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Case56.幽霊屋敷で出会った男④
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普段の落ち着いた声音からは考えられない必死の叫びが聞こえ、私は驚いて顔を上げた。
そして、さらに驚くことになった。
「は⁉︎」
柄にもない声を上げたのは無理もなかった。東さんと零さんが、邸宅の上階から落下してきたのだ。
状況が全く読み込めなかったが、私は神宮寺さんと共にすぐその場から離れた。正確には、神宮寺さんに腕を引かれて、離れた。刹那、拳銃を手に持つ東さんの姿が視界の端に写った。
くぐもった銃声が2発ほど聞こえた後、東さんと零さんは地面に転がりながら着地していた。怪我はないようだが、事情を聞かずにはいられなかった。
ーカイリ『幽霊屋敷で出会った男』第4章ー
※
「兄貴あんた、一体俺たちに何を隠している? 過去に泉龍寺小夜と何があった?」
龍の質問に玲央は眉を動かした。が、すぐに溜息をつき、口を開く。
「今は関係ないだろ。わざわざ話すことじゃないよ」
突き放すような口調に、龍は動じず、寧ろ無視しているかのように答えた。
「不信に塗れた上流社会で生きて来た泉龍寺が、他人をーー男の兄貴を下の名前で呼ぶか? 兄貴も同じだ。親しい人間以外、名前で呼んだりしないだろ。
他人に対して人一倍警戒の強い泉龍寺が、兄貴に対して向ける表情は他と違う。恋人でも友人でもない、何らかの関係があるんじゃないのか?」
玲央はやれやれと首を振った。海里がいないことを確認し、彼は口を開く。
「君は騙せないね。江本君と違って弟だから、こちらが嫌になるほど踏み込んでくる」
「そうさせてるのは兄貴だけどな。で? 教えてくれるのか?」
「却下。彼女に聞いても答えは得られないから、脳トレ代わりに考えてみなよ」
玲央は軽口を叩いていたが、額に微かに汗が滲んでいた。龍は思わず深い溜息を漏らす。
「全く。こっちは腹割って色々話したってのに、秘密主義は変わらねえな」
龍の言葉を聞いて、玲央は悲しげな笑みを浮かべた。
「ごめんね。これは“約束”なんだ」
「約束・・・? 一体どういう」
「捜査を続けようか」
龍の言葉を遮るように壁に預けた体を起こし、玲央は部屋を出て行った。龍は不信感を覚えながらも、今は捜査に集中するべきだと思い直し、兄の背中を追った。
「随分と喧嘩口調だったな。探偵サン」
2人と別行動を取っている海里に、またしても圭介が話しかけた。
海里は変わらず、何でもないような笑みを浮かべて答える。
「そうですか? 私は思ったことを口にしただけです。私としては、あそこで反論なさらなかったあなたの行動が、霊がいないことを示しているように思えますよ」
「やっぱり騙せないねえ。まあ、そうだな。少なくともーー霊による殺人じゃないことは事実だ。だが、人が来たら姿を隠す霊もいるし、完全にいないとは言い切れねえよ」
「専門家ならではの意見ですね」
海里は文雄と風香に許可を得て、3階の空き部屋ーー今は亡きこの館の元主人・立石鈴香の部屋ーーに足を運んだ。理由は、正の遺体があった柵から、斜め上に位置する部屋だからである。変わらず調査をしているため、圭介も同行した。
海里は部屋に入るなり窓を開け、柵までの距離を見ていた。窓際に手をかけて身を乗り出し、下手をすれば落ちてしまいそうだった。
「やっぱり、普通に転落してもあそこには落ちない。となると・・・・」
海里はゆっくりと部屋の中を見渡し、埃を被った衣装箪笥に視点を定めた。近づいて凝視すると、箪笥のノブだけ埃がなく、人が触れたような後がある。海里は笑みを浮かべた。
勢いよく扉を開けると、中には服がぎっしりと詰まっていた。圭介は海里の考えを察したのか、苦笑いを浮かべて声を上げる。
「おいおい、まさかとは思うが、服の袖同士を縛って、滑り台みたいにしたなんて言うんじゃないだろうな」
