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帰省と再会
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「お兄ちゃん、私もう子供じゃないよ?」
そう言ってからは止める暇もなく着ていた服を躊躇なく脱いでいく。最後に会ったのは数年前、朧気な記憶を掘り返しても人懐っこい笑顔の子供しか出てこない。そのころは流石に年相応の控えめな体つきだった、ような、そんな気がする。
「胸だって、ほら」
着こんでいた服を脱ぐと、思わず息をのむほどの綺麗で大きな胸が出てくる。真っ白な肌は天井の蛍光灯を眩しく反射していて、思わず目を背ける。
「ね。お兄ちゃん」
柔らかい手が優しく握っているはずなのにその手を振り払うことも出来ずに為されるがままに導かれる。外の寒さで少し冷えているが、若さ特有の熱い体温が素肌同士でより伝わってくる。
「あんず・・・」
自分のほうが年上なのに良いようにされている現実を拒否している脳が走馬灯よろしく今日の記憶をフラッシュバックし始める。・・・たぶん解決しないと思う。
「・・・寒い」
数年ぶりに帰って来た実家は最後に来た数年前と同じ肌を刺すような寒さで出迎えた。暫く寄り付かなかったこともあって久しぶりの厳冬は暖かい方で過ごしていた体にはなかなか堪える。一応迎えには来てくれるらしいが、大丈夫なのだろうか。車が来れるような積雪量ではないと思うのだが。
「お兄ぃーーー」
吹雪の中でもよく通る声は聞き覚えがある。迎えが来たのだろうかと思って重い腰を上げる。あまりの寒さと雪で外で首を長くするのは止めて駅の中で籠城を決め込んでいたのだが、迎えが来たのならそういうわけにもいかない。でもいつだって予想は外れる。近いところはパチンコから遠いところは新しい年号まで。そして今回も。
「いた!!!!!!」
ドアを開けるのは俺ではなかった。外から雪塗れの女の子が、寒さで林檎みたいになった頬を引っ提げて入ってくる。ふっくらとした頬と小動物を思わせるまん丸な目はすごく、すごく見覚えがあった。声が聞こえた時点でなんとなく予想していたが、迎えの相手は従妹だった。
「あんず、か?」
「うん!久しぶり!お兄ちゃん、四年ぶりだね」
もう最後に会ってからそんなに経っているらしい。少し会わないうちに身長も伸びて、すっかり女児という印象から女性一歩手前という感じだ。男子三日会わざれば、なんて言うが女の子も同じようなものだろう。気づけばすっかり知らない人だ。
快活そうに見えて、笑うとふにゃりと融けるような笑顔は相も変わらずで、なんだかほっとする。十年以上変わらなかった田舎がこの数年で劇的に変わる可能性は低いと思っていた。それでも目前の少女のように変わらないものがあるとやはり安心する。
「あ、お母さん?お兄ちゃんいたよ。うん、このまま駅に泊まるね。うん、また明日ね。大丈夫だよ~。ちゃんとカイロも毛布も持ってるから。うん、じゃね」
「・・・」
今、目前で信じられないような発言を聞いた気がする。駅に泊まるのか?この寒さで?確かに車を走らせるには雪が積もりすぎだし、吹雪いてもいるが。
「泊まるのか?ここに?」
「そうだよ?」
「ちゃんと明日の朝日を浴びられるのか?ここは。朝になったら凍死体二つが出来上がっていそうだけど」
「大丈夫大丈夫。たまにあるから」
「たまにここに泊まるのか?」
「いいからこっちこっち」
あんずに手を引かれるままに入ったのは駅の宿直室のような部屋だ。都会では最早見かけることもない部屋だろう。というか田舎から出てから全く見た記憶もない。今の学校でも宿直というものもないと聞くし、改めて田舎っぷりを感じさせられる。
「ここに泊まるのか?」
「うん!結構綺麗でしょ?今でも冬に使われるからって綺麗にしてるんだよ」
「そうなのか。じゃあ、建物ごと作り変えてほしいがな」
「それは無理だって。お金足りないって」
「そりゃそうか」
