【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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分岐・黒田健

トラブル(side健)

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「なんでか設楽ちゃんは庇っちゃってるけどさ、あれさ、1組の東城だよ、設楽ちゃん無理矢理連れ出したの」

 同じクラスの南と北山がこっそり教えてくれたのは、設楽が過呼吸を起こした翌日の朝。

「は?」

 俺の声は低かったと思う。なんだそりゃ。なんで別のクラスのヤツが?

「怒んないでよ」
「怒ってねーよ」
「東城さ、アンタのこと好きなんだって」
「は?」

 南が話したのは、東城とかいう女子の小学校で起こした"いじめ"事件。

「なに考えてんのかサッパリわかんねーんだけど」
「ウチらにもだよ! とにかくそーゆーヤツなの」
「直で話つけてくるわ」

 振り返ろうとした俺の腕を、北山が掴む。

「ちょ、バカバカバカ!? 余計酷くなったらどーすんの」
「……」

 俺は黙った。女子の世界のややこしさは、俺には良く分からない。

「ショーコ掴まなきゃ」
「……証拠、なぁ」
「とにかく設楽ちゃん1人にしないようにしよ、女子だけん時はウチらも一緒にいるし」
「分かった……つか、なんでお前らそこまでしてくれんの」
「は?」
「や、設楽に」
「え、黒田ってほんとにバカなの?」

 2人とも、すごく不思議そうな顔で言う。

「設楽ちゃんが友達だからに決まってんじゃん」
「……そかよ」

 あいつ、友達には恵まれてるなぁ、と思う。トラブル誘引体質ではある気がするけど。
 キャンプから帰り、俺は注意してたけど、特に日常はトラブルもなく過ぎていく。いじめとやらは杞憂だったか、と思った矢先、結局トラブルが発生した。
 設楽は何も悪くねーんだけど。

 放課後、少し職員室に用事があって、設楽を教室で待たせていた。すぐに戻るつもりが遅くなって、少し急いで戻る。ドアに手をかけると、教室からボソボソとした話し声がした。男子だ。設楽の座る席の前に立って、設楽を見下ろすように話している。ニヤニヤとした表情は、明らかに設楽をバカにしているような顔だった。設楽は困ったようにそいつを見上げている。
 その顔を窓ガラス越しに見た瞬間、俺はカッとして教室のドアを乱暴にあけた。

(クソが、性懲りも無くなにやってんだ)

 去年、プールで設楽に暴言を吐いたヤツだ。
 ドアの開く音に、2人はこちらに目をやって、設楽は安心したように、ヤツは少し驚いた顔で。

「なにやってんだ、てめー1組だろ、何ヒトのクラス入り込んでんだ」
「入っちゃいけないとかルールありましたかねぇ」
「何の用事だ?」
「無視かよ」

 ヤツは肩をすくめた。それからチラリと設楽を見て、やっぱり下卑た笑い方でこう言った。去年、プールに突き落とした時みたいに。

「いいなぁお前、付き合ってんだもんな。設楽さんのカラダ好きにできんだろ羨まし」

 俺はヤツの胸ぐらを掴んでいた。
 無言で睨みつける。

「お、殴るか? それとも窓から突き落とす?」

 ニヤニヤして虚勢を張ってはいるが、目は怯えていた。余計に腹が立つ。そこまでして設楽にいちいちちょっかいを出しに来たのか? それとも、俺が気づかなかっただけで、こんなこと続けていたのか?

「そだよ」

 黙っていた設楽が、ふと口を開いた。無表情だけど、怒っている顔。

「私のこと好きにしていいの、世界で黒田くんだけなの」
「は?」

 俺たちは同時に設楽を見る。

「誰に何を聞いたか知らないけど、そんなの嘘。黒田くん以外に私の身体は触らせないから、それだけ覚えておいて」

 ガタリと立ち上がって、設楽は俺の手を引いた。

「いこ」
「……おう」

 設楽に強く腕を引かれて、廊下に出る。それからふと、設楽を見ると泣いていて、俺は慌てて「どうした?」と言った。

「つか、何があった?」

 首をふるふると振って、静かに泣いている。とりあえず空き教室に設楽を連れ込んで、軽く抱きしめる。背中をぽんぽん、と叩いていると落ち着いてきたようで、やっとぽつりと話し出した。

