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第三章 古えの竜達と小さな竜の御印
第二話 暗がりからの訪問者
中継地点でリヨンネはたくさんの荷物と意識を失っているラバと共に、竜の背から下ろされた。
送ってくれた竜騎兵達が空へ飛んでいく姿を、手を振って見送る。
それから荷物をまとめ、用意していた気付け薬を使ってラバを一頭ずつ起こしていく。
一頭起きたなら、その背に荷物を負わせ、そしてまた一頭起こしてその背に荷物を負わせるという作業を続ける。
荷運びだけで三頭のラバがいた。そして自分用のラバ一頭に跨る。
地図を手に、定点観察拠点への道を進んで行く。
山の下の村の辺りでは、草木が新芽を出しており、遠目から見れば淡い緑色の絨毯が広がりつつあるように見えた。だがここは標高の高い山間であり、まだまだ目につく緑もまばらであった。
しっかりと防寒具をまとわなければ寒い。吐き出される息も白かった。リヨンネは手袋の手を擦り合わせる。
(寒がりのレネ先生なら耐えられないだろうな)
と思ってしまう。竜騎兵団の拠点に向かう時の、雪だるまのように着ぶくれした姿を思い出して、一人笑いが零れてしまった。
そして出立する直前のレネのことを思い出した。
彼は、リヨンネに話があると告げ、やって来たリヨンネの前でしばらくもじもじとした後に言ったのだ。
「バンナム卿に告白しました。それで、私達は付き合うことになりました」
「おめでとう、レネ先生!!!!」
すぐさまリヨンネはレネの両手を掴み、ぶんぶんと上下に振っていた。
レネはリヨンネが心の底から自分を祝福していることを感じると、目を潤ませていた。
「これも、リヨンネ先生が私の背中を押してくれたおかげです!!」
レネの口から率直な感謝の言葉がこぼれ出る。
「本当だよ。私はいつも貴方の背中を押してるね!!!! でも良かったね!!!!」
ぐじぐじと悩むレネの背中を押し、発破をかけるのはリヨンネの役割のようになっていた。
でも、恋に臆病で気弱なレネ魔術師が、バンナムに自分の口から告白出来たのは大きな進歩である。
なんとなく成長した弟でも見るような視線で、リヨンネはレネを見つめていた。
「良かったね、レネ先生。貴方はずっとバンナム卿一筋だったものね」
「当たり前です」
「ずっと見てたものね」
放っておけばきっと、告白もせずに契約期間が満了するその時まで、少し離れた場所からバンナム卿を“見ている”だけだったかも知れない。レネは“見ている”だけでも幸せそうだった。
あの綺麗な副騎兵団長との噂も、結局のところ、レネにとってはいい方向に進んだ。
彼の余計なちょっかいがあったからこそ、告白の踏ん切りがついたということだ。
「これで、私も安心して野生竜の観察地に行けますよ」
そう言うと、レネは眉を寄せて心配そうな眼差しを向けてきた。
「無事に、ここへ戻ってきてください」
「勿論そのつもりだよ。戻って来たら、レネ先生とバンナム卿の進展具合を教えて下さい」
「…………そ、そんなこと」
カーとレネの顔が真っ赤になっていく。
「ちゃんとどういう進展があったのか教えて下さいね」
レネは真っ赤になったまま、口をパクパクと開け、言葉にならないような様子だった。
それを見て、レネ先生は本当に初心なんだなぁと思い、これはこれで、バンナム卿は大変だろうと思っていた。
(戻る頃には、少しはバンナム卿と仲が深まっているといいけれど。でも、たかだか一週間だから無理か)
リヨンネは一人でラバに乗って黙々と道を進んでいるものだから、いろいろと取りとめもなく考えることが出来た。
途中雪の残るゴツゴツとした岩場を抜けたり、勢いよく冷たい水が跳ね上げる沢を渡ったりと、神経を使う場面もあった。
そして道中、野生竜の生息地域らしく、小さな飛竜が木々の間からヒョイと顔を覗かせるのが見えたりもして、リヨンネを興奮させていた。
中継地点に赴いた前任の学者からは「嫌になるくらい竜が見られるぞ」と言われていたので、期待があった。
確かに道を辿っている最中、何度も空を竜の群れが横切っていく様子が見えた。
次第に野生竜の生息地域に入っていく感覚がある。
