【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
609 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹

秋は人恋しく

しおりを挟む
「あーんにゅい」

 私は家の広縁で足の爪を切っていた樹くんの背中にくっつく。
 ぱちん、ぱちん、というリズミカルな音。樹くんはサッカーをしているから、こまめに爪を切る。伸びてると、ボールを蹴った時とかに割れてしまうらしい。

「どうした」

 樹くんは爪切りを床に置いて振り返る。

「アンニュイなの、秋だから」
「腹が減っているのではないか?」

 樹くんはにやりと笑って言った。

「私だって年がら年中、お腹すかせてる訳ではないんでーす」

 頬を膨らませて言うと、こちらに向き直った樹くんは私の頬を片手で潰した。

「何か甘いものでも食べに行くか」
「……賛成」

 結局私は食欲には勝てない。気がついたら、駅前のカフェでサツマイモタルトかかぼちゃタルトかでうんうんと唸ってしまっていた。

「両方食べたらいいじゃないか」
「そ、そう言うわけにも」

 太る。最近、なにやら肉付きが良くなってきてしまっている感があるのだ。特に胸とお尻。

(お胸のサイズが……)

 いい加減、胸ばっか見られるのは慣れてきたけど(嫌だけど)太って見えるのでイヤなのだ……ほんとうに太ってるわけではないと信じたい。うん。

「では半分ずつ食べよう」
「いいの!?」

 思わず目を輝かせると、樹くんは嬉しそうに笑った。……私を太らせるのが楽しいとかじゃないよね?
 注文を済ませて、他愛ない話をする。
 じきにタルトがふたつ、運ばれてきた。美味しそう!
 にこにこと口に運んでいると、樹くんと目があった。

「……なに?」
「いや、幸せそうに食べるなと」
「幸せだもん」

 私はサツマイモタルトを一口大、フォークに刺して樹くんに差し出した。あーんして、だ。樹くんはちょっと驚いた顔をする。

「ふふ、食べて」
「……甘そうだ」

 樹くんは少し眉を寄せた。む、照れてるな? かわいい奴め。
 思わずにっこりしてしまう。樹くんの眉間のシワはまた深くなった。照れ屋さんだ。

「はい、あーん」

 いつまでも食べない樹くんにしびれをきらせて、私は樹くんの口に無理やりタルトを押し込んだ。

「む、」
「おいしい?」

 自分が作ったわけでもないのに、私は首を傾げて尋ねた。樹くんは「美味しい」と真剣に返してきた。

「ふふ、ここの美味しいよねぇ」
「華が」

 樹くんは真剣な顔のまま言う。

「華が食べさせてくれたからかもしれない」
「あは、なにそれ」

 私はかぼちゃタルトも一口大にする。

「じゃあこっちも」

 今度は観念したのか、素直に口を開けた。歯並びがいいなぁ、なんて思う。

「……うまい」
「それも私が食べさせたから?」

 からかうように聞くと、樹くんは重々しく頷いた。

「うむ」
「なにそれ」

 ふふふ、と笑う。

「自分でも食べてみてよ、変わらないから」
「変わる」
「変わらないって」
「いや、変わる」

 なんでしょ、この押し問答。
 その時、からん、とカフェのドアベルが鳴った。

「いらっしゃいませー」

 店員さんがそう言って、動きを止める。

「?」

 私は不思議に思って扉をみやるけどーー納得だ。ていうか、さすが私と千晶ちゃんの最高傑作(?)。

「……生物の、野宮先生だな」
「だねぇ」

 うふふ、と私は笑いをこらえる。野宮藤司、先生。両手に重そうな紙袋を持っている。
 夏に"前世の記憶"があることが判明してからこっち、うまいこと言いくるめてビジュアルだけでも"ゲーム"のトージ先生に近づけようと、あの手この手で改造してきたのだ。
 美容院に連行して、ボサボサだった髪を切ってもらいトリートメントしてもらい(費用は私と千晶ちゃんで)、服装を整えさせて清潔感を出し、メガネをデザインが綺麗なやつに変えてもらった。あとは姿勢が気になるけど、それは一朝一夕ではどうにもならない。会うたびに「ぴしっとして!」と言っている気がする……。
 けれど、それだけでトージ先生はとんでもないイケメンに変身した。
 正直、学内の女子の手のひら返しは凄かった。くるっくるだ。休み時間や放課後は「質問」に来る女生徒が後を絶たない。
 先生も根が真面目なものだから、きっちりきっちり答えていて、それがまた高評価を生んでいた。

