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第27章 都市の外 ― 無法地帯への一歩
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酒と笑いの夜が明けて数日。
カストリアはすでに、二階堂商会の旗で染め上げられていた。高台から見れば、風に揺れる無数の紋章。倉庫街では人と荷が交錯し、商人たちは我先にと商会の手形で取引を行っている。失われたはずの信用は、むしろ以前より強固に戻り、敵対していた商人や役人までもが、「昨日までの恨みなどなかったかのように」商会の門を叩いていた。
――まるで、都市そのものが二階堂漣司へ礼を尽くしているかのようだった。
しかし当人は、勝利に酔わなかった。
「……都市の中を制しても、ここの世界の経済規模の一パーセントにも満たないだろう」
夜明けの窓辺で、蓮司は遠くを見つめていた。都市の喧騒も、勝利の祝宴も、彼の目には通過点にすぎない。
「この壁の外には、契約も秩序も存在しない。そこを変えなければ、俺たちはただの商会だ。本当の武装法人にはなれない」
その声音は静かだが、確信に満ちていた。
◇
数日後――。
二階堂商会の商隊は、都市の外へと向かった。交易網拡大のため、新たな農村・鉱山との経済圏を作る計画だ。しかし、半日ほど街道を進んだところで馬車が急停止する。空気が変わった。風向きすら、どこか鉄の匂いを帯びている。
「社長……これ」
前方には焦げた馬車の残骸。潰れた木枠から黒煙の名残がくすぶり、横転した車輪の下には、血に染まった布旗が敷き潰されていた。倒れた護衛兵の遺体。刃で裂かれ、焼かれ、奪われた貨物の跡。
ただの盗賊の仕業ではない。リュシアが膝をつき、焼痕と足跡を冷静に読み取った。
「……ただの山賊じゃない」
彼女の声には、鋭い刃のような冷たさが含まれていた。
「組織的です。待ち伏せの痕跡がある。護衛兵は逃げ出し、商隊は壊滅したのでしょう」
拳を強く握りしめ、歯を食いしばるロイ。
「俺の村から来る予定の荷だ……。こんな……仲間が、こんな目に……!」
目に涙が光り、声が震える。怒りと悔しさが混ざった叫びだった。
ガロウは大斧を握り直し、荒い息を吐きながら怒声を放った。
「都市の外じゃ、剣を抜いたヤツが正義ってわけカ! なら俺たちが正義を叩きつけてやるヨォォォ!」
その声は荒野を震わせ、周囲の木々の葉を揺らすほどの迫力があった。
ミナは短剣を指で弄び、にやりと笑った。
「社長、やっと出番だね。都市の中じゃ遠慮ばかりだったけど……外なら好きに暴れられる」
その瞳は、狩人のそれ。獲物を前にした鋭い光を宿している。
「……待ってろなさい、盗賊ども……私たちが、お前らの恐怖になるんだから」
蓮司はその光景を見渡し、仲間たちの怒りを感じ取った。胸の奥で、彼らの激昂がひとつにまとまり、無法地帯に立ち向かう決意の炎となって燃え上がる。
――都市の外の荒野に、武装法人二階堂商会の怒りが轟く瞬間だった。
◇
荒野に立つ二階堂商会の仲間たち。
倒れた護衛兵の剣を握る漣司の瞳に、血と焦げの痕が映る。風が荒野を吹き抜け、砂埃が一瞬だけ太陽の光を反射してきらめく。
「日本では、外の世界は市場であり、競合だった。だが、この世界の外は無法そのものだ」
漣司は低く唸るように告げ、剣を腰に差す。彼の背後で、仲間たちの視線が鋭く光った。
「都市の中では契約が武器だった。だが外の無法地帯では、契約を守らせる武力こそが契約の証明になる。――ここからは、武装法人の本領を見せる」
リュシアが静かに前へ一歩出る。短く息を吐き、冷徹な眼差しで仲間を見渡す。
