小説探偵

夕凪ヨウ

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Case199.盗作者の遺書①

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「浅村先生がいらっしゃる?」
「うん。さっき病院の方に連絡があったんだって。浅村先生って忙しいんじゃないの?」
「ええ。文芸界の大御所と言われる方ですし、まもなく60歳ですが休まず小説を書かれていますよ。何度かお会いしたことはありますが、わざわざ足を運んでくださるなんて思いませんでした。」
「腑に落ちないの?兄さん。」

 海里は頷いた。真衣が持って来た本の中にある歴史ミステリー小説を手に取る。

「真衣は知りませんでしたね。以前、私と浅村先生の間で盗作騒ぎがあったんですよ。」
「ええ⁉︎」
「私が盗作したという話でしたが、証拠もなく、何より無実ですからすぐに誤解は解けました。ただ、その頃から気まずくなったことは事実です。」
「そうなんだ。でも、その時に和解したなら、謝りに来て・・・ってわけじゃないよね?」
「恐らく。」

 その日の午後、小説家・浅村昌孝が海里の見舞いに訪れた。

「わざわざ来て頂いてすみません。お忙しいでしょうに。」
「まあ、同業者としての礼儀だと思ってくれ。それにしても流れ弾に当たるなんて不運だったな。」
「そうですね。初めての経験ですよ。」

 浅村昌孝は、老年の小説家だった。白髪に立派な口髭を蓄え、手には長年小説と向かい合ってきたことを示すペンだこがある。彼は海里にとっては大先輩にあたるが、海里の実力を認めているうちの1人でもあったのだ。

「一応花を買ってきたんだが、迷惑だったかな?」
「いえいえ。病室が明るくなって落ち着きますよ。1人部屋は思ったより寂しいですから。」

 海里は花を受け取り、窓際にある花瓶に挿した。昌孝はその動作を見て口を開く。

「どのくらいで退院できるんだ?」
「治りが良ければ1ヶ月程度です。伸びればもう少しかかりますね。」

 昌孝は不安な顔をした。海里は少し間を開け、尋ねる。

「・・・・同業者としての礼儀以外に、お見舞いに来た理由があられるんですね?」
「ああ。少し話がしたいというか、相談したいことがあってな。」
「私に・・ですか?」

 頷く昌孝を見て海里は驚いた。年長者である彼から相談など受けたこともなかったからだ。

「相談といっても小説家としてではない。探偵としての君へ相談だ。」
「・・・浅村先生。私は探偵として働いている気はありません。あくまで小説家です。脅迫などの相談なら、警察に行かれてはいかがですか?」
「もっともだ。だが、相談内容があまり他人には知られたくないことなのでな。君に話しておきたい。」

 その言葉を聞いて、海里は家庭内の問題なのだろうと思った。少し考えた後、海里は分かりました、と頷く。

「お話は伺います。ただ、今すぐではいけませんか?この後、知人もお見舞いに来ると言っていますし、入院中の着替えや差し入れのため、妹は午前午後どちらも来てくれるんです。
事件に巻き込まれる可能性も考えると、退院後も時間がないかもしれません。それに、顔色がよくありませんよ?思い詰めて来たことであれば、早めに打ち明けた方が楽になりませんか?」

 海里の言葉にホッとしたのか、昌孝は笑った。

「・・・本当に頭がいいな。確かに、思い詰めているのかもしれない。・・江本君。」
「はい。」
「誰にも言わないと約束してくれるか?」
「もちろんです。どうぞ話してください。それで先生の気持ちが楽になるなら。」
「ありがとう。実はーーーー・・・・」
                   
         ※

「どうしたの?江本さん。考え事?」
「小夜さん。小説のことで、少し。」
「あなたみたいな人でも悩むのね。根っから何でもできそうなのに。」
「まさか。私は超人じゃありませんし、さすがに不可能ですよ。」

 海里は、自分の嘘を分かった上で深掘りしない小夜の気遣いに内心感謝をした。彼女は世間話などで何も考えていない素振りを見せ、彼が気になっていた小説を渡して帰って行った。

