小説探偵

夕凪ヨウ

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Case167.病院の亡霊①

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「いたた・・・。」
「無理に起き上がらない方がいいよ、江本君。肋骨骨折って君が考えているより重傷なんだから。」

 海里は溜息をつきベッドに体を預けた。
 テロリストたちの罠に嵌った海里たちは、全員が重傷を負い、海里・龍・玲央の3人は仲良く入院していた。また、後輩たちを率いる龍と玲央がいないこともあり、捜査一課はバタバタしていると聞いていた。

「お前も意外に無茶をしたな、江本。」
「仕方なかったんですよ。テロリストたちの猛追が止みませんでしたし、小夜さんを守る以上戦うしかなかった。ただ・・・西園寺茂の強さは予想外でした。」
「そうだな。あの男、頭も相当良いんだろうが、それに加えてあの体術・・・。」
「銃を持ち歩いている以上、射撃の腕もあるよね。天は二物しか与えないんじゃなかったっけ?」
「・・・お2人が言います?それ。」

 そんなことを話している時だった。病室に、1人の青年が入っていた。

「あれ、磯井君。どうしたの?」

 青年は2人の部下らしい。頬に絆創膏を貼っており、こないだの怪我と見られる軽い打撲がスーツの隙間から見えた。

「突然申し訳ありません。警部たちにご相談が。」
「事件か?」
「はい。ここで構いませんか?」

 2人は海里の方を見た。海里は頷く。

「あ、先に紹介しておくね。警視庁捜査一課巡査の磯井義則君。歳は江本君の少し下くらいだと思うよ。」
「初めまして。江本さん。お噂は聞いています。」
「こちらこそ。江本海里です。よろしくお願いします。」

 軽い挨拶を交わした後、義則は咳払いをして、口を開いた。

「小倉病院ってご存知ですか?」
「ああ。確か、郊外にあるここより少し規模の小さい病院だろ?」
「はい。実はそこで、幽霊が出たんですよ。」
「・・・・はあ?」

 3人は声を揃えて首を傾げた。義則は頭を掻きながら続ける。

「先日、病院で深夜の見回りをしていた看護師が目撃したそうなんです。血を流して、真っ赤になった服で歩く、幽霊を!」

 龍は溜息をつき、額を抑えながら言った。

「・・・・あのなあ。お前、仮にも警察だろ?幽霊なんて話、胡散臭いと思わないのかよ。」
「思いましたよ!でも、監視カメラを見たら写っていたんです。」
「幽霊ってカメラに映るものだっけ?」

 呆れた表情をした玲央に、海里は苦笑いを浮かべて言った。

「分かりませんね。専門家にお聞きしましょうか。」

 回診に来た大和は、義則からの話を聞いてなるほど、と言った。

「小倉病院は歴史だけなら神道病院より長いですし、幽霊がいてもおかしくないかもしれませんね。ただ、個人的には恐らく違う。磯井さん・・・でしたっけ?看護師が見た幽霊は、どんな服装を?」
「確か・・入院患者の服を。」
「それならますます胡散臭いですね。現時点では何とも言えませんが、いかにも病院に対して恨みがあるように仕組まれているように考えられる。」
「でも病院なら人が亡くなることくらいあるだろう?どうして恨みなんか?」

 玲央の質問に、大和はすかさず答えた。

「1番考えられるのは“医療ミス”です。あくまで噂ですが、20年ほど前、小倉病院で医療ミスがあったと言う話を聞いたことがある。」

 海里たちは考え込んだ。義則の話は曖昧だったが、過去の医療ミスが本当であれば調べる理由にはなるのだ。

「磯井。その話、他の一課の奴らに言ったか?」
「はい。しかし噂程度ですから動かない方がいいという結論に。」

 龍は少し考え、大和の方を向いた。

「・・・神道。その医療ミスの内容は?」
「確か、手術中に誤って硫酸を患者にかけてしまったとか。」
「それって医療ミスなんですか?明らかに殺意のある行動では?」
「確かにそうですが、僕もよく分からないんです。話が重複した可能性もありますし。」

