小説探偵

夕凪ヨウ

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Case198.決意

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「事件は見事に隠蔽されて、彼らは日陰に追いやられた。数ヶ月後、江本真由香さんは病にかかり、江本君たちの前から姿を消した1年後に亡くなった。」

 沈黙が流れた。海里が小声で尋ねる。

「信武さんが亡くなったのは東堂さんと玲央さんが中学生ぐらいの時なんですよね?なぜ亡くなったんですか?」
「汚いことは数え切れないほどやっていたからね。苦しめられた被害者の1人に刺されて死んだよ。葬式に参列したのは俺を含む親戚と数人の部下だけ。2人には最後まで隠し通した。」

 武虎の言葉に玲央と龍は椅子を倒す勢いで立ち上がって言った。

「何でそんな大事なこと黙ってたの⁉︎家どころか警察組織全体の問題じゃないか‼︎」
「言えるわけないだろ?ただでさえあの時期はバタバタしてたんだから。」
「だからって!親父1人で抱え込んで納得しろとでも言うのか⁉︎俺たちだってもう子供じゃなかった・・・。何の話をしているかくらい分かる!」

 2人の言葉にカッとなったのか、武虎も叫んだ。

「身内の恥を2度も経験させられるわけがないだろ!当時言わなかったことは、間違いだと思っていない!」
「だったら落ち着いてからでも良かったじゃないか!あの時、俺たちに約束したのに、涼しい顔で破っていたってことだろ⁉︎」
「内容が違いすぎる!犯罪と不倫を同一視するな!」

 その瞬間、武虎はハッとして口を抑えた。龍と玲央もすぐに口を噤む。

「・・・・内容は違わないだろ。結果的に同じだった。親父が約束を破っていたことに変わりはねえよ。」

 苦し紛れに呟いた龍は、踵を返して部屋から出て行った。玲央も首を横に振り、龍の後を追った。

「武虎さん・・・。」
「参ったなあ。言うつもりはなかったんだけど、頭に血が昇ると困るね。」

 武虎は悲しそうに笑った。彼は天井を仰ぎ、口を開く。

「話の通り、俺は2人が中学生の頃に離婚してる。原因は妻の不倫だったけど、当時の俺は結構堪えてさ。実のところ不倫には気づいていたけど、思春期の2人にそんなこと言えなくて黙ってたんだ。その結果、離婚した後2人に言われたことが、」


“家族なんだから、1人で抱え込まずに話してほしい。これ以上家族が苦しむのを見たくないから。”


「約束を破ったのは確かに俺だ。2人が怒るのも無理はない。」
「・・・・でも、それが武虎さんからお2人への愛情ですから、自分を責める必要はありませんよ。お2人だって分かっていて、それでも話してくれなかったことが悲しいから怒ったんです。大切な人を悩ませたり、苦しませたくないと思うのは当たり前です。その思いがぶつかっているだけ・・・私はそう思います。」

 海里はそう言って圭介を見た。武虎は笑う。

「なるほどね。そんな考え方もありか。」
「あくまで一例ですよ。私が分かるのは、武虎さんたちがお互いを大切に思っていると言うことだけです。」
「2人と話せってこと?」
「まあ、そうなりますね。それと、過去のことで自分たちを責めないでください。信武さんが犯した罪に、武虎さんたちは何の責任もありません。父の気持ちが分からないと言えば嘘になりますが、復讐することが正しいとは言えませんからね。」
「・・・そうだね。」
                    
         ※

「玲央、龍。」

 2人は喫煙スペースで煙草を吸っていた。武虎の姿を見ると灰皿に煙草を捨て、向き直る。

「ごめんね。あの時、母親の不倫で落ち着かなかったあの時に、あんな話をしたくなかったんだ。」
「それは俺たちが思い悩んで苦しんだかもしれないって話?生憎、思い悩んで苦しんだって構わなかったよ。父さん1人で背負わなければ、それで良かった。」
「親父が何でもかんでも抱え込む性格だって固定分かっている。だからこそ、話して欲しかったんだ。苦しい話には違いないが、受け入れる余裕は持てる年頃だった。」

