聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜

文字の大きさ
37 / 57

第37話 アレク様と呼ばせていただきます?

しおりを挟む
目を覚ますと、私は城の一室のベッドにいた。

あれ?私……。
確か、アンジェリカ王女を部屋に運んで、アレクシス様の具合を聞いたとこまで思い出せるけれど、そのさきどうしたんだっけ?

「ミツキ!気がついたかっ!?」

枕元のほうからレイの声がして、そちらに顔を向けると、椅子に腰掛けたレイが身を乗り出し、こちらを覗き込んでいた。

「……レ、イ?」
「大丈夫か?」
レイのほうが、疲れた顔をしてるよ?
そう言いたかったけど、うまく声が出せなかった。

「馴れない力を使い過ぎて、アレクの部屋で倒れたんだ」
「そう……、なんだ」

「ミツキ!目が覚めたのかい?」
レイの後ろから、ルーセルが顔を覗かせる。
「……ルー、セル?」
「キミは無茶しすぎだよ。部屋にいるようにって言ったのに」
「あ……、ごめん、なさい」
「でも、アンジェリカ王女を助けてくれて、本当にありがとう。キミに感謝するよ」
「いえ」
彼は、いつものチャラけた様子ではなく、本当に私のこと心配してくれていたことが伝わってくる。

私が気を失ってから、丸1日眠っていたらしい。
アレクシス様の怪我も出血が多かったものの、思うほどひどくはないこと、アンジェリカ王女は、あの夜の出来事を覚えていないことなど聞いた。

「そっか。王女様はやっぱり操られていて、記憶が無いんだね。……良かった」
私はホッとして言った。

「良かった?」
レイが不思議そうに訊く。
「王女様と以前お庭でお会いしたとき、ミレイユのこと信頼してそうだったから。なのに裏切られて、あんな酷いこと言われたなんて。そんなのかわいそうだし、知らないほうがいいと思うから」
ガゼボで、歴史の授業をサボりたいと子供らしくお願いするアンジェリカ姫と、困ったように優しく笑うミレイユの二人のやり取りが思い浮かぶ。
幼い姫に向ける眼差しは、とても優しい目だったのに。

「ミツキが助けてくれたことも覚えてないの、残念じゃない?王女に恩を売るチャンスなのに」
ルーセルがそんなことを言った。
彼らしいなぁ~
私は如何いかにもらしくて、苦笑する。
「そんなの別にいいよ。ドラゴンとか、あんな恐いこと覚えてない方がいいよ。それに、アレクシス様に怪我させちゃったことも、王女様が一番辛いことだろうから」
操られてたとは言え、自分を助けに来てくれた兄に、次期王様になる人に刃を向けて怪我をさせただなんて、引け目を感じてしまうだろう。

レイがため息混じりに言った。
「あんたって、さぁ……」
「ん?」
「ほんと、他人ひとのことばっか心配して、自分のことは全然なのな」
「え?」
「あんたは優しすぎるんだよ。もう少し自分のことも大切にしろよ」
「レイ……」

そんなこと言われたの、初めてだ……

「レイも人のこと言えないだろ。お前もなっ」
いてっ」
バシッとルーセルに背中を叩かれて、レイが顔をしかめた。

「ミツキよりマシだ」
「いいや、どっこいどっこいだな」
「最近はそんなことない」
「まだまだ子供だよ」
そんなことない、いいやそんなことある、などと言い合う二人が面白くて、兄と弟がじゃれてるみたいで可愛くて、私もつられて笑ってしまった。

そのあと、私はレイに付き添われて執務室へ行き、もう仕事をしているアレクシス様に会った。
「失礼します」
私が部屋の中へ入ると、正面の執務机でアレクシス様は書類の山にもれていた。

「具合はどうだ」
「大丈夫です。たくさん寝たのでスッキリです」
私がニッコリ笑って答えると、いつもの調子で嫌味でも言われるかと思ったけど、
「そうか」
と、さらりと一言返ってきただけだった。
なんだか意外だったので、少し驚いて、彼をぼんやりと見つめてしまった。

アレクシス様は静かにペンを置くと、椅子から立ち上がり、私の方へとゆったりと歩いてきた。
たっぷりとした白いシャツの下の、左腕に包帯が分厚く巻かれているのが見て分かる。
痛々しい……。

「ミツキ。俺が駆けつけるのが遅くなり、すまなかった。お前を危険な目に合わせて申し訳ない」
そう言って、アレクシス様が頭を下げた。私は慌てて言う。
「そんな、顔をあげてください!アレクシス様は私を助けてくださいました!」
アレクシス様は、静かで優しい瞳で私をまっすぐに見ていた。
「俺はお前のこと、少々誤解していたようだ。ただのお節介かと思っていた」
うっ……

「生まれてきた意味がないなんて、そんなことはない。アンジェリカにも幸せになる権利はある」
あ、その言葉……。
私がミレイユに言ったこと?

「お前には信念があって、ちゃんと内に芯が通っていたんだな。きっとお前を育てた者は、良い両親だったのだろう」

え……いきなり、そんなこと言われたら……
アレクシス様は空色の瞳を細めて、とても優しくうっすらと笑みを浮かべた。

「アンジェリカを助けてくれて本当に感謝する。ありがとう」
「アレクシス様……」

どうしたんですか……いきなり別人です。
透き通るような空色の瞳が綺麗で。
泣いてしまいそうになる……

「それから、俺のことはアレクと呼べ」
「は?」
「お前にはそう呼ぶことをに許可してやろう。に思え」
「…………」
「ほら、呼んでみろ」
「ア……」
「アレクだ」
「え、えっと……ア、レク、様?」
「ハハハ、嬉しいだろう!だからな!」

あなたの方が嬉しそうですが……

泣きそうになった涙は、一気に萎んでいった。
私の後ろでレイが舌打ちしたように聞こえたのだけど、気のせいかな?

「明日はレイが“ヒスイの森”へ調査へ行く。身体が大丈夫そうなら、ミツキも同行しろ」
「ヒスイの森?」
初めて聞きく場所だ。
「レイが一緒だから、大丈夫だろう?」
アレクシス様がちらりとレイの方を見る。
「ああ」
レイは低い声で短い返事をした。

そして、私たちは明日、“ヒスイの森”へ行くことになった。
帰りの馬車の中でレイが教えてくれた。
近頃、この国に存在する森や山、湖など自然界がざわついているらしい。
その原因を探ったり、また大きく異変がないか、レイ達は自然界の調査を行っているらしい。

「明日俺たちが行く、“ヒスイの森”はランドルフ家の管轄かんかつでもある。古い森だから精霊も多く、いやしの力を持つ森だ。とくに緑の精霊はランドルフ家を加護するものでもあるし、守護する関係でもある。俺といれば、妖精が見えるあんたでも危険なことはない」
「へえ、そうなんですね」

少しレイは言葉をきって、言う。
「アレクなりの気遣いだろ……あんたに早く元気になれって」
「え?」

レイは頬杖をついて、馬車の窓の向こうを向いてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

処理中です...