転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第一章 幼少期の王宮での暮らし

第十一話 王宮魔術師の派遣

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 紫竜のルーシェが意識を失っていたのは、数分ほどの間だった。
 「……ルーシェ、ルーシェ」と懸命に呼びかけられる声に、薄く目を開けると、目に入ったのは、その鳶色の目にいっぱい涙を浮かべ、意識を取り戻したルーシェを見つめるアルバート王子の顔だった。
 彼は目を覚ました紫竜を見て、安堵の表情になり、次いでひしと小さな紫竜の身体を抱きしめた。

「ルーシェ、良かった、ルーシェ、目が覚めたんだ」

 涙を流して喜ぶ自分の主の顔を見た時、ルーシェ自身も胸が詰まる思いだった。
 「ピルル、ピルルルル」と鳴いて、自分の無事を知らせても、アルバート王子はぎゅっと小さな紫竜を抱いたまま離すことはなかった。
 護衛騎士のバンナムも、リヨンネも、マリアンヌ王女とその侍女もルーシェが無事に意識を取り戻したことに安心していた。
 それから、皆、塔の中を見て(これをどうしようか)というような顔をする。

 塔の内部にあった、ベットやテーブルなどの家具は全て壊れて木片に変わっていた。壁に掛けられていた絵まで、破れて形を失っている。
 開け放っていた窓の幾つかも、鎧戸が吹っ飛んでいた。

「侍従長に話すのが、気が重いです……」

 護衛騎士のバンナムとリヨンネが暗い顔をする。
 子供である王子と王女の責任が追及されるよりも先に、大人である自分達の監督責任が問われるだろう。
 だが、マリアンヌ王女が言った。

「お母様に事情をお話して、お母様からも侍従長に一言いってもらうわ。大丈夫、皆がクビにはならないようにするわ!!」

 母親である第三妃のマルグリッド妃にお願いするというマリアンヌ王女。
 そんな力強い王女の一言に、バンナムとリヨンネは顔を見合わせた後、頭を下げるのだった。


 その後、バンナムとリヨンネは侍従長に厳重注意を受けたが、王子と王女のそばから外されることもなく、今まで通りに働くことが許された。
 むしろ、塔の内部の家具を壊してしまったことよりも、貴重な紫竜の無事の方が喜ばれ、今後はこのようなことがないように、気を付けるよう重々言われる。
 紫竜ルーシェは、王宮で養育されているが、あくまで一年間の約束で、竜騎兵団から預けられている身なのだ。この小さな竜に怪我でもあった方が大事である。
 尖塔は、その後、あの壊れた家具などの残骸の全てが運び出され、新しい鎧戸を付けられる。塔の建物内部には、何一つ残っていないガランとした空間になってしまった。

 尖塔での飛行訓練のことを、その時王宮に派遣されてきた竜騎兵のインサに話をすると、インサは苦笑していた。
 紫竜の無事を喜びながらも、彼はこう話す。

「竜は、風の魔法の力も使って飛び立ちます。魔法の力を使わなくても飛ぶことはできるのですが、彼らは当然のようにそれを駆使します。魔法を使うことでより安定的に長時間飛び続けることができます」

 インサは優しく紫竜の頭を撫でてやる。
 どこをどう撫でれば竜が喜ぶのか知り尽くした男の手だった。
 紫竜がピルルと喜びの声を上げると、アルバート王子が紫竜をぐいと自分の膝の上に抱っこして、アルバート王子の方が紫竜の頭を優しく撫で始めた。
 その様子に、竜騎兵のインサはまた小さく笑いながら、話を続けた。

「確かに、子竜達が飛べるようになるのは孵化から一月ほどですが、それよりも時間がかかる子竜達も多いです。彼らは遊びながら身体を鍛え、そして魔法の力も使い始めます。少し浮かび上がることが出来たと言うのなら、紫竜の成長は順調で、問題がないでしょう。翼には身体を持ち上げる力があるということです。それよりも、この子が風魔法を使って竜巻を作った方が大変ですね」

「どう大変だと言うのですか」

 護衛騎士バンナムの問いに、インサは答えた。

「竜達は、特に魔法の原理を知ることなく、魔法を使います。本能で、彼らはそれをどう使えばいいのか分かっているのです。人化して、複雑な魔術の体系を学習する竜もいますが、彼らは無詠唱で単純な魔法を自然に使うことが普通です。彼らは大ざっぱです」

 実際、インサ達竜騎兵が、自分達の竜に跨って戦う時、多くの竜が使う魔法は風魔法だけで、それも追い風を作ってスピードをあげる、背中に乗る竜騎兵を守るため風の結界を張るというものだった。風魔法で風を吹きつけ、相手を転ばせたりもする。それくらいだ。竜が竜巻を魔法で作るなんて初めて聞いた。
 自分の翼で飛ばずに、自分を竜巻の上に乗せて空に上がるなんてことも、初めて聞いた。そんなことをする竜は、これまでいなかっただろう。
 膨大な魔力を持っていることは明らかだった。
 もしかしたら、この小さな紫竜は魔法の力だけで飛び続けることも可能なのではないかと思うほどだった。

 だからこそ、魔法を教えてくれる魔術師の派遣は急務だ。

「竜騎兵団長から、ルーシェに魔法を教えてくれる王宮魔術師が決まったと聞きました」

 そのインサの言葉に、アルバート王子は顔を上げる。

「また改めてご紹介があるでしょう。王宮魔術師のレネという人物です。若くして、王宮魔術師になったとても優秀な方らしいです」



    *


 第七王子が紫竜の主と認められ、来年には見習い竜騎兵として、北方の竜騎兵団に行くことになっている。
 それまでの一年間、紫竜の子供が王宮内で育てられている話を、王宮魔術師のレネも耳にしていた。
 自分には関係のない話だと思っていた。
 ところが、王宮魔術師長から、レネは、アルバート王子の元にいる紫竜に、魔法を教えるようにと命ぜられた。
 