「契約は数字で証明するもの。だが、それを守らせる力が伴わなければ、何の意味も持たない。剣と契約、両輪で初めて法人の信頼は成立します」
ロイは拳を握りしめ、声を震わせながら天を仰ぐ。
「なら俺は声で広める! 武装法人が街道を守るって、村の連中に伝えるんだ!」
その言葉に、風が砂を巻き上げるように仲間の心を鼓舞した。
ガロウは斧を肩に担ぎ、吠える。
「社長の剣となル! 外の盗賊なんざ、片っ端から退職させてやル!」
振りかぶった斧が陽光を反射し、刹那に周囲を照らす。地面に踏み込むたびに砂埃が舞い上がり、迫力が増幅する。
ミナは片目を細め、短剣を指の間で回した。
「噂をばら蒔くのは任せておいて。外の奴らにも、二階堂商会に逆らえば命より高くつくってね」
その声に、仲間たちの戦意が一層燃え上がった。
◇
漣司は風を切って旗竿を掲げた。
その瞬間、荒野に吹きつける風が一変した。乾いた砂を巻き上げながら、掲げた旗――剣と天秤の紋章――が朝陽を受けて閃光のように輝く。
その光は、まるでこの世界そのものに「新しい秩序の到来」を告げる狼煙だった。
「都市の秩序は手に入れた。次は――都市の外を変える」
低く、しかし全軍に染み渡る声。誰もが無意識に背筋を伸ばす。
この男の言葉には、命を賭ける価値がある。敵にすれば厄災、味方にすれば革命。漣司とはそういう男だ。
「――契約と武力で、新しい秩序を築くぞ」
掲げられた旗が、砂塵の中でひるがえる。それは軍旗であり、通達書であり、この世界に刻みつける支配のサインでもあった。
ロイが剣を抜く。銀の刃が陽光を受けて鋭く光る。
「社長が行くなら、俺も行く!」
ガロウが笑いながら大槌を肩に担ぐ。
「外で暴れる準備はとっくにできてんゼ!」
リュシアが眼鏡を押し上げ、淡々と続く。
「外縁地域の財政データ、すべて分析済みです。支配領域の拡張は最適解」
ミナはフードを翻し、軽やかに跳躍した。
「じゃ、私が先行して道を掃くわ♪」
次の瞬間、仲間たち全員が剣と武具を掲げ、雄叫びのように声を重ねた。
この瞬間、都市カストリアの外――無法と恐怖が支配する外縁の大地に、初めて武装法人の旗が立つ。二階堂商会の戦いは、都市を越え、荒野へ――そして世界へ広がり始めていた。
それは、ただの進軍ではない。この世界の形を変える、最初の「宣告」だった。
カストリアはすでに、二階堂商会の旗で染め上げられていた。高台から見れば、風に揺れる無数の紋章。倉庫街では人と荷が交錯し、商人たちは我先にと商会の手形で取引を行っている。失われたはずの信用は、むしろ以前より強固に戻り、敵対していた商人や役人までもが、「昨日までの恨みなどなかったかのように」商会の門を叩いていた。
――まるで、都市そのものが二階堂漣司へ礼を尽くしているかのようだった。
しかし当人は、勝利に酔わなかった。
「……都市の中を制しても、ここの世界の経済規模の一パーセントにも満たないだろう」
夜明けの窓辺で、蓮司は遠くを見つめていた。都市の喧騒も、勝利の祝宴も、彼の目には通過点にすぎない。
「この壁の外には、契約も秩序も存在しない。そこを変えなければ、俺たちはただの商会だ。本当の武装法人にはなれない」
その声音は静かだが、確信に満ちていた。
◇
数日後――。
二階堂商会の商隊は、都市の外へと向かった。交易網拡大のため、新たな農村・鉱山との経済圏を作る計画だ。しかし、半日ほど街道を進んだところで馬車が急停止する。空気が変わった。風向きすら、どこか鉄の匂いを帯びている。
「社長……これ」
前方には焦げた馬車の残骸。潰れた木枠から黒煙の名残がくすぶり、横転した車輪の下には、血に染まった布旗が敷き潰されていた。倒れた護衛兵の遺体。刃で裂かれ、焼かれ、奪われた貨物の跡。