ラバ達は、竜を遠目から見かける度に立ち尽くして震えだしてしまう。
リヨンネは竜を見ることが出来て嬉しかったが、ラバにとっては恐怖の連続のようだった。
(早めに観察地に到着した方がいいな)
観察地の小屋には、ラバ達を入れておく小屋もあり、そこからは外が見えないようになっている。
そうでないとラバ達が逃げ出してしまうらしい。
ラバは、朝方に長い紐を付けて、餌を自由に食べられるように放し飼いにすると聞いている。
(朝方でないと、竜達に攫われて食べられてしまうらしい)
夕方になり、その日一泊する予定の休憩地点に到着する。
これまでの行程は予定通りだった。
ラバ達はまだ落ち着かないようで、ひとまとまりになって、随分と隅にいる。
リヨンネは用意していた餌と水をラバ達に与え、自分もパンを口にした。
観察地で観察を終えて騎兵団の拠点に戻るまで、食生活は極めて貧しいものになることが分かっている。
毎日パン一つくらいの食事になる。
(仕方がないこととは言え、辛いな……)
鍋に水を入れて、焚火の火にかける。湯になったところで茶葉を入れて、それをスプーンで掻き回している時、ラバ達が一斉に身を強張らせ、ある方角に目をやっていた。
それでリヨンネもそちらに目をやる。
暗がりの岩場の間から、ヌッと一人の青年が現れた。
ベージュ色のゆったりとした貫頭衣を羽織り、腰の辺りを紐で留めている。どこか古めかしいスタイルの服装だった。
頭から深々とフードを被っているせいでその面は伺い知れない。
「どなたですか……」
こんな場所に、人間がいるなんておかしい。
リヨンネは学者であり、研究の為に、わざわざこんな辺鄙な場所までやって来ている。そうでなければ足を踏み入れることのない場所である。
普通の人間がいるはずがない。
不審に思うリヨンネのいる方向へ、その青年はゆっくりと近づいてきた。
「久々の人間だ。挨拶に来た」
その物言いから、リヨンネは察した。
彼は竜であり、今の人間の姿は竜から変身した姿であろうと。
だが、前任の観察地に来た学者からも、野生竜の側から接触してきたという話は聞いていない。
おかしいとリヨンネは内心警戒しながら、席を勧めた。
「私はリヨンネといいます。王都から来ました」
「観察地と呼ばれている場所へ行くのか?」
「はい」
焚火の前に座った男は、相変わらずその顔はフードに隠れてよく見えない。
ただ声はいい。
低く、渋い声だった。
今やラバ達は全身震わせ、この場から逃げ出したい様子に見えていたが、真近の男の存在に足がすくんで動けないようだった。
怯え切っているラバ達を見て、やって来たフードの男は手早く用件を言った。
「薬が欲しい。熱を出している人間の子供がいる」
「……薬ですか」
まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかったリヨンネは、驚いて聞き返してしまった。
「そうだ。下の人間の村に行こうかと思っていたが、お前がここにいることを知った。お前が持っているなら、お前から譲ってもらうのがいいだろう」
下の村まで足を伸ばすよりも確かに都合が良いのは分かる。
リヨンネは、薬の入っている袋を自分の大きな背負い袋の中から取り出した。
「何歳くらいの子供ですか。年齢によって薬の量を調整しなければなりません」
万が一を考えて、リヨンネは何種類かの薬を持参していた。
フードの男は答えた。
「だいぶ小さい」
「…………」
「だいぶ小さい」って何歳くらいだよと突っ込みたかったが、総じて野生竜は気が荒いので、リヨンネはそう口に出すことを自制していた。
だから背の大きさで尋ねることにした。
「私の半分くらいの大きさですか」
「もう少し大きいな」
「十歳くらいでしょうか」
「そんなこと知らん」
「…………」
リヨンネは内心ため息をついていた。とりあえず、大人の半分の量で用意するしかないだろう。
「高い熱が出ているなら、額などタオルで冷やして、水分もよく取らせてあげて下さい」
「…………」
フードの男は小分けされた薬の入った袋を受け取った後、焚火の前に座るリヨンネをじっと眺めていた。リヨンネの言葉に少し考え込み、それから言った。
