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第21章 資金枯渇 ― 経営は兵法なり
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夜明けの光が、窓越しに帳簿の端を淡く照らしていた。
まだ街は眠りの中にある。
遠くでパン屋の竃が鳴り始める気配だけが、
かすかに聞こえる静かな時間帯だ。
だが、この部屋だけは違った。
机の上に広げられた帳簿と計算板。
インクの乾ききらない数字が幾重にも並び、
紙の白さを押しつぶすように沈んでいる。
静寂を破ったのは、リュシアの低い声だった。
「……資金流出、三割増加」
一語一語が、重石のように空気へ落ちる。
その数字の意味を理解できない者は、
この場にはいない。
三割――それは誤差ではない。明確な攻撃だ。
リュシアは指先で該当欄をなぞりながら、
淡々と続けた。
「市内の両替商が一斉に手形を現金化しています。
しかも動きはほぼ同時刻。偶然とは考えられません」
紙が擦れる音だけが、部屋に残る。
「裏にギルドがいるのは明白です」
言い切る口調には、迷いも感情も混じらない。
事実だけを切り取った、冷静な結論だった。
漣司は椅子に寄りかかり、帳簿から視線を上げる。
窓の向こうでは、
夜明けの空がゆっくりと色を変え始めている。
紫から藍へ、そして薄い金色へ――
まるで戦の始まりを告げる旗のように。
「来たな」
短く、しかし確信に満ちた声。
「資金戦だ」
剣も魔法も使わない。
だが、企業にとっては最も致命傷になり得る戦場。
数字が兵となり、信用が盾となり、時間が刃となる――
そんな見えない戦争が、すでに始まっていた。
◇
ギルドの新たな一手は、刃の見えない攻撃だった。
商会の流通を――まるで空売りするかのように締め上げる。
両替商へ二階堂商会の手形が次々と持ち込まれ、
銀貨との即時交換を迫られている。
窓の外では、市場がいつも通り動いている。
笑い声、荷馬車のきしむ音、呼び込みの声。
だが、その裏側で、信用という土台が静かに削られていた。
支払いが一度でも滞れば――噂は広がる。
不安は連鎖し、手形は紙切れになる。
二階堂商会の名は、市民の口から消える。
「社長!」
ミナが机を叩いた。乾いた音が室内に跳ねる。
「こんな速度で両替されたら、銀貨が底を突く!
村人も市民も、裏切られたって思っちゃうよ!」
目に宿るのは、怒りよりも焦りだった。
守ろうとしてきた人々の顔が、脳裏をよぎっている。
その横で、ガロウが斧を肩に担ぎ、獣のように息を吐いた。
「だったら両替商をブッ潰せばいイ!
襲撃しテ、ギルドの手先を片っ端かラ――」
言葉が、刃のように荒れる。
「やめろ」
低く、短い声が空気を断った。
漣司だった。
視線は鋭いが、声には怒号も熱もない。
ただ、冷えた意志だけが宿っている。
「それは力の暴走だ。
信用を守るために力を使うのに、
その力で信用を壊してどうする」
室内に、短い沈黙が落ちた。
ガロウは歯を食いしばり、斧をぎゅっと握り締める。
一瞬、床に叩きつけそうになった腕が、
ゆっくりと下ろされた。
「……チッ」
不満げなうなり声だけが残る。
だが、その背中から、暴走の気配は消えていた。
◇
リュシアが淡々と数字を追い続ける。
指先が帳簿の行をなぞり、淡い魔光の計算式が空中にまたたいた。
「このまま推移した場合――
あと十日で、運転資金が枯渇します」
室内の空気が、わずかに重く沈んだ。
「十日か……」
漣司は椅子にもたれ、天井を見上げる。
木梁の影が、ゆっくりと視界を横切った。
――資金ショート。
――黒字倒産。
日本にいた頃、何度も見てきた光景が脳裏に蘇る。
帳簿上は利益が出ているのに、現金が回らず倒れていく中小企業。
現場の努力も、誠実さも、数字の冷酷さの前では無力だった。
その時、恩師が残した言葉を思い出した。
「経営は孫子の兵法と同じだ。
敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」
漣司は目を閉じる。
胸一杯に息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
ざわついていた思考が、一本の線に収束していく。
「……よし」
瞼を開けたその目に、迷いはなかった。
「ここからは、兵法で戦う」
静かな声だった。
だが、それは宣戦布告にも等しい重みを帯びていた。
◇
会議室の長机いっぱいに羊皮紙が広げられた。
漣司は立ったまま、迷いなく筆を走らせる。
さらさら、と乾いた音が空気を切り裂き、
線と円が次々と描かれていった。
「孫子曰く――兵は詭道なり。
資金戦も同じだ。真正面から受ける必要はない。
流れそのものを、こちらで作る」
筆先が止まり、彼は図の中心を指で叩く。
「どうやって……?」
ロイが思わず身を乗り出す。
漣司は視線を上げず、線を伸ばしながら答えた。
「第一に、勢(せい)」
円の周囲に、いくつもの矢印が描かれる。
「市民の需要をさらに集中させる。
手形を銀貨に換える必要そのものを消すんだ。
倉庫街を金融拠点化し、現物決済を推進する」
描かれた矢印が、一点に収束する。
リュシアの瞳が、はっと輝いた。
「なるほど……。
現物が流通すれば、銀貨を介さずに取引が回る。
資金圧迫は避けられるし、信用も崩れない」
「第二に、虚実(きょじつ)」
漣司は別の場所に、大きく囲い線を引いた。
「ギルドが狙っているのは資金枯渇だ。
なら逆に、こちらに余力があるように見せる。
保険基金を公開し、まだ余裕があると誇示する」
ミナが肩を揺らして笑う。
「なるほどねぇ。わざと札束を積んで、
ドーンって見せびらかすわけだ!
人だかりができるよう、あたしが噂を流してあげる!」
「そして第三に、奇正(きせい)」
筆がさらに走り、二つの倉庫が描き分けられる。
「表と裏に資金を分散する。
囮の倉庫と、本命の隠し倉庫だ。
敵がどちらかを叩いても、致命傷にはならない」
ガロウが斧を担ぎ直し、歯を見せて笑った。
「ようやく俺の出番カ!囮を守って、
ギルドの連中をまとめて叩き潰せばイイんだナ!」
室内の空気が、一気に熱を帯びる。
漣司は小さくうなずいた。
「そうだ。お前たちの力が、
虚を実に変える。この作戦の要だ」
羊皮紙の上で、戦略図が静かに完成していた。
それは、資金戦争における――最初の布陣だった。
◇
計画は、迷いなく動き出した。
倉庫街の一角に、即席とは思えぬほど大きな取引所が設けられる。
並ぶのは銀貨ではなく、荷車いっぱいの物資と束ねられた手形。
農村から届く麦袋、都市工房の織物、地方から運び込まれた木材。
人々は品を確かめ、手形を差し出し、現物と現物を交換していく。
金属の音は少ない。
代わりに、布の擦れる音、木箱のぶつかる音、
活気ある呼び声が満ちていた。
「……銀貨をほとんど使ってませんね」
ロイが目を丸くして、行き交う人々を見渡す。
「荷物と手形だけで、取引が回ってる……」
「仕組みは単純だ」
漣司は、人波の流れを指でなぞるように示した。
「銀貨は価値の仲介役にすぎない。
本当に欲しいのは、食べ物であり、布であり、材料だろう?」
ちょうど目の前で、農夫が麦袋と引き換えに織物を受け取る。
互いにうなずき合い、満足そうに別れていった。
「銀貨を一度はさまなくても、
必要なもの同士が直接つながれば、取引は成立する」
「なるほど……」
ロイはゆっくりとうなずく。
「遠回りしていた交換を、
一直線にしただけ、というわけですか」
「そういうことだ。
余計な媒介が減れば、手間も不安も減る。
市民にとってむしろ便利だ」
市場の熱気は、時間が経つほどに増していった。
呼び声は明るく、荷車の往来は途切れない。
人々の表情には、不安よりも――
新しい仕組みを使いこなす高揚が浮かんでいた。
「……現代日本でも、