 2人の言葉は真っ直ぐだった。子供の頃と何ら変わらない、迷いのない瞳がそこにあった。

「・・・・そっか。あの時から、君たちは大人になったんだね。」

 2人は頷いた。武虎は苦笑する。

「ありがとう。今度から気をつけるよ。」
「どうかな。父さんは前科があるし。」
「平気なフリが上手いから困るんだよ。もっと感情を表に出してくれたら、楽なのに。」
「息子に説教されるなんて、感慨深いなあ。」
「年寄りみたいなこと言ってんじゃねえよ。」

 病室に戻ると、海里は笑っていた。3人が仲直りするくらい分かっていたらしい。

「圭介さんに何か言うことはないかお聞きしましたが、現時点で分かることは伝えたそうです。過去の真相は、一先ず終わりですね。」
「そうね。話を聞いた以上、決着をつける・・・ってことになるのかしら?」
「まあな。だが江本、本当にいいのか?」

 龍の質問に、海里は頬を掻いた。

「本音で言うと、父と戦いたいわけではありません。父が苦しんだことは事実ですし、母の苦しみも忘れてはいけないでしょう。しかし、“父”と“テロリスト”は別ですよ。」
「別?」
「はい。どんな事情があれ、父がテロリストとして多くの人を苦しめたことは事実です。父だからと甘えて、その事実から目を背けてはならないと思っています。」

 海里は1度言葉を止め、言った。

「だから東堂さんたちに手伝って頂きたいんです。私1人では、父の苦しみが癒せるわけでも罪を消せるわけでもない。一緒に戦って頂けますか?」

 海里の問いに龍は笑って答えた。

「元からそのつもりだ。
それに、俺たちの事情に首を突っ込んだのはお前が先。俺たちの心配を無視して関わり続けた以上、中途半端に逃げ出すことは許さない。向き合うと決めたなら、戦い抜く覚悟はあるはずだろう?」

 龍の言葉に、海里はふっと笑った。

「厳しいですね、東堂さんは。」
                   
         ※

「圭介君が裏切った?本当ですか?」
「ああ。まあ・・・あいつからしたら、俺たちの仲間になったつもりはないだろ。勝手に監視してただけだし、裏切りだとも思ってねえよ。」
「・・・・そうだとしても・・・もう少し、釘を刺しておくべきでしたね。」
「仕方ねえよ。警察に警戒されないようにしなきゃいけなかったんだからな。」

 圭介の父・圭の言葉に、拓海は溜息をついた。

「まあいいでしょう。裏切り者を連れ戻す気はありません。しかし、こちらの作戦が上手く行かなかったことも事実。作戦を変えます。」
「へえ。次はどうする?」
「和豊・和彦・綾美の3名を救出してください。今回は彼らの読みが役に立ちましたし、これからも必要になります。」
「そりゃ賛成だけど、国がいつ死刑を下すか分からないぜ?」
「だからこそ急いで欲しいのです。こちらの情報をバラされては警察が今よりも警戒を強めてしまいますから。」

 拓海の言葉に圭は口笛を吹いた。

「仰せのままに、ボス。」
「その呼び方はやめてください。あなたは昔のままでいて欲しいと伝えたでしょう。」
「無茶言うなよ。16年前から情なんて捨て去っただろ?自分の子供を捨てられる親が俺たち以外にいるならお目にかかりたいぜ?」
「それはそうですが、そういうことではありません。分かっているのに聞かないでください。とにかく、救出をお願いします。方法は問いません。」
「りょーかい。」

 圭が去って行くと、拓海は椅子に座り込んだ。

(海里・・真衣・・・なぜ東堂家の人間と一緒にいるのですか?あの家は絶やすべき血筋です。その証拠に、東堂信武は警察組織の上層部に居座り、思いのままに動かして多くの“駒”を作った・・・。世代が変わろうとも、同じ欲がないと言い切ることなどできない。
自分たちの身が常に安全でないことが、なぜ分からないのですか?)

 拓海は深い溜息をついた。亡き妻の顔を思い浮かべ、苦い思い出を噛み締める。

「私は・・・間違ってなどいない。権力を笠に着て捜査をする警察など、この世にあってはならない・・・。根絶すべき悪なのですから。」
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