「お前は同族なのだろう。人間の子供の面倒は看られるのなら、俺についてこい」
「…………それはどういうことでしょうか」
次の瞬間、フードの男の姿は一瞬で大きな竜の姿に変わっていた。
真っ青な鱗の一枚一枚が夜目にも輝く、雄々しい竜である。見上げるほどにその姿は大きい。
野生竜は野性味が強く、眼光も竜騎兵団の竜達と比べて鋭い。真近で見た野生の若い竜の姿に、竜が大好きな学者のリヨンネは目を奪われつつも冷静にその種類を見ていた。
(皮膚色からして青竜系の飛竜。それに瞳の色は黄色ということは西方の群れの竜だな)
フードを被っていたため、人の姿の時の髪色は分からなかったが、きっと人の姿の時の髪色は青かったはずだ。
竜はその皮膚の色が、人化した時の髪色と同一である。その皮膚色と瞳の色、種類からどの地域の群れの一員か推し量ることが出来る。
青い竜は、先ほど受け取った薬の入った袋を器用にも前足の爪に引っ掛けている。
竜の長い尻尾がブンと振られた瞬間、ラバ達は「ヒーン」と叫んで、結び付けていたロープの刺さっていた杭を引き抜き、慌てふためいて逃げ出してしまう。
暗闇の中四散していくラバの姿をリヨンネは絶望の表情で見つめ、それから自制することも忘れ、思わず野生の青い竜を睨みつけて叫んでいた。
「どうしてくれるんです!!!! 私のラバが!!!!」
それに青い竜は、大きな黄色の目をパチクリとし、そして逃げていったラバを見て、(しまった)というような顔をしていた。
まだ観察地には距離がある。帰りのことも考えると、ここでラバを失ってしまうことはあまりにも大きな痛手である。
「観察地にどうやって行けばいいんですか!!」
幸いなことに、ラバの背から荷物は降ろされていたため、全ての荷物は焚火のそばに置かれていた。
けれどそれを運ぶ手段が失われていた。
額に手を当てうなだれるリヨンネの前で、青い竜は心話を発した。
『荷物くらい俺が運んでやろう。お前も観察地に届けてやる』
「竜騎兵団の拠点にも送り届けて下さい」
そう。そこまでしてもらわなければ困る。帰りの道もラバがいなければ荷物が運べない。
先ほどまでとは打って変わって、強気な口調の人間に、驚いた様子を若干見せながら、青い竜は渋々と言った。
『……分かった。送り届けてやろう』
送ってくれた竜騎兵達が空へ飛んでいく姿を、手を振って見送る。
それから荷物をまとめ、用意していた気付け薬を使ってラバを一頭ずつ起こしていく。
一頭起きたなら、その背に荷物を負わせ、そしてまた一頭起こしてその背に荷物を負わせるという作業を続ける。
荷運びだけで三頭のラバがいた。そして自分用のラバ一頭に跨る。
地図を手に、定点観察拠点への道を進んで行く。
山の下の村の辺りでは、草木が新芽を出しており、遠目から見れば淡い緑色の絨毯が広がりつつあるように見えた。だがここは標高の高い山間であり、まだまだ目につく緑もまばらであった。
しっかりと防寒具をまとわなければ寒い。吐き出される息も白かった。リヨンネは手袋の手を擦り合わせる。
(寒がりのレネ先生なら耐えられないだろうな)
と思ってしまう。竜騎兵団の拠点に向かう時の、雪だるまのように着ぶくれした姿を思い出して、一人笑いが零れてしまった。
そして出立する直前のレネのことを思い出した。
彼は、リヨンネに話があると告げ、やって来たリヨンネの前でしばらくもじもじとした後に言ったのだ。
「バンナム卿に告白しました。それで、私達は付き合うことになりました」
「おめでとう、レネ先生!!!!」
すぐさまリヨンネはレネの両手を掴み、ぶんぶんと上下に振っていた。
レネはリヨンネが心の底から自分を祝福していることを感じると、目を潤ませていた。
「これも、リヨンネ先生が私の背中を押してくれたおかげです!!」
レネの口から率直な感謝の言葉がこぼれ出る。
「本当だよ。私はいつも貴方の背中を押してるね!!!! でも良かったね!!!!」
ぐじぐじと悩むレネの背中を押し、発破をかけるのはリヨンネの役割のようになっていた。
でも、恋に臆病で気弱なレネ魔術師が、バンナムに自分の口から告白出来たのは大きな進歩である。
なんとなく成長した弟でも見るような視線で、リヨンネはレネを見つめていた。