キャッシュレス決済が進んでいたからな」
漣司が、誰にともなくぽつりとこぼす。
「……?」
ロイはその言葉の意味がわからず、首を傾げた。
だが問い返す前に、漣司はもう市場へ視線を戻している。
取り残されたロイだけが、
胸の奥に小さな「?」を浮かべたまま、
活気あふれる取引所を見つめていた。
◇
だが、ギルドは黙ってはいなかった。
数日後、両替商に預けられていた商会の資産の一部が、
一夜にして消えた。
――横領。ギルドが裏から手を回し、資金を奪わせたのだ。
「やられました……!」
リュシアが顔を歪めた。
「資金の一部が消えました。
表向きは事故に見せかけていますが、
明らかにギルドの工作です」
ロイが怒りに震えた。
「村人の汗で稼いだ金を……!」
漣司は深く息を吐き、冷静に告げた。
「兵法に曰く、
戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。
ギルドは俺たちを消耗戦に引きずり込もうとしている。
……ならば、次はこちらが主導権を握る」
その目は鋭く光り、旗の影が揺れた。
◇
夜、屋上で風を浴びながら漣司は仲間たちに告げた。
「この資金戦は、ただの経済の争いじゃない。
俺たちが法人として存在する価値そのものを問う戦いだ」
ガロウが拳を打ち鳴らした。
「契約を守るためなラ、どんな戦でも付き合うゼ!」
リュシアが冷徹に微笑む。
「数字は裏切りません。私が保証します」
ミナが短剣をくるくると回しながら笑った。
「庶民の声はあたしとロイに任せといて!」
ロイは拳を握り、真っ直ぐな声で誓った。
「俺は庶民代表として、
この旗の下で村も都市も必ず守ります!」
漣司は静かに頷いた。
「よし、ここからが本当の勝負だ。
――経営は兵法。戦場は市場だ」
剣と天秤の旗が夜風に揺れ、商会の決意を照らした。
資金戦争の幕が、いよいよ本格的に切って落とされた。
まだ街は眠りの中にある。
遠くでパン屋の竃が鳴り始める気配だけが、
かすかに聞こえる静かな時間帯だ。
だが、この部屋だけは違った。
机の上に広げられた帳簿と計算板。
インクの乾ききらない数字が幾重にも並び、
紙の白さを押しつぶすように沈んでいる。
静寂を破ったのは、リュシアの低い声だった。
「……資金流出、三割増加」
一語一語が、重石のように空気へ落ちる。
その数字の意味を理解できない者は、
この場にはいない。
三割――それは誤差ではない。明確な攻撃だ。
リュシアは指先で該当欄をなぞりながら、
淡々と続けた。
「市内の両替商が一斉に手形を現金化しています。
しかも動きはほぼ同時刻。偶然とは考えられません」
紙が擦れる音だけが、部屋に残る。
「裏にギルドがいるのは明白です」
言い切る口調には、迷いも感情も混じらない。
事実だけを切り取った、冷静な結論だった。
漣司は椅子に寄りかかり、帳簿から視線を上げる。
窓の向こうでは、
夜明けの空がゆっくりと色を変え始めている。
紫から藍へ、そして薄い金色へ――
まるで戦の始まりを告げる旗のように。
「来たな」
短く、しかし確信に満ちた声。
「資金戦だ」
剣も魔法も使わない。
だが、企業にとっては最も致命傷になり得る戦場。
数字が兵となり、信用が盾となり、時間が刃となる――
そんな見えない戦争が、すでに始まっていた。
◇
ギルドの新たな一手は、刃の見えない攻撃だった。
商会の流通を――まるで空売りするかのように締め上げる。
両替商へ二階堂商会の手形が次々と持ち込まれ、
銀貨との即時交換を迫られている。
窓の外では、市場がいつも通り動いている。
笑い声、荷馬車のきしむ音、呼び込みの声。
だが、その裏側で、信用という土台が静かに削られていた。
支払いが一度でも滞れば――噂は広がる。
不安は連鎖し、手形は紙切れになる。
二階堂商会の名は、市民の口から消える。
「社長!」
ミナが机を叩いた。乾いた音が室内に跳ねる。
「こんな速度で両替されたら、銀貨が底を突く!
