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「あ、ありがとう、ございます」

家族や邸の使用人以外と話すのは慣れないから、つい吃ってしまう。それが恥ずかしくて小さな声になってしまったのに、ユーティリスはしっかりと聞き取って笑ってくれた。

「このタルトは私の好物なのです。アンジェリーナ嬢も好きだと嬉しいのですが」

子供っぽいはにかんだ笑みを浮かべていても彼の美しさはちっとも損なわれない。いったいどんな奇跡なのかと叫びたくなるのを必死で抑え、精神力を総動員して見つめられながらタルトを一口食べて、アンジェリーナはどうにか笑顔めいた表情を浮かべることに成功した。

「とても、美味しいです。その、ベリーが甘酸っぱくて」

よくやったと自分で褒めたくなる程度にはそつなく受け答えができたのだろう。目の前でユーティリスは嬉しそうに口の端を上げた。

その笑顔に見惚れていた他の令嬢が「私もそのタルトがとても大好きで…」と話し出したので、アンジェリーナを見つめていた視線がやっと逸れる。しかも、同席している令嬢達が我も我もと会話に参加し出したので、やっと息を吐くことができた。

どうにかこのまま席を立つことは出来ないだろうか。

茶会に集まった令嬢のほとんどが羨むテーブルに着きながら、アンジェリーナはひっそりと離席の算段を始める。
だって、どう考えたってここに自分は不似合いだ。もっと華やかで美しい令嬢が席に着いた方が彼のためにもなるだろう。そう考えて、そっと自分の髪を触った。

侍女たちが必死に手入れをしてくれたおかげで艶はある。でも色は冴えない薄茶色だ。そこに収まっているのもぱっとしない顔。「優しそうな顔」だと言われるが、裏を返せばそれくらいしか褒めようがないのだろう。あ、でも、ヘーゼルの瞳は美しいと褒められることもあるけれど。
体型だって、太ってもいないがほっそりしているとも言えない。胸だって特段大きいわけでも、ぺったんこなわけでもない。
つまり、総じて酷く悪くはないが、大したことがない容姿なのだ。

そんな自分の現状を冷静に把握していたからか、昔から積極性に欠ける性格だった。変わりにキツい性格でもなかったから周囲の人には好かれたけれど、元来の行動範囲が狭いので、それが正当な評価かは分からない。それに、アンジェリーナに好意的な男性達も女性としての好いてくれることはなかったので、女性的な魅力はなかったのだろう。
趣味は読書だけれど、好きな恋愛小説や冒険小説を読んでいただけだから、何かの学問に精通してるわけでもない。自分がモテないとは気づいていたけれどそれに不満を感じていないから、努力もしない。

そうやって出来上がった後ろ向きなアンジェリーナが突然貴公子に話しかけられたら、早々に逃げたくなって当然と言うものだ。
だって彼はみんなの憧れなのだ。そんな人と親しげに話したりなんかしたら、きっとまた嫌な思いをする。そう考えたらついでに先日の出来事まで思い出して、アンジェリーナの眉が悲しげに下がった。
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