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第十三章 失われたものを取り戻すために
第二十一話 転移魔法
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そして翌朝になった。
アルバート王子とルーシェは、その前日の晩はカルフィーの屋敷に泊まらせてもらった。
カルフィーと友親の二人は、地下の水場から屋敷へ戻った後、行く直前まで店のことについて従業員を呼び寄せて話し込んでいた。不在の間の店の業務について指示しているのだろう。大きな店の運営も大変なものがある。
朝食を取った後、カルフィーは一行に説明を始めた。
「これから“転移”魔法を使うが、“転移”先はバルトロメオ辺境伯の城の中庭にする。昨夜、魔法の通信で辺境伯にも連絡済だ」
アルバート王子の膝の上で、幼児姿のルーシェが頷いている。
「わかった」
三橋友親の伴侶のカルフィーは、こうしてみると、かなり腕の良い魔術師であることが分かる。高難度の“転移”魔法も、“通信”魔法も使えるのだ。口の悪い生意気な魔術師なだけではないのだ。
友親は紅茶を飲んでいる。
朝は豪勢な食事がズラリとテーブルの上に並べられていたが、友親はフルーツと紅茶以外口にしなかった。その小食ぶりに、ルーシェは内心、「お前はダイエット女子か」と思っていたのだが、どうも、吸血鬼になってから味覚が変化しているらしく、普通の食べ物に対して食欲が湧かないらしい。食べることはできるが、特別食べたいという気にはならないようだ。
(こいつ、食べることが大好きだったのに……)
ルーシェは、高校時代には三橋友親が食い意地の張った男であることを知っていた。
前の世界では、ルーシェが作る料理を喜んで食べていたのに。
なのに、味覚が変わって、もうあまり食べたい気にならないということが、可哀想だった。
でも今さら吸血鬼から人間に戻ることの出来ない友親に対して、その境遇を可哀想だと言ってもどうしようもない。余計に苦しませてしまうだろうと、ルーシェはそのことを口にしなかった。
カルフィーは話を続けた。
「辺境伯の話だと、アレドリア王国のルティ魔術師はすでに到着しているという話だ。あと、ハルヴェラ王国のリン王太子妃は近日中に到着するという連絡が入っているとのことだ」
皆、着々とラウデシア王国へやって来ているらしい。
「委員長と会うのは久しぶりだな。文通はしてたんだけど」
懐かしそうな顔をして友親がそう言う。
「俺はこの間会ったんだよ。委員長に」
そう。ルーシェは三か国を軍務で巡った時、最後に訪れた国がハルヴェラ王国だったのだ。
それでルーシェは、委員長ことリン王太子妃に会った時のことを面白おかしく友親に話すと、友親は笑っていた。
「そうなんだよ。委員長はなんかネーミングセンスがおかしいんだ。商会をリンリン商会にするとか、ちょっとヤバいよな」
街でおにぎりを見つけて、その紙袋にリンリン商会と印刷されていたことを話すと、友親も同意していた。
「でも、俺、それでピンと来たんだよ」
ルーシェはそう言う。
小さな竜の姿をしていたのなら、その瞬間、尻尾もピンと立ち上がっていたことだろう。
「リンリン商会、委員長の名前は石野凛だったからな。おにぎりの入っていた袋には校章も印刷されていたし」
「というか、俺、前にユキに会った時、話してただろう。あいつがハルヴェラ王国の王太子妃になっているって!!」
「あの時はすっかり忘れていたんだよ」
誤魔化すように笑うルーシェに、友親は呆れたようなため息をついた。
「まぁ、お前が無事に委員長と会えたのならそれはそれで良かった。しかし、委員長も王太子妃の癖にフットワークが軽いな。お前に頼まれたら即、ラウデシア王国へ行くなんて」
