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幽霊屋敷で出会った男 後日談
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『一気に送ってくれてありがとう。きっと、どちらも人気を博すと思うよ。確認したら、赤を入れた原稿用紙を送るね』
上機嫌な編集者の声に、海里は礼を言って頷いた。
立石家の事件を解決した海里は、先日の水嶋大学の事件と合わせ、2つの原稿を完成させた。彼は、やはり殺人が悪であっても、その中に何かしらの理由が存在するーーということに重きを置き、殺人犯を決して善とは言わないものの、人間味溢れる人物として描いた。
「両方とも同時に修正原稿を送ってくださって構いません。ただ、発表するのは水嶋大学の事件が先でお願いします」
『分かったよ。また連絡するね』
電話を終えると、海里は長い息を吐き、腰掛けていた椅子の背もたれに体を預けた。室内灯で明るく照らされた天井を見つめ、立石家の事件で出会った不思議な青年・神道圭介のことを思い浮かべる。
どうして、彼は私が探偵であることを見抜き、私の本名までも知っていたのだろう。東堂さんや玲央さんの知り合いではないようだから、警察と関係があるわけじゃない。寧ろ、除霊師だなんて、科学的な捜査を行う警察とは正反対と言ってもいい。でも、そうだとしたら、
ーーお前に会いたかったんだよ。
あの言葉は、どういう意味だろう。私は、彼と初対面のはず。それなのに、どうしてあんなことを?
海里は体を起こし、机に広げていたノートの新しいページに、“神道圭介”と書いた。その瞬間、なぜか心が波打つ。
「違う」
違うって何だ? 何が違う? 彼は偽名なんて使っていないし、漢字だって聞いたから合っているのに。
偽名という単語が浮かんだ瞬間、海里は以前にも、自身の心が同じように波打ったことがあるのを思い出した。殉職した龍の部下・杉並亮の姉である杉並理恵子が起こした爆発を見た時である。
しかし、彼は今だに、なぜあの時心が波打ったのか、答えを見つけられていなかった。
爆発を見た時? いや、正確には、炎だ。炎に身を包まれているであろう、大勢の人を思い浮かべた時。あの時、今と同じように心が波打った。
そしてそれは、ただ人が亡くなっていることに、心を痛めたのとは違う。もしそうなら、今の心情と噛み合わない。だけど、そうだとしたら、心が波打つ原因は何だ?
海里は、ほぼ無意識のうちに、ノートに書いた“神道圭介”の4文字のうち、名字の神道を二重線で消した。同時に、彼は自分の息を呑む音を聞いた。
「圭介」
ただ書いた文字を読んだだけのつもりだったが、心が張り裂けそうなほど痛んだ。同時になぜか頭痛を感じ、後頭部を咄嗟に抑える。
ただの名前だ。圭介なんて名前も、漢字も、ありふれている。同名の人は多いはずだ。それなのにーー
「泣きたくなるほど、嬉しい」
神道、いいえ、圭介さん。あなたは一体、誰なんですか?
上機嫌な編集者の声に、海里は礼を言って頷いた。
立石家の事件を解決した海里は、先日の水嶋大学の事件と合わせ、2つの原稿を完成させた。彼は、やはり殺人が悪であっても、その中に何かしらの理由が存在するーーということに重きを置き、殺人犯を決して善とは言わないものの、人間味溢れる人物として描いた。
「両方とも同時に修正原稿を送ってくださって構いません。ただ、発表するのは水嶋大学の事件が先でお願いします」
『分かったよ。また連絡するね』
電話を終えると、海里は長い息を吐き、腰掛けていた椅子の背もたれに体を預けた。室内灯で明るく照らされた天井を見つめ、立石家の事件で出会った不思議な青年・神道圭介のことを思い浮かべる。
どうして、彼は私が探偵であることを見抜き、私の本名までも知っていたのだろう。東堂さんや玲央さんの知り合いではないようだから、警察と関係があるわけじゃない。寧ろ、除霊師だなんて、科学的な捜査を行う警察とは正反対と言ってもいい。でも、そうだとしたら、
ーーお前に会いたかったんだよ。
あの言葉は、どういう意味だろう。私は、彼と初対面のはず。それなのに、どうしてあんなことを?
海里は体を起こし、机に広げていたノートの新しいページに、“神道圭介”と書いた。その瞬間、なぜか心が波打つ。
「違う」
違うって何だ? 何が違う? 彼は偽名なんて使っていないし、漢字だって聞いたから合っているのに。
偽名という単語が浮かんだ瞬間、海里は以前にも、自身の心が同じように波打ったことがあるのを思い出した。殉職した龍の部下・杉並亮の姉である杉並理恵子が起こした爆発を見た時である。
しかし、彼は今だに、なぜあの時心が波打ったのか、答えを見つけられていなかった。
爆発を見た時? いや、正確には、炎だ。炎に身を包まれているであろう、大勢の人を思い浮かべた時。あの時、今と同じように心が波打った。
そしてそれは、ただ人が亡くなっていることに、心を痛めたのとは違う。もしそうなら、今の心情と噛み合わない。だけど、そうだとしたら、心が波打つ原因は何だ?
海里は、ほぼ無意識のうちに、ノートに書いた“神道圭介”の4文字のうち、名字の神道を二重線で消した。同時に、彼は自分の息を呑む音を聞いた。
「圭介」
ただ書いた文字を読んだだけのつもりだったが、心が張り裂けそうなほど痛んだ。同時になぜか頭痛を感じ、後頭部を咄嗟に抑える。
ただの名前だ。圭介なんて名前も、漢字も、ありふれている。同名の人は多いはずだ。それなのにーー
「泣きたくなるほど、嬉しい」
神道、いいえ、圭介さん。あなたは一体、誰なんですか?
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