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第2章
第14話
しおりを挟む翌日の朝礼で、学年主任から文化祭の準備について告知があった。
「来週から、文化祭の取り組みが始まります。各クラスで出し物を決めてください。企画書の提出期限は三日後です」
文化祭。
それは、俺が入学してからずっと聞いていた行事だ。でも、親衛隊の圧力がある今、参加することなんて考えられない。
教室に戻ると、担任の先生が入ってきた。
「皆さん、静かに。文化祭の出し物について、クラスで決めます。今から話し合いをして、全員で案を出してください。一人も欠けることのないように」
先生の言葉には、強い意思があった。
(全員で)
その言葉が、俺の心に引っかかった。
話し合いが始まると、何人かの男子が手を挙げた。
「僕は、演劇がいいと思います」
クラスメイトの一人が言った。
「演劇?いいね。恋愛ドラマとか、みんなで見たいだろ」
別の男子が続ける。
その時、教室の隅にいる親衛隊のメンバーたち──4人ほど──が、微妙な表情をした。
俺のクラスには、親衛隊が4人いるらしい。
彼らは、いつも俺を監視している。それを知ったのはつい最近だが、言われてみれば思い当たる節があった。
確か、入学して二週間が経った頃、昼休みに誰かが「一緒に食べよう」と声をかけてくれた時。
その子の背後にいた親衛隊の一人が、じっとこちらを睨んでいた。
相手は気まずそうに笑って、「やっぱり用事思い出した」と言って去っていった。
その時はただの偶然だと思っていたけれど、どうやら違ったらしい。
彼らは、俺に“余計な虫”がつかないようにしているつもりなのだという。幼稚園児の嫌がらせみたいでなんだか可愛いけれど、迷惑なことには変わりない。
でも、今日はいつもと違う空気が流れていた。
「演劇…いいじゃん!めっちゃ楽しそう!」
女子の一人が言った。すると、みんなが次々に口を開く。
「私もいいと思う!みんなで楽しめるし」
「そうだね。せっかくの文化祭なんだし」
クラスメイトたちが、次々と賛成の声を上げた。
親衛隊のメンバーたちは、何か言いたそうだったが、周りの雰囲気に押されて、何も言えなかった。
「じゃあ、演劇で決まり?」
先生が聞く。
「はーい!」
クラス全体が、声を合わせた。
その瞬間、俺の心に、何か温かいものが流れ込んできた。
(クラスのみんなが……俺のために……)
演劇が決まったあと、先生が続けた。
「それから、もう一つ。文化祭には女装コンテストがあります。各クラスから一人、代表を出してください」
女装コンテスト。
その言葉を聞いて、教室がざわついた。
「誰がやる?」
「俺は無理だわ」
「俺もー。似合わないし」
何人かが顔を見合わせている。
その時、女子の一人が手を挙げた。
「私、綾瀬くんを推薦します」
「え…?」
俺は、驚いて声を上げた。
「うん!綾瀬くん、絶対似合うよ」
「そうだよ!素でめっちゃ可愛いし」
「クラスの代表として、綾瀬くんがいい」
次々と、クラスメイトたちが賛成の声を上げた。
俺の顔が、熱くなる。
女装コンテスト。
あるっていうことは知っていたけど、出場するなんて、考えたこともなかった。
「綾瀬さん、どう?」
先生が聞いてきた。
「え、あの……」
言葉が出てこない。
その時、親衛隊のメンバーの一人が立ち上がった。
「綾瀬は、そんなことしなくても……」
でも、その言葉は、クラスメイトの声にかき消された。
「何言ってんの。綾瀬くんが出たら、絶対優勝だよ」
「そうだよ。確か、勝ったクラスには学食の無料券が配られるんだよね?」
「うん。それはもう勝ちに行くしかないよね!」
クラスメイトたちの声は、親衛隊のメンバーを圧倒していた。
俺は、その光景を見ながら、何も言えなかった。
でも、心の中では、少しだけ、嬉しかった。
クラスのみんなが、俺を受け入れてくれている。
───普通のクラスメイトとして。
「綾瀬さん、どうする?」
先生がもう一度聞いた。
俺は、少し考えてから、小さく頷いた。
「……わかりました」
その瞬間、教室が拍手に包まれた。
親衛隊のメンバーたちは、複雑な表情をしていたが、何も言わなかった。
クラス全体の雰囲気に、逆らえなかったのだろう。
ホームルームが終わり、休み時間になると、何人かのクラスメイトが俺のところに来た。
「綾瀬、ありがとう」
「女装コンテスト、楽しみにしてる」
「演劇も一緒に頑張ろうね」
その言葉一つ一つが、心に沁み込んだ。
俺は、今まで、クラスメイトと普通に話すことができなかった。
親衛隊が、いつも間に入って、邪魔をしていたから。
でも、今日は違った。
クラスメイトたちが、親衛隊の圧力を跳ね返して、俺に話しかけてくれた。
(これが……普通の学校生活なのか)
心が、少しだけ軽くなった。
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