最初に会った時からフットワークの良いリン王太子妃である。
わざわざルーシェとアルバート王子の泊まる宿まで、一個師団の護衛の騎士達を引き連れてやって来たくらいなのだから。思えば、そばについている女官メリッサは、よく頭の痛そうな顔をしていた。
そしていよいよラウデシア王国へ“転移”することになった。
アルバート王子は、幼児姿のルーシェを抱き上げて立っている。そして友親とカルフィーとケイオスがいる。五人の足元の床には精緻な魔法陣が描かれていた。カルフィーが夜の内に書き上げたらしい。
「“転移”魔法は、魔法陣が無くても出来るが、やはり方向性をしっかりと定めるにはこうした魔法陣を書いておく方がいいのだ」
そうカルフィーが偉そうに解説する。
アルバート王子の腕の中で、ルーシェは興味深くその足元の魔法陣を眺めている。
「カッコいいな、なんか。“召喚”されるみたいだ!!」
そのルーシェの言葉に、チラリとカルフィーはルーシェを見て言う。
「“召喚魔法”と“転移魔法”の仕組みは極めてよく似ている。ある場所からモノを呼び寄せる“召喚”。ある場所からモノを移動させる“転移”。場所から場所へモノを移動させるという効果は一緒だからな」
「そうなんだ。じゃあ、カルフィーは“召喚”魔法も使えるの?」
ルーシェのその無邪気な質問に、カルフィーは一瞬動きを止め、それから答えた。
「“召喚”魔法は禁忌魔法だ。普通は使ってはならない魔法だ。次元を歪める」
(でも今回、ルティ魔術師は別次元で“召喚待機状態”の竜騎兵団とかの対象物を“召喚”すると言っていたな。まぁ、今回は禁忌魔法だと言われても“召喚”魔法を使うのは、緊急避難的な感じで仕方ないよね)
とルーシェは自分を納得させている。
カルフィーは、一行に魔法陣の中から出ないように話すと、友親に「お前の“魔素”を使うからな」と断りを入れ、それから“転移”魔法を唱えて、一行を遠く離れたラウデシア王国まで一瞬で“転移”させたのだった。
アルバート王子とルーシェは、その前日の晩はカルフィーの屋敷に泊まらせてもらった。
カルフィーと友親の二人は、地下の水場から屋敷へ戻った後、行く直前まで店のことについて従業員を呼び寄せて話し込んでいた。不在の間の店の業務について指示しているのだろう。大きな店の運営も大変なものがある。
朝食を取った後、カルフィーは一行に説明を始めた。
「これから“転移”魔法を使うが、“転移”先はバルトロメオ辺境伯の城の中庭にする。昨夜、魔法の通信で辺境伯にも連絡済だ」
アルバート王子の膝の上で、幼児姿のルーシェが頷いている。
「わかった」
三橋友親の伴侶のカルフィーは、こうしてみると、かなり腕の良い魔術師であることが分かる。高難度の“転移”魔法も、“通信”魔法も使えるのだ。口の悪い生意気な魔術師なだけではないのだ。
友親は紅茶を飲んでいる。
朝は豪勢な食事がズラリとテーブルの上に並べられていたが、友親はフルーツと紅茶以外口にしなかった。その小食ぶりに、ルーシェは内心、「お前はダイエット女子か」と思っていたのだが、どうも、吸血鬼になってから味覚が変化しているらしく、普通の食べ物に対して食欲が湧かないらしい。食べることはできるが、特別食べたいという気にはならないようだ。
(こいつ、食べることが大好きだったのに……)
ルーシェは、高校時代には三橋友親が食い意地の張った男であることを知っていた。
前の世界では、ルーシェが作る料理を喜んで食べていたのに。
なのに、味覚が変わって、もうあまり食べたい気にならないということが、可哀想だった。
でも今さら吸血鬼から人間に戻ることの出来ない友親に対して、その境遇を可哀想だと言ってもどうしようもない。余計に苦しませてしまうだろうと、ルーシェはそのことを口にしなかった。