(てか、ふつーにいいヒトなんだよな)

 生徒を蔑ろにしないし。相変わらず、黒板向いて授業してる感はあるけど。
 ただ、本人曰く女子人気は「困る」らしかった。

「だって、きゅきゅたん本描く時間がないんですよ!?」

 だ、そうで……。結局きゅきゅたんは草の根運動でファンを増やすことにしたらしい。SNSや同人誌即売会でイラストや漫画をあげていっているようだ。

(さすがは千晶ちゃん、真さんの妹……)

 うまいこと丸め込みましたね。
 そんなことを思い出していると、トージ先生はこちらに気づいた。

「やぁ設楽さん」
「こんにちは野宮先生」

 にこり、と笑うと、先生は隣のテーブルにどさり! と紙袋を置いた。

「今日はきゅきゅたんの資料集めだったんですがね」
「はぁ」
「見てくださいこれ」

 先生が出した薄い本が視界に入った瞬間、私は立ち上がり、向かいに座る樹くんの目を塞いだ。

「!? 華?」
「オコサマは見てはなりません」
「いや華も見てはいけない感じだったぞ!?」

 明らかに18禁な表紙の薄い本。何描こうとしてんだこのヒト!

「はっはっは、鹿王院くん、このヒトの中身は大概BBAですよ」
「失礼なっ、てか閉まってくださいっ」

 先生は「本当のことでしょうに」とブツブツ言いながらそれをしまった。
 私は樹くんから手を離す。

「で、なんでそんなモン女子高生に急に見せてきたんですか、セクハラです」
「女子高生?」
「女子高生!」

 べえっと舌を出して言い返す。

「てか大人相手でもダメ!」
「いや単にこれを見て欲しかったんですよ」

 先生は表紙をコソコソ隠しながら、あとがきのページだけ開いた。

「ほら、きゅきゅたん」
「"最近ハマってる絵師さんのキャラ"……え、すごいじゃないですか!」

 あとがきにちらっと描いてるだけだけど。

「ふふふ、この本は大手さんですからね。あっという間に広がりますよう!」
「よ、良かったですね……」

 ハイテンションのトージ先生は、運ばれてきたホットコーヒーをガブガブ飲むと(ホットコーヒーなんて熱そうなもの、よくもまぁあんなにガブガブ飲める……)爽やかなんだか爽やかじゃないんだかよく分からない笑顔を残して店を出ていった。

「……未だにきゅきゅたんが良く分からないのだが」
「心配しないで、私もわかんないから」

 ぱくり、とタルトを食べてにっこりと笑う。

「華」
「なぁに」
「なぜ中身がオトナなどと言われる」

 BBAをオトナに言い換えてくれていた。樹くんやさしい。

「……さぁ?」

 はぐらかすように笑うと、樹くんはほんの少し、照れるのとは違う眉のひそめ方をした。

「仲がいいんだな」
「そういう訳じゃないけど」

(なんだろ)

 ヤキモチ、だったりして。

(違うか)

 すぐに自分の考えを打ち消した。単に急にあんな本見せてくる教師と"許婚"が親しそうなのが心配になったんだろう。

「トージ先生、普段からあんなことしてくる訳じゃないよ」
「普段から」

 樹くんはそう繰り返して、少し怖い目つきで私を見た。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

人生の攻略本を拾いました~彼女の行動がギャルゲー感覚で予測できるので、簡単にハーレム……とおもいきや誰かが死んでしまうらしい~

星上みかん(嬉野K)
恋愛
ギャルゲーマスターに攻略本を与えた結果。 この作品は、 【カクヨム】 【ノベルアップ+】 【アルファポリス】 に投稿しております。 ☆ 会話が苦手で、女性と楽しく話すなんて縁がない主人公。 ある日『人生の攻略本』と書かれた本を拾う。その本には学校でもトップクラスの美少女4人の攻略法が示されていた。まるで未来予知のように、彼女たちの行動が示されていたのである。 何を言えば好感度が上がるのか。どの行動をすれば告白されるのかまで、詳しく書かれていた。 これを使えば簡単に彼女およびハーレムが作れる、と浮足立つ主人公。 しかし攻略本を読み進めていくと、どうやらとあるキャラクターが死んでしまうようで。 その人の死は回避したい。しかし誰が死んでしまうのかはわからない。 ということで、全員と仲良くならないといけない。 仕方がなく、やむを得ず、本意ではないけれどハーレムを作ることになってしまう。 あくまでも人命救助に必要なだけですよ。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

処理中です...