転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第三章 古えの竜達と小さな竜の御印

第一話 野生竜の定点観察拠点へ出立する

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 リヨンネが野生竜の定点観察拠点へ出発する日がやって来た。

 北方地方の山間には、この竜騎兵団の拠点が出来る遥か昔から、多くの竜が棲んでいた。竜達は広大な森林地帯に広く分布して生息しているため、その正確な頭数は分かっていない。人前に頻繁に姿を現わす小さな飛竜もいれば、地底奥深くに棲み、滅多なことでは姿を見せない巨大な地竜もいる。
 観測地からは、多くの野生の竜達が暮らしている様子が見える。竜達の様子を定期的に記録することも大切な仕事であった。
 竜騎兵団の飛竜に、道の途中まで送ってもらうことは可能であったが、中継地に辿り着いた以降は徒歩になる。
 竜達には縄張り意識があり、竜騎兵団の竜達がむやみやたらと野生竜のテリトリーに入ることは避けた方が良い。ただそれでも春の繁殖期になるとわざとそのテリトリーに突入して、野生竜達をおびき寄せて交歓している騎竜もいるようだった。

 これまで、観察拠点へ向かう山道では、春の気温上昇による雪崩が何か所かで発生していた。
 道の安全が確保されるまで、「もう少し」「あと少し」と様子を見ていたが、さすがにもういいだろうと、リヨンネは少し前から荷物をまとめて準備を進めていた。
 いよいよリヨンネが、山間の定点観察拠点に向けて出発すると聞いたアルバート王子や紫竜は寂しそうな様子を見せていた。

「また帰りも寄らせてもらいますから」

 リヨンネはそう言った。
 行きと同じく、リヨンネが背中に背負う予定の大きな袋はパンパンに膨れ上がっている。
 紫竜を抱っこしながらリヨンネに会いにいったアルバート王子は、「必ず無事に戻るんだぞ」とリヨンネの安全を気遣っていた。

「はい、大丈夫です。さすがにもう雪崩は起きないでしょう」

 アルバート王子の腕の中からポンと飛び降りた紫竜は、リヨンネのそばまでトコトコと歩いて行くと、リヨンネの顔を見上げて「ピュルピルルルルル」と鳴いていた。
 その小さな竜の鳴き声に、リヨンネは笑みを浮かべていた。

「貴方も心配してくれるんですか。ありがとう、ルーシェ」

「ルーシェは、先生がまたここへ戻ってきたら、一緒にお菓子を食べようと言っている」

 それに、リヨンネは吹き出していた。
 リヨンネはこの小さな紫竜がお菓子が大好きなことを知っていたため、山のように王都から焼き菓子やらを持ち込んでいた。勿論それは、とっくに紫竜やアルバート王子、レネ達の腹の中に収まっていた。

「貴方は可愛いですね」

 そう言ってリヨンネが紫竜の頭を撫でると、小さな竜は撫でられる感触に気持ち良さそうに目を細めていた。
 そして紫竜は「ピルピルピルルル」と話し出し、それを聞いたアルバート王子は少しだけ眉を寄せ、頭を振っていた。

「だめだ、ルー。それは」

「どうしたんですか」

 アルバート王子は困ったように小さな竜を見た後、リヨンネに告げた。

「ルーは、リヨンネ先生がその観察拠点に行ったら、一度様子を見に行くと言っているんだ。心配だから」

 それにはリヨンネも頭を振った。

「ダメですよ、ルーシェ。私がいる場所は野生の竜達がたくさんいる場所です。貴方のような小さな小さな竜がやって来たら食べられてしまいますよ」

「ピルピルピルルル!!!!」

 それは嘘だとルーシェは怒ったように言った。
 文字を王子から教わったルーシェは、今や本も読める。竜についての本も何冊か読んでいた。
 竜は竜相手に喧嘩はするけど、相手を殺すようなことはしない。ましてや同族を食べるなんてことはあり得ない。
 
 自分が適当に言ったことに憤慨している紫竜に、少しだけ驚いたような顔でリヨンネは言葉を続けた。

「まぁ、食べるというのは言い過ぎでしたね。でも、貴方のような特別な竜は、野生竜達も惹きつけてしまいます」

 それを聞いたアルバート王子が顔をしかめていた。
 成竜に姿を変えたルーシェに、子竜達が歌うように鳴いて近づいてきたことを思い出したのだ。

「いいですか、貴方はこの竜騎兵団の拠点にいるのです。ここには、強いウラノス騎兵団長の騎竜がいます。群れの長たるあの竜に逆らってまで貴方をどうにかしようとする野生竜はいないでしょう。でも、野生竜のテリトリーに入ってしまったら、そういうわけにはいきません。大人しくここで殿下のそばにいるのですよ」