カルフィーは話を続けた。
「辺境伯の話だと、アレドリア王国のルティ魔術師はすでに到着しているという話だ。あと、ハルヴェラ王国のリン王太子妃は近日中に到着するという連絡が入っているとのことだ」
皆、着々とラウデシア王国へやって来ているらしい。
「委員長と会うのは久しぶりだな。文通はしてたんだけど」
懐かしそうな顔をして友親がそう言う。
「俺はこの間会ったんだよ。委員長に」
そう。ルーシェは三か国を軍務で巡った時、最後に訪れた国がハルヴェラ王国だったのだ。
それでルーシェは、委員長ことリン王太子妃に会った時のことを面白おかしく友親に話すと、友親は笑っていた。
「そうなんだよ。委員長はなんかネーミングセンスがおかしいんだ。商会をリンリン商会にするとか、ちょっとヤバいよな」
街でおにぎりを見つけて、その紙袋にリンリン商会と印刷されていたことを話すと、友親も同意していた。
「でも、俺、それでピンと来たんだよ」
ルーシェはそう言う。
小さな竜の姿をしていたのなら、その瞬間、尻尾もピンと立ち上がっていたことだろう。
「リンリン商会、委員長の名前は石野凛だったからな。おにぎりの入っていた袋には校章も印刷されていたし」
「というか、俺、前にユキに会った時、話してただろう。あいつがハルヴェラ王国の王太子妃になっているって!!」
「あの時はすっかり忘れていたんだよ」
誤魔化すように笑うルーシェに、友親は呆れたようなため息をついた。
「まぁ、お前が無事に委員長と会えたのならそれはそれで良かった。しかし、委員長も王太子妃の癖にフットワークが軽いな。お前に頼まれたら即、ラウデシア王国へ行くなんて」
最初に会った時からフットワークの良いリン王太子妃である。
わざわざルーシェとアルバート王子の泊まる宿まで、一個師団の護衛の騎士達を引き連れてやって来たくらいなのだから。思えば、そばについている女官メリッサは、よく頭の痛そうな顔をしていた。
そしていよいよラウデシア王国へ“転移”することになった。
アルバート王子は、幼児姿のルーシェを抱き上げて立っている。そして友親とカルフィーとケイオスがいる。五人の足元の床には精緻な魔法陣が描かれていた。カルフィーが夜の内に書き上げたらしい。
「“転移”魔法は、魔法陣が無くても出来るが、やはり方向性をしっかりと定めるにはこうした魔法陣を書いておく方がいいのだ」
そうカルフィーが偉そうに解説する。
アルバート王子の腕の中で、ルーシェは興味深くその足元の魔法陣を眺めている。
「カッコいいな、なんか。“召喚”されるみたいだ!!」
そのルーシェの言葉に、チラリとカルフィーはルーシェを見て言う。
「“召喚魔法”と“転移魔法”の仕組みは極めてよく似ている。ある場所からモノを呼び寄せる“召喚”。ある場所からモノを移動させる“転移”。場所から場所へモノを移動させるという効果は一緒だからな」
「そうなんだ。じゃあ、カルフィーは“召喚”魔法も使えるの?」
ルーシェのその無邪気な質問に、カルフィーは一瞬動きを止め、それから答えた。
「“召喚”魔法は禁忌魔法だ。普通は使ってはならない魔法だ。次元を歪める」
(でも今回、ルティ魔術師は別次元で“召喚待機状態”の竜騎兵団とかの対象物を“召喚”すると言っていたな。まぁ、今回は禁忌魔法だと言われても“召喚”魔法を使うのは、緊急避難的な感じで仕方ないよね)
とルーシェは自分を納得させている。
カルフィーは、一行に魔法陣の中から出ないように話すと、友親に「お前の“魔素”を使うからな」と断りを入れ、それから“転移”魔法を唱えて、一行を遠く離れたラウデシア王国まで一瞬で“転移”させたのだった。
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