話しながらも、バッグから布団と寝袋とお菓子にカップ麺とと出てくる。まるでキャンプだ。本人のカラっとした感じも親に普通に報告する感じからしてもそこまで心配しなくてもいいのかもしれない。年頃の女性としてはもう少し注意してほしいのだが、それをこっちから言うのは何か、違う気がする。
「「はぁ」」
夕飯を食べ終わった。話すことはたくさんあったような気がしたが、いまいちあんずの視線が安定しておらず、微妙に話しそこなった。
「あんず、どうかしたか。あれなら、俺は外で・・・無理か。その、出来るだけ離れて寝るが」
「ち、違うよ。その・・・」
「うん?」
そういうわけではないらしい。ほっとしたような、そんな気分だ。となるとあまり思いつかない。飯が足りなかったのだろうか。外は寒いし、確かに腹が減ってそれが恥ずかしいのかもしれない。別にそんなことは気にしないのだが。
「あ、あの、お兄ちゃん。その聞きたいことがあって」
「うん。どうした?確かに最近帰ってなかったしな」
「お兄ちゃん、その彼女いるって。それで帰ってこないって聞いて、それで」
「・・・」
すっかり忘れていた。確かにそんなことを言ったような気がする。親がごちゃごちゃとうるさいのでそう言ったのだった。単に仕事が忙しくて面倒だっただけなのだが。
「今年帰って来たってことは、彼女さんもういないんだよね・・・?」
「あ、ああ、まあな。すまない、寂しかったか?」
「うん、じゃあ私が彼女になってもいいんだよね?」
「うん?」
「お兄ちゃんは今彼女いないし、一緒に同じ部屋で寝るんだし、それに」
「それに?」
「従妹なら結婚できるもんね」
「ちょっと待て」
「やだ。お兄ちゃんがこんなに待たせたんでしょ?責任とって?」
あんずの柔らかい手が俺の手を優しく掴む。女性特有の骨ばっていない柔らかい手、体だってこっちの方がずっと大きい。はずなのに、はずなのに、全く振り払えない。
「お兄ちゃん、私もう子供じゃないよ?」
ふにゃりと笑った顔を見て思い出す。そうだ、この笑顔が、一線を越えても嬉しそうに笑っていそうなこの顔に、狂わされる前に俺は地元に返ってくるのをやめたんだ。なんで、忘れていたのか。俺は、きっと、逃げられない、そんな笑顔だった。
そう言ってからは止める暇もなく着ていた服を躊躇なく脱いでいく。最後に会ったのは数年前、朧気な記憶を掘り返しても人懐っこい笑顔の子供しか出てこない。そのころは流石に年相応の控えめな体つきだった、ような、そんな気がする。
「胸だって、ほら」
着こんでいた服を脱ぐと、思わず息をのむほどの綺麗で大きな胸が出てくる。真っ白な肌は天井の蛍光灯を眩しく反射していて、思わず目を背ける。
「ね。お兄ちゃん」
柔らかい手が優しく握っているはずなのにその手を振り払うことも出来ずに為されるがままに導かれる。外の寒さで少し冷えているが、若さ特有の熱い体温が素肌同士でより伝わってくる。
「あんず・・・」
自分のほうが年上なのに良いようにされている現実を拒否している脳が走馬灯よろしく今日の記憶をフラッシュバックし始める。・・・たぶん解決しないと思う。
「・・・寒い」
数年ぶりに帰って来た実家は最後に来た数年前と同じ肌を刺すような寒さで出迎えた。暫く寄り付かなかったこともあって久しぶりの厳冬は暖かい方で過ごしていた体にはなかなか堪える。一応迎えには来てくれるらしいが、大丈夫なのだろうか。車が来れるような積雪量ではないと思うのだが。
「お兄ぃーーー」
吹雪の中でもよく通る声は聞き覚えがある。迎えが来たのだろうかと思って重い腰を上げる。あまりの寒さと雪で外で首を長くするのは止めて駅の中で籠城を決め込んでいたのだが、迎えが来たのならそういうわけにもいかない。でもいつだって予想は外れる。近いところはパチンコから遠いところは新しい年号まで。そして今回も。
「いた!!!!!!」
ドアを開けるのは俺ではなかった。外から雪塗れの女の子が、寒さで林檎みたいになった頬を引っ提げて入ってくる。ふっくらとした頬と小動物を思わせるまん丸な目はすごく、すごく見覚えがあった。声が聞こえた時点でなんとなく予想していたが、迎えの相手は従妹だった。
「あんず、か?」
