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悲哀 幕間
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大きなため息を堪え、洋治は振り返った。伊吹は改めて手にしたノートを見ていたが、その瞳には興味なさげな感情のみが宿っている。
顔に出過ぎだと思いつつ、洋治は口を開きかけた。同時に、スーツの内ポケットに入れたスマートフォンが振動する。ため息の次は舌打ちを堪え、彼はおもむろに口を開いた。
「伊吹。先に仕事場に戻っていろ。俺は少し用事がある」
「わかりました。じゃあこれ、取り敢えず捜査一課で共有して裏取りしますね。九重警視長、帰宅時間だの何だの、当てずっぽうで言ったでしょう」
流石にわかるか。まあ、その理由は詮索しないが吉だろうがな。
「ああ、頼む」
伊吹が立ち去るのを見送ると、洋治は取調室からいくつかの部屋を挟んだ小会議室に入った。扉を閉めて電気をつけ、振動し続けるスマートフォンを取り出す。通話相手を見て顔を歪めたが、仕方なくボタンに触れて耳に押し当てた。
「なんですか。同じ建物内にいるのに、わざわざ電話する意味あります?」
不満げな声に対し、電話越しに笑い声が聞こえた。洋治は耐えきれずため息を漏らす。
「こっちだって暇じゃないんですよ。迷惑な上司が四方八方から面倒ごとを押し付けてくるんですから。ええ、当然あなたも入ってますよ。というより、あなたが最たる例です」
全く。自覚しているだろうに、一々聞くか? 今さらにも程がある。
「被害者遺族の証言は伊吹に持たせました。裏取りはすぐに終わりますから、後は鑑識に回した証拠から割り出します。
大した時間はかけませんし、かかりませんよ。むしろ、後始末の方が時間がかかるのでは?」
具体的な時間を聞かれ、洋治は1週間もかからないと返した。想像以上に短かったのか相手は驚くが、洋治は特に反応を示さない。
急かされるのが嫌だから、すぐに鑑識に回したんだ。それも、とびきり優秀な元問題児に。そうじゃなきゃ、倍以上の時間がかかる。そんな悠長にしている場合じゃない。
「とにかく、こちらの仕事が終わり次第、後始末はお任せします。捜査はともかく、それだけは、あなたにしかできないことなんですから」
通話を終えると、洋治は一層深いため息をついた。頭の中でやるべきことを整理し、その多さに辟易しつつ電気を消す。
部屋を出ると、取調室から出てきた上司たちと目が合ったが、洋治は無視して立ち去った。傷だらけの背中に、探偵の視線を感じながら。
顔に出過ぎだと思いつつ、洋治は口を開きかけた。同時に、スーツの内ポケットに入れたスマートフォンが振動する。ため息の次は舌打ちを堪え、彼はおもむろに口を開いた。
「伊吹。先に仕事場に戻っていろ。俺は少し用事がある」
「わかりました。じゃあこれ、取り敢えず捜査一課で共有して裏取りしますね。九重警視長、帰宅時間だの何だの、当てずっぽうで言ったでしょう」
流石にわかるか。まあ、その理由は詮索しないが吉だろうがな。
「ああ、頼む」
伊吹が立ち去るのを見送ると、洋治は取調室からいくつかの部屋を挟んだ小会議室に入った。扉を閉めて電気をつけ、振動し続けるスマートフォンを取り出す。通話相手を見て顔を歪めたが、仕方なくボタンに触れて耳に押し当てた。
「なんですか。同じ建物内にいるのに、わざわざ電話する意味あります?」
不満げな声に対し、電話越しに笑い声が聞こえた。洋治は耐えきれずため息を漏らす。
「こっちだって暇じゃないんですよ。迷惑な上司が四方八方から面倒ごとを押し付けてくるんですから。ええ、当然あなたも入ってますよ。というより、あなたが最たる例です」
全く。自覚しているだろうに、一々聞くか? 今さらにも程がある。
「被害者遺族の証言は伊吹に持たせました。裏取りはすぐに終わりますから、後は鑑識に回した証拠から割り出します。
大した時間はかけませんし、かかりませんよ。むしろ、後始末の方が時間がかかるのでは?」
具体的な時間を聞かれ、洋治は1週間もかからないと返した。想像以上に短かったのか相手は驚くが、洋治は特に反応を示さない。
急かされるのが嫌だから、すぐに鑑識に回したんだ。それも、とびきり優秀な元問題児に。そうじゃなきゃ、倍以上の時間がかかる。そんな悠長にしている場合じゃない。
「とにかく、こちらの仕事が終わり次第、後始末はお任せします。捜査はともかく、それだけは、あなたにしかできないことなんですから」
通話を終えると、洋治は一層深いため息をついた。頭の中でやるべきことを整理し、その多さに辟易しつつ電気を消す。
部屋を出ると、取調室から出てきた上司たちと目が合ったが、洋治は無視して立ち去った。傷だらけの背中に、探偵の視線を感じながら。
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