「勘が鋭いですね、神道さん。滑り台は正解ですよ。私が探しているのは、長い絨毯のようなものです。埃を被ったここが、妙だと思ったのですが・・・・」
言いながら、海里はかけてあった服を箪笥から出し、圭介に渡して行った。彼は特に文句を言うことなく受け取り、海里の行動を見つめている。
全ての服を出し終えると、海里は箪笥の引き出しを開いたり、壁を叩いたりして、隠し部屋などがないか探していた。
「ここにはありませんね、残念」
「さすが、妙なところに目を付けるな。でも、そんな殺人の証拠になりそうなもの、とっくの昔に処分しているんじゃないか?」
「その可能性は高いですね。だから先程、東堂さんに頼みました」
「何を?」
海里はにっこりと笑い、何食わぬ顔で続けた。
「この邸宅周辺にある防犯カメラの映像解析、使用人の方へゴミ出しについての質問、犯人自らの手で捨てた可能性もありますから、回収業社などへ電話があったかどうかも」
手回しの速さに圭介は思わず苦笑した。どこか嬉しそうに見えたのが不思議だった。
2人は出した衣装を箪笥に戻すと、邸宅の庭に回った。その時、圭介は気になっていたことを尋ねる。
「探偵サン」
「何ですか?」
「さっき、何で俺が神主の息子だと分かった? 俺は名前しか名乗っていない。下調べなんてしてねえだろ?」
海里は少し考えた後、笑って答えた。
「名前と礼儀作法ですよ。
まず、“神”の字がつく名前が、神社に関連しているのではと思ったんです。神道という言葉自体、日本の民族宗教のことですしね。除霊師と名乗っていますから宗教関連かな、とは想像がつきます。加えて、あなたの礼儀作法は洗練されている。しかしそれは、上流社会と呼ばれる人々の作法より、僧侶の立ち振る舞いに近かった」
「僧侶? だったら、住職の息子って考えはなかったのか?」
「そこは私も少し考えました。しかし住職の息子で、しかも成人しているとあれば髪を剃り落としているのが普通のはずです。あなたはそうしていませんから、神主の息子ではないかと」
海里はそこまで言うと、少し間を開けて「他にご質問は?」と尋ねた。圭介は一連の推理を聞き、肩を揺らして笑う。
「なるほどなあ、やっぱりあんたは本物だ。探偵なんて怪しい職業、偽の経歴の可能性もあると見たが、見当違いだったらしい」
「除霊師も怪しい気がしますけど・・・満足して頂けたのなら、何よりです」
しばし笑い声が空間を支配したが、突然、頭上でガラスの割れる音がした。驚く2人が顔を上げようとすると、同時に怒鳴り声が聞こえる。
「江本、退け!」 「江本君、退いて!」
「は⁉︎」
2人が揃って驚くのも無理はなかった。
なぜなら、龍と玲央の2人が、3階の窓から落下して来たからだ。海里が呆然としていると、圭介が彼の腕を掴んで強引にその場から距離を取らせ、自分の背後に隠すように立った。
よく見ると龍は銃を構えており、彼は外壁を伝う水道管を撃ち、壁から外れた水道管に捕まって、2人は地面に転がった。
「大丈夫ですか⁉︎ 凄い音がしましたよ!」
窓ガラスが割れた音と銃声で驚いたのか、騒ぎを聞きつけた文雄たち3人が駆けつけた。2人は土埃を払いながら、ゆっくりと立ち上がる。
龍が拳銃をしまいながら言った。
「ご心配なく。怪我はしていません。それよりも、非常時とはいえ勝手なことをしてしまいました。申し訳ありません」
「いえいえ。ご無事で何よりです。しかし、一体何が・・・?」
文雄の質問は、海里と圭介も尋ねたいことだった。すると、今度は玲央が答える。
「私たちも何が起こったかよく分かりませんから、分かる範囲でご説明します」
10分前。2人は、先ほど海里が検分した立石鈴香の部屋にいた。
「滑り台?」
「そう。当然、実際の滑り台じゃなくて、カーペットみたいなものを垂らして、被害者を落とす・・・っていう方法も、無きにしも非ずだと思うんだ」
