聖夜交錯恋愛模様

神谷 愛

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第1話 聖夜にGO

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「今年も彼氏が出来ませんでした」
「その言葉も今年で三回目だね」
親友は今年も彼氏ができることなくクリスマスを迎えていた。当然私もいないわけだが。彼女と違うのは別に作る気なんてサラサラない点だろうか。
聖子せいこ、今年はどうするの?」
私は目の前で机に突っ伏す親友、降田 聖子ふるた せいこに問いかけた。彼女に彼氏ができない理由はきっと私が近くにいるからだろう。女子にしては高い身長と初対面の後輩に涙目になられるほどの目つきの悪さ。バレーで鍛えた体は腕力にしろ体力にしろ、そこらの男に負ける気はしない。そんな女が常に傍にいれば彼女に彼氏ができない理由にもなるだろう。
「今年も正子まさこと一緒かなぁ」
「そっか。もう三回目だね」
「うむ。毎年毎年済まんねぇ」
「それは言わない約束でしょ。おばあちゃん」
「誰がおばあちゃんじゃ。それで今年は行きたい所があってね?」
「珍しいね、どこ行くの?」
「着いてからのお楽しみ」
「じゃ、行こっか」
彼女と一緒に向かったのはスーパーだった。拍子抜けも甚だしい。別にスーパーぐらいいつでも来られると思うんだけど。
「ここに来たかったの?」
「まさか。買い物に来ただけ。ほら、食べたいの選んで。これから女子会なんだから」
「女子会?」
「そ、女子会」
「え、うん」
女子会をしたかったらしい。毎年女子会をしているような気もするけれど。今年はいつもとは違う場所でするのだろうか。去年は私の家で、一昨年は彼女の家だった。今年はまた違う場所でするらしい。高校最後の女子会だから気合を入れているのだろうか。
「ほらほら、選んで」
彼女に促されるままにお菓子やら飲み物を選んでいく。聖子が好きなのはチョコ系。確か、新しいチョコが出ていたはず。彼女が好きなブランドのやつが出ていたはず。何となく選ぶとどうしても彼女が好きなものばっかり選んでしまう。またやってしまったな。そんなことを考えながらカゴを覗く。
「え?」
カゴの中には私の好きなお菓子が目いっぱい積まれていた。甘さ控えめから渋い系、買おう買おうと思って結局まだ買っていない新商品まで。思わず顔を挙げると彼女と目が合った。
「「・・・」」
「ふ、ふふふ」
「あはは」
「二人とも自分の選んでないじゃん!」
「それね!しかも欲しかったのばっかりじゃん!」
「もうこれでいっか。早く買っちゃお」
「うん」
会計を済ませて、大量のお菓子を互いのほとんど空のバッグに放り込んでいく。というかまだどこに行くのかを聞いていない。別にどこでも楽しいことには変わりないだろうけど。
「それで?」
「?」
「どこ行くの?」
「あ、忘れてた」
「嘘でしょ?」
「ほんとほんと」
「早く教えてよ」
「しょうがないなぁ、これから行くのはね・・・」

「まさか本当に来るとは・・・」
「冗談だと思ってたの?」
「思ってた」
まさか本当に来るとは。しかもラブホの最高の繁忙期に。いや、ラブホの繁忙期なんて知らないけど。
「私、初めて入った」
「私も。すごいね、なんか」
「分かる」
思わず語彙がどこかに行ってしまうほど、中の装飾は豪華だった。大きなダブルベッドに煽情的な色のカーテン。全体的にピンク色なのは気持ちを高めさせるためだろうか。
「ほら、お菓子食べよ」
「あ、うん」
部屋の雰囲気に呑み込まれた私よりも早く立ち直った彼女はもう女子会をする気満々でリュックを広げていた。


気づけば時計の針はもう11時を回っていて、いつもならもう寝ようかなと思い始める時間だ。でも今日はクリスマス。いつもなら人通りの絶える時間でも人はたくさんいて、どこもかしこも光が付いている。
「にぎやかだね」
「ね」
寝ていたと思ったら起きていたらしい。後ろから抱き着いてきた聖子と街を見下ろす。さっきまでの賑やかな雰囲気とは打って変わって、少し目が閉じかけている彼女は色っぽさを纏っている。
「私、本当はさ、ずっと前から今日のこと考えてたの」
「え?」
「友達としての期間が長いとさ、その先に行くのって難しいじゃん?」
「・・・」
「だからね?こういう場所にくればその場の雰囲気で流されたりするかなって思ってね?」
「聖子?」
「私ね、ずっと正子のこと好きだったの。でも、私達って女同士でしょ?」
「・・・」
絞り出すようにゆっくりと話す聖子はいつもの快活さとは程遠い空気の中でただ叶わないと思っている恋を謳う歌手だった。後ろにいるから顔も見えないけど、彼女がどんな顔をしているかはわかる。彼女はまるで後ろを見ないで欲しいと言わんばかりに力を入れて抱きしめる。
「ごめんね。気持ち悪いよね、今日だけだから。今日だけ、甘えさせて」
私は、彼女にこんなことを思わせていたのか。今までも彼女に彼氏ができると良いなと思って友達との間を取り持ったこともある。
私は、彼女のことを何でも知っているつもりだった。彼女の好きな食べ物から好きなタイプまで知っているつもりだった。
私は、彼女のことを思って行動しているつもりだった。今日のスーパーだっていつも一緒に買い物する時だって彼女の好きなものばかり選んでしまうことばかりだ。
でも、でも彼女が私のことをこんな風に思ってくれているなんて考えたこともなかった。私は今まで彼女の何を見て、何を理解したつもりになっていたのだろう。
「・・・今日だけだから、明日からは只の友達に戻るから」
今にも泣きそうなほどに震える声と何も言わない、言えない私をどう思っているのか、少し震える腕が私を包み込む。
何のことは無い。私たちは互いに好きだっただけだ。臆病な二人が踏み込めないままこんなところまで来てしまったのだ。
「ごめんね、聖子」
「うん、私もごめんね」
「ううん、そうじゃなくて。私も聖子のことが好き。今まで彼氏を作ろうとしたことなんてないよ。聖子と一緒にいる時間減らしたくなかったから」
「え?」
「だから、私もごめんね。私、聖子のこと何もわかってなかった」
「正子」
「うん」
「私達ずっと両思いだったってこと?」
「そうだね」
「そっか、そうだったんだね」
涙を流しながら、その事実を噛み締めている彼女の顔は安心しきっていて、私の心もなんだか緩んでいくようだった。でもいつもは抑えているその感覚も今は心地いい。今までせき止めていた彼女の思いも、彼女が今までせき止めていた思いもこれからは互いに話すことができるのだから。

「えっと、改めて、なんだけど、好きです。付き合ってください」
「もちろん。これからもよろしくね、聖子」
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