小説探偵

夕凪ヨウ

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Case166.罠③

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「はあ・・はあっ・・・!」

 海里は息切れが激しいことに気がついた。小夜は心配そうに彼を見る。

「江本さん・・・大丈夫?」
「大丈夫です。傷は痛みますが、走る分には問題ありません。」

 海里と小夜は1階に降り、他の招待客がいる場所へ向かっていた。その時、

「意外に早いな。」

背後に茂が現れた。海里は息を呑む。

「なっ・・・⁉︎東堂さんは・・・?」
「今頃兄弟揃って気絶でもしているんじゃないか?」

 2人は愕然とした。茂は銃を取り出し、2人に向ける。

「渡せ。もう1度怪我を負いたいか?あの時は・・・九重浩史が手加減したから生き残った。今度は殺すぞ。」

 海里は壁を背にして、小夜を庇った。

「撃ちたければ撃てばいい。私たちを殺したいのでしょう?それとも、簡単に殺さない理由でもあるんですか?殺す殺すと言いながら、あなたもあなたのボスも、本気で私たちを殺そうとはして来なかった。」

 海里の言葉に茂は笑った。

「・・・・本当、よく気がつく男だ。確かに、“まだ”お前たちは殺せない。正直、東堂兄弟が殺せればいい。あの2人は、これからの我らの計画に確実に邪魔な存在だからな。」
「・・・ではなぜ、私を狙うんですか?私は、確かに警察に協力しています。ですが、あなたたちの障害になるようには思えない。」

 海里の言葉に、茂は何も言わなかった。やがて、

「全ての原点を探せばいい。そうすれば分かるさ。」
「は・・・?」

 その後は、一瞬だった。いつのまにか2人の背後にいた男が小夜を拘束し、海里は茂に脇腹を蹴られて地面に沈められた。

「江本さん!・・・離して‼︎」
「調べろ。」

 男は小夜の髪を掴んだり、腕を無理に上げさせたりして何かを探していた。海里は起きあがろうとするが茂にもう1度腹部を蹴られ、どこかの骨が折れるような鈍い音がした。

「小夜さん・・・‼︎やめて・・やめてください!どうしてこんなことをするんですか⁉︎彼女が何をしたと言うんです!」
「何かしたわけじゃない。ただこれからの私たちに必要な情報を持っているから調べているだけだ。」
「ふざけないでください!そんな・・物みたいに・・・‼︎」
「物じゃないか。少なくとも、父親にとってはそうだったのだろう?私たちが強引に取り調べるより、よほどタチが悪いと思うが?」

 話が通じない。海里はそう思った。骨折の痛みで起き上がることもできず、小夜が殴られ、怪我を負わされることを見るしかできなかった。

「2人から離れて。」

 玲央によく似た声に、2人はハッとした。

「武・・虎、さん・・・。どうして・・・?」
「伊吹から連絡が回ってきてね。心配だから来ちゃった。」

 武虎は視線を動かして茂を見た。2人はしばらく睨み合いを続けていたが、やがて茂が顎で小夜から離れるよう指示した。

「やはりボスの言う通り、最も消すべき対象はお前のようだな、東堂武虎。」

 茂の言葉に武虎は胡散臭い笑みを浮かべた。

「それは光栄だね。俺も、現時点では君が最も邪魔だと思っているよ。」

 茂は軽い舌打ちをし、男たち共に闇へ消えて行った。そして、それが合図だったとでも言うかのように、屋敷中にいたテロリストたちは一瞬でいなくなった。
 武虎は周囲に敵がいないことを確認した後、急いで2人に駆け寄る。

「江本君・・・これは酷いな。痛めているし、肋骨が数本折れてる。天宮君も・・・左足を捻挫してるし、手足にあざが多いね。救急車を呼んでいるから、すぐ病院に行ってくれ。」

