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Case208.死者への祈り⑤
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「薙刀って・・・普通に考えてありえないよ?」
「分かっています。でも、剣道を習っている圭介さんの意見が間違っているとは言い難いですし、ご本人に聞いてみてはいかがでしょう。」
龍たちは顔を見合わせて考えた。間違っていると断定できないが、薙刀を持っているなど目立つに決まっている。怪しまれないわけがない。
「とりあえず、神道君に会ってみて・・・・」
「警部!陸奥英一郎の家宅捜索をしている磯井巡査から緊急連絡が!」
「何かあったのか?」
「はい!陸奥英一郎が自宅で何者かに殺害されているとのことです!」
海里たちは驚きを隠せなかった。
「殺害?死因は何?」
「銃殺です。家の中を調べましたが銃やそれに準じる物はなく、不審な人物もなし。ただ部屋が荒らされた形跡があり、壁の中から何かを抜いた痕跡が。」
「何かを抜いた?まさか・・・」
「可能性はある。アサヒ、頼めるか。」
「ええ。こっちは私たちと磯井さん・磯貝さんで十分よ。3人は月山神社に行って。」
4人は二手に分かれ、早速行動を開始した。
「お、海里。」
「すみません、圭介さん。先程の木刀、もう1度貸してくださいませんか?」
圭介は龍と玲央がいることに何かを察したのか、分かった、と言うと道場へ走って行った。
「これだ。持ったことは・・・あるか。」
「うん。ありがとう、実験するね。」
玲央は遺体発見現場の木とあまり変わらない太さの木の前に立ち、鞘から抜くように体を動かし、風を切った。同時に、龍が背後の木へ視線を移す。
「確かに、この距離じゃ刀は当たらない。薙刀の長さは一般的に考えて180cmほど。日本刀は1mより短いくらいだから、差は圧倒的だな。早朝であれば人が来る可能性も考慮して長く止まってはいられなかっただろう。」
「そうだね。後は鑑識の報告を待とう。2人とも、協力感謝するよ。」
「礼なら海里に言ってくれ。海里が“手伝いたい”って言ったから、俺も協力したんだし。」
圭介は笑った。海里はすみません、と言いながら苦笑いを浮かべる。
「東堂さん、携帯鳴ってますよ?」
「ん?ああ、アサヒか。何か分かったか?こちらは刀でないことは証明できた。」
『こっちも似たようなものよ。壁から抜いた後は縦約180cm、横は1mに満たないわ。考えとしては合っていると思う。』
「そうか。遺体は?」
『かなり酷いわよ。殺される前に何度か殴られている。荒らした理由は不明よ。銃弾は心臓を撃ち抜かれていて、両手首には動かないように押さえつけられた痕もあるわ。」
「なるほど・・・。周囲に不審な人物は?」
『見たところいないわ。ねえ、龍・・・。』
アサヒの不安げな声に、龍は少し目を丸くした。
『さっきの兄の話、鵜呑みにするべきなのかしら?』
「・・・・仮にそうだとしても、俺たちはお前の兄のことを知らない。どういう人物かすら分からない状態で、疑うことはできないぞ。」
『そう・・よね。きっと、違う・・・。』
(そもそも、やっていたとしても証拠はないだろう。西園寺茂の息子ならやり方はきっと変わらない。俺たちが最も重要とするものを、奴らは決して明らかにしない。)
「詳しい報告は後で聞くから、一旦切るぞ。」
『ええ。また後で。』
龍は電話を切ると、2人に軽く報告をした。海里は言う。
「やっぱり動きませんか?」
「え?」
「アサヒさんのご実家に行って、お兄さんに会いましょう。本当に何か知っているなら聞くべきです。テロの件は考えず、事件の証人として会う分には問題ないはずです。」
「君は時々破天荒だよねえ。まあ、できないことはないけどさ。」
玲央は苦笑した。玲央は龍と目を合わせ、軽く頷く。
「じゃあ行こうか。磯井君たちはあっちの現場処理で忙しいし、警視庁から他の刑事引っ張ってくると時間がかかる。」
「はい。」
※
「ここが、アサヒさんのご実家ですか・・・。」
「オフィス街みたいだな・・・。」
3人の目の前には、巨大なビルがそびえ立っており、そのビルを中心として、周囲にもいくらか小さいビルが立っていた。警備員などは見受けられないが監視カメラがいくつも設置してあり、防犯装置も完備されているようだった。