「随分子供らしい考えだが、否定はしないな。この部屋は現場の斜め上にあるし、屋根の線を消せば、ここから落ちた可能性が1番高い」
「だろ? だから、ちょっと探してみようよ。江本君が1度調べているだろうけど、以前の水嶋大学の時みたいに、暗号の紙でも出てきたらたまらないから」
龍は摩訶不思議と感じた暗号文を思い出し、溜息混じりに頷いた。
「確かに、あの面倒は遠慮したいな」
2人はしばし部屋を捜索していたが、結果は海里の時と変わらなかったので、引き上げようとした。
そしてその時、“それ”が起こったのだ。
「何か風が強いな。窓、空いてる?」
「いや、閉めた。気のせいだろ。行くぞ」
「ちょっと待って。この風・・・強すぎ・・・・!」
次の瞬間、2人の体は宙に浮いていた。大柄な2人が宙に浮くなど、自分たちでも信じられなかった。すぐに何かを掴もうとしたが、物置と化したこの部屋には、掴めるものなど何もない。2人はそのまま吹き飛ばされ、窓に激突しそうになった。
「龍!」
「分かってる!」
龍は銃を取り出し、窓に3発撃った。2人は穴の空いた窓を突き破り、先程の行動に出たのだ。突然のことにここまで対応できるのはさすがと言えるがーー
「無茶苦茶な話ですね・・・しかし、もしそのまま何もせずに飛んでいたら、正さんと同じことになっていた可能性が高いかもしれません」
「やっぱりそうか。だが、一体何だっていうんだ? 窓が閉まっていたのに、どこからともなく風が吹き、俺たちを飛ばして殺そうとするなんて意味が分からない」
龍の言葉に同意しつつ、玲央はその場に屈んで地面落ちたガラス片を拾った。ガラス片を凝視していた彼は、突然ハッとして目を見開く。
「この窓ガラス、まだ新しい。埃も汚れも付いていない。他の破片もそうだ。あの部屋は物置と化して埃が溜まっていたのに、窓ガラスだけ綺麗なんですおかしいよ。土汚れは、地面に落ちた時に付いたものだろうしね」
「となると、犯人は正さんを殺害した後に窓ガラスを新しい物に変えた。そのことから、正さんを殺した方法も今と同じと考えて良いでしょうね。そして今の状況でーー」
海里の発言に、龍と玲央が続けた。
「内部犯の可能性が高くなった」
そして、さらに驚くことになった。
「は⁉︎」
柄にもない声を上げたのは無理もなかった。東さんと零さんが、邸宅の上階から落下してきたのだ。
状況が全く読み込めなかったが、私は神宮寺さんと共にすぐその場から離れた。正確には、神宮寺さんに腕を引かれて、離れた。刹那、拳銃を手に持つ東さんの姿が視界の端に写った。
くぐもった銃声が2発ほど聞こえた後、東さんと零さんは地面に転がりながら着地していた。怪我はないようだが、事情を聞かずにはいられなかった。
ーカイリ『幽霊屋敷で出会った男』第4章ー
※
「兄貴あんた、一体俺たちに何を隠している? 過去に泉龍寺小夜と何があった?」
龍の質問に玲央は眉を動かした。が、すぐに溜息をつき、口を開く。
「今は関係ないだろ。わざわざ話すことじゃないよ」
突き放すような口調に、龍は動じず、寧ろ無視しているかのように答えた。
「不信に塗れた上流社会で生きて来た泉龍寺が、他人をーー男の兄貴を下の名前で呼ぶか? 兄貴も同じだ。親しい人間以外、名前で呼んだりしないだろ。
他人に対して人一倍警戒の強い泉龍寺が、兄貴に対して向ける表情は他と違う。恋人でも友人でもない、何らかの関係があるんじゃないのか?」
玲央はやれやれと首を振った。海里がいないことを確認し、彼は口を開く。
「君は騙せないね。江本君と違って弟だから、こちらが嫌になるほど踏み込んでくる」
「そうさせてるのは兄貴だけどな。で? 教えてくれるのか?」
「却下。彼女に聞いても答えは得られないから、脳トレ代わりに考えてみなよ」
玲央は軽口を叩いていたが、額に微かに汗が滲んでいた。龍は思わず深い溜息を漏らす。
「全く。こっちは腹割って色々話したってのに、秘密主義は変わらねえな」
龍の言葉を聞いて、玲央は悲しげな笑みを浮かべた。