 そう言って優しくリヨンネはルーシェの頭を撫でたのだった。



 リヨンネが出発するにあたり、道の途中まで、竜騎兵団の竜がリヨンネを乗せて運んでくれる。
 王都の学舎と竜騎兵団は友好関係にあり、竜騎兵団は竜の生態学者が定点観察拠点へ向かう時には、様々な便宜を図ることが慣例となっていた。リヨンネが今回竜騎兵団の青竜寮に厄介になっていたことも便宜の一つであった。竜騎兵団拠点における宿泊場所の提供は元より、食料・資材の提供も行われている。そしてその対価として、学舎からは山間の竜の最新の生態状況の報告がもたらされる。ある意味、ウィンウィンの関係であった。

 そして今、竜騎兵団の拠点の離着陸場ではリヨンネの荷物を竜達が運ぶ準備をしており、そしてその中にはぐったりと気絶したままのラバが数頭いた。
 見送りにやって来たルーシェはトコトコと気絶したラバの近くまで行って、これは何だろうと眺めていた。

(餌? もしかして、リヨンネ先生は観察拠点までラバを運んでそこで食べるつもりなのだろうか)

 あまりにも不思議そうに気絶したラバを、紫竜が眺めているので、それについてリヨンネを送る役目を負った竜騎兵のインサが説明してくれた。

「ラバや馬など、よほど慣れていないと竜を怖がり過ぎて懸命に逃げ出そうとします。そのため、運ぶ時は薬で意識を失わせてこうして運びます」

 ラバは布でくるまれ、その布ごと竜の背中に背負われていた。

「リヨンネ先生をお送りできるのは道の途中までです。それ以降、先生はラバで荷物を運ばなければなりません」

「大変なんですね」

 王子も近くでその話を聞いて驚いていた。
 しかし、言われてみれば理解できる。
 竜は生態系の頂点に立つ最強の生き物で、野生の動物達は竜に近寄ろうとしない。
 かつてあった戦いの時も、竜騎兵団の竜達が降下する姿を見ただけで、敵兵の馬は恐慌をきたして逃げ出したという。

 なるほどと紫竜もラバを眺め、思っていた。

(じゃあ、俺は王子に抱っこされて馬に乗ることは出来ないのかな。あ、でも竜に慣れていたら怖がらない馬もいるみたいだし。慣らしていけばいいのかな)
 
 ファンタジーの世界であるからして、馬に乗ってみたい気持ちもある。
 だが、紫竜は、馬に乗るよりも竜として飛んでいく方が遥かに速いことが頭にはないようだ。

(いつか“人化”できるようになれば、俺も馬に乗れる。そうしたら馬に乗って王子とお出かけもできるかも知れない)

 少女漫画のように、花びらの舞い散る中、キャッキャウフフと王子と二人馬に跨る光景を想像してみた。
 なんとなく「いいかも!!」と思う。内心、王子といつか一緒に馬に乗りたいなーと暢気に思っている小さな紫竜を、王子が両手で掴んで抱き上げた。

「何を考えているんだ? ニコニコしている」

「ピュルルピュルルルル」

 紫竜が一生懸命、いつか馬に乗って王子とお出かけしたいと話すと、王子は不思議そうな顔をしていた。

「馬に乗るよりも、ルーに乗って飛んでいく方がいい。速いし」

「ピルピルルルル!!(そうだけど、一緒に馬に乗りたい!!)」

「ルーは全く変なことを言うね」

 だけど嬉しそうに、王子は紫竜の鼻先に口づけしていた。

「分かった。いつか、そうだな。ルーが“人化”できるようになったら、一緒に馬に乗ろう」

「ピュルピルルルルルルル」

 喜んで、紫竜が勢いよく飛び上がろうとしたのを、王子はハシッと小さな竜の胴体を素早く両手で押さえて阻止した。
 すでに二度、王子は自分の顔面への紫竜の張りつきを経験していた。さすがに三度目を許すつもりはなかった。

