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第十四章 招かれざる客人
第二十六話 食事の席で
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その日の夜、アルバート王子とルーシェは、リン王太子妃に招かれ、共に食事を取った。このハルヴェラ王国に来てから、ルーシェ達は頻繁に王太子妃から食事の席に招かれていた。
リン王太子妃は席に着くなり開口一番、アルバート王子に向かって言った。
「殿下の護衛騎士は素晴らしい剣の腕前をお持ちだとか」
食事をするアルバート王子の後ろに立つバンナムは、その言葉に軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
バンナムを褒められて、我が事のようにアルバート王子も嬉しかった。
そしてアルバート王子の隣の席で、幼児姿のまま椅子に座っているルーシェは頷く。
「バンナム卿はめちゃくちゃ強いんだ。俺、バンナム卿に勝ったことないんだよ……」
そう言って、口にフォークを入れてしょんぼりするルーシェ。
振り返ってみれば、本当に一度も勝てたことがない。
大体、アルバート王子だってバンナムに勝利した姿を見たことがなかったのだ。
「まぁ、ルーシェは小さな竜だから勝てなくても仕方がないと思うけど」
「!!!!」
負けず嫌いのルーシェは、キッとその言葉にリン王太子妃を睨みつけた。
「仕方なくなんかない!!!!」
「悔しいのね」
「うん」
そんなルーシェの頭を、アルバート王子が優しく撫でていた。
「でも優れた騎士に、殿下が教えを受けていらっしゃるのはとても良い事だと思います。バンナム卿に我が国へ来て頂いたことは、本当によかったと思います。殿下だけではなく、バンナム卿も、レネ魔術師もいつまでもいつまでも、そう、いつまでも我が国に滞在して頂いて宜しいですからね」
そう言って、口元に手を当て、ウフフフフフフと笑うリン王太子妃。
どうやらその台詞を言いたかったらしい。
隣の席でエルリック王太子が苦笑している。
そうして楽しくリン王太子妃らと夕食をとった後、彼女から改めて別室で話したいことがあると言われた。
別室で、リン王太子妃とエルリック王太子は、侍女が淹れたお茶を口にしながら話し出した。
「イスフェラ皇国から急ぎ、連絡が来ました」
現在、イスフェラ皇国軍はサトー王国と、旧カリン王国領土内で戦闘中である。
「イスフェラ皇国軍並びにその友軍は、旧カリン王国内のサトー王国軍に対して、撤退勧告を告げ、それが受け入れられたとのことです。よって旧カリン王国内からサトー王国軍は完全撤退致しました」
その言葉に、アルバート王子もルーシェも驚いていた。
「サトー王国軍を追い返したというのですか!? 一体、どうやって」
リン王太子妃もお茶を口にしながら言う。
「それが、なんだか撤退しないと“黄金竜の怒り”を買うとかなんとか言われて、それで全面撤退になったらしいのよね。皇国側についている友軍の中に、最終秘密兵器的な存在がいたらしくて」
最終秘密兵器的存在って何なのだと、ルーシェは突っ込みたかったが、そのことはリン王太子妃も情報を持っていないようで彼女も首を傾げている。
「とにかく、旧カリン王国は、サトー王国軍を追い払ったってこと。これは凄いことなんだから」
「そうですね」
アルバート王子も驚きながら頷く。
実際、今までサトー王国軍に征服された国々は、サトー王国へ反旗を翻したとしても、再制圧の話を聞くばかりで、撃退に成功した話は今回が初めてのことになる。
ルーシェなどは「この調子で、サトー王国のサトーも、その最終兵器的な存在が倒してくれれば、俺の王子がわざわざ戦わなくていいのに……」と虫の良い事を願うように呟いていた。
「とにかく初白星ということでめでたいわ。そのサトー王国軍を撃破した存在にはこれから先も頑張ってもらいたいわね。旧カリン王国が解放されたので、今後そこに新しい国が建てられる流れになるわ。その新王国の承認と、あとラウデシア王国の同盟加盟にあたっての国際会議が開かれる予定になったの」
「国際会議?」
オウム返しに尋ねるルーシェに、リン王太子妃は頷いた。
「そう。会議はこれからイスフェラ皇国で四週間後に開催予定ね。同盟盟主のイスフェラ皇国、アレドリア王国、そして私達ハルヴェラ王国の三か国に加えて、新たに加盟することになったラウデシア王国、そして旧カリン王国内に建国される予定の新王国の、五か国による会議ね。おそらく新王国も同盟に加盟することになるから、五か国の同盟体になるわ」