「ごめんね。これは“約束”なんだ」
「約束・・・? 一体どういう」
「捜査を続けようか」
龍の言葉を遮るように壁に預けた体を起こし、玲央は部屋を出て行った。龍は不信感を覚えながらも、今は捜査に集中するべきだと思い直し、兄の背中を追った。
「随分と喧嘩口調だったな。探偵サン」
2人と別行動を取っている海里に、またしても圭介が話しかけた。
海里は変わらず、何でもないような笑みを浮かべて答える。
「そうですか? 私は思ったことを口にしただけです。私としては、あそこで反論なさらなかったあなたの行動が、霊がいないことを示しているように思えますよ」
「やっぱり騙せないねえ。まあ、そうだな。少なくともーー霊による殺人じゃないことは事実だ。だが、人が来たら姿を隠す霊もいるし、完全にいないとは言い切れねえよ」
「専門家ならではの意見ですね」
海里は文雄と風香に許可を得て、3階の空き部屋ーー今は亡きこの館の元主人・立石鈴香の部屋ーーに足を運んだ。理由は、正の遺体があった柵から、斜め上に位置する部屋だからである。変わらず調査をしているため、圭介も同行した。
海里は部屋に入るなり窓を開け、柵までの距離を見ていた。窓際に手をかけて身を乗り出し、下手をすれば落ちてしまいそうだった。
「やっぱり、普通に転落してもあそこには落ちない。となると・・・・」
海里はゆっくりと部屋の中を見渡し、埃を被った衣装箪笥に視点を定めた。近づいて凝視すると、箪笥のノブだけ埃がなく、人が触れたような後がある。海里は笑みを浮かべた。
勢いよく扉を開けると、中には服がぎっしりと詰まっていた。圭介は海里の考えを察したのか、苦笑いを浮かべて声を上げる。
「おいおい、まさかとは思うが、服の袖同士を縛って、滑り台みたいにしたなんて言うんじゃないだろうな」
「勘が鋭いですね、神道さん。滑り台は正解ですよ。私が探しているのは、長い絨毯のようなものです。埃を被ったここが、妙だと思ったのですが・・・・」
言いながら、海里はかけてあった服を箪笥から出し、圭介に渡して行った。彼は特に文句を言うことなく受け取り、海里の行動を見つめている。
全ての服を出し終えると、海里は箪笥の引き出しを開いたり、壁を叩いたりして、隠し部屋などがないか探していた。
「ここにはありませんね、残念」
「さすが、妙なところに目を付けるな。でも、そんな殺人の証拠になりそうなもの、とっくの昔に処分しているんじゃないか?」
「その可能性は高いですね。だから先程、東堂さんに頼みました」
「何を?」
海里はにっこりと笑い、何食わぬ顔で続けた。
「この邸宅周辺にある防犯カメラの映像解析、使用人の方へゴミ出しについての質問、犯人自らの手で捨てた可能性もありますから、回収業社などへ電話があったかどうかも」
手回しの速さに圭介は思わず苦笑した。どこか嬉しそうに見えたのが不思議だった。
2人は出した衣装を箪笥に戻すと、邸宅の庭に回った。その時、圭介は気になっていたことを尋ねる。
「探偵サン」
「何ですか?」
「さっき、何で俺が神主の息子だと分かった? 俺は名前しか名乗っていない。下調べなんてしてねえだろ?」
海里は少し考えた後、笑って答えた。
「名前と礼儀作法ですよ。
まず、“神”の字がつく名前が、神社に関連しているのではと思ったんです。神道という言葉自体、日本の民族宗教のことですしね。除霊師と名乗っていますから宗教関連かな、とは想像がつきます。加えて、あなたの礼儀作法は洗練されている。しかしそれは、上流社会と呼ばれる人々の作法より、僧侶の立ち振る舞いに近かった」
「僧侶? だったら、住職の息子って考えはなかったのか?」
「そこは私も少し考えました。しかし住職の息子で、しかも成人しているとあれば髪を剃り落としているのが普通のはずです。あなたはそうしていませんから、神主の息子ではないかと」
海里はそこまで言うと、少し間を開けて「他にご質問は?」と尋ねた。圭介は一連の推理を聞き、肩を揺らして笑う。
