自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月

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兄とユーティリスが親しいのを好ましく思わない人たちがいるらしい、とは知っていた。

アンジェリーナの家は領地経営こそそこそこ上手くいっていたが、他に商売をしているわけでも投資に成功している訳でもない。爵位だって子爵だし、家の歴史だって古い訳でもない。政治的に発言力がある訳でもない。言い換えれば、薬にも毒にもならない家だから、祖父も父も誰かに嫌われることもなく、目立たぬように平穏に社交界で生きてきた。
だが兄は学舎肌の変わり者で、社交界でも偏屈な人物だと遠巻きにされることが多かった。それでもこれまでは現実的に困ったこともなかったし、両親もアンジェリーナもそれまで通りひっそりと静かに生活していた。

流れが変わったのは3年前、アンジェリーナが17歳になって社交界にデビューした直後だ。
気象が例年とは違うと分析した兄が寒波による作物の冷害を予測して議会に進言、それが現実になったからだった。いや、その後に経済損失を計算してそれを国王陛下の前で報告した後だったか。それまで目立った功績を上げたこともない、年も若い人間が急に登用されたことで大いなやっかみを生んだ。

例えば父が議会の重鎮だったら、もしくは経済的にとても裕福なら違ったかもしれない。いやせめてもう少し両親が社交的であれば違ったのか。

ーーー勿論、兄の性格と言動が一番大きな理由だとは思うが。

年上であれ権力者であれ、間違ったことには「違っている」と大きな声で言い、穏やかな物言いが壊滅的に出来ない。協調性に難があり、他人と親しい関係を作ることに重要性を持たない。

言っていることが正しくともそれではなかなか理解してもらえないのではないかと妹ながらに心配していたが、アンジェリーナとて人付き合いが上手いタイプではない。気難しい兄をフォロー出来ないことを悩んでいた。

それが1年ほど前から急にユーティリスが友人として兄を訪ねてくるようになった。
激論を戦わせた結果仲良くなったのだと、珍しく楽しそうに語る兄を見て嬉しくなったのを良く覚えている。変わり者の兄と友人になってくれたユーティリスにもとても感謝した。

ただ、話はそれだけでは終わらなかった。兄自身が嫌いなのか兄がどんどん陛下に登用されるのが面白くないのか、アンジェリーナが夜会で嫌みを言われることが増えたのだ。
大まかに分けてそれらの嫌みは2種類あるのだが、男性からは兄に対する悪口、女性からはアンジェリーナ自身の悪口を言われていて、それがまたアンジェリーナ自身の自己肯定感を低くし、自信をなくす理由となった。

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