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31.読み聞かせ
しおりを挟む金曜日の放課後、朝比奈先生に呼ばれて職員室に向かった。
「凛音くん、お疲れさまです」
「お疲れさまです」
「実は、お願いがあって呼んだんです」
朝比奈先生が資料を取り出す。
「来週の火曜日に、近隣の幼稚園で読み聞かせのボランティアがあるんです」
「読み聞かせ?」
「はい。蒼嶺学園の生徒による社会貢献活動の一環です」
先生が嬉しそうに説明してくれる。
「柊くんの美しい声と表現力なら、きっと子供たちも喜んでくれると思うんです」
「ぼくなんかで、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫です。むしろ、柊くんにお願いしたくて」
朝比奈先生の熱意に、断ることができなかった。
「分かりました。参加させていただきます」
「本当ですか?ありがとうございます!」
先生がとても喜んでくれた。
「当日は、私も一緒に行きますから安心してくださいね」
火曜日の午後、朝比奈先生と一緒に幼稚園に向かった。
「緊張しますか?」
「少し……子供たちと接するのは久しぶりで」
「大丈夫ですよ。柊くんの優しさなら、きっと子供たちも懐いてくれます」
先生の励ましの言葉に、少し気持ちが楽になった。
幼稚園に着くと、園長先生が温かく迎えてくれた。
「わざわざお越しくださり、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
朝比奈先生が挨拶する。
「こちらが、今日読み聞かせをしてくれる柊くんです」
「はじめまして」
「まあ、とても素敵な生徒さんですね。子供たちも喜びます」
園長先生に案内されて、年長組の教室に向かった。
「みんな、お兄さんが本を読んでくれるよ」
教室に入ると、20人ほどの子供たちが座って待っていた。
「わあ、きれいなお兄さん」
「天使みたい」
「本当にお兄さん?」
子供たちの素直な反応に、自然と頬が緩む。
「こんにちは、みんな」
「こんにちは」
元気な返事が返ってくる。
「今日は、楽しい本を読んであげるね」
最初に選んだのは、『ぐりとぐら』だった。カラフルな絵と楽しいストーリーで、子供たちに人気の絵本だ。
「昔、野ねずみのぐりとぐらがいました」
本を開いて読み始めると、子供たちが一斉に身を乗り出してきた。
「ぼくらの名前はぐりとぐら……」
声色を変えながら読んでいくと、子供たちが目を輝かせて聞いている。
「お兄さん、上手」
「もっと読んで」
子供たちの反応が嬉しくて、だんだん緊張もほぐれてきた。
次に読んだのは、『はらぺこあおむし』。
「小さなあおむしが、りんごを食べました。でも、まだお腹がすいています」
ページをめくりながら、あおむしになりきって表現すると、子供たちが笑い声を上げた。
「あおむしさん、かわいい」
「お兄さんの声、きれい」
子供たちの純粋な感想に、心が温かくなった。
後ろで見ていた朝比奈先生も、嬉しそうに微笑んでいる。
最後に読んだのは、『おやすみなさい おつきさま』。
少し静かなトーンで読んでいくと、子供たちも自然と静かになった。
「おやすみなさい、みんな」
本を閉じると、子供たちから拍手が起こった。
「お兄さん、ありがとう」
「また来て」
「今度はどんな本を読んでくれるの?」
子供たちが口々に話しかけてくる。
「お兄さんのお名前は?」
「りおんだよ」
「りおんお兄さん」
「また会えるかな?」
一人の女の子が、恥ずかしそうに近づいてきた。
「お兄さん、これ」
手作りの折り紙の花を差し出してくれる。
「ありがとう。とても綺麗だね」
「お兄さんにあげる」
その純粋な優しさに、胸がきゅんとした。
「大切にするね」
教室を出る時、子供たちが手を振って見送ってくれた。
「また来てね」
「絶対だよ」
「約束」
子供たちの笑顔を見ていると、また来たいという気持ちになった。
帰り道、朝比奈先生と二人で歩いた。
「お疲れさまでした。とても素晴らしかったです」
「ありがとうございます」
「柊くんの読み聞かせ、私も感動しました」
先生の言葉に、嬉しくなった。
「子供たちの表現力から学ぶところもありました」
「そうですね。子供たちの反応は正直ですから」
「はい。とても楽しかったです」
「また機会があったら、お願いしたいです」
「ぜひ、参加させてください」
朝比奈先生が嬉しそうに微笑んだ。
「柊くんは、本当に人を幸せにする力を持っていますね」
「そんなことないです」
「いえ、本当です。今日の子供たちの笑顔を見れば分かります」
先生の言葉に、胸が温かくなった。
「それに……」
「はい?」
「私も、柊くんと一緒にいると幸せな気持ちになります」
朝比奈先生の言葉に、どきんとした。
「先生……」
「あ、すみません。変なことを言ってしまって」
先生の頬が少し赤くなった。
「いえ、嬉しいです」
「本当ですか?」
「はい。ぼくも、先生と一緒にいると楽しいです」
朝比奈先生の表情が、ぱっと明るくなった。
学園に戻る途中、カフェに寄ることになった。
「お疲れさまでした。何か飲み物でも」
「ありがとうございます」
カフェで向かい合って座ると、なんだか特別な時間のような気がした。
「柊くん」
「はい」
「今日のように、文学を通じて人に喜びを与えられるって、素晴らしいことですね」
「そうですね」
「将来も、そういう仕事に就かれるといいですね」
「先生は、どうして国語の先生になったんですか?」
「それは……」
朝比奈先生が少し考えるような表情をした。
「美しい言葉の力を、多くの人に伝えたかったからです」
「美しい言葉の力?」
「はい。言葉には、人の心を動かす力があります」
先生の瞳が、とても真剣だった。
「今日の柊くんの読み聞かせのように、声に出すことで、その力はより大きくなります」
「なるほど……」
「柊くんの声には、特別な魅力があります」
「特別って?」
「優しくて、温かくて、聞いている人を幸せにする力があるんです」
朝比奈先生の言葉に、嬉しくなった。
「今日、改めて確信しました」
「何を?」
「柊くんは、きっと多くの人を幸せにする人になるということを」
先生の真剣な表情に、胸がどきどきした。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。素晴らしい読み聞かせをありがとうございました」
カフェを出て学園に戻ると、夕日が美しく校舎を照らしていた。
「今日は、本当にありがとうございました」
「こちらこそ。また機会があったら、一緒に行きましょう」
「はい、ぜひ」
朝比奈先生と別れて、寮に向かった。
部屋に戻ると、夏目くんが机で勉強していた。
「お疲れ」
「ただいま」
「どうだった?読み聞かせ」
「とても楽しかったよ。子供たちが喜んでくれて」
夏目くんが振り返る。
「そうか。良かったな」
「夏目くんも、今度一緒に行かない?」
「俺は子供は苦手だ」
「そんなことないと思うけど……」
「お前とは違う」
夏目くんの表情が、少し複雑だった。
「朝比奈先生と二人だったのか?」
「うん」
「そうか……」
夏目くんが再び机に向かってしまった。
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