「良かったね、レネ先生。貴方はずっとバンナム卿一筋だったものね」
「当たり前です」
「ずっと見てたものね」
放っておけばきっと、告白もせずに契約期間が満了するその時まで、少し離れた場所からバンナム卿を“見ている”だけだったかも知れない。レネは“見ている”だけでも幸せそうだった。
あの綺麗な副騎兵団長との噂も、結局のところ、レネにとってはいい方向に進んだ。
彼の余計なちょっかいがあったからこそ、告白の踏ん切りがついたということだ。
「これで、私も安心して野生竜の観察地に行けますよ」
そう言うと、レネは眉を寄せて心配そうな眼差しを向けてきた。
「無事に、ここへ戻ってきてください」
「勿論そのつもりだよ。戻って来たら、レネ先生とバンナム卿の進展具合を教えて下さい」
「…………そ、そんなこと」
カーとレネの顔が真っ赤になっていく。
「ちゃんとどういう進展があったのか教えて下さいね」
レネは真っ赤になったまま、口をパクパクと開け、言葉にならないような様子だった。
それを見て、レネ先生は本当に初心なんだなぁと思い、これはこれで、バンナム卿は大変だろうと思っていた。
(戻る頃には、少しはバンナム卿と仲が深まっているといいけれど。でも、たかだか一週間だから無理か)
リヨンネは一人でラバに乗って黙々と道を進んでいるものだから、いろいろと取りとめもなく考えることが出来た。
途中雪の残るゴツゴツとした岩場を抜けたり、勢いよく冷たい水が跳ね上げる沢を渡ったりと、神経を使う場面もあった。
そして道中、野生竜の生息地域らしく、小さな飛竜が木々の間からヒョイと顔を覗かせるのが見えたりもして、リヨンネを興奮させていた。
中継地点に赴いた前任の学者からは「嫌になるくらい竜が見られるぞ」と言われていたので、期待があった。
確かに道を辿っている最中、何度も空を竜の群れが横切っていく様子が見えた。
次第に野生竜の生息地域に入っていく感覚がある。
ラバ達は、竜を遠目から見かける度に立ち尽くして震えだしてしまう。
リヨンネは竜を見ることが出来て嬉しかったが、ラバにとっては恐怖の連続のようだった。
(早めに観察地に到着した方がいいな)
観察地の小屋には、ラバ達を入れておく小屋もあり、そこからは外が見えないようになっている。
そうでないとラバ達が逃げ出してしまうらしい。
ラバは、朝方に長い紐を付けて、餌を自由に食べられるように放し飼いにすると聞いている。
(朝方でないと、竜達に攫われて食べられてしまうらしい)
夕方になり、その日一泊する予定の休憩地点に到着する。
これまでの行程は予定通りだった。
ラバ達はまだ落ち着かないようで、ひとまとまりになって、随分と隅にいる。
リヨンネは用意していた餌と水をラバ達に与え、自分もパンを口にした。
観察地で観察を終えて騎兵団の拠点に戻るまで、食生活は極めて貧しいものになることが分かっている。
毎日パン一つくらいの食事になる。
(仕方がないこととは言え、辛いな……)
鍋に水を入れて、焚火の火にかける。湯になったところで茶葉を入れて、それをスプーンで掻き回している時、ラバ達が一斉に身を強張らせ、ある方角に目をやっていた。
それでリヨンネもそちらに目をやる。
暗がりの岩場の間から、ヌッと一人の青年が現れた。
ベージュ色のゆったりとした貫頭衣を羽織り、腰の辺りを紐で留めている。どこか古めかしいスタイルの服装だった。
頭から深々とフードを被っているせいでその面は伺い知れない。
「どなたですか……」
こんな場所に、人間がいるなんておかしい。
リヨンネは学者であり、研究の為に、わざわざこんな辺鄙な場所までやって来ている。そうでなければ足を踏み入れることのない場所である。
普通の人間がいるはずがない。
不審に思うリヨンネのいる方向へ、その青年はゆっくりと近づいてきた。
「久々の人間だ。挨拶に来た」
その物言いから、リヨンネは察した。
彼は竜であり、今の人間の姿は竜から変身した姿であろうと。
だが、前任の観察地に来た学者からも、野生竜の側から接触してきたという話は聞いていない。
おかしいとリヨンネは内心警戒しながら、席を勧めた。
「私はリヨンネといいます。王都から来ました」
