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第2章
第19話
しおりを挟む放課後の文化祭準備。
演劇の練習が一段落して、休憩時間になった。
「みんな、10分休憩ね」
鈴木が言う。
クラスメイトたちが、それぞれ水分補給をしたり、椅子に座ったりする。
俺も、自分の席に戻ろうとした時だった。
「綾瀬様」
背後から声がかかった。
振り向くと、親衛隊のメンバーが数人立っていた。
「……何ですか?」
俺は、少し警戒した。
親衛隊は、いつも俺の自由を奪おうとしてくる。
「少し、お話ししたいことがあります」
3年生の佐藤が言った。
「でも……」
「すぐに終わります。お願いします」
その声には、懇願するような響きがあった。
俺は、少し迷ったが、頷いた。
「わかりました」
親衛隊のメンバーたちに連れられて、別の教室へ向かった。3年生の空き教室。ここが、親衛隊の活動場所らしい。
扉を開けると、中には10人以上のメンバーがいた。
みんな、俺を見て、一斉に立ち上がった。
「綾瀬様!」
その声に、俺は少しびくっとした。
(何が始まるんだ……?)
佐藤が、俺に椅子を勧めた。
「どうぞ、座ってください」
「あ、はい……」
俺は、恐る恐る椅子に座った。
親衛隊のメンバーたちが、俺を囲むように座る。
その光景は、何か尋問されるみたいで、少し怖かった。
「あの……何の話ですか?」
俺が聞くと、佐藤が深呼吸をした。
「綾瀬様。俺たちは、あなたのことを本当に尊敬しています」
「え?」
「いや、尊敬なんて言葉じゃ足りない。崇拝しています」
佐藤の声には、深い感情が込められていた。
「は、はぁ……」
俺は、どう反応していいのかわからなかった。
その時、別のメンバーが立ち上がった。
「綾瀬様!俺、先週の朝、綾瀬様を見たんです!」
2年生のメンバーだ。
「え、あ、はい……」
「綾瀬様が、朝の教室で眠そうにしてて、何度も首がガクガクしてたんです!」
「……っ!」
俺は、顔が真っ赤になった。
それ、見られてたのか。
確かに、最近夜更かししてて、朝は眠かった。
授業前に、何度も首がカクンとなってしまった。
「あの姿が、もう可愛すぎて!必死に起きようとしてる綾瀬様が、たまらなく愛おしくて!」
メンバーが熱く語る。
俺は、恥ずかしさで顔を伏せた。
「そ、それは……」
その時、別のメンバーが手を挙げた。
「俺も!俺も綾瀬様のこと、話していいですか!」
1年生のメンバーだ。
「あの、校舎の裏で、綾瀬様が猫に話しかけてたの、見ました!」
「……え」
俺は、心臓が止まりそうになった。
それも見られてたのか。
「『お前、可愛いね』って、優しく撫でてて……あの笑顔が、もう天使で……!」
メンバーが興奮したように話す。
「やめてください……」
俺は、両手で顔を覆った。
恥ずかしすぎる。
猫に話しかけてる姿なんて、誰にも見られたくなかった。
「それだけじゃないです!」
また別のメンバーが立ち上がった。
「綾瀬様が、食堂で藤原くんと神崎くんと笑ってる姿、見ました!あんなに無邪気に笑う綾瀬様、最高に可愛かったです!」
「図書館で、本を読んでる綾瀬様も見ました!集中してる横顔が、芸術作品でした!」
「廊下を歩いてる綾瀬様の後ろ姿も、美しすぎて……!」
次々と、メンバーたちが俺のことを語り始めた。
俺は、もう恥ずかしさで死にそうだった。
(こんなに細かく観察されてたのか……?)
「あの、みなさん……」
俺が口を開くと、メンバーたちが一斉に静まった。
「俺は……そんなに特別じゃないです」
その言葉に、メンバーたちが驚いたような顔をした。
「何を言ってるんですか!綾瀬様は、この学校で一番美しくて、優しくて、素晴らしい方です!」
佐藤が言った。
「でも……」
「俺たちは、綾瀬様のことを守りたいんです。綾瀬様が、誰にも汚されないように」
その言葉に、俺は少し複雑な気持ちになった。
守りたい。
その気持ちは、わかる。
でも、それが行き過ぎて、俺の自由を奪っていた。
「あの……」
俺は、少し勇気を出して言った。
「みなさんの気持ちは、嬉しいです。でも、俺は……自分で決めたいんです」
その言葉に、メンバーたちが沈黙した。
「誰と話すか、何をするか。それを、自分で決めたいんです」
俺は、はっきりと言った。
佐藤が、少し悲しそうな顔をした。
「……そうですか」
「ごめんなさい」
「いえ。綾瀬様が、そう言うなら……」
佐藤が、深く頭を下げた。
他のメンバーたちも、次々と頭を下げる。
「俺たち、やりすぎてたのかもしれません」
「綾瀬様の自由を、奪ってました」
「本当に、申し訳ありません」
メンバーたちの声には、深い後悔が込められていた。
俺は、少し胸が痛くなった。
「いえ……みなさんが、俺のことを想ってくれてたのは、わかってます」
「綾瀬様……」
「でも、これからは……普通に、接してもらえますか?」
俺の言葉に、メンバーたちが顔を上げた。
「普通に、ですか?」
「はい。特別扱いじゃなくて、普通の生徒として」
佐藤が、少し考えてから頷いた。
「……わかりました。綾瀬様がそう望むなら」
「ありがとうございます」
俺は、立ち上がった。
「それじゃ、戻ります」
「はい。綾瀬様、ありがとうございました」
メンバーたちが、深く頭を下げる。
俺は、教室を出た。
廊下を歩きながら、思った。
親衛隊のメンバーたちは、悪い人たちじゃない。
ただ、俺のことを想いすぎて、やり方を間違えていただけ。
教室に戻ると、千隼が心配そうに駆け寄ってきた。
「遙真!どこ行ってたの?」
「親衛隊に呼ばれて」
「大丈夫だった?」
奏多も心配そうに聞く。
「うん。大丈夫」
俺は、少し笑った。
「親衛隊の人たち、話したら意外といい人だった」
「そっか」
千隼が安心したような顔をする。
準備が再開され、俺は演劇の練習に戻った。
山崎が、心配そうに声をかけてきた。
「綾瀬、大丈夫だった?」
「うん。ありがとう」
「良かった」
山崎が笑った。
その夜、家に帰ると、ルカが待っていた。
「おかえり」
「ただいま」
「今日はどうだった?」
ルカが聞く。
「親衛隊と、話した」
「え?大丈夫だったのか?」
「うん。意外と、悪い人たちじゃなかった」
俺は、今日の出来事を話した。
親衛隊が、俺の魅力を熱く語ったこと。
眠たい時の姿や、猫に話しかける姿まで観察されていたこと。
全部、話した。
ルカは、少し笑っていた。
「遙真、人気者だな」
「やめてよ……恥ずかしい」
「でも、良かったな。親衛隊と話せて」
「うん」
ルカが、俺の頭を撫でた。
「お前は、ちゃんと前に進んでる」
その言葉に、俺は頷いた。
文化祭まで、あと三週間。
親衛隊との関係も、少しずつ変わり始めている。
このまま、前に進んでいけるかもしれない。
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