 玲央は軽く溜息をついた。

「今アサヒは忙しいし、仕方ない。上司に頼もう。」
「えっ、上司ってまさか・・・。」
「うん。伊吹と井上課長。20年前だと警察として働いているのは井上課長しかいないから、何か知っているかもしれないよ。」

 そして、

「お前ら人使いが荒いんだよ。後輩に任せればいいだろ?」

 洋治は面倒臭いと言った顔でそう言った。隣にいる伊吹はいつものことですよ、と言いながら椅子に腰掛ける。

「江本。何でそんな浮かない顔してるんだ?」
「いや、あの時・・・小夜さんの一件があったじゃないですか。何でお2人はそんな普通に接してるんです?」
「ああ、あれですか。すみませんでした。色々事情があったもので。」

 伊吹は淡々と謝罪を述べ、玲央に資料を渡した。

「小倉病院で硫酸を患者が被ったことは事実です。ただ軽い火傷で済んだそうですよ。硫酸が置いてあった理由は不明。警察も大きく動きはしませんでした。ですよね?井上警視正。」
「ああ。だが、調べを進めたところ小倉病院には過去に医療ミスが何度も起こっていた。それは事実だ。」

 洋治の言葉に、海里は顎に手を当て、考え始めた。

「幽霊騒ぎはともかく、そういう恨みがあるのは事実なんですね。じゃあやっぱりその遺族が・・・・」
「結論を急ぐなよ、探偵さん。そう考えるのは早計だ。第一、医療ミスが殺人だと断定できると思うか?」
「無理ですか?」

 海里の言葉に洋治は冷静に答えた。

「当然殺人の場合もあるかもしれない。だが、あくまで“ミス”・・・事故が普通なんだ。何の殺意もなく、器具を拭き忘れて異物が混入したとか、新人の看護師で手元が覚束なかったとか・・・。偶然の上に成り立っているのが“医療ミス”って奴さ。遺族が恨むのは分かるが、医師たちには何の殺意もないかもしれない。これを殺人と言えるか?」
「・・・・なるほど。そう言うことですか。つまり、遺族側が殺されたことにこだわって、医師たちを苦しめるために事件を起こしている可能性があると。」
「そういうこった。」

(頭の切れる人だな・・・。でも、当然と言えば当然か。お2人の上司で次の階級は警視長。警視正も簡単に上り詰めることはできないはずだ。でもそうだとしたら、なぜあの時、小夜さんにあんな無理を?ここまで論理的な物の見方ができるのなら、犯人でないことは分かったはずなのに。)

「どっちにしろ、小倉病院で調査をしなければ始まりません。ただ私たちも仕事があるからそれはできない。あなたたちも動けませんから、やはり後輩に任せては?」
「それも一理ある話なんだけど、病院側は普通ミスを認めたりしない。それなのに、いきなり過去を掘り下げて聞いてくれると思う?」

 玲央の質問に、伊吹と洋治は納得した。

「でもそうだとしたらどうするんですか?」
「医療現場なんだから、医療現場で働く人間に行ってもらうしかないよ。そうしたら向こうも警戒しないだろ?」
「おい、兄貴・・まさか・・・・」
「大和君に行ってもらおう。当然警察の捜査ってことは隠して、ね。」

 玲央の言葉に洋治は呆れた表情を見せた。

「無茶なこと言うんじゃねえよ。一介の医者にスパイみたいな真似させる気か?」
「彼ならどの医療現場に行っても問題ありませんよ。だって彼、」

 玲央は読んでいた新聞をめくり、1つの記事を指差しながら行った。

「稀代の天才外科医って言われてるんだから。どの病院でも重宝されて、どんな治療もできると言われている。実際、俺たちの怪我を診たのも彼。1ヶ月じゃ治らないであろう怪我を堂々と治ると言ったんだ。医師として信頼に足る男だよ。」

 伊吹は深い溜息をつき、呆れながら口を開いた。

「・・・分かりました。神道大和に、小倉病院へ出向いてもらいましょう。ただし、本人が了承した場合だけです。」
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