「ふぅん」
でも、自分とアルバート王子にはあまり関係がないことだろうと、ルーシェは黙ってお茶を飲みながら話を聞いている。勇者であるアルバート王子はサトーを倒すべく啓示を受けている。だから対サトー同盟の国際会議も全く関係ない話とは言えなかった。しかし、アルバート王子は名乗り出ることのない勇者であるからして、同盟による会議などは、せいぜいその結果を聞いておくことくらいしか出来なかった。
アルバート王子は呟くように言った。
「ラウデシア王国が正式に対サトー王国の同盟に入るわけですね」
当初、ラウデシア王国の現国王と第一王子リチャードは同盟加盟に反対であったのだが、魔族の侵攻を王都へ受け、大きな被害を受けた後は、方針を変えたということだ。
「そうなるわ。それと同時に、旧カリン王国の領土に建国される新王国は、ラウデシア王国出身の冒険者が建てるものだから、貴方の国とも縁が深いでしょう。新王国は“竜の牙”というクランを率いる冒険者が初代の国王になる予定だとか」
クラン“竜の牙”
それは以前、アルバート王子がルーシェを連れて、足を運んで話を聞きに行ったイスフェラ皇国内のクランであった。
アルバート王子の兄シルヴェスター王子が所属するクランでもある。
つまりは、あの時に会ったクラン長ダンカンが、新王国の国王に就くということなのだろう。
正直、驚いた。
もしや、先ほどリン王太子妃からの話に出てきた“黄金竜の怒り”の黄金竜とは、ユーリスの連れている黄金竜ウェイズリーなのかも知れないと、アルバート王子はこの時になってようやくそのことに思い至る。あの小さな黄金竜の雛は、ユーリス青年にべた惚れだった。ユーリスに頼まれれば、何でもやりそうな様子であったのだ。“竜の牙”と、ユーリスの連れている黄金竜ウェイズリーが何らかの形で結びついたのかも知れない。
隣に座っているルーシェも同じことを思い付いているようで「ウェイズリーに会って話を聞けたらいいのにな」と言っていた。
その後、アルバート王子は質問をリン王太子妃とエルリック王太子に投げかけていた。
「イスフェラ皇国で開催される会議にご出席されるのはどなたなのでしょうか?」
ハルヴェラ王国からの出席者は誰かという質問に、エルリック王太子が「私が出席する予定だ」と告げた。
「外交関係は、エルリックが請け負っているの。私も一緒に行きたいところなのだけど」
「君には国にいてもらいたい」
「分かっているわ」
サトー王国の征服地に近いイスフェラ皇国へリンが渡ることを、エルリックは嫌がった。彼女には出来るだけ安全な場所にいて欲しい。
ラウデシア王国からの出席者は、リチャード王子かアンリ王子のどちらかが出席するだろうという話だった。現在、ラウデシア王国の国王は体調が優れないようで、床に就いていることが多いらしい。来年にもリチャード王子が新王として即位するのではないかという話も出ている。
(リチャード王子が新国王!!)
ルーシェは、顔を引きつらせている。
アレドリア王国のルティ魔術師がルーシェにちょっかいを出さなくなったのであれば、母国ラウデシア王国へ帰国することにも問題はないが、リチャード王子のルーシェもといシアンへの執着を思うと、あの国にはしばらく帰りたくない気もする。実際、エイベル副騎兵団長からは「リチャード王子殿下には重々お気をつけて下さい。人化させたルーシェをそのおそばには決して近寄らせないようになさって下さい」という助言を受け、ウラノス騎兵団長からも「殿下方はしばらくの間、ハルヴェラ王国に逗留なさっても宜しいでしょう」とまで言われていた。それだけ、リチャード王子のことを警戒している。
その王子が、次期国王としていよいよ来年即位するかも知れないのだ。
(当分、そう、当分、俺はハルヴェラ王国にいてもいいかも知れない。いや、いた方がいいかも知れない)
そんなことをルーシェは思ってしまう。
それに心話で、アルバート王子も答えていた。
(ラウデシア王国は西方の国々から距離がある。サトー王国のサトーの動向を掴むには、このハルヴェラ王国にいた方がいい)
竜騎兵団にいてしまえば、西方諸国の情報など王宮を介して流されるために、時間がかかり、なかなか入らない。
アルバート王子が勇者の使命を果たすためにも、ハルヴェラ王国にいる方が都合が良いのだ。
それにこのハルヴェラ王国では、ルーシェが小さな竜の姿でいても、小さな子供の姿でいても構わない自由さがあった。王太子妃リンの絶大なる権力の下でルーシェはのびのびと過ごすことができる。アルバート王子も、勇者の試練を果たすためにミッチリと訓練もできる(竜騎兵団にいれば、竜騎兵としての任務もあるためそうは出来ない)。一人と一頭にとって、このハルヴェラ王国に滞在することはまこと都合が良く、おまけに居心地が良すぎたのであった。