「……ルー、何をしようとしていた」

「ピュルピルピルルルル」

 小鳥のように鳴きながら、少しだけ怖い顔をする王子を見ないようにして、紫竜は明後日の方角を眺めていた。



「それではまた」

 そう言って、リヨンネは旅立っていった。
 予定では、リヨンネは観察拠点で五日間過ごすことになっている。
 道中で一泊過ごすため、往復にかかる日数を合わせればちょうど七日で帰還することになっている。
 
 紫竜を抱き上げた王子とその護衛のバンナム、そしてレネ魔術師達が手を振っている姿が、竜に跨るリヨンネの視界からグンと小さくなっていく。

(なんだかあまりにも居心地が良かったから、一週間とはいえ、行くのが辛いな)

 竜騎兵のインサは、自分の後ろに跨って座るリヨンネに話しかけた。
 春とはいえ、上空の風はまだ冷たい。気を付けないと冷たい空気を吸い込んで肺まで痛めそうな気がした。
 
「上の方はまだ多くの雪が残っています。行かれる時はお気をつけて下さい」

 雪崩のことを言っているのだ。
 春を迎え、山の至る所で雪崩が起きていた。
 だが、観察拠点へ向かう道は収まっているという話だった。

「本当なら、観察地の建物のある場所まで、竜でお送りできるといいのですが」

 それが一番安全な方法である。
 道中の雪崩など一切気にせず、空から目的地に行けるのだから。
 だが、観察地は野生竜達の多く生息する場所にあり、竜騎兵団の竜がそこに分け入ることは出来ない。
 野生竜達は、竜騎兵団の竜達とはこの北方地方では共存関係にある。野生竜達も竜騎兵団の竜達の存在を認知しているし、そして竜騎兵団の竜達も同様だ。
 そして双方ともに礼儀正しく、適切な距離を保っている。その距離を、テリトリーを侵さない限り、竜達の間に争いは生じない。

「ありがとうございます。途中まで送って頂くだけでも有難いです」

 そのことを、竜の生態学者であるリヨンネはよく分かっていたし、竜騎兵であるインサも分かっていた。
 昔々に、観察地に赴く学者が、野生竜達と仲良くなり、野生竜達が学者を拠点まで送迎していたという話を聞いたことがあるが、眉唾物だろうとリヨンネは思っていた。
 だいたい、野生竜は気が荒いものが多い。特に若い竜はそうである。
 「人間なんて」と見下ろすものもいるが、一応、この観察地については手出ししないという話し合いが、野生竜達の間でも出来ているようだった。
 だから、観察地でリヨンネがウロウロとしていても、野生竜達は無視してくれるだろう。
 竜が大好きなリヨンネとしては、自分が竜達から無視されることに寂しい気持ちがある。でも野生竜とはそういうものだった。
 遠くから愛でる対象であるのだ。

 それに対して。
 リヨンネは見送りに来てくれた紫色の小さな竜ルーシェのことを想った。

(相変わらず小さく姿を変えたままで、可愛かったな)

 魔法の力で、姿を大きくも小さくも変えられる紫竜。
 いつも可愛らしく「ピルルピルピル」と鳴いている。お菓子が大好きな、どこかおかしい竜だった。
 そして成長した時には、それはそれは紫色の宝石のように輝く美しい姿になる。
 その姿を見た時、リヨンネは一目でそのとりこになった。

(しばらく離れていれば、この気持ちも収まると思ったのだけどな)

 会いに行けば、やはり感情が動いた。
 竜の生態学者であるリヨンネはその感情が無駄であることをよく理解している。
 すでに紫竜は、主を選んでしまっている。
 その時ほど、リヨンネは自分が竜騎兵ではないことを残念に思ったことはなかった。
 もし自分が竜騎兵を目指すものであるなら、真っ先にルーシェの卵の元へ行って、嘴で突っつき、その卵の殻から頭を覗かせた生まれたばかりの紫竜を抱きしめただろう。
 でもそれが出来たのは、アルバート王子だった。
 そして王子を選んだのは、紫竜だった。
 聞けば、本来、その次の孵化交流会で並べられる卵であったルーシェは、アルバート王子の気配を感じて、自分から卵を割りにいったという。それだけ、彼らは強い結びつきを持っている。
 現に今だって、二人は互いを大切に想っていることは明らかだった。
 とてもとても割り込む余地などない。

 ただそれでも、小さな紫竜が自分に対して子供のように甘えてくる姿は嬉しいし愛おしい。
 ついつい、お菓子を上げたくなる。
 そしてあの小さな紫竜も自分のことを、は感じていた。
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