「うん!久しぶり!お兄ちゃん、四年ぶりだね」
もう最後に会ってからそんなに経っているらしい。少し会わないうちに身長も伸びて、すっかり女児という印象から女性一歩手前という感じだ。男子三日会わざれば、なんて言うが女の子も同じようなものだろう。気づけばすっかり知らない人だ。
快活そうに見えて、笑うとふにゃりと融けるような笑顔は相も変わらずで、なんだかほっとする。十年以上変わらなかった田舎がこの数年で劇的に変わる可能性は低いと思っていた。それでも目前の少女のように変わらないものがあるとやはり安心する。
「あ、お母さん?お兄ちゃんいたよ。うん、このまま駅に泊まるね。うん、また明日ね。大丈夫だよ~。ちゃんとカイロも毛布も持ってるから。うん、じゃね」
「・・・」
今、目前で信じられないような発言を聞いた気がする。駅に泊まるのか?この寒さで?確かに車を走らせるには雪が積もりすぎだし、吹雪いてもいるが。
「泊まるのか?ここに?」
「そうだよ?」
「ちゃんと明日の朝日を浴びられるのか?ここは。朝になったら凍死体二つが出来上がっていそうだけど」
「大丈夫大丈夫。たまにあるから」
「たまにここに泊まるのか?」
「いいからこっちこっち」
あんずに手を引かれるままに入ったのは駅の宿直室のような部屋だ。都会では最早見かけることもない部屋だろう。というか田舎から出てから全く見た記憶もない。今の学校でも宿直というものもないと聞くし、改めて田舎っぷりを感じさせられる。
「ここに泊まるのか?」
「うん!結構綺麗でしょ?今でも冬に使われるからって綺麗にしてるんだよ」
「そうなのか。じゃあ、建物ごと作り変えてほしいがな」
「それは無理だって。お金足りないって」
「そりゃそうか」
話しながらも、バッグから布団と寝袋とお菓子にカップ麺とと出てくる。まるでキャンプだ。本人のカラっとした感じも親に普通に報告する感じからしてもそこまで心配しなくてもいいのかもしれない。年頃の女性としてはもう少し注意してほしいのだが、それをこっちから言うのは何か、違う気がする。
「「はぁ」」
夕飯を食べ終わった。話すことはたくさんあったような気がしたが、いまいちあんずの視線が安定しておらず、微妙に話しそこなった。
「あんず、どうかしたか。あれなら、俺は外で・・・無理か。その、出来るだけ離れて寝るが」
「ち、違うよ。その・・・」
「うん?」
そういうわけではないらしい。ほっとしたような、そんな気分だ。となるとあまり思いつかない。飯が足りなかったのだろうか。外は寒いし、確かに腹が減ってそれが恥ずかしいのかもしれない。別にそんなことは気にしないのだが。
「あ、あの、お兄ちゃん。その聞きたいことがあって」
「うん。どうした?確かに最近帰ってなかったしな」
「お兄ちゃん、その彼女いるって。それで帰ってこないって聞いて、それで」
「・・・」
すっかり忘れていた。確かにそんなことを言ったような気がする。親がごちゃごちゃとうるさいのでそう言ったのだった。単に仕事が忙しくて面倒だっただけなのだが。
「今年帰って来たってことは、彼女さんもういないんだよね・・・?」
「あ、ああ、まあな。すまない、寂しかったか?」
「うん、じゃあ私が彼女になってもいいんだよね?」
「うん?」
「お兄ちゃんは今彼女いないし、一緒に同じ部屋で寝るんだし、それに」
「それに?」
「従妹なら結婚できるもんね」
「ちょっと待て」
「やだ。お兄ちゃんがこんなに待たせたんでしょ?責任とって?」
あんずの柔らかい手が俺の手を優しく掴む。女性特有の骨ばっていない柔らかい手、体だってこっちの方がずっと大きい。はずなのに、はずなのに、全く振り払えない。
「お兄ちゃん、私もう子供じゃないよ?」
ふにゃりと笑った顔を見て思い出す。そうだ、この笑顔が、一線を越えても嬉しそうに笑っていそうなこの顔に、狂わされる前に俺は地元に返ってくるのをやめたんだ。なんで、忘れていたのか。俺は、きっと、逃げられない、そんな笑顔だった。
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