リン王太子妃は席に着くなり開口一番、アルバート王子に向かって言った。
「殿下の護衛騎士は素晴らしい剣の腕前をお持ちだとか」
食事をするアルバート王子の後ろに立つバンナムは、その言葉に軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
バンナムを褒められて、我が事のようにアルバート王子も嬉しかった。
そしてアルバート王子の隣の席で、幼児姿のまま椅子に座っているルーシェは頷く。
「バンナム卿はめちゃくちゃ強いんだ。俺、バンナム卿に勝ったことないんだよ……」
そう言って、口にフォークを入れてしょんぼりするルーシェ。
振り返ってみれば、本当に一度も勝てたことがない。
大体、アルバート王子だってバンナムに勝利した姿を見たことがなかったのだ。
「まぁ、ルーシェは小さな竜だから勝てなくても仕方がないと思うけど」
「!!!!」
負けず嫌いのルーシェは、キッとその言葉にリン王太子妃を睨みつけた。
「仕方なくなんかない!!!!」
「悔しいのね」
「うん」
そんなルーシェの頭を、アルバート王子が優しく撫でていた。
「でも優れた騎士に、殿下が教えを受けていらっしゃるのはとても良い事だと思います。バンナム卿に我が国へ来て頂いたことは、本当によかったと思います。殿下だけではなく、バンナム卿も、レネ魔術師もいつまでもいつまでも、そう、いつまでも我が国に滞在して頂いて宜しいですからね」
そう言って、口元に手を当て、ウフフフフフフと笑うリン王太子妃。
どうやらその台詞を言いたかったらしい。
隣の席でエルリック王太子が苦笑している。
そうして楽しくリン王太子妃らと夕食をとった後、彼女から改めて別室で話したいことがあると言われた。
別室で、リン王太子妃とエルリック王太子は、侍女が淹れたお茶を口にしながら話し出した。
「イスフェラ皇国から急ぎ、連絡が来ました」
現在、イスフェラ皇国軍はサトー王国と、旧カリン王国領土内で戦闘中である。
「イスフェラ皇国軍並びにその友軍は、旧カリン王国内のサトー王国軍に対して、撤退勧告を告げ、それが受け入れられたとのことです。よって旧カリン王国内からサトー王国軍は完全撤退致しました」
その言葉に、アルバート王子もルーシェも驚いていた。
「サトー王国軍を追い返したというのですか!? 一体、どうやって」
リン王太子妃もお茶を口にしながら言う。
「それが、なんだか撤退しないと“黄金竜の怒り”を買うとかなんとか言われて、それで全面撤退になったらしいのよね。皇国側についている友軍の中に、最終秘密兵器的な存在がいたらしくて」
最終秘密兵器的存在って何なのだと、ルーシェは突っ込みたかったが、そのことはリン王太子妃も情報を持っていないようで彼女も首を傾げている。
「とにかく、旧カリン王国は、サトー王国軍を追い払ったってこと。これは凄いことなんだから」
「そうですね」
アルバート王子も驚きながら頷く。
実際、今までサトー王国軍に征服された国々は、サトー王国へ反旗を翻したとしても、再制圧の話を聞くばかりで、撃退に成功した話は今回が初めてのことになる。
ルーシェなどは「この調子で、サトー王国のサトーも、その最終兵器的な存在が倒してくれれば、俺の王子がわざわざ戦わなくていいのに……」と虫の良い事を願うように呟いていた。
「とにかく初白星ということでめでたいわ。そのサトー王国軍を撃破した存在にはこれから先も頑張ってもらいたいわね。旧カリン王国が解放されたので、今後そこに新しい国が建てられる流れになるわ。その新王国の承認と、あとラウデシア王国の同盟加盟にあたっての国際会議が開かれる予定になったの」
「国際会議?」
オウム返しに尋ねるルーシェに、リン王太子妃は頷いた。
「そう。会議はこれからイスフェラ皇国で四週間後に開催予定ね。同盟盟主のイスフェラ皇国、アレドリア王国、そして私達ハルヴェラ王国の三か国に加えて、新たに加盟することになったラウデシア王国、そして旧カリン王国内に建国される予定の新王国の、五か国による会議ね。おそらく新王国も同盟に加盟することになるから、五か国の同盟体になるわ」
「ふぅん」
でも、自分とアルバート王子にはあまり関係がないことだろうと、ルーシェは黙ってお茶を飲みながら話を聞いている。勇者であるアルバート王子はサトーを倒すべく啓示を受けている。だから対サトー同盟の国際会議も全く関係ない話とは言えなかった。しかし、アルバート王子は名乗り出ることのない勇者であるからして、同盟による会議などは、せいぜいその結果を聞いておくことくらいしか出来なかった。