「うーん・・・・どうしましょうか。あの話・・・。」



『家族に殺される?まさか。優しい奥さんと娘さんたちではないですか。』
『ああ。だが最近、どうも様子が変なんだ。食事を食べた後必ず気分が悪くなるし、妻のパソコンで毒物の検索履歴を見てしまった。』
『違和感に気がつくまでお体に異常があったことは?』
『ない。ここ数年、風邪すらこじらしていないんだ。健康診断でも問題はないと言われたばかりなんだよ。』
『気のせいではないんですね?仕事で張り詰めて、疲れたりしているわけでもなく?』
『ああ。もうどうしたらいいのか・・・。もし君が良ければ、退院した後、妻と娘たちに会ってくれないか?君がいる前でも同じことが起きれば、決定打になると思うんだ。』



(浅村先生のご家族は・・・奥さんと3人の娘さん、週末だけ出入りする家政婦さんと家庭教師さんの合計6人。
食事に毒となれば奥さんや家政婦さんが怪しまれるが、普段から仕事場にこもっている浅村先生の目は簡単に欺けることを踏まえると、娘さんたちや家庭教師でも不思議はない。
そもそも動機は何だ?いや、殺そうとしていることすら正しいかまだ分からない以上、容疑者を出すのは間違っている。警察に相談できれば早い話だが、誰にも言わないという約束を取りつけているから・・・。)

「思った以上に大変ですね。しかも浅村先生は・・・・」

(レコーダーを持っていた。私に秘密を打ち明けながら、心から信頼はしていない。私が警察にあの話を漏らせば、家族に疑われてもレコーダーを証拠として突き出すことができる。そうして家族を問い詰めて、犯人を炙り出すつもりなのだろう。
でも、警察に話さずに殺人事件になるかもしれない話を解決する・・・?そんな方法、存在するのか?)

 深い溜息をつきながら、海里はベッドに体を預け、深い眠りに落ちて行った。
                    
         ※

 その日の夜、龍は凄まじい着信音で目が覚めた。仕事で警視庁に残っている義則からである。

「こんな時間にどうした?」
『殺人です!場所はK町S通り!』
「K町のS通り?確か富裕層が集まる場所だったな。天宮家の本宅があった・・・。」
『はい!来ていただけますか⁉︎』
「話を聞いておきながら行かないわけには行かないだろ。30分以内に行くから先に調査を進めておいてくれ。」

 現場に到着すると、ほぼ同時刻に玲央が到着した。彼はあくびをしながら車から降り、龍たちの元へ歩いて来た。

「殺されたのはこの家の家主だって聞いたけど。」
「はい。浅村昌孝さん59歳、小説家です。」

 家の中に入ると、3人の女性がいた。3人は昌孝の妻子だと名乗った。

「殺人・・・か。外傷はなく、睡眠薬を飲んで自殺のように見えるが、殺人だと言った理由はなんだ?」
「これです。偽装の可能性もありますが・・・」

 義則が指し示したのは昌孝のパソコンだった。そこには、以下のように文字が打ち込まれていた。


『ころされる。たすけて。ここにはお おかみがいる。』


「狼?」
「はい。意味は分かりませんが、殺人を示唆していると思うんです。どうですか?」
「断言はできないが、今にも死にそうな人間が打つメッセージとは考えにくいな。変換せずに平仮名で打つなんて小説家らしくないことをしているし、キーボードに指紋が付いていない。昌孝さんは手袋をしていないことを踏まえると、別の誰かが書いた可能性がある。」
「もしくは昌孝さんが以前から書いていて、死の間際になって世間に公表するためにわざと見せた線もあるかな。どちらにせよ、明確な証拠を探さなきゃならないけど。」

 義則は分かりました、と言った。2人は考える。

「被害者の携帯が近くに落ちてたな。何か怪しい人間とのやり取りが記録されていたりしたか?」
「いえ。そんなものは・・・んっ?」

 履歴を見た義則は目を丸くした。2人は首を傾げる。

「どうしたの?」
「いえ、あの・・今日の午後13時頃に、江本さんと連絡を取ったみたいなんですが。」
「江本君と?そうか、昌孝さんは小説家。彼の先輩に当たるんだね。お見舞いに行った可能性が高い。」
「明日、江本に聞いてみるか。何かを感じ取ったかもしれないしな。」
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