(何故、自分にこんな面倒くさい仕事が……)

 そう思いつつも、平民出身で、何ら貴族の後ろ盾を持たぬ自分に、そうした面倒な仕事が押し付けられることは、これまでにもよくあることだった。
 レネは、今年で二十一歳。王都の魔術学校を首席で卒業した、飛び抜けて優秀な魔術師だった。
 当然、王宮魔術師任用試験にも一発で合格した。
 名誉ある王宮魔術師になれたことに、レネの家族達は大喜びであったが、レネ自身は、王宮魔術師の高額な給与に非常に魅力を感じていた。
 その給与があれば、「アレも買えるし、コレも買える」と目が飛び出るほど高額の魔術書が、好きなように買えてしまうのだ。
 レネは、三度の飯よりも、魔術書を読むことが大好きな魔術フリークの男だった。
 そうして彼と同じようなタイプの魔術師は、魔術師達の中には多かった。
 生活を顧みることもなく、ただただ研究に没頭している魔術師達。
 むしろ、自分はきちんと宮仕えして、世の役に立っている魔術師ではないかと思う。
 人によっては、人里離れた場所で、家に籠ってただただ研究を続け、自分の魔術の研鑽にしか目を向けない魔術師達もいる。
 それに比べればはるかにマシであった。

 だが、宮仕えの悲しみか、上からの命令に逆らうことは出来ない。
 
 レネにお鉢が回ってきたのも、明らかに面倒な仕事であったからだ。
 生まれたばかりの小さな竜に、魔法を教える?
 自分は、教師ではない!!
 よちよち歩きの小さな竜に、初級の魔術書を手に、魔法を教える自分の姿を思い浮かべようとしたが、うまく思い浮かばなかった。
 
 だが、命ぜられた仕事は仕事である。
 レネは諦めた気持ちで、小さな竜に教えるための初級の魔術書の用意をはじめた。




 そして、紫竜への魔法教育の一日目を迎えた。
 紫竜が、何をどこまで魔法というものを理解しているのか分からない。
 だから、レネは、本当に魔法を知らぬものに、子供にでも教えるような優しい言葉で、教えることにした。
 実際、紫竜のルーシェは何も知らない子供だった。
 ※なお、この魔法教育の一日目では、少し離れた場所でリヨンネも椅子に座り、二人の様子を見守っていた。

 紫竜ルーシェは、この日を迎えることを待ち望んでいた。
 現代の日本から、魔法のあるこのファンタジー世界の小さな竜に転生した。
 そして紫竜は、たくさんの魔力を持っているという。
 もしかしたら、魔法を使って、俺つぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇが実現できるのではないかと、物凄い期待があった。
 柔らかなフカフカのクッションの上に座り、用意された小さな机に向かう紫竜。
 どこかキリリとした真剣な表情で、話を聞こうと意気込んでいる小さな竜。
 最初、その姿を見た時、王宮魔術師のレネは目を疑った。
 仕草など、非常に人間じみた行動をとる紫竜なのだ。

 レネが、竜の子供を見たのはこのルーシェが初めてだった。
 そもそも竜の子供は、卵からして北方の山や、竜騎兵団から持ち出されることはない。一般の人々が幼竜を目にすることはまずない。
 だから、レネはルーシェを見ながら、竜とは、こういうものなのか……と感じながら授業が始められた。
 そして紫竜は、真剣にレネの話に耳を傾け続けていた。

「この世の魔法の源は、大きく三つあります。一つ目は、それ自身が体内に持つ魔力、二つ目は神や精霊といったものが提供する力、三つ目は身の回りの空気の中に存在する魔力です」

 ルーシェはふんふんと話に頷く。
 この間、塔の中で竜巻を作る時に使った魔力は、三つ目の空気の中に存在する魔力なのだろう。それを、ルーシェには集めて使った記憶があった。
 
「人間が使う魔法は、一つ目と二つ目の源を使って行われます。三つ目は使われません」

 それに、ルーシェは首を傾げた。
 どうして使われないのかと、問いかけるような黒い目に、レネは続けた。

「空気の中の魔力は、魔素と呼ばれるのですが、それは非常に薄いのです。太古には、この世界は濃密な魔素に満ちていたと言われています。しかし、今はそれが失われて久しく、空気中の魔素は、現在、ほとんどありません」

 そう言い切られた。
 ルーシェは首を傾げたままだった。

(え? じゃあ、あの時、俺が塔で集めた力はなんだったんだ? あれは空気中の魔素じゃないの?)
 
 言葉が話せないことがもどかしい。
 疑問を抱いても、黙ってレネの話を聞き続けるしかなかった。

「二つ目の力を顕在化させるためには、神や精霊の力を借りることが必要で、そこには信仰といった別の努力が必要です。これもまた、竜である貴方がふるうべき魔法の力ではないでしょう。ですので、今日から私は、一つ目の、体内にある魔力を使って魔法を行使する方法を、貴方に教えたいと思います」

 「そうじゃないんじゃないの」と申し立てることもできない紫竜は、とりあえず、その方向で進めてもらうしかなかった。
 紫竜のルーシェはコクリと頷いた。
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