村人も市民も、裏切られたって思っちゃうよ!」
目に宿るのは、怒りよりも焦りだった。
守ろうとしてきた人々の顔が、脳裏をよぎっている。
その横で、ガロウが斧を肩に担ぎ、獣のように息を吐いた。
「だったら両替商をブッ潰せばいイ!
襲撃しテ、ギルドの手先を片っ端かラ――」
言葉が、刃のように荒れる。
「やめろ」
低く、短い声が空気を断った。
漣司だった。
視線は鋭いが、声には怒号も熱もない。
ただ、冷えた意志だけが宿っている。
「それは力の暴走だ。
信用を守るために力を使うのに、
その力で信用を壊してどうする」
室内に、短い沈黙が落ちた。
ガロウは歯を食いしばり、斧をぎゅっと握り締める。
一瞬、床に叩きつけそうになった腕が、
ゆっくりと下ろされた。
「……チッ」
不満げなうなり声だけが残る。
だが、その背中から、暴走の気配は消えていた。
◇
リュシアが淡々と数字を追い続ける。
指先が帳簿の行をなぞり、淡い魔光の計算式が空中にまたたいた。
「このまま推移した場合――
あと十日で、運転資金が枯渇します」
室内の空気が、わずかに重く沈んだ。
「十日か……」
漣司は椅子にもたれ、天井を見上げる。
木梁の影が、ゆっくりと視界を横切った。
――資金ショート。
――黒字倒産。
日本にいた頃、何度も見てきた光景が脳裏に蘇る。
帳簿上は利益が出ているのに、現金が回らず倒れていく中小企業。
現場の努力も、誠実さも、数字の冷酷さの前では無力だった。
その時、恩師が残した言葉を思い出した。
「経営は孫子の兵法と同じだ。
敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」
漣司は目を閉じる。
胸一杯に息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
ざわついていた思考が、一本の線に収束していく。
「……よし」
瞼を開けたその目に、迷いはなかった。
「ここからは、兵法で戦う」
静かな声だった。
だが、それは宣戦布告にも等しい重みを帯びていた。
◇
会議室の長机いっぱいに羊皮紙が広げられた。
漣司は立ったまま、迷いなく筆を走らせる。
さらさら、と乾いた音が空気を切り裂き、
線と円が次々と描かれていった。
「孫子曰く――兵は詭道なり。
資金戦も同じだ。真正面から受ける必要はない。
流れそのものを、こちらで作る」
筆先が止まり、彼は図の中心を指で叩く。
「どうやって……?」
ロイが思わず身を乗り出す。
漣司は視線を上げず、線を伸ばしながら答えた。
「第一に、勢(せい)」
円の周囲に、いくつもの矢印が描かれる。
「市民の需要をさらに集中させる。
手形を銀貨に換える必要そのものを消すんだ。
倉庫街を金融拠点化し、現物決済を推進する」
描かれた矢印が、一点に収束する。
リュシアの瞳が、はっと輝いた。
「なるほど……。
現物が流通すれば、銀貨を介さずに取引が回る。
資金圧迫は避けられるし、信用も崩れない」
「第二に、虚実(きょじつ)」
漣司は別の場所に、大きく囲い線を引いた。
「ギルドが狙っているのは資金枯渇だ。
なら逆に、こちらに余力があるように見せる。
保険基金を公開し、まだ余裕があると誇示する」
ミナが肩を揺らして笑う。
「なるほどねぇ。わざと札束を積んで、
ドーンって見せびらかすわけだ!