「観察地と呼ばれている場所へ行くのか?」
「はい」
焚火の前に座った男は、相変わらずその顔はフードに隠れてよく見えない。
ただ声はいい。
低く、渋い声だった。
今やラバ達は全身震わせ、この場から逃げ出したい様子に見えていたが、真近の男の存在に足がすくんで動けないようだった。
怯え切っているラバ達を見て、やって来たフードの男は手早く用件を言った。
「薬が欲しい。熱を出している人間の子供がいる」
「……薬ですか」
まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかったリヨンネは、驚いて聞き返してしまった。
「そうだ。下の人間の村に行こうかと思っていたが、お前がここにいることを知った。お前が持っているなら、お前から譲ってもらうのがいいだろう」
下の村まで足を伸ばすよりも確かに都合が良いのは分かる。
リヨンネは、薬の入っている袋を自分の大きな背負い袋の中から取り出した。
「何歳くらいの子供ですか。年齢によって薬の量を調整しなければなりません」
万が一を考えて、リヨンネは何種類かの薬を持参していた。
フードの男は答えた。
「だいぶ小さい」
「…………」
「だいぶ小さい」って何歳くらいだよと突っ込みたかったが、総じて野生竜は気が荒いので、リヨンネはそう口に出すことを自制していた。
だから背の大きさで尋ねることにした。
「私の半分くらいの大きさですか」
「もう少し大きいな」
「十歳くらいでしょうか」
「そんなこと知らん」
「…………」
リヨンネは内心ため息をついていた。とりあえず、大人の半分の量で用意するしかないだろう。
「高い熱が出ているなら、額などタオルで冷やして、水分もよく取らせてあげて下さい」
「…………」
フードの男は小分けされた薬の入った袋を受け取った後、焚火の前に座るリヨンネをじっと眺めていた。リヨンネの言葉に少し考え込み、それから言った。
「お前は同族なのだろう。人間の子供の面倒は看られるのなら、俺についてこい」
「…………それはどういうことでしょうか」
次の瞬間、フードの男の姿は一瞬で大きな竜の姿に変わっていた。
真っ青な鱗の一枚一枚が夜目にも輝く、雄々しい竜である。見上げるほどにその姿は大きい。
野生竜は野性味が強く、眼光も竜騎兵団の竜達と比べて鋭い。真近で見た野生の若い竜の姿に、竜が大好きな学者のリヨンネは目を奪われつつも冷静にその種類を見ていた。
(皮膚色からして青竜系の飛竜。それに瞳の色は黄色ということは西方の群れの竜だな)
フードを被っていたため、人の姿の時の髪色は分からなかったが、きっと人の姿の時の髪色は青かったはずだ。
竜はその皮膚の色が、人化した時の髪色と同一である。その皮膚色と瞳の色、種類からどの地域の群れの一員か推し量ることが出来る。
青い竜は、先ほど受け取った薬の入った袋を器用にも前足の爪に引っ掛けている。
竜の長い尻尾がブンと振られた瞬間、ラバ達は「ヒーン」と叫んで、結び付けていたロープの刺さっていた杭を引き抜き、慌てふためいて逃げ出してしまう。
暗闇の中四散していくラバの姿をリヨンネは絶望の表情で見つめ、それから自制することも忘れ、思わず野生の青い竜を睨みつけて叫んでいた。
「どうしてくれるんです!!!! 私のラバが!!!!」
それに青い竜は、大きな黄色の目をパチクリとし、そして逃げていったラバを見て、(しまった)というような顔をしていた。
まだ観察地には距離がある。帰りのことも考えると、ここでラバを失ってしまうことはあまりにも大きな痛手である。
「観察地にどうやって行けばいいんですか!!」
幸いなことに、ラバの背から荷物は降ろされていたため、全ての荷物は焚火のそばに置かれていた。
けれどそれを運ぶ手段が失われていた。
額に手を当てうなだれるリヨンネの前で、青い竜は心話を発した。
『荷物くらい俺が運んでやろう。お前も観察地に届けてやる』
「竜騎兵団の拠点にも送り届けて下さい」
そう。そこまでしてもらわなければ困る。帰りの道もラバがいなければ荷物が運べない。
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