をついた。
「じゃあ、俺は仕事があるから、戻らせてもらう」
彼がきびすを返し、扉のほうへと向かった。

え?私、置いて行かれちゃうの!?
なんか、すごく怖い。不安なんですけど……

タリアンが扉に手をかけて振り返る。
「帰りは……」
「必要ないよ。近衛騎士団長が連れて行くから」
「ルーセル」
だよ」

タリアンが心配そうに私を見たが、部屋を出ていった。

扉の向こうへ消えていく黒い執事服の背中を、私はただ何も言えず見つめていたけれど、やがてその扉も重々しく音をたて、閉まった。

「……たぶん、ね」

ルーセルが意味深に、口元に笑みを浮かべて、一言付け足す。
その一言で、私を怖がらせるには十分だった。

一昨日の晩、落ち込んでた私を励ましてくれて、とても優しく寄り添ってくれていたのに。
今、彼がまとう空気は、別人のようだ。
いったいどうしたというのだろう……。それに、レイは?

レイとは昨日ずっと一緒にいて、私たちの間の距離は、ずいぶんと近くなった。
……と思ってたのは、私だけだったの?

不安でいっぱいで、自然と身体の前で組んだ手を握りしめていた。

「さて……」

ルーセルが私に向かって言う。部屋の空気が重々しくて、のしかかってくるようだ。

「ミツキ、キミを怖がらせるつもりはない。ただ、宰相として、キミにいくつか質問させてくれるかな」
「?……はい」
宰相として?私に訊くことって、何があるというのだろう?

「あ、その前に。この部屋に入って、どう思う?」
「…どうって、いうと?」
「ここの部屋、なんとも思わない?」

どういう意図があって、そんなコトを訊くのかわからなくて不安だけど、私には何もやましいことなんて、無い。
だから、答えるのは勇気がいったけど、素直に感じたことを言った。

「昼間なのに、なんでカーテンが閉められてるのだろう、って思いました。それと、とても空気が重苦しいって……」
「へえ~。、か」

ルーセルは組んだ腕の右手を顎にあて、私を試すように見る。
「ほかには?」
「他には……あ、アレクシス様がいないんだなって」
「……気になる?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、ここのお部屋はアレクシス様が執務をなさるお部屋と思ってたので。勝手に今もルーセルとレイと一緒にいらっしゃるって思ってしまいました。でも、考えたら王様になる方だから、ご公務など色々とお忙しいですよね」
「公務?」
「あ、日中なので、どこかで王様のお仕事をしていらっしゃるのかと……勝手に思ってしまいました。すみません」
「別に謝らなくても構わないよ。……ところで、この部屋の空気が重苦しいと言ったね。この部屋、よく見てごらん」
「え?」

そう言われて、私は部屋をぐるりと見渡して、部屋の片隅の壁あたりが、異様に黒くその空間だけ闇のように染まっているのに気がついた。
何だろう……と目を凝らしてみると、闇の中に金色に光る猫のような眼が見えた。
黒い輪郭がぼんやり浮かび上がって、形が見えてくる。

「きゃっ!」

それは、座っていた腰をあげ、のっそりとこちらへ向かって歩き出す。
ぼんやりとした灯りに黒い姿が照らし出される。

「おっ、大きな黒い猫っ!?」

その生き物は、のし、のし、と1歩ずつ、私にまっすぐ視線を合わせて向かってくる。決して視線を反らしてはいけない、と本能的に思った。

私は1歩2歩後ずさり、すぐにヒールのかかとがドレスのすそに引っ掛かって、大きく尻もちをついた。
猫にしては大きい。歩き方が挑戦的でけものだ。

「え、な、なにっ!?ね、猫、じゃないの!?」

立てなくて、ずるずると尻もちついたまま、後ろへ下がる。
けど、黒い獣の一歩は大きくて。

わかった!これ、肉食獣の顔だ!!

「残念、黒豹だよ」
ルーセルがいつも通りの声音で言う。
どうして、こんなこと!?

「や、やだっ!助けてっ!」

恐怖でどうしようも なくなったとき、私と黒豹との間にレイが身体を滑り込ませて片膝をつくと、私はそのまま彼の胸に強く抱き寄せられた。
視界を彼が身体で覆って、黒豹の姿を私から隠してくれた。

「もういいだろ!?こいつは見えるけど、ほんとうに何も知らないんだ。ただのなんだよ」

ん……?
なんか、さり気にディスられてる……?
でも、いい。彼は私を守ってくれている。
私は怖くて震えが止まらず、レイにしがみついていた。
犬猫は好きだけど、至近距離での肉食獣はさすが無理。恐すぎるよ……

「レイ~。まだ途中なのに、台無しだ。近衛騎士団長がそんなに甘くてどうするんだよ」
ルーセルがいつもの飄々ひょうひょうとした声音こわねで、レイに文句を言う。

「本気で怖がってる」
「はあぁ、この実験はおしまいだ。お前の甘さは、いつか足をすくわれるぞ。気をつけろ、騎士団長」
「……覚えておくよ」

じ、実験って、なにっ!?

「アーロ、もういいよ。協力してくれてありがとう」
黒豹は呼ばれて、ルーセルの傍に寄る。彼の手から何かを貰うと、その姿はすぅーっと消えていった。

「さて、キミが精霊の姿が見えるということは解った。アーロはボクが使役する闇の精霊だ。黒豹なのに、黒猫はヒドイなぁ。アーロがキレなくて良かったよ」
「そのための……実験、だったの?」

至近距離にあるレイの顔を見上げると、彼は眉根を寄せて目を伏せた。
「悪かった……」
ルーセルは腕組をして、私を見る。
「見えるかどうかは、大した問題じゃない。キミがなんの力を持っているか、北の大魔法使いと関係があるのか、知りたかったんだ。場合によっては、僕たちはキミをアレクシスに近づけるわけにはいかない」
いつもの口調だけれど、まだ疑っているんだ。
「わ、私っ、力なんてないですっ!大魔法使いも知りませんっ!ただの人間ひとですっ」
「……そうかな。僕にはそうは思えないけど。あのね、ミツキ…」

ルーセルが何か言いかけたとき、バァンとすごい音を立てて、部屋の横にあった続き扉が開けられた。

そこに立っていたのは、ものすごく怒った顔をしたアレクシス様だった。
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