アルバート王子は呟くように言った。
「ラウデシア王国が正式に対サトー王国の同盟に入るわけですね」
当初、ラウデシア王国の現国王と第一王子リチャードは同盟加盟に反対であったのだが、魔族の侵攻を王都へ受け、大きな被害を受けた後は、方針を変えたということだ。
「そうなるわ。それと同時に、旧カリン王国の領土に建国される新王国は、ラウデシア王国出身の冒険者が建てるものだから、貴方の国とも縁が深いでしょう。新王国は“竜の牙”というクランを率いる冒険者が初代の国王になる予定だとか」
クラン“竜の牙”
それは以前、アルバート王子がルーシェを連れて、足を運んで話を聞きに行ったイスフェラ皇国内のクランであった。
アルバート王子の兄シルヴェスター王子が所属するクランでもある。
つまりは、あの時に会ったクラン長ダンカンが、新王国の国王に就くということなのだろう。
正直、驚いた。
もしや、先ほどリン王太子妃からの話に出てきた“黄金竜の怒り”の黄金竜とは、ユーリスの連れている黄金竜ウェイズリーなのかも知れないと、アルバート王子はこの時になってようやくそのことに思い至る。あの小さな黄金竜の雛は、ユーリス青年にべた惚れだった。ユーリスに頼まれれば、何でもやりそうな様子であったのだ。“竜の牙”と、ユーリスの連れている黄金竜ウェイズリーが何らかの形で結びついたのかも知れない。
隣に座っているルーシェも同じことを思い付いているようで「ウェイズリーに会って話を聞けたらいいのにな」と言っていた。
その後、アルバート王子は質問をリン王太子妃とエルリック王太子に投げかけていた。
「イスフェラ皇国で開催される会議にご出席されるのはどなたなのでしょうか?」
ハルヴェラ王国からの出席者は誰かという質問に、エルリック王太子が「私が出席する予定だ」と告げた。
「外交関係は、エルリックが請け負っているの。私も一緒に行きたいところなのだけど」
「君には国にいてもらいたい」
「分かっているわ」
サトー王国の征服地に近いイスフェラ皇国へリンが渡ることを、エルリックは嫌がった。彼女には出来るだけ安全な場所にいて欲しい。
ラウデシア王国からの出席者は、リチャード王子かアンリ王子のどちらかが出席するだろうという話だった。現在、ラウデシア王国の国王は体調が優れないようで、床に就いていることが多いらしい。来年にもリチャード王子が新王として即位するのではないかという話も出ている。
(リチャード王子が新国王!!)
ルーシェは、顔を引きつらせている。
アレドリア王国のルティ魔術師がルーシェにちょっかいを出さなくなったのであれば、母国ラウデシア王国へ帰国することにも問題はないが、リチャード王子のルーシェもといシアンへの執着を思うと、あの国にはしばらく帰りたくない気もする。実際、エイベル副騎兵団長からは「リチャード王子殿下には重々お気をつけて下さい。人化させたルーシェをそのおそばには決して近寄らせないようになさって下さい」という助言を受け、ウラノス騎兵団長からも「殿下方はしばらくの間、ハルヴェラ王国に逗留なさっても宜しいでしょう」とまで言われていた。それだけ、リチャード王子のことを警戒している。
その王子が、次期国王としていよいよ来年即位するかも知れないのだ。
(当分、そう、当分、俺はハルヴェラ王国にいてもいいかも知れない。いや、いた方がいいかも知れない)
そんなことをルーシェは思ってしまう。
それに心話で、アルバート王子も答えていた。
(ラウデシア王国は西方の国々から距離がある。サトー王国のサトーの動向を掴むには、このハルヴェラ王国にいた方がいい)
竜騎兵団にいてしまえば、西方諸国の情報など王宮を介して流されるために、時間がかかり、なかなか入らない。
アルバート王子が勇者の使命を果たすためにも、ハルヴェラ王国にいる方が都合が良いのだ。
それにこのハルヴェラ王国では、ルーシェが小さな竜の姿でいても、小さな子供の姿でいても構わない自由さがあった。王太子妃リンの絶大なる権力の下でルーシェはのびのびと過ごすことができる。アルバート王子も、勇者の試練を果たすためにミッチリと訓練もできる(竜騎兵団にいれば、竜騎兵としての任務もあるためそうは出来ない)。一人と一頭にとって、このハルヴェラ王国に滞在することはまこと都合が良く、おまけに居心地が良すぎたのであった。
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