人だかりができるよう、あたしが噂を流してあげる!」
「そして第三に、奇正(きせい)」
筆がさらに走り、二つの倉庫が描き分けられる。
「表と裏に資金を分散する。
囮の倉庫と、本命の隠し倉庫だ。
敵がどちらかを叩いても、致命傷にはならない」
ガロウが斧を担ぎ直し、歯を見せて笑った。
「ようやく俺の出番カ!囮を守って、
ギルドの連中をまとめて叩き潰せばイイんだナ!」
室内の空気が、一気に熱を帯びる。
漣司は小さくうなずいた。
「そうだ。お前たちの力が、
虚を実に変える。この作戦の要だ」
羊皮紙の上で、戦略図が静かに完成していた。
それは、資金戦争における――最初の布陣だった。
◇
計画は、迷いなく動き出した。
倉庫街の一角に、即席とは思えぬほど大きな取引所が設けられる。
並ぶのは銀貨ではなく、荷車いっぱいの物資と束ねられた手形。
農村から届く麦袋、都市工房の織物、地方から運び込まれた木材。
人々は品を確かめ、手形を差し出し、現物と現物を交換していく。
金属の音は少ない。
代わりに、布の擦れる音、木箱のぶつかる音、
活気ある呼び声が満ちていた。
「……銀貨をほとんど使ってませんね」
ロイが目を丸くして、行き交う人々を見渡す。
「荷物と手形だけで、取引が回ってる……」
「仕組みは単純だ」
漣司は、人波の流れを指でなぞるように示した。
「銀貨は価値の仲介役にすぎない。
本当に欲しいのは、食べ物であり、布であり、材料だろう?」
ちょうど目の前で、農夫が麦袋と引き換えに織物を受け取る。
互いにうなずき合い、満足そうに別れていった。
「銀貨を一度はさまなくても、
必要なもの同士が直接つながれば、取引は成立する」
「なるほど……」
ロイはゆっくりとうなずく。
「遠回りしていた交換を、
一直線にしただけ、というわけですか」
「そういうことだ。
余計な媒介が減れば、手間も不安も減る。
市民にとってむしろ便利だ」
市場の熱気は、時間が経つほどに増していった。
呼び声は明るく、荷車の往来は途切れない。
人々の表情には、不安よりも――
新しい仕組みを使いこなす高揚が浮かんでいた。
「……現代日本でも、
キャッシュレス決済が進んでいたからな」
漣司が、誰にともなくぽつりとこぼす。
「……?」
ロイはその言葉の意味がわからず、首を傾げた。
だが問い返す前に、漣司はもう市場へ視線を戻している。
取り残されたロイだけが、
胸の奥に小さな「?」を浮かべたまま、
活気あふれる取引所を見つめていた。
◇
だが、ギルドは黙ってはいなかった。
数日後、両替商に預けられていた商会の資産の一部が、
一夜にして消えた。
――横領。ギルドが裏から手を回し、資金を奪わせたのだ。
「やられました……!」
リュシアが顔を歪めた。
「資金の一部が消えました。
表向きは事故に見せかけていますが、
明らかにギルドの工作です」
ロイが怒りに震えた。
「村人の汗で稼いだ金を……!」
漣司は深く息を吐き、冷静に告げた。
「兵法に曰く、
戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。
ギルドは俺たちを消耗戦に引きずり込もうとしている。
……ならば、次はこちらが主導権を握る」
その目は鋭く光り、旗の影が揺れた。
◇
夜、屋上で風を浴びながら漣司は仲間たちに告げた。
「この資金戦は、ただの経済の争いじゃない。
俺たちが法人として存在する価値そのものを問う戦いだ」
ガロウが拳を打ち鳴らした。
「契約を守るためなラ、どんな戦でも付き合うゼ!」
リュシアが冷徹に微笑む。
「数字は裏切りません。私が保証します」
ミナが短剣をくるくると回しながら笑った。
「庶民の声はあたしとロイに任せといて!」
ロイは拳を握り、真っ直ぐな声で誓った。
「俺は庶民代表として、
この旗の下で村も都市も必ず守ります!」
漣司は静かに頷いた。
「よし、ここからが本当の勝負だ。
――経営は兵法。戦場は市場だ」
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