 2人が頷くと、武虎はやってきた救急隊員に2人を任せ、龍と玲央の元へ向かった。

「親父⁉︎」 「父さん⁉︎」 
「無事?」

 玲央は一瞬苦しげな顔をし、龍を見た。武虎は眉を顰める。

「両足を痛めて、左腕は骨折してる。脇腹に受けた銃弾は傷自体深くないけど出血が酷かったから止血した。」
「・・・そう。玲央、君は?」
「利き腕骨折してるし、打撲数カ所。背中の骨も変だし、両足痛めた。多分、完治に1ヶ月はかかる。」
「・・・他の死傷者はいる?」
「死者はいないけど、2名重傷で残りが軽傷。呉橋光雄は幸い怪我もなく生きているけど、招待客は数名負傷した。」
 
 眉を顰め、武虎は絞り出すように呟いた。

「酷いな・・・。」

 武虎の言葉が、現状を締め括っていた。玲央は頷く。龍は脇腹の傷口を抑えながら尋ねた。

「親父、江本と・・・天宮は?」
「天宮君は左足の捻挫と数カ所の打撲で済んだけど、江本君は肋骨骨折してる。」

 龍は荒い息を吐きながら舌打ちをした。

「見事に嵌められたってことか。」
「ああ。この状況だと、しばらく警察・・・特に捜査一課は動けない。君たちという主要な人間が治療に専念しないといけなくなったからね。」
「こんな傷とっとと治すさ。これ以上、奴らの思い通りにさせてたまるか。関係者であろうとなかろうと・・・もう誰も失いたくない。」

         ※

「兄さん・・大丈夫?」
「大丈夫ですよ、真衣。1ヶ月程度で治る怪我です。小説を書く分には問題ありませんし。」
「でも・・・肋骨骨折したんでしょ?全然大丈夫なんかじゃないよ。」
「まあ・・ここまで酷い怪我は負ったことがありませんでしたね。」

 海里は苦笑した。真衣は泣きそうな顔で海里に抱きつく。

「私のことより、自分のことですよ。身辺に気を配ってくださいね。何かあるかもしれませんから。」
 
 真衣は頷いた。海里の横には龍と玲央もおり、危険が及ぶ可能性から病室には3人しかいなかった。

「お2人は大丈夫ですか?私より酷いですよね?」
「まあ、警察になってからこの手の怪我はよく負ったからな。そこまで酷いものじゃないが、今入院するのは避けたかった。足を痛めてなけりゃ、普通に仕事に行ったんだが。」
「無茶を言わないでください。」
「大和さん。」

 大和は深い溜息をついた。

「龍さんは脇腹に銃弾を受けているんですから、その麻酔や痛みが取れるまで派手な運動は禁止です。玲央さんは背骨にヒビまで入っていたんですから、普通の生活ができるわけないでしょう。」
「えー厳しくない?俺たちは大したことないんだけど。」
「体が丈夫ですからそう思われるかもしれませんが、医者の立場からすれば重傷です。自身の丈夫さを過信しすぎたら痛い目に合いますよ。」

 すると、病室の扉が開き、圭介が入ってきた。

「よお、大丈夫か?3人とも。」
「圭介さん。ご心配なく。全員1ヶ月程度で退院できますよ。」

 海里に言われて、圭介は3人を見た。納得がいかないと言うように首を捻る。

「海里たちさっぱりしすぎじゃね?もうちょっと危機感とかさあ・・・。」
「これでも持ってますよ。」

 圭介は顔を引き攣らせた。警察官の2人はともかく、海里までこんな飄々としているとは思わなかったのだ。圭介はお見舞いの品を置き、言った。

「海里は自分が狙われる理由を知ろうとしたんだよな?」
「ええ・・・。まあ、明確な答えはもらえませんでしたけど。」

 圭介はそっか、と言い、顔を曇らせた。彼は少し俯いた後、顔を上げ、笑って言った。

「・・・・怪我が治って、まだその理由を知りたかったら、真衣やテロリストのことを知っている警察と月山神社に来いよ。お前が知らないこと、全部教えるから。」

 その言葉に、海里は以前見た不思議な夢を思い出し、頷いた。

「ありがとうございます。」
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