「なるほどなあ、やっぱりあんたは本物だ。探偵なんて怪しい職業、偽の経歴の可能性もあると見たが、見当違いだったらしい」
「除霊師も怪しい気がしますけど・・・満足して頂けたのなら、何よりです」
しばし笑い声が空間を支配したが、突然、頭上でガラスの割れる音がした。驚く2人が顔を上げようとすると、同時に怒鳴り声が聞こえる。
「江本、退け!」 「江本君、退いて!」
「は⁉︎」
2人が揃って驚くのも無理はなかった。
なぜなら、龍と玲央の2人が、3階の窓から落下して来たからだ。海里が呆然としていると、圭介が彼の腕を掴んで強引にその場から距離を取らせ、自分の背後に隠すように立った。
よく見ると龍は銃を構えており、彼は外壁を伝う水道管を撃ち、壁から外れた水道管に捕まって、2人は地面に転がった。
「大丈夫ですか⁉︎ 凄い音がしましたよ!」
窓ガラスが割れた音と銃声で驚いたのか、騒ぎを聞きつけた文雄たち3人が駆けつけた。2人は土埃を払いながら、ゆっくりと立ち上がる。
龍が拳銃をしまいながら言った。
「ご心配なく。怪我はしていません。それよりも、非常時とはいえ勝手なことをしてしまいました。申し訳ありません」
「いえいえ。ご無事で何よりです。しかし、一体何が・・・?」
文雄の質問は、海里と圭介も尋ねたいことだった。すると、今度は玲央が答える。
「私たちも何が起こったかよく分かりませんから、分かる範囲でご説明します」
10分前。2人は、先ほど海里が検分した立石鈴香の部屋にいた。
「滑り台?」
「そう。当然、実際の滑り台じゃなくて、カーペットみたいなものを垂らして、被害者を落とす・・・っていう方法も、無きにしも非ずだと思うんだ」
「随分子供らしい考えだが、否定はしないな。この部屋は現場の斜め上にあるし、屋根の線を消せば、ここから落ちた可能性が1番高い」
「だろ? だから、ちょっと探してみようよ。江本君が1度調べているだろうけど、以前の水嶋大学の時みたいに、暗号の紙でも出てきたらたまらないから」
龍は摩訶不思議と感じた暗号文を思い出し、溜息混じりに頷いた。
「確かに、あの面倒は遠慮したいな」
2人はしばし部屋を捜索していたが、結果は海里の時と変わらなかったので、引き上げようとした。
そしてその時、“それ”が起こったのだ。
「何か風が強いな。窓、空いてる?」
「いや、閉めた。気のせいだろ。行くぞ」
「ちょっと待って。この風・・・強すぎ・・・・!」
次の瞬間、2人の体は宙に浮いていた。大柄な2人が宙に浮くなど、自分たちでも信じられなかった。すぐに何かを掴もうとしたが、物置と化したこの部屋には、掴めるものなど何もない。2人はそのまま吹き飛ばされ、窓に激突しそうになった。
「龍!」
「分かってる!」
龍は銃を取り出し、窓に3発撃った。2人は穴の空いた窓を突き破り、先程の行動に出たのだ。突然のことにここまで対応できるのはさすがと言えるがーー
「無茶苦茶な話ですね・・・しかし、もしそのまま何もせずに飛んでいたら、正さんと同じことになっていた可能性が高いかもしれません」
「やっぱりそうか。だが、一体何だっていうんだ? 窓が閉まっていたのに、どこからともなく風が吹き、俺たちを飛ばして殺そうとするなんて意味が分からない」
龍の言葉に同意しつつ、玲央はその場に屈んで地面落ちたガラス片を拾った。ガラス片を凝視していた彼は、突然ハッとして目を見開く。
「この窓ガラス、まだ新しい。埃も汚れも付いていない。他の破片もそうだ。あの部屋は物置と化して埃が溜まっていたのに、窓ガラスだけ綺麗なんですおかしいよ。土汚れは、地面に落ちた時に付いたものだろうしね」
「となると、犯人は正さんを殺害した後に窓ガラスを新しい物に変えた。そのことから、正さんを殺した方法も今と同じと考えて良いでしょうね。そして今の状況でーー」
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