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第1章
第3話
しおりを挟む翌日の昼休み、俺は二人の先輩を探すことにした。千隼と奏多も一緒に来てくれると言ったが、さすがに三人で先輩を探すのは目立ちすぎるため、渋々一人で行くと決めた。
「本当に大丈夫?」
奏多が心配そうに声をかけてくれる。
「うん。まずは2年生の教室の前を通ってみる」
「見つけたら話しかけるの?」
千隼が興味深そうに聞く。
「……どうしよう。急に話しかけるのも変だよな」
考えてみれば、昨日名前を聞かれただけで、別に友達になったわけでもない。突然現れるのも変だし、かといって用事もない。
「きっかけが必要だね」
奏多が考え込む。
「あ!お礼を言いに行けばいいじゃん!昨日助けてもらったお礼」
千隼が手を叩く。確かに、それなら自然だ。
「そうだね。ありがとう、千隼」
「頑張って、遙真!」
二人に背中を押されて、俺は2年生のフロアへ向かった。
****
2年生の廊下は1年生の廊下より少し活気があるように感じる。やっぱり先輩たちは堂々としているな。
2-A、2-B、2-C……二人の先輩のクラスがわからない。仕方ないので、廊下をうろうろしながら教室を覗いてみることにした。
でも、これってかなり不審者だよな。1年生が2年生の教室を覗いて回るなんて。そう思いながら、とりあえず端から順番に見ていく。
2-Dの教室の前まで来たとき、中から笑い声が聞こえてきた。窓から少しだけ覗くと──いた。橘先輩だ。クラスメイトたちと楽しそうに話している。
でも、不破先輩の姿は見えない。別のクラスなのかな。
「よう」
突然後ろから声をかけられて、俺は心臓が飛び出るかと思った。
「ひっ……!」
振り返ると、不破先輩が腕を組んで立っていた。相変わらず鋭い目つきだけど、昨日よりは少し柔らかい気がする。
「な、なんでここに……」
「たまたま通りかかっただけだ。あ、睫毛ついてんぞ」
《遙真が来てくれないかなって、ちょっと期待してたけど》
先輩の指先が俺の目の下をそっとなぞる。
ひやりとした感触に、思わず目をぎゅっと瞑ってしまう。
またあの声だ。不破先輩の心の声。口では素っ気ないのに、心の中では……なんだか可愛い。
「すまん。そんなに怖かったか?」
「ち、違います……少しくすぐったくて……」
奏多が言っていた通り、本当に面倒見がいいな、この人。
「あの、昨日はありがとうございました。改めてお礼を言いたくて」
「あぁ」
不破先輩は短く答えただけで、じっと俺を見つめている。何か言いたそうなのに、言葉が出てこないみたいだ。
「春樹ー、あれ、遙真も!」
教室から橘先輩が出てきた。
「二人とも、どうしたの?」
「遙真がお礼を言いに来たらしい」
「そうなんだ!わざわざありがとう」
《昨日から遙真のこと、ずっと気になってたんだよな》
橘先輩が嬉しそうに笑って、俺の頭をぽんぽんと撫でる。残念ながら俺の身長は166センチ程しかないのだ。千隼は164センチなので、僅差で俺が勝っている。まあ、今回に限り、先輩から触ってもらえたので助かった。
そして、橘先輩の心の声も聞こえた。やっぱり二人の心の声が聞こえる。
「いえ、助けていただいて本当に感謝してます」
「そんな堅苦しくならなくていいよ。困ったときはお互い様だし」
橘先輩が優しく微笑む。その笑顔を見ていると、なんだか胸が温かくなる。
「遙真、今日は何時まで学校にいるんだ?」
不破先輩が唐突に聞いてくる。
「え?えっと、部活には入ってないので、放課後は特に予定ないです」
「そうか」
不破先輩は何か考え込むような表情をする。
「それなら、よかったら放課後、俺たちと一緒にどう?」
橘先輩が提案してくれた。
「え、でも……」
「嫌か?」
不破先輩が少し寂しそうな顔をしたので、俺は慌てて首を横に振る。
「嫌じゃないです!ただ、先輩たちの邪魔になるんじゃないかと……」
「邪魔なんかじゃないよ。むしろ一緒にいたい」
橘先輩がストレートに言う。イケメンの大事な時間を俺が貰ってもいいのか?それに橘先輩には好きな子もいるはずだし…。
「俺も同じだ」
俺が悩んでいるのを見兼ねたのか、不破先輩も頷いて、肯定してくれた。まぁ、一回くらいなら大丈夫だよな。
「じゃあ……お言葉に甘えて」
「やった!じゃあ放課後、昇降口で待ち合わせね」
橘先輩が嬉しそうに手を叩く。
「ああ。楽しみにしてる」
不破先輩も満足そうに頷いた。
チャイムが鳴り、昼休みの終わりを告げる。
「それじゃ、また後でね」
「ああ、また後で」
二人に見送られて、俺は1年生のフロアへ急いだ。
なんだか、すごくどきどきしている。放課後が楽しみだ。
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