「すみません。警視庁の者です。西園寺克幸さんにお話を伺いたいのですが。」
燕尾服を着た男は頷きながら、
「克幸様にですね。かしこまりました。どうぞ、こちらへ。」
3人は男の後に続いてビルの中へ入った。入ってすぐには顔認証パネルと監視カメラ、盗聴器があり、白衣を着た大勢の研究員たちが右往左往していた。
「アサヒ様から連絡があった時は驚きました。もう何年も帰って来られませんでしたから。」
「そうだったんですか。」
「ご存知だと思っていましたが・・・。」
「彼女は私たちに多くを語りませんでしたから。西園寺茂さんの娘だと知ったのも最近のことです。」
「そうでしたか。家柄で見られるのを嫌うお方でしたし、無理もないことですね。」
透明のエレベーターに乗り、3人は最上階まで案内された。至る所に研究室があり、食堂やホテルのような豪華な部屋がある。武器を持った人間がいるのも、目立っていた。
「ご心配なく。あれは玩具に等しい物です。」
「玩具?」
「はい。大したことはないので、ご安心を。」
部下共々多くを語らないのかーーーーそんなことを考えていると、最上階に到着した。
「克幸様。警察の方がお見えです。」
「どうぞ入って。」
「失礼致します。」
扉を開けると、立派な椅子に腰掛け、資料に何かを記している青年がいた。長い金髪が夕日に照らされて輝いている。
「全員出てくれ。僕1人で話を聞くから。」
克幸の言葉に、ボディガードや研究員たちは部屋を出て行った。彼は扉が閉まると同時に息を吐き、顔を上げる。
「初めまして。小説探偵・江本海里、警視庁捜査一課警部・東堂玲央、東堂龍。会うのを楽しみにしていたよ。父から話は聞いているんだ。」
克幸は無邪気な笑みを浮かべた。海里たちは警戒が解けず、頑なに口を結んでいる。
「それで、聞きたいことってなあに?僕もこう見えて暇じゃないからさ。早めに済ませてくれると嬉しくって。」
「・・・アサヒから聞いたことだが、本当にここに久城則光がいるのか?」
龍の質問に、克幸は無邪気な笑みを歪んだ笑みに変えた。
「いるよ。彼は父の部下だから、ここで働いているんだ。」
「部下?」
「ああ。昔、妹・・アサヒを監視するために彼女の家に送り込んだことがあったんだけど。こともあろうに、彼はアサヒに恋をしてしまったんだ。アサヒも彼を悪く思っていたわけじゃないけど、恋愛感情はなかったかなあ。ただの友人だと思ってたよ。」
克幸は両手を頭の後ろに回して組み、背もたれに体を預けた。
「ただ父は許せなかったからさ。万が一があったら困るだろ?すぐに解雇して、捨てちゃった。まあ結局?アサヒと再会したけどね。」
海里は何の話か分からず首を傾げた。龍と玲央は険しい顔をしている。
「知ってるんだね。6年前のこと。」
「もちろん!父は途中で探すのをやめてしまったけど、僕はずっと可愛い妹の足取りを追っていたんだ。事件のことはすぐに耳に入ったよ。あの時は本当に驚いた。愛しい人と再会したと思ったら、その人を殺しかけるんだもの・・・。則光も報われないよねえ。」
(殺しかけた?久城則光が、アサヒさんのことを?一体、何があったんだ?)
海里は気づかないうちに眉を顰めていたらしく、克幸は言葉を止めた。
「いけない、いけない。余計なことを話しちゃダメだよね。他に聞きたいことはある?」
「陸奥英一郎という人間が亡くなったことは知っているのか?」
「知らないなあ。で、君たちは久城則光の身柄が欲しいって感じ?」
「・・・・別件で調べているし、陸奥英一郎殺害疑惑がかかっていることも確かだからね。本当にいるなら、身柄は引き取るよ。検挙するかは別の話だ。」
「真面目だねえ。まっ、馬鹿よりいいけど。」
克幸はそう言いながら指を鳴らした。すると、部屋の扉が開き、ボディガードたちに押さえられた久城則光が引きずられてきた。
「あげるよ。愚行をした人間を置いておくほど、僕も父も優しくないんだ。」
「お、お待ちください!克幸様!あなたが見つけて、保護してくださったのではないですか!また働くといいって・・・‼︎」
「君が勝手に駆け込んできたんだろ?働くのは良いと言ったかもしれないけど、ここじゃなくたっていいじゃないか。第一、警察の別件が何だか知らないけど、犯罪の容疑がかかっている人間なんて置いとけないよ。やましいことがないなら、黙って彼らについて行ったら?」
淡々と話す克幸の目には、光も感情もなかった。龍と玲央は躊躇いがちに久城則光の腕を取り、3人は西園寺研究所を後にした。
