小説探偵

夕凪ヨウ

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Case207.死者への祈り④

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「遺体は久城則光じゃない?どういうこと?」
「言葉通りの意味よ。血液型やその他の情報からそうだと思っていたけど、違ったの。被害者は、久城則光の双子の弟・久城紀康だった。」
「双子の弟・・・。そう言えば、資料に載ってた。行方不明と書いてあったけど、まさか被害者だったなんて。」
「もう1つ重要なことが分かったぞ。」

 龍は部屋に入ってくるなり、そう言った。

「重要なこと?」
「ああ。2年前、陸奥英里を車で轢いたのは久城則光だ。過去の事件の資料を見返していて今一度調査した。」
「なるほどね。話を統合すると、妹を殺された陸奥英一郎は、犯人である久城則光を殺そうとしていた。しかし彼が見つけたのは則光の弟・紀康で、そうとは知らずに殺害した可能性がある・・・ってことか。」
「無茶苦茶ね。でも、仮にそうだとしても姉さんが襲われた理由は何?法医学者の持っている資料なんて、どうして欲しがるのよ。」
「病気の有無を知られないためかもな。久城則光は心臓に小さいが欠陥があって、紀康を解剖したら自分ではないことが知られるかもしれない。そうならないためには法医学者を襲うしかない・・・。」

 アサヒは顔を曇らせた。玲央が口を開く。

「納得はできるけど、どのみちおかしい。犯人たちがなぜ解剖した法医学者が分かるんだ?現場にいたとしても、解剖する人間が彼女とは限らないじゃないか。」
「わざわざ見越して身元の調査でもしたっていうの?復讐に囚われている人間がそこまで冷静な判断ができるとは思えないわ。」
「何か裏があるってことか?」
「あくまで可能性だよ。裏って一口に言っても分からないし。」

 すると、扉をノックする音がした。3人が不思議に思いながらも扉を開けると、義則が入って来た。

「急にどうした?」
「西園寺さんにお客様ですよ。」
「私に?誰?」
「克幸と名乗っていますけど。」

 アサヒの顔色が変わった。彼女はしばらく何かを考えていたが、やがて椅子から立ち上がり言った。

「どこにいるの?」
「入り口にいらっしゃいます。」

 曇ったアサヒの顔を見て、龍が尋ねた。

「知り合いか?」
「兄よ。」
                     
         ※

「わあ、来てくれたんだ。アサヒ。」
「あなたが来いって言ったんでしょ?」

 アサヒの義兄・西園寺克幸は、金髪に黒い瞳をした青年だった。白衣をたなびかせ、怪しげな笑みを浮かべている。

「何の用?忙しいんだけど。」
「つれないなあ。数年ぶりに会った兄に対して酷過ぎやしないかい?」
「うるさいわね。早く用件を言ってよ。」

 克幸はにっこりと笑い、驚くべきことを口にした。

「今うちに久城則光がいるんだけど、会う?」

 アサヒは驚きを隠せなかった。克幸は笑みを浮かべたまま続ける。

「会いたいだろ?君を大切に想ってくれていた人だもん。警察の捜査は怖がるだろうし、君が会ってあげれば安心してくれると思うんだけどなあ。」
「・・・馬鹿にしてるの?あの男は、あなたたちが“監視”として放ったんでしょ?大切に想っていた?くだらない冗談は笑えないわ。」
「冗談じゃないよ。君だって好きだったんじゃないのかい?」
「ある程度、心を許せる関係だっただけよ。断じて浮ついた思いなんてないわ。話がそれで終わりなら帰って。あなたの顔なんて見たくもないわ。」

 アサヒはそう吐き捨てると、踵を返した。克幸は鼻で笑い、呟く。

「あんな男を好きになるなんてどうかしてるよ。それとも何かい?奥さんを亡くした慰めに一緒にいてあげる?でもあの男には兄がいるから、そっちも・・・」
「それ以上2人のことを侮辱したら殴るわよ。とっとと消えて。」
「またすぐに会えるよ。楽しみにしていて、アサヒ。」

 戻ってきた不機嫌なアサヒに、2人は首を傾げた。

「何かあったのか?」
「気にしないで。早く調査を進めましょう。」
「・・・そうだな。磯井、陸奥英一郎の自宅は特定できたか?」
「はい。家宅捜索に移りますか?それとも令状を?」
「いや。まだ犯人だと断定できない。事情聴取だけにとどめてくれ。全く関係のない人間が殺したこともあり得る。」
「分かりました。」

 義則は立ち上がり、同期の磯貝撫子と共に警視庁を出て行った。

「さて、問題はここからだね。陸奥英一郎が犯人であればそのまま令状を取って逮捕できるけど、そうじゃなかった場合が厄介だ。
6年前に発生した銀行強盗では、久城則光・紀康兄弟は主犯として指名手配されたまま捕まっていなかった。分かっていることは兄の則光が盗んだお金を持ち逃げしたことだけ。その後、残りの仲間に聞いても2人の行方は分からなかった。そして突然、弟の紀康が殺された。しかし依然、則光の行方は不明だ。」

 その言葉に、アサヒはわずかに迷った後、口を開いた。

「さっき兄が、自分の家に久城則光がいると言ってきたの。本当か知らないけど。」
「家にいる?匿ってるってこと?」
「状況的には、そうなるわね。兄も私が捜査一課を辞めた理由を知っているから、本当とも嘘とも取れる・・・微妙な話だわ。」
「一応聞くが、その兄の自宅はどこにある?」
「自宅って言うか、実家よ。埼玉との県境に巨大な高層ビルがいくつかあるでしょ。あれ全部。」

 2人はその場所を知っていたので驚いた。あのビルを一部屋ずつ探すとなれば、相当な苦労である。

「小夜といい君といい、桁違いな裕福さだね・・・。確かに、そんな場所なら家宅捜索は難しいし、何より許されるかも分からないから、嘘と考えておこうかな。」
「そうしておいて。」
「陸奥英一郎が犯人だった場合、動機は大方、推測できる。ただ依然として凶器が見つからないのも気になるな。神社の蔵にあったわけでも、地中に埋められていたわけでもない。持ち出したと考えれば良いんだろうが、日本刀だとしたらどこでそんな物を手に入れた?今時刀鍛冶なんているか?」
「あんまり聞かないな。強いて言うなら刃物屋?ただ陸奥英一郎の実家や知り合いに刃物屋なんてなかったけどね。」

 玲央は首をすくめた。

「刀に似た何かだった可能性もあるか。と言っても刃物なんて限られてるだろ。」
「強いて言うならカッターとかかしら?わざわざ木に傷をつけて?」
「あり得る話だが、もしそうなら刃が欠けると思うぞ?木の中に欠片なんてなかった。」

 3人は更に頭を捻った。考えれば考えるほど分からなくなってくるのだ。

「警部。江本海里さんがお見えです。」
「江本が?家にいろって言ったのに・・・。」
「突然すみません。事件現場を一回りして、色々考えていまして。」

 龍はやれやれと首を振ったが、続きを促した。海里はゆっくりと口を開く。

「凶器が日本刀ではないかもしれません。」
「何?」
「遺体発見現場の少し離れた木に、本当にわずかですが傷が付いていたんです。そして、その木の中にこれが。」

 海里が取り出したのはハンカチに包まれた刃物の破片だった。龍たちの顔が変わる。

「例え長剣であっても、あの位置からでは刃先すら届かないらしいです。日本刀と同じような刃物であれば、薙刀が最もふさわしいーーーーそれが圭介さんの意見です。」
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