「SNSで」
「うん」
「変な噂が、あるんだって。あの人、それ言いにきてて」
「ウワサ?」
「私が……誰にでも、そーゆーこと、させる女だって」
「は?」

 俺は設楽の顔をおもわず見る。
 "そーゆーこと"って。

「う、うそだよ、信じないで」

 慌てたように、涙声で言う設楽。

「信じる訳ねーだろバカ」

 ぎゅうっと抱きしめると、設楽は安心したように息を吐いた。

「……てかね、あの人も、そもそも信じてる感じではなかったんだけど、でも」

 設楽の声がにじむ。

「別に、誰にどう思われようと気にならないけど、く、黒田くんが信じちゃったらどうしようって」
「そいつは余計な心配だったな」

 俺は設楽の頬に手を当てる。あえて笑ってやる。

「もっと俺のこと信用しろ」
「……ごめんなさい」
「東城か?」
「……わからない」

 そう答えた後、設楽は「知ってたの」と呟いた。

(直接話付けるしかねーな)

 最初からそうすれば良かったのだ。俺は強く強く設楽を抱きしめる。

(嫌な思いさせてしまった)

 そっと涙を拭うと、少しだけ設楽は笑ってくれた。
 夜に件のSNSを見てみる。スマホを床に叩きつけそうになって、なんとかこらえた。
 秋月に確認してみると、かなり話は回ってるみたいだった。特に、男子の間で。「そんなわけがない」と思いつつも、好奇心だけで話は広がっていくんだろうと思う。設楽の見た目が綺麗だから、余計に。

「SNSだけじゃなくて、普通に噂話にもなってた」

 秋月は気まずそうに言った。

「俺も部活で今日聞いて、そんな子じゃないよって言ったんだけど。タケちゃんに言おうか迷ってたから、聞いてきてくれて良かった」

 秋月は少しホッとしたように言って、それから「改めて否定しておくからね」と笑った。秋月は秋月で案外信頼があるので、野球部連中はこれで大丈夫だろうと思う。

(3組でんな話が広がらなかったのはアイツらかな)

 南と北山。あの辺がクラスの中心っぽいし、防波堤みたいになってくれてたんだろう。
 翌日、学校に来てすぐ1組に行くと、ひよりがブチ切れていた。

「みんな言ってるよ、アンタから聞いたんだって!」
「なにそれ知らなぁい」

 東城(多分)は笑う。取り巻きっぽい奴らも一緒になってクスクス笑う。
 ほとんど初めて見るような顔だが、……ほんとに俺のこと好きなのか? んなことやるか? 普通。あんな噂まで流して?

「なぁ」

 俺が声をかけると、それまでひよりと東城に集まっていた視線が俺に集まる。

「東城って誰」
「え、と、あたし、ですけど」

 少し気まずそうに東城は言う。少し頬が赤くなるから、南たちの言ってることは正しいのかもしれねーけど、俺は設楽以外から好きになられたことはないから、正直良くわからない。
 つか、やっぱコイツで合ってたか。

「なぁ、設楽の変な噂流したのお前?」

 そう聞くと、東城はびくりと肩を揺らした。

「し、知らない」
「そうか」

 まぁ、認めるとは思ってない。

「じゃあまぁいいや、誰でも」

 それからクラスを見渡す。

「変な噂流れてるみてーだけど、設楽にそーゆーことできんの、俺だけだから」

 ぽかん、と皆が俺を見る。
 まぁまだそんなことしねーけどな。俺はまだガキだから。

「じゃーな」

 それだけ言って、俺は1組を出る。すぐに2組に入って同じことを言う。またぽかんとされるけど知ったことか。4組でも。3組同じクラスなら信じてるヤツいねーだろうから(いたらシメる)3組ではいいや。
 普通に教室に帰って、席に座る。設楽が鍋島と登校してきて挨拶をする。

「あ、黒田くん、あのね」

 設楽が何か言いかけたときに丁度さがらんが来て、いつも通りにホームルームが始まる。
 そのまま、今日という一日はいつも通りに何事もなく過ぎて行ったように見えた。
 でも、放課後のホームルーム後、さがらんに設楽と生徒指導室に来るように言われる。
 設楽は不思議そうな、不安そうな顔をしていた。
 どうせ噂話に尾鰭でも付いてんだろうなと思う。俺も呼び出しってことは、朝俺が言って回ったせいだろうか。

(ヤってるなんて一言も言ってねぇっつの)

 俺のだから手ェ出すな、噂信じんなって意味だけなのに。

(まぁ、それで設楽に変な虫つかねーならそれでもいいか)

 そんな風に考えてしまうのは、きっとそれは、ひどく子供じみた独占欲のせいで、それは小学生の頃から変わっていない。
 ……俺って性格どうかしてんじゃねぇのって自分でも思ったりしてる。それとももしかして、皆そんなもんなのかもしんねーけど。
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