その後の取り調べで、久城則光が陸奥兄妹を殺したことが明らかになった。遺族たちは真相の解明に喜んだが、海里たちの胸の中には重い気持ちが残ったままであった。
「分かっています。でも、剣道を習っている圭介さんの意見が間違っているとは言い難いですし、ご本人に聞いてみてはいかがでしょう。」
龍たちは顔を見合わせて考えた。間違っていると断定できないが、薙刀を持っているなど目立つに決まっている。怪しまれないわけがない。
「とりあえず、神道君に会ってみて・・・・」
「警部!陸奥英一郎の家宅捜索をしている磯井巡査から緊急連絡が!」
「何かあったのか?」
「はい!陸奥英一郎が自宅で何者かに殺害されているとのことです!」
海里たちは驚きを隠せなかった。
「殺害?死因は何?」
「銃殺です。家の中を調べましたが銃やそれに準じる物はなく、不審な人物もなし。ただ部屋が荒らされた形跡があり、壁の中から何かを抜いた痕跡が。」
「何かを抜いた?まさか・・・」
「可能性はある。アサヒ、頼めるか。」
「ええ。こっちは私たちと磯井さん・磯貝さんで十分よ。3人は月山神社に行って。」
4人は二手に分かれ、早速行動を開始した。
「お、海里。」
「すみません、圭介さん。先程の木刀、もう1度貸してくださいませんか?」
圭介は龍と玲央がいることに何かを察したのか、分かった、と言うと道場へ走って行った。
「これだ。持ったことは・・・あるか。」
「うん。ありがとう、実験するね。」
玲央は遺体発見現場の木とあまり変わらない太さの木の前に立ち、鞘から抜くように体を動かし、風を切った。同時に、龍が背後の木へ視線を移す。
「確かに、この距離じゃ刀は当たらない。薙刀の長さは一般的に考えて180cmほど。日本刀は1mより短いくらいだから、差は圧倒的だな。早朝であれば人が来る可能性も考慮して長く止まってはいられなかっただろう。」
「そうだね。後は鑑識の報告を待とう。2人とも、協力感謝するよ。」
「礼なら海里に言ってくれ。海里が“手伝いたい”って言ったから、俺も協力したんだし。」
圭介は笑った。海里はすみません、と言いながら苦笑いを浮かべる。
「東堂さん、携帯鳴ってますよ?」
「ん?ああ、アサヒか。何か分かったか?こちらは刀でないことは証明できた。」
『こっちも似たようなものよ。壁から抜いた後は縦約180cm、横は1mに満たないわ。考えとしては合っていると思う。』
「そうか。遺体は?」
『かなり酷いわよ。殺される前に何度か殴られている。荒らした理由は不明よ。銃弾は心臓を撃ち抜かれていて、両手首には動かないように押さえつけられた痕もあるわ。」
「なるほど・・・。周囲に不審な人物は?」
『見たところいないわ。ねえ、龍・・・。』
アサヒの不安げな声に、龍は少し目を丸くした。
『さっきの兄の話、鵜呑みにするべきなのかしら?』
「・・・・仮にそうだとしても、俺たちはお前の兄のことを知らない。どういう人物かすら分からない状態で、疑うことはできないぞ。」
『そう・・よね。きっと、違う・・・。』
(そもそも、やっていたとしても証拠はないだろう。西園寺茂の息子ならやり方はきっと変わらない。俺たちが最も重要とするものを、奴らは決して明らかにしない。)
「詳しい報告は後で聞くから、一旦切るぞ。」
『ええ。また後で。』
龍は電話を切ると、2人に軽く報告をした。海里は言う。
「やっぱり動きませんか?」
「え?」
「アサヒさんのご実家に行って、お兄さんに会いましょう。本当に何か知っているなら聞くべきです。テロの件は考えず、事件の証人として会う分には問題ないはずです。」
「君は時々破天荒だよねえ。まあ、できないことはないけどさ。」
玲央は苦笑した。玲央は龍と目を合わせ、軽く頷く。
「じゃあ行こうか。磯井君たちはあっちの現場処理で忙しいし、警視庁から他の刑事引っ張ってくると時間がかかる。」
「はい。」
※
「ここが、アサヒさんのご実家ですか・・・。」
「オフィス街みたいだな・・・。」
3人の目の前には、巨大なビルがそびえ立っており、そのビルを中心として、周囲にもいくらか小さいビルが立っていた。警備員などは見受けられないが監視カメラがいくつも設置してあり、防犯装置も完備されているようだった。
「すみません。警視庁の者です。西園寺克幸さんにお話を伺いたいのですが。」
燕尾服を着た男は頷きながら、
「克幸様にですね。かしこまりました。どうぞ、こちらへ。」
