【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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分岐・黒田健

白い月

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「設楽さん、片付けだけサボるってズルい」
「自分の分は宿舎で洗うから、」
「そうだよズルいよ」
「みんな焦げ付いた鍋とか洗うんだよ!?」

 宿舎の食堂。結局一人で、窓からみんなを眺めつつ寂しくカレーとニジマスを食べた。黒田くんや、班の男子が釣ってくれたニジマス。
 美味しかった~、と満足して手を合わせていると、食堂に女の子何人かが入ってきたのだ。
 ぎくりと肩を揺らす。東城さんと、そのお友達だったから。
 そして、片付けに出ないことを詰られているのだ。

「何自分だけ特別扱いしてもらって当然みたいな顔してるの!?」
「そうだよ」
「ちょっと可愛いからって」
「よく見るとそんなことないからね」

 うう、そうなんです、残念アラサーが染み出してますので……と思いつつ、身体を小さくする。

(そもそも、この子たち班どころかクラスも別なのに)

 なんでわざわざ言いに来たんだろ。……やっぱ単なる言いがかり、だよね。
 そう思って、なんとかやり過ごそう、としていたけど強く手を引かれ、立たされる。

「案外重っ」
「ほら、この子、牛みたいだもん、ね」

 くすくすくす、と笑われて、私は眉根を寄せた。ひどい言い方だと思う。

(どうしよ、言い返す?)

 別に、中学生にこんなこと言われたからって、本気で腹は立たない。

(……やり過ごす、か)

 わざわざ波風立ててやることもない。
 そう思いながら、無言、無表情を貫いて手を引かれるままついていく。

(結局、反応が楽しいんだもんね、こういうの)

 まったく反応しない私を少し不気味そうにしながらも、東城さんは私を外に連れ出す。宿舎の入り口で、私はほんの少し、深呼吸をする。
 暗い屋外。でも照明もたくさんあって、うすぼんやりと明るい。

(大丈夫かな、最近少しでも日があれば出られるようになったし)

 人もたくさんいる。案外、平気なのかもしれない。
 そう思い、数歩踏み出す、けれど。
 白い月が、視界に入って。

(……そうだ、)

 あの月は、あの日もあった。
 前世で、私が殺された日。
 走った。たくさん、走った。怖かった。助けてってたくさん思って、死にたくないってたくさん思って、でも、……ダメだったのだ。

(大丈夫、大丈夫、それは前世の話)

 私は自分に言い聞かせる。

(それに、もう、この世界に、あいつはいない。久保は死んだの)

 ……死んだ? 本当に?
 また生まれ変わって、私を殺しにくるんじゃないの?
 だってこの間だってそうだった、私を見つけて、殺しに、来たじゃない。

(やだ)

 息ができない。酸素が足りない。
 そう思って何度も息をしてるのに、繰り返してるのに、全然息ができない。なんで? なんで? なんで?
 苦しい。

「え、設楽さん?」
「なに、なんの演技」
「設楽さんってば」

 私を連れ出した子たちが私の名前を呼ぶ。強がっているけど、慌てた声だった。
 力が抜けて、その場にしゃがみこむ。自分が支えられない。そして倒れこんだ。
 涙が出て止まらない。苦しい。丸まって、何度も呼吸を繰り返す。
 それなのに息ができない。

(死にたくない)

 胸が痛い。呼吸してるのに、全然肺に入ってこない。手の先が痺れている。冷たい。涙だけが、ひどく熱く感じた。

「設楽!」

 誰かの声がした。安心できる声。
 必死で顔をそちらに向ける。

(黒田くん)

 出ない声で、必死に叫んだ。

(たすけて)

 黒田くんに抱きすくめられた、んたと思う。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、フワリとした浮遊感があった。

「目、閉じてろ」

 言われた通りにする。呼吸が少しずつ楽になっていく。
 抱き抱えられたまま、たぶん室内に入ったんだと思う、まぶた越しに明るい光を感じて目を開けた。

(……救護室?)

 養護教諭の、小西先生が見える。
 なにかを話していたし、聞こえるけど、なにを言っているのかは理解できなかった。頭が働いていない。
 黒田くんのあったかさだけが分かる。

(心臓の音)

 黒田くんの、心臓の音だけを、また目を閉じて聞く。
 どれくらいそうしていただろうか。
 ふと目を開けると、心配そうな瞳にぶつかる。

「……黒田くん」
「設楽」

 はぁ、とひとつ息をして、それから安心したような、でも震えた声で黒田くんは私を呼んだ。そしてまたぎゅうぎゅうと抱きしめる。

(……うわぁ)

 状況に気づいて、赤面する。救護室のベンチ、そこ黒田くんはお姫様抱っこのように私を抱え込んだまま、座っていた。毛布がかけられている。

「落ち着いた?」

 小西先生が顔を覗き込んで、優しく言ってくれる。

「……はい」

 私がうなずくと、黒田くんは立ち上がってから、そっと私をベンチに座らせた。肩から毛布をかけてくれる。

「なんで外なんか出たんだ」

 私の足元に座って、私を見上げるようにして黒田くんは言う。少し怒っているようにも見える。

「あの、えーと」

 東城さんのことを言うか迷って、それから「片付けを」と呟いた。

「片付けを、手伝おうと」
「無理はしなくていいって、班の皆でそう決めただろうが」
「……ごめんなさい」

 私はなんとかそう呟く。
 無理矢理連れ出されたとはいえ、見通しが甘かったのは私のせい。
 黒田くんは、ただ私の手をぎゅうっと握りしめて「良かった」とだけ、呟いた。
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