小説探偵

夕凪ヨウ

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Case209.運命が導いたもの①

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「そっか。解決できたんだ。」

 日菜の言葉に、アサヒは軽く頷いた。

「でも兄さんも変わってないね。相変わらずと言うか・・・。」
「その辺の話はするつもりはなかったけど、関わった以上仕方なかったのよ。じゃあ私もう行くわ、姉さん。」
「うん、またね。アサヒ。」

 アサヒが出て行くと、数分後に海里たち3人が顔を出した。

「来てくれたね。迷ってたからどうなるかと思った。」
「赤の他人ならともかく、姉からの頼みじゃ断れないよ。江本君も気になるみたいなんだけど、いい?」
「私に許可を取ってもね。アサヒには言ったの?」
「許可取れないこと分かってるからな。タイミングもなかったし。」
「じゃあ、仕方ないね。」

 3人は椅子に腰掛けると、龍が口を開いた。

「そもそも、アサヒから捜査一課を辞めた理由をどう聞いているんだ?」
「ん?えっと・・・“重傷を負って手術をしたけど、体が危ないから続けられない”・・だったかな。怪我は本当でしょ?」

 龍は頷いた。2人の顔は曇っている。

「久城則光のことは、俺たちはただの銀行強盗だとしか認識していない。でも彼は、君の父・西園寺茂の元で働いていたんだよね?」
「そうだよ。彼は割と優秀な研究員だったから、父も兄も気に入ってたんだ。で、アサヒの監視役として、あの子が今住んでる1個前の家に送り込まれた。アサヒは当初から疑っていたけど、あくまで普通に接する彼に、あまり疑いを持たなくなって行ったんだ。」

 日菜は昔を懐かしむように窓の外を見た。

「そうするうちに、彼はアサヒを好きになっちゃった。父と兄から禁止されていたことを、彼はやってしまったんだ。初めは気づかれないようにしてたけど、当の本人であるアサヒが気づいて、監視役であったことを理由に追い出した。あの子としてはただの話し相手だから、余計な感情は持たれなくなかったんだよ。その後、全てが父と兄にバレて、彼は解雇された。私が知っている範囲の話は、これくらいかな。」
「・・・・では、アサヒさんが関わった銀行強盗の犯人については何も?」
「まあね。私、警察じゃないし。あの子も何も言わなかったし。」

 日菜は首をすくめた。龍と玲央に向き直り、続きを促す。龍はゆっくりと口を開いた。

「アサヒが捜査一課を辞めた理由・・・“怪我で体が危ない”。これは嘘だ。厳密に言えば正しいかもしれないが、手術をしたのは神道大和。傷痕も、後遺症も残らず、何の問題もなく全線で戦える状態だった。」
「じゃあどうして・・・。」
「死なせたから。」

 玲央の言葉に、海里と日菜は固まった。

「少なくとも、アサヒはそう思ってるよ。当時、彼女が怪我を負ったのは右の腎臓。命に関わるほどの重傷で、手術をしても助からないと言われたんだ。」
                     
         ※

 6年前。東京。

「銀行強盗?」
「はい!犯人は銃を持って立て篭り、店員と客を人質に取っています!」

 刑事の報告で、龍・玲央・アサヒは立ち上がった。報告書を書いていた手を止め、警視庁から飛び出す。

「場所はS区Nビル近くの銀行らしいわ。結構人が多い場所よね。」
「ああ。何より今は正月だからな。お年玉の貯金だの何だので、銀行に来る人が多い。」
「狙われた・・って感じ?」

 当時、3人は捜査一課の中で最も優秀と言われ、同期たちと合わせて上司・部下から信頼されていた。

「東堂警部!西園寺警部!」
「遅くなってごめん。状況は?」
「犯人は1度発砲していますが、我々への威嚇射撃です。狙撃班は準備が完了し、隙さえあれば確保できます。」
「犯人からの要求は?」
「逃走用の車の用意だと言ってますが、既に終わっています。」

 3人は首を傾げた。

「何よそれ。じゃあ何で居座ってるの?逃げて欲しいなんて言わないけど、用意が終わったならずらかればいいじゃない。」
「分かりません。ただ、代表者が到着したら話がしたいと言ってきました。」
「車を用意させておいてわざわざ話がしたい?何だかよく分からないな。」

 その直後、店内で2度目の発砲音が聞こえた。3人はハッとし、シャッターで閉じられた店を睨む。

「悲鳴が聞こえたけど、怪我をしたのかは分からないね。」
「どこからか覗きましょう。向かいのビルから狙撃班に連絡して。」

 狙撃班からの連絡は、店員の1人が怪我をしているが、腕を掠めただけで命に別状はないとのことだった。

「店内の監視カメラの映像、入手しました!」

 3人が覗き込むと、そこには合計5人の男たちが映っていた。覆面で顔を隠しており、全員が銃を持っている。

「面倒だな。突撃したいが危険すぎるし、狙撃班も狙いにくい。」
「やっぱり話し合いだね。」

 打ち合わせの後、アサヒが犯人との話し合いに応じることになった。彼女は1人店内に入り、犯人たちと対峙した。

「逃走用の車があるのに、逃げなかったのは何故?」
「警察を待っていたんだ。警察と話がしたかった。」

 リーダーらしき男の声を聞いて、アサヒは目を丸くした。

「待って・・・。その声、まさか・・・‼︎」

 男の方もアサヒをよく見て何かに気がつき、ハッとした。男は覚悟を決めたようにゆっくりと覆面を取る。

「則光・・・⁉︎」
「お久しぶりです、アサヒお嬢様。」

 漆黒の髪に、光のない茶色の瞳。久城則光は、堂々とアサヒの前に立っていた。

「どうしてあなたが、こんなことを・・・あの後・・一体・・・。」
「理由なんて簡単ですよ。金を手に入れるためです。あの後、旦那様に解雇され、私は弟と共に惨めな生活を送りました。ろくに就職もできず、食事も取れない。普通の暮らしをするためには、こうするしかなかったんです。
あなたはご存知ないでしょうが、旦那様は社会的に私を殺しました。ありもしない噂を流され、犯罪者のように吊し上げられ、外も歩けなくなった。私がこうして警察と話す時間を設けたのは、旦那様・・いいえ、西園寺茂を罰するためです。」
「罰する?あの男を?」

 則光は頷いた。アサヒは顔を顰める。

「あくまで個人的な理由で解雇したことになっているのよ?検挙できると思うの?」
「思います。あの男は多くの犯罪に手を染めている。最近、何やら怪しい人間と会っている情報も掴んでいるんです。」
「証拠は?」
「後でお見せしましょう。アサヒお嬢様。」

 則光はすっとアサヒに手を伸ばした。彼女は怪訝な顔をする。

「逃げましょう。私は今でも、あなた様を愛しています。例え警察にいてもあなた様はあの男に全てを決められ、奪われる。そうなる前に、あの男の目が届かない場所へ!」
「・・・・本気で言ってるの?」
「もちろんです。アサヒお嬢様も、うんざりされているのでしょう?私と共に行き、幸せな未来を掴むんです。あなたが自由に生きるために。」
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