3人は男の後に続いてビルの中へ入った。入ってすぐには顔認証パネルと監視カメラ、盗聴器があり、白衣を着た大勢の研究員たちが右往左往していた。
「アサヒ様から連絡があった時は驚きました。もう何年も帰って来られませんでしたから。」
「そうだったんですか。」
「ご存知だと思っていましたが・・・。」
「彼女は私たちに多くを語りませんでしたから。西園寺茂さんの娘だと知ったのも最近のことです。」
「そうでしたか。家柄で見られるのを嫌うお方でしたし、無理もないことですね。」
透明のエレベーターに乗り、3人は最上階まで案内された。至る所に研究室があり、食堂やホテルのような豪華な部屋がある。武器を持った人間がいるのも、目立っていた。
「ご心配なく。あれは玩具に等しい物です。」
「玩具?」
「はい。大したことはないので、ご安心を。」
部下共々多くを語らないのかーーーーそんなことを考えていると、最上階に到着した。
「克幸様。警察の方がお見えです。」
「どうぞ入って。」
「失礼致します。」
扉を開けると、立派な椅子に腰掛け、資料に何かを記している青年がいた。長い金髪が夕日に照らされて輝いている。
「全員出てくれ。僕1人で話を聞くから。」
克幸の言葉に、ボディガードや研究員たちは部屋を出て行った。彼は扉が閉まると同時に息を吐き、顔を上げる。
「初めまして。小説探偵・江本海里、警視庁捜査一課警部・東堂玲央、東堂龍。会うのを楽しみにしていたよ。父から話は聞いているんだ。」
克幸は無邪気な笑みを浮かべた。海里たちは警戒が解けず、頑なに口を結んでいる。
「それで、聞きたいことってなあに?僕もこう見えて暇じゃないからさ。早めに済ませてくれると嬉しくって。」
「・・・アサヒから聞いたことだが、本当にここに久城則光がいるのか?」
龍の質問に、克幸は無邪気な笑みを歪んだ笑みに変えた。
「いるよ。彼は父の部下だから、ここで働いているんだ。」
「部下?」
「ああ。昔、妹・・アサヒを監視するために彼女の家に送り込んだことがあったんだけど。こともあろうに、彼はアサヒに恋をしてしまったんだ。アサヒも彼を悪く思っていたわけじゃないけど、恋愛感情はなかったかなあ。ただの友人だと思ってたよ。」
克幸は両手を頭の後ろに回して組み、背もたれに体を預けた。
「ただ父は許せなかったからさ。万が一があったら困るだろ?すぐに解雇して、捨てちゃった。まあ結局?アサヒと再会したけどね。」
海里は何の話か分からず首を傾げた。龍と玲央は険しい顔をしている。
「知ってるんだね。6年前のこと。」
「もちろん!父は途中で探すのをやめてしまったけど、僕はずっと可愛い妹の足取りを追っていたんだ。事件のことはすぐに耳に入ったよ。あの時は本当に驚いた。愛しい人と再会したと思ったら、その人を殺しかけるんだもの・・・。則光も報われないよねえ。」
(殺しかけた?久城則光が、アサヒさんのことを?一体、何があったんだ?)
海里は気づかないうちに眉を顰めていたらしく、克幸は言葉を止めた。
「いけない、いけない。余計なことを話しちゃダメだよね。他に聞きたいことはある?」
「陸奥英一郎という人間が亡くなったことは知っているのか?」
「知らないなあ。で、君たちは久城則光の身柄が欲しいって感じ?」
「・・・・別件で調べているし、陸奥英一郎殺害疑惑がかかっていることも確かだからね。本当にいるなら、身柄は引き取るよ。検挙するかは別の話だ。」
「真面目だねえ。まっ、馬鹿よりいいけど。」
克幸はそう言いながら指を鳴らした。すると、部屋の扉が開き、ボディガードたちに押さえられた久城則光が引きずられてきた。
「あげるよ。愚行をした人間を置いておくほど、僕も父も優しくないんだ。」
「お、お待ちください!克幸様!あなたが見つけて、保護してくださったのではないですか!また働くといいって・・・‼︎」
「君が勝手に駆け込んできたんだろ?働くのは良いと言ったかもしれないけど、ここじゃなくたっていいじゃないか。第一、警察の別件が何だか知らないけど、犯罪の容疑がかかっている人間なんて置いとけないよ。やましいことがないなら、黙って彼らについて行ったら?」
淡々と話す克幸の目には、光も感情もなかった。龍と玲央は躊躇いがちに久城則光の腕を取り、3人は西園寺研究所を後にした。
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