転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第十三章 失われたものを取り戻すために

第十九話 魔力を帯びし水(中)

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 そうして、ルーシェと友親は、再びあの長い階段を下りた地下室の水場へ向かった。
 ルーシェはアルバート王子に抱き上げられながら、階段を下りていく。
 そして友親はというと、ケイオスに背負われているのだ。
 ルーシェも友親も自分の足で長い階段を下りていない。
 友親は足が不自由であったから、ケイオスが彼の体を背負うのも仕方ないといえたが、ルーシェをずっと抱っこしているアルバート王子は、ルーシェの小さな体を自分から離したくないのだろう。

 友親は、ケイオスに背負われながらも、じっとアルバート王子の姿を眺めていた。
 今もアルバート王子は、その両腕に大切そうに小さなルーシェを抱いて、柔らかな笑顔をルーシェに向けて何かを話しかけていた。
 
 友親は、先ほどルーシェから聞いた話を思い出していた。
 この目の前のアルバート王子が、“勇者の剣”を使えるという話だ。

 前任勇者の鈴木陸が使っていた“勇者の剣”を、アルバート王子が使えるのだ。
 つまり、アルバート王子は新たな勇者であるといえる。

 考えてみれば、鈴木が死んでから十八年経っている。
 このアルバートという名の王子も、十八歳くらいの年齢に見える。

 だから、ルーシェからその話を聞いた時、なぜかすんなりと胸の中に何か落ちた気がしたのだ。

(このアルバートとかいう王子は、鈴木が転生した奴だ)

 勇者の鈴木は、ルーシェの前世、沢谷雪也と仲が良かった。
 料理上手のユキが、試練の旅に同行してくれたことを喜んでいた。旅の道中、すっかりユキに胃袋を掴まれて、仲良くなっていた。

 今でも友親は思い出せる。
 鈴木が“勇者の剣”を腰に佩いて、ユキと並んで歩いていた姿を。
 ユキに向ける表情は、そう、今のアルバートという王子という男のように、誰よりも柔らかくて。

 今になって、振り返って思えば、たぶんあの時の鈴木は、ユキのことが好きだったんだと思う。


 でも、それを一言も告げることなく、勇者の鈴木は死んだ。
 彼は試練が終わり、元の世界へ戻ることが出来たら、ユキに会いに行くと言っていた。
 だからきっと、元の世界へ戻り、会いに行ったその時に、もしかしたら告白するつもりだったのかも知れない。そんな気がする。

 だけど沢谷雪也はあっさりと殺され、次いで勇者の鈴木陸も殺された。



 そんなことをケイオスの背中で考え込んでいた友親は、ケイオスから地下の部屋に到着したことを促されて気が付いた。そしてケイオスに手を取られ、膝丈ほどのその透明な水の中に足を進める。ズボンを膝までまくりあげて入るのだ。素足に冷たい水の感触が気持ちいい。だが、地下の水は冷たく、普通の人間ならしばらく浸かっていたら凍えてしまうだろう。
 でも吸血鬼になった友親は、平気だった。
 実際、彼は何週間にも渡ってこの冷たい水の中に横たわっていたくらいなのだ。

 そしてケイオスも、水の中にいつまで浸かっていても平気な様子であった。
 彼は、獣人の血を色濃く引く混じり者であった。それも一際体格が大きな彼らしい、熊の獣人であることを友親は知っている。そこで友親は、力強い熊の獣人である彼の血を啜った時のことを思い出した。

 三日前にこの水の中で目を覚まし、その時ひどく飢えていた友親は、すぐさまこの魅力的な熊の獣人の血を欲した。ケイオスはすぐに友親の欲求に応えてくれた。あの時口にした濃密な血の味を思い出して、無意識に友親は唾を飲み込む。
 人間のように、友親は普通の食事を取ることも出来る。だが、血の味は格別だった。
 ひとたび血を口にしたのなら、もう普通の食事の味気無さに、普通の食事を進んで取りたいとは思えなくなる。ケイオスは友親の様子に何かを感じたのか、「お前が欲しければまた後で与えてもいい」と言ってくれる。それほど飢えたような顔をしていたのだろうかと、友親は唇に手を当てた。

 ケイオスは笑いながら友親の手を取った。

「お前は欲しい時に、俺にそう言ってくれればいいんだ」

「……でも、ケイオス、お前の負担になるだろう」

 誰よりも強い熊の獣人であるとはいえ、頻繁に吸血されることは負担になるはずだ。実際、三日前に目を覚ました友親は、相当大量の血をケイオスから吸っていたはずだ。

「普通の人間なら、お前の要求には応えられなかっただろう。でも俺は獣人の血を引いている」

 水の中に立つ友親の小柄な体を、ケイオスは包み込むように抱き締めた。

「お前が欲しいだけ与えられる」

 そんな二人のそばに、水の中をジャブジャブと歩きながらカルフィーが近づいて来た。

「おい、私の事を忘れていないか!!」
 
 ケイオスと友親の二人が、勝手にいい雰囲気になっていることがカルフィーには腹立たしかった。大体、友親の親吸血鬼はカルフィーなのだ。ケイオスは食料に過ぎない。本当なら、親吸血鬼のカルフィーが友親を支配して、吸血鬼になった友親ともっとイチャイチャできるはずだったのだ。それなのに、以前よりもカルフィーは友親から邪険にされているような気がしてならない。

「忘れていた」

 友親からため息混じりでそう言われ、カルフィーが発狂しそうな顔をする。
 そんな友親とカルフィーを見て、ケイオスは苦笑まじりで言った。

「あまり、カルフィーを苛めるな」

「……だってうるさいんだよ、こいつ」

 「うるさい」「こいつ」呼ばわりされて、なおも衝撃を受けているカルフィーの手を、ケイオスは掴んだ。それから友親の手を掴んで、カルフィーの手の上に友親の手を重ねる。

「カルフィーは、お前を大切にしている。分かっているだろう、トモチカ」

「……………………ああ」

 友親は、小さな声で頷いた。




 カルフィーはひどい奴なのだ。
 異世界から“転移”してきた十五歳の少年であった友親を、脅すようにして、二人の男達に結び付けた。
 あの時、友親は、カルフィーに自分の“魔素”を渡し、身を守ってくれるよう契約するしかなかった。そして彼は何も知らない自分の体までも、求めてきた。カルフィーだけではなく、ケイオスまで引き込んで。そして二人の伴侶にさせられた。
 そうするしかなかったから。



 でも、カルフィーもケイオスも、本当に友親のことを大切にしていた。
 嫌がることは出来るだけしないようにしていたし(実際、友親を吸血鬼にしたのだって知り合ってから十八年もの歳月が経った後だった)、カルフィーはこんな地下の水場までわざわざ大金を費やして、友親のために作ってくれたのだ。

 いつだって二人は友親のことを一番に考えてくれる。
 そのことを、友親も分かっていた。
 二人の男達のことが大嫌いだった時もあったけれど。
 だけど、今はもう。




 カルフィーは友親の顔をどこか上目遣いで見つめている。
 そして友親の手をおずおずと、そっと握る。
 友親は黙ってケイオスとカルフィーのそばに立って、地下の水に足を浸し、大量の魔力をその身の中に吸い上げていったのだった。
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