ただの盗賊の仕業ではない。リュシアが膝をつき、焼痕と足跡を冷静に読み取った。
「……ただの山賊じゃない」
彼女の声には、鋭い刃のような冷たさが含まれていた。
「組織的です。待ち伏せの痕跡がある。護衛兵は逃げ出し、商隊は壊滅したのでしょう」
拳を強く握りしめ、歯を食いしばるロイ。
「俺の村から来る予定の荷だ……。こんな……仲間が、こんな目に……!」
目に涙が光り、声が震える。怒りと悔しさが混ざった叫びだった。
ガロウは大斧を握り直し、荒い息を吐きながら怒声を放った。
「都市の外じゃ、剣を抜いたヤツが正義ってわけカ! なら俺たちが正義を叩きつけてやるヨォォォ!」
その声は荒野を震わせ、周囲の木々の葉を揺らすほどの迫力があった。
ミナは短剣を指で弄び、にやりと笑った。
「社長、やっと出番だね。都市の中じゃ遠慮ばかりだったけど……外なら好きに暴れられる」
その瞳は、狩人のそれ。獲物を前にした鋭い光を宿している。
「……待ってろなさい、盗賊ども……私たちが、お前らの恐怖になるんだから」
蓮司はその光景を見渡し、仲間たちの怒りを感じ取った。胸の奥で、彼らの激昂がひとつにまとまり、無法地帯に立ち向かう決意の炎となって燃え上がる。
――都市の外の荒野に、武装法人二階堂商会の怒りが轟く瞬間だった。
◇
荒野に立つ二階堂商会の仲間たち。
倒れた護衛兵の剣を握る漣司の瞳に、血と焦げの痕が映る。風が荒野を吹き抜け、砂埃が一瞬だけ太陽の光を反射してきらめく。
「日本では、外の世界は市場であり、競合だった。だが、この世界の外は無法そのものだ」
漣司は低く唸るように告げ、剣を腰に差す。彼の背後で、仲間たちの視線が鋭く光った。
「都市の中では契約が武器だった。だが外の無法地帯では、契約を守らせる武力こそが契約の証明になる。――ここからは、武装法人の本領を見せる」
リュシアが静かに前へ一歩出る。短く息を吐き、冷徹な眼差しで仲間を見渡す。
「契約は数字で証明するもの。だが、それを守らせる力が伴わなければ、何の意味も持たない。剣と契約、両輪で初めて法人の信頼は成立します」
ロイは拳を握りしめ、声を震わせながら天を仰ぐ。
「なら俺は声で広める! 武装法人が街道を守るって、村の連中に伝えるんだ!」
その言葉に、風が砂を巻き上げるように仲間の心を鼓舞した。
ガロウは斧を肩に担ぎ、吠える。
「社長の剣となル! 外の盗賊なんざ、片っ端から退職させてやル!」
振りかぶった斧が陽光を反射し、刹那に周囲を照らす。地面に踏み込むたびに砂埃が舞い上がり、迫力が増幅する。
ミナは片目を細め、短剣を指の間で回した。
「噂をばら蒔くのは任せておいて。外の奴らにも、二階堂商会に逆らえば命より高くつくってね」
その声に、仲間たちの戦意が一層燃え上がった。
◇
漣司は風を切って旗竿を掲げた。
その瞬間、荒野に吹きつける風が一変した。乾いた砂を巻き上げながら、掲げた旗――剣と天秤の紋章――が朝陽を受けて閃光のように輝く。
その光は、まるでこの世界そのものに「新しい秩序の到来」を告げる狼煙だった。
「都市の秩序は手に入れた。次は――都市の外を変える」
低く、しかし全軍に染み渡る声。誰もが無意識に背筋を伸ばす。
この男の言葉には、命を賭ける価値がある。敵にすれば厄災、味方にすれば革命。漣司とはそういう男だ。
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掲げられた旗が、砂塵の中でひるがえる。それは軍旗であり、通達書であり、この